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第5話 駄エルフは駄エルフだ!
しおりを挟むテンプレに裏切られたり裏切られなかったりしながら傭兵ギルドに登録したトキワ。
一通りの説明も聞き終えたようで、そろそろ宿代を稼いでもらうとしよう。
「ありがとうございました!
お姉さん!」
「いえ、仕事ですから」
そういいつつもお姉さんと言われてまんざらでもなさそう…っておい、駄エルフ。
貴様はなぜ帰ろうとしているのだ!
(うんうん。待望の傭兵にもなれたし、今日の目標はコンプリートだね!)
いや、してないから。
こら、駄エルフ、野宿する気か!?
しかし駄エルフはご機嫌でギルドを出ていく。
はぁ、今夜は野宿する気のようだ。
(あ、そうだ。忘れてた)
おお!
いいぞ!さあ、そのひょろっこい体を半回転させるんだ!
目的地はそこにあるぞ!
ってまて、どこへ行く!?
そっちじゃない!
(ん~と、確かすぐだった気がするんだけどなぁ)
どうやら駄エルフ、何かを探しているようだ。
いくつかの主要施設が集まる傭兵ギルドの前の広場には多くの人間たちが集まっている。
その隙間から視線をめぐらすこと数秒。どうやら目的のものを見つけたようで、見た目にふさわしく元気に駆け出す。
もちろんそこにおしとやかさなど皆無だ。
駄エルフは一つの建物に入っていく。
そこは傭兵ギルドとは比べるまでもなく整然としていた。
壁に赤黒い跡が残っているなんてこともない。
「こんにちは。
薬草の買い取りをしてもらってもいいですか?」
「少々お待ちください」
…ふむ、これはどういうことだろうか。
カウンターに座っていた女性は、奥に控えていた男性に駄エルフの対応を引き継いだ。
駄エルフは男性に案内され、小部屋へ入る。
「それでは、確認しますのでこちらに並べてもらえますか?」
必要上にへりくだる様子はないな。
駄エルフは客様、というわけではなさそうだ。
「はい」
駄エルフが並べるのは、道中採取した薬草の中でも貴重で、かつ痛むのが早い者ばかり。
「失礼します」
真剣な様子で見聞するその男性。
「はい、十分な品質です。金貨三枚でどうでしょう?」
なん、だと…!?
いや、まて、おかしい。
今のやり取りでこの建物が何かはわかった。
商業ギルドだ。
(お~、聞いてたとおり傭兵ギルドの相場より高いね。でも、まだそれじゃ安いんじゃないかな?)
「せっかく人の寄り付かない森の奥のほうまでいって、それだけですか?
これなんて、傷んでいても一束で銀貨七十枚は固いはずですよね?
採ってすぐ魔力で処理をしなければならないので、新鮮なものは、魔の森付近以外では手に入りにくいはずですが?
王都までの距離を考えたら、一束金貨一枚でもかなりの利益が出ますよね?
これなんて、今ははやり病のせいで不足しているはずです。
他へもっていけば1.5倍は固いですよ」
おいおいおいおいおい、こいつ、ほんとに駄エルフか?
交渉してるぞ?
しかも割とまっとうに。
いや、こいつが駄エルフであるはずがない!
なぜなら駄エルフは駄エルフだからだ!
頼む!そうだと言ってくれ!
「ふむふむ、では、金貨十枚でどうでしょう?」
ちょ、ちょっと心の中をのぞくことにする。
(いきなり跳ね上がったよ!
それだけもらえたら、武器も更新できるし、宿のあの子とデートしたっておつりがくるじゃない!
きゃっほ~~う!)
あぁ、よかった。
駄エルフだ。(ほっ)
(なーんて。適正価格から吊り上げすぎだよ。
まだ私はそんなに価値を示してないはずだし、ためされてるのかな?)
やっぱり違う!
誰だお前は!
「それでは、この話はなかったことに。
そんな価格で仕入れられては、薬がどれほど高くなるかわかりませんので」
くそ!
誰か、ラ○の鏡を持ってくるんだ!
モシ○スで何かが化けてるに違いない!
「それは面白くない。では、金貨七枚でどうでしょう?」
(まあ、適正の範囲内かな?
傭兵ギルドで漏れ聞こえた話でごり押したけど、何とかなってよかったよ)
…すまない。しばらく旅に出ようと思う。
そうだな、そこの君。代わりに彼の様子を語っていてはくれまいか。
「取引契約、成立ですね」
「ええ、はい」
……男が何やらにこやかにしているな。
「まあ、合格でいいでしょう。
未熟な点は多々ありますし、ぎりぎりではありますが、ね」
(だ、だって、商談なんてやったことないんだもん!
私、ついこの間までただの高校生だったんだよ!?)
ぷるぷる震えて心の中で言い訳をする駄エルフ。
ん?ああ、旅はやめたよ。
…そうだな、今回は褒めてやってもいい気がするぞ。
「それでは、取引を済ませてしまいましょう」
「はい!」
薬草を卸し、金貨を七枚受け取るトキワ。
ニコニコしているところで、男はにやりと笑った。
「油断大敵ですよ?
先に登録を済ませれば、手数料は利益の一パーセントでよかったのですが、まだあなたは組合員でないので二十パーセントをいただきます」
「あ、あぁぁ!」
うむ。やはり駄エルフは駄エルフだ。
涙目になりながら、金貨七枚、つまり銀貨七百枚の二十パーセントである銀貨百四十枚を納める駄エルフ。
これで駄エルフの手持ちは金貨五枚と銀貨六十枚になったわけだ。
「では、手続きをしてしまいましょう」
あぁ、また制度の説明が始まるな。
まあ、傭兵ギルドと違って少々複雑だ。割愛しよう。
「これであなたも商業ギルドの一員です。
貴重な素材を見つけたら、ぜひ私に売ってくださいね?
その前に、交渉のお勉強が必要かもしれませんが」
「はぅっ…」
まあ、さっきのよくわからないやり取りくらい説明しておこうか。
まず、商業ギルドはこの世界の大部分を牛耳ってる。
そんな組織に、経済のけの字も知らないような大バカ者が加入していたらどうなるだろうか?
一人二人では大した影響はないだろう。
だが、欲深き愚者が増えれば増えるほど、とある懸念が増していく。
経済の崩壊だ。
かすり傷を直すので精一杯の低級《ロー》ポーションに金貨が吹き飛ぶようなことになってはたまらない。
これは大げさな話ではあるが、そのくらい商業ギルドは経済に影響力を持っている。
だから、ああやってテストを行うのだ。
ちなみに、始めの安すぎる値段で了承していた場合は組合員になることはできず、次回以降も超低価格で買い取られて試験の相手が適正価格で売って儲ける、なんてことをされる。
逆に高い値段で了承してしまったら商業ギルドへの出入りが禁止される。
まあ、その辺の交渉がめんどうだし、たいていの傭兵は多少安くても傭兵ギルドで売ってしまうが。
彼の場合は、あれだ。
…聞いてもらったほうが早いな。
(デュフフフフフ!
これでまた一歩、お姉様とキュートガールとのイチャコラ生活に近づいたよ!
色々ネタはありそうだし、私の冒険は、これからだ!)
とまあ、こんな感じだ。
駄エルフだ。
うん、なんだろうか。この感じは。
往来の真ん中でエルフの少年が気持ちの悪い笑みを浮かべていることに、道行く人々がドン引きしているが、そうだな。うん。駄エルフだ。
なかなか安心する響きだな。
(デュフフフフフ!)
駄エルフだ。
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