12/10^16のキセキ〜異世界で長生きすればいいだけ……だけど妹たちに手を出すなら容赦しない!〜(カクヨム版)

嘉神かろ

文字の大きさ
52 / 145
第3章 二つの輝き

第15話 ブランvs不死者´s

しおりを挟む
3-15
 迷宮へ本格的に潜り始めてから二週間が経ちました。

 私たちは出たり入ったりしながら順調に攻略を進め、現在いるのは第四十階層です。
途中、石鹸の補充もあり、二回ほど休暇をとったのですが、ペースとしてはそこそこの早さですかね。

 臭いについては、勿論解決しています。
 どうやら、獣人など嗅覚の鋭い種族の冒険者用に、臭いを遮断する魔道具が普及していたようです。
 他の匂いも分からなくなりますが、あの激臭の中では結局わからないので遥かにいいです。そのお値段、金貨5枚の価値はありました。
 もっと安いのもありましたが、妥協できるものではありません!

 余談ですが、これ、獣人相手に隠密活動する場合にも使われます。


「それじゃ、今回で踏破してしまいましょうか」
「うん。……一泊で行ける?」
「たぶん、ね」

 〈魔力視〉で魔力の流れてくる方か濃い方に行けば、だいたい階段がありますから。ギルドで地図も売れてますが、ここまではそれで十分でしたね。

 そうして、四十一階層へ降ります。
 もちろん転移する前に、臭気遮断の魔道具を起動。これであの暴力的で悲劇的を超えて残酷な超激臭世界を超えていけます!


◆◇◆
「こっちよ」

 流れはあまり無かったので、魔力の濃い方へ向かい、ブランを先導します。
 瘴気の濃さ的に、出てくるのはC-からB+……いえ、Bランクといったところですね。

 下級吸血鬼レツサーヴァンパイア中級吸血鬼ミドルヴァンパイアが出る可能性もありますが……。うん、その時はその時です。抑えられる気がしません。

「姉様、敵。数は五……うんう、七。食屍鬼グール三、スケルトンジェネラル二、ウィル・オ・ウィスプが、二……」

 ブランの訓練を兼ねて、索敵は任せています。
 鼻が聞かず、足音の無い種や高い気配隠蔽能力のある魔物がいるここはちょうどいいんです。普段ブランが頼る獣人の優れた感覚やそれを高めるスキルが通じないので。
 スキルを活用するのも大事ですが、頼ってばかりもいけませんからね。
 アレです。ゲームでいうプレイヤースキルを磨いてるんですよ。

「それでいい?」
「……う、うん」

 斥候役が間違う場合もあります。能力差や相性次第で。
 ですから、それを信じきるのではなく、多少の疑いを頭の片隅に置いておかなければなりません。
 と同時に、自信も持たなければなりません。
 斥候役が不安げに言ってしまえば、要らぬストレスを仲間に与えることになってしまいますから。

 私と一生を添い遂げることになるブランですが、その中で別行動をして別のメンバーで行動することもあるでしょう。昇格試験の時のように。
 ですから、私は敢えてこのような意地悪な言い方をしているのです。
 けっっっっっっして、ブランを虐めているわけではありませんから。そこは誤解しないでほしいですね。絶対に!
 だから嫌いにならないでくださいね!? ね、ブラン!?

 なんて――半ば以上本気の――コントを頭の中で繰り広げつつ、

「それじゃあ、答え合わせよ」

 ……まあ、今回はしょうがないですね。

「あぅ……。間違えた……」
「〈魔力察知〉がまだレベル1のあなたに、死魔霊リツチは難しいわね」

 本来魔法への適性が低い獣人です。私と繋がるまで、そもそもブランは〈魔力察知〉が出来ませんでしたからね。

「うぅ……」

 訓練しだいでは、スキルが無くても殺気なんかでわかるようになりますが。
 アンデッドなら怨念的な何か、とにかく気持ち悪い暗い感じの気配です。

「ほら、気づかれる前にってしまうわよ」
「わかった」

 食屍鬼と骨将軍スケルトンジェネラルはC +、そして実体があります。ブランの訓練相手には不足ですね。

 と言うわけで、サクッと狩りましょう。
 今いる通路は、大剣を振るうには少々狭いです。可能ではありますが、火力がいる相手でも無いので刀形態で。

 雑魚とはいえ、そこはアンデッド。吸血鬼どもとはまた別方向ですが、不死性を備えています。細切れにしてやってもいいですが、面倒です。
 刀に魔力を纏い、神聖属性へと変化させます。見物人もいませんから。

