12/10^16のキセキ〜異世界で長生きすればいいだけ……だけど妹たちに手を出すなら容赦しない!〜(カクヨム版)

嘉神かろ

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第3章 二つの輝き

第2話 異界の勇者

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3-2
「ようこそ、おいでくださいました。勇者様!」

 その部屋で最も位の高い男が少女へと声をかける。

「勇者?」

 まだ状況をうまく飲み込めない様子で、少女は首を傾げた。

「はい。私は、この、ディアス教の総本山である、グロスフィルデ神聖王国の法王、カリオストル・グロスフィルデと申します」

 男は魔法陣のギリギリまで近寄り、話を続ける。

「先日、ある予言が齎されました。――魔王が、復活すると。お恥ずかしながら、もし魔王が復活してしまった場合私どもには抵抗する術がありません。人々を守る教会の長として不甲斐ないばかりです。とはいえ、何もしないわけには行きません。そこで古い書物を探し、異界より勇者を召喚する秘術を発見しました。それによって呼び出されたのが、あなた様なのです。あなた様も異界では我々同様生活しておられたことも存じております。誘拐まがいの事をして、何を言うのかと思われるかもしれません。しかし、私どもにはもう他に手段がないのです! 恥を忍んで、お頼みします。どうか、私どもに、人々を守るための力を貸していただけませんか?」

 長々と熱弁した法王が、頭を下げる。
 その事にまわりが瞠目している様子に気づき、少女はその男の地位の高さを察した。

「でも、魔法なんてある世界の人たちがどうにもできないのに、私で魔王なんて倒せるの?」

 尤もな疑問ではあるが、少女の本心ではない。

「そこはご安心ください。勇者様が異界から渡られる際、その身に莫大な力が宿っているはずです。なんでも、世界と世界の狭間に満ちているエネルギーなのだとか」
「ふーん。……いいよ。手伝ってあげる」
「おぉ! ありがとうございます」

 再度頭を下げる法王カリオストルは、少女の視界の外でニヤリと笑った。

 しかし、同様に少女が視界の外へ出てしまったために気づかなかった。彼女の目が、冷たい光をたたえていた事に。




◆◇◆
(これ、アレだよね? 異世界転生、じゃなくて転移の方か)

 法王と名乗る男が熱弁しているのを聴きながら、少女は考える。

(なんか色々言ってるけど、鵜呑みにしちゃダメだよね。騙されて戦争に利用されるパターンもあるし)

 よくわかっていない様子だったのは演技だったようだ。元の世界で親しみのあるジャンルだったのだろう。
 しかし、咄嗟にそんな演技ができるあたり、女って恐ろ(ギロっ)

 ……ではなく勘が鋭いようだ。

(ん? なんかイラッときた。……まあいいや。問題は、これからどうするかだけど……)

「ふーん。……いいよ。手伝ってあげる」
「おお! ありがとうございます」

(まあ、異世界に知り合いなんていないし、利用できる間は利用しようかな。そして……何が何でもあの家に帰るんだ!)

 彼女の思いはそれにつきる。大好きな家族のいる元の世界に帰るためには、どんな事でもするつもりだった。

「それで、全部終わったら私は帰れるの?」
「……実は、この秘術は過去、魔王より得たものなのです。教会に残されていた資料には、帰還方法は記されておりませんでした……。しかし、もしかすると、魔王が知っているやもしれません」

(明言はしない、と。なかった場合の保険かな?)

 その通りである。嘘は言っていないが、保証は一切していない。
 彼らからすれば、魔王さえ討伐できればいいのだ。そして、その後教会の不利益とならなければ。





◆◇◆
わたくし、勇者様の世話係を務めます、アリスと申します。何なりとお申し付けください」
「うん、よろしくね!」
「っ……。それでは、こちらへどうぞ。勇者様のお部屋へとご案内いたします」

 見た目の可愛らしい少女の満面の笑みに、アリスは頰を赤らめた。
 少女はそんな事は気にもとめず、口を尖らせる。

「それはいいんだけどさ、その『勇者様』っていうの、やめてよね。名前教えたでしょ?」
「恐れ多い事でございます。どうか、お気になさらぬよう」

 心中を表に出すことはなく、プロらしく淡々と言葉を返す。
 少女は納得はしていないが、話が進まないと判断してひとまずは諦める。

「むぅ、いずれは変えてもらうけど、今はいいよ。案内よろしくね!」




「こちらでございます。後ほど夕食をお持ちします。それまではご自由にお過ごしください。必要な物があれば、そちらの魔導具に魔力をお流しください」

 そう言って礼をし、立ち去ろうとするアリスを少女は呼び止める。

「ちょ、ちょっとストップ! 魔力を流すとか、わかんないよ! あと、明日の予定ってわかる?」
「……ああ、勇者様の世界には魔力がないのでございましたね。失礼しました。そう、ですね。まずは体内の魔力を感じるところからお教えいたしましょう」
「よろしくね」
「ご自身の体の内側に意識を向けてみてください。魔力は胸の辺りから全身を巡っています。感じ方は人それぞれなのですが……、例えば……何か水のようなモノが流れているのを感じませんか?」