 たぶん、一番魔法らしい魔法。
 他の属性のように物理現象へと影響を及ぼすのではなく、その名の通り神の力の一端を借りて概念を現実のものとする属性。アンデッドの不死という概念への効果は抜群です。……この世界の神って、いえ、考えないようにしましょう。

 一振りで、やっとこちらに気づいた食屍鬼二体の首を落とし、前に出ようとした二体の骨の胴を返す刀で斬り飛ばします。

 その勢いを殺すことなく、残った食屍鬼の脇を駆け抜けるついでに刃筋を立てていきます。

 振り返れば、黄色い人魂二体を、ブランが気をまとった剣で一刀両断しているところでした。

 あら、片方は核を外されましたね。
 その事に気付く前に、側方から飛んできた火の玉を慌てて避けています。

「ブラン、残ったのは一人でどうにかなさい。できるわよね?」
「うん……!」

 ブランの様子を眺めながら、ドロップした魔石を回収しておきます。食屍鬼のは……取り出すのに触れたくないです。放置で。
 ふむ、やられたふりをしているウィル・オ・ウィスプの片割れが、不意打ちの機会を探っているようです。ブランはまだ気付いてませんね。
 やはり、Cランクになると迷宮産のアレごときでも多少の知恵はみせてきますね。
 ギリギリまで手を出す気はありません。
 ほら、早く気づかないと燃やされちゃいますよ?

 ブランはリッチ相手に攻めあぐねているようです。
 種としては、死霊レイスの上位にあたります。ランクはB。
 個体によって差はありますが、何かしら武器を持っている事が多く、目の前のやつが持ってるのは大鎌、所謂デスサイズです。生前はなかなかマニアックな武器を使ってたんですねー。というのは迷宮以外のリッチに言うことですね。
 迷宮が生み出す迷宮内のリッチとは異なり、外のリッチは元人間の魔導師です。ですから、一概に人間にとって悪者ばかりとはいえません。

 まあ今は関係ないですね。
 ブランははじめての、それでなくてもやり辛い大鎌相手で苦戦してるみたいです。

「むぅ……」

 迂闊に踏み込めば、後ろから首をポーンってはねられちゃいます。

 しかも、距離を取ればリッチお得意の魔法を撃ってきますからね。いやー、いい感じの魔物ですね!

 この迷宮で生み出された魔物らしく、狭い通路でも巧みに大鎌を振ってきます。
 とはいえ、当たる様子はありません。うまく避けてます。
 人魂くんは……。なるほど、リッチの後ろに隠れて気配を誤魔化してますね。

「ん、いけるっ」

 お、今のは上手く流しましたね。リッチに隙が出来ました。
 獣人特有の強靭なバネで一気に距離を詰めて、てあらら。リッチの背後に隠れていた人魂くんが火球を放ってきました。ブランはビックリです。

 ここまでですかね?
 そう思って火球を打ち消そうとしたんですが、どうやら早計のようでした。〈結界魔法〉で防いでそのままリッチを斬りましたよ。
 あのスキル、特化してる分展開も早いし強度も高いので、他の属性で作るより断然優秀なんですよね。『血の盟約』で私の空間属性でも使えるはずなので、結界に関してはブランの方がよほど優秀です。
 とか言ってる間に人魂くんも片付きましたね。

「うん、お疲れ。ブラン。気配の察知に関してはまだまだ鍛えなきゃね」
「ふぅ……。うん」

 ブランは息を整えてから振り返ったんですが、なぜかいつもより目が座ってる気がします……。

「…………やらせてくれたのは嬉しい。でも、ティーテーブル出して、紅茶を飲むのは、くつろぎ過ぎ、だと思う」

 あっ。
 …………てへ?

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...