 その言葉を受けて、少女は目を瞑り集中する。

「ん~~……。あっ! なんかあったかいモノが流れてるね」
「それが魔力でございます。次は、それを動かすように意識してみてください。初めは手に集めるのがよろしいでしょう」
「えっと、こうかな?」
「……さすがは勇者様。普通ここまでくるのに数時間は掛かるはずなのですが」
「てことは出来てるね。やった! ……てあれ? じゃあどうやって呼ばせる気だったの?」
「……そこまで出来ればあとはその魔力をココの魔力受動盤から流すだけでございます」

 失念していたようだ。アリスは一瞬目線を宙に漂わせ、何事もなかったかのように話をつづけた。

「魔導具を介さない魔力の放出については、また指導されるでしょう」
「……はぁ、まあいいや。なんかこればっかり言ってる気がするよ」
「気のせいでございましょう。明日の予定でしたね。明日は朝から戦闘訓練を行います。迎えのものが行きますので、朝食後はお部屋でお待ちください。それでは」

 それだけ言うと、アリスは逃げるように部屋を後にしたのだった。


◆◇◆
 アリスが出て行った後、少女は現状を考えていた。

(んー、アリスちゃんは白っぽい。でもあの法王は怪しいね。そう言えば、なんで言葉がわかるんだろ?)

 考えながら、部屋にあった大きな天蓋付きのベッドにダイブする。

(お、フカフカ。……ステータスとかあるのかな? 定番だよね)
「んー、ステータス! ……しかし何も起きなかった、と。じゃあステータス・オープン! アイテムボックス! インベントリ! ……お、なんかでた」

 少女は目の前に現れた半透明の画面を眺める。
 そして、徐に手元の枕をインベントリに入れるように念じてみた。

「あ、消えた。インベントリには枕のアイコン。なんかゲームみたいだね」

 ちなみに、彼女はあずかり知らぬことだが、アルジェの持つソレとは仕様が異なる。

 少女は枕を戻しつつ思考を続ける。

「でも、インベントリがあるならステータスも有りそうだよね。試してないのは……鑑定とかも定番だよね。よし、自分を鑑定!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈ステータス〉
名前:%$+#+¥6*
種族:英雄種
年齢:16歳
スキル:
《身体スキル》
言語適正   限界突破lv3   縮地   自己再生lv3  双剣術lv8   体術lv7   看破lv5   危険察知lv1   身体強化“気”lv2   料理lv5
《魔法スキル》
ストレージ   勇者   鑑定(?)   神聖魔法   光魔法   魔力操作lv1   身体強化“魔”lv2   魔力察知lv2

称号:川上禍佗神流師範代   召喚者   勇者   宰相の加護   輝きの加護
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お、でた。へぇ、ますますゲームみたい……て名前文字化けしてるし……。
こっち来たばかりなのにスキル多いね。あ、〈言語適正〉。言葉わかるのはこれのおかげだね。〈限界突破〉はなんか勇者っぽい。この辺の武術系は自前かな? あと〈料理〉も。
〈自己再生〉は人間が持ってていいのかって人間じゃなくなってる……。『英雄種』? 〈ストレージ〉もスキルにあるね。〈勇者〉ってスキルなんだ……。鑑定の(?)ってなに? 魔力操作はさっきやったからかな? 他は【勇者】とか【召喚者】って称号の恩恵かな? なんか加護が二つあるけど、宰相はこの国のじゃないよね。この辺の効果見れないのかな。んー〈鑑定〉! よし、みれた」
 
………
……









◆◇◆
「アレは、信じたと思うか?」
「半々、と言ったところでしょうか」

 少女が召喚されてから、一日が経った夜。そこには四人の人影があった。
 問うのは法王、カリオストル。答えるのは宰相兼枢機卿であり、儀式の際も法王の横に控えていたディクタトルだ。
 ディアス教の最高権力者はカリオストルだが、聖国の政治は実質、この男の独裁によって為されている。

「やはりそうか……。それで、訓練はどうだ?」
「はい。凄まじい、の一言ですな。どうやら元々武術を学んでいたようで、強化なしの純粋な技量なら私に迫ります。身体能力の急激な向上に戸惑っている様子が見られたので、もしかしたら私以上の使い手やもしれません。もちろん、強化や魔法を含めればまだまだ負けませんが」

 教会騎士団テンプルナイツを纏める騎士団長が答える。

「それほどか……。異世界の戦もない平和な地域から呼び出されると聞いて甘く見ておったが……」
「油断せぬ方がよろしいでしょうな」

 濁した法王の言葉を四人目の影、魔導師長が引き継いだ。
 魔導師長は神官プリースト祓魔師エクソシストを束ねる立場だ。なお、二者の違いはその能力が支援よりか攻撃よりかでしかない。

 魔導師長が続ける。

「やはり、どうにかして『隷属の首輪』をつけるべきでしょう」
「ふむ……」

………
……
….




 夜はまだ明けない。

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