我らが愛しきTS駄エルフ(♂)の旅

嘉神かろ

文字の大きさ
5 / 31

第5話 駄エルフは駄エルフだ!

しおりを挟む

 テンプレに裏切られたり裏切られなかったりしながら傭兵ギルドに登録したトキワ。
一通りの説明も聞き終えたようで、そろそろ宿代を稼いでもらうとしよう。

「ありがとうございました!
お姉さん!」
「いえ、仕事ですから」

 そういいつつもお姉さんと言われてまんざらでもなさそう…っておい、駄エルフ。
貴様はなぜ帰ろうとしているのだ!

(うんうん。待望の傭兵にもなれたし、今日の目標はコンプリートだね!)

 いや、してないから。
こら、駄エルフ、野宿する気か!?

 しかし駄エルフはご機嫌でギルドを出ていく。
はぁ、今夜は野宿する気のようだ。

(あ、そうだ。忘れてた)

 おお!
いいぞ!さあ、そのひょろっこい体を半回転させるんだ!
目的地はそこにあるぞ!

 ってまて、どこへ行く!?
そっちじゃない!

(ん~と、確かすぐだった気がするんだけどなぁ)

 どうやら駄エルフ、何かを探しているようだ。
いくつかの主要施設が集まる傭兵ギルドの前の広場には多くの人間たちが集まっている。
その隙間から視線をめぐらすこと数秒。どうやら目的のものを見つけたようで、見た目にふさわしく元気に駆け出す。
もちろんそこにおしとやかさなど皆無だ。

 駄エルフは一つの建物に入っていく。
 そこは傭兵ギルドとは比べるまでもなく整然としていた。
壁に赤黒い跡が残っているなんてこともない。

「こんにちは。
薬草の買い取りをしてもらってもいいですか?」
「少々お待ちください」

 …ふむ、これはどういうことだろうか。
カウンターに座っていた女性は、奥に控えていた男性に駄エルフの対応を引き継いだ。

 駄エルフは男性に案内され、小部屋へ入る。

「それでは、確認しますのでこちらに並べてもらえますか?」

 必要上にへりくだる様子はないな。
駄エルフは客様、というわけではなさそうだ。

「はい」

 駄エルフが並べるのは、道中採取した薬草の中でも貴重で、かつ痛むのが早い者ばかり。

「失礼します」

 真剣な様子で見聞するその男性。

「はい、十分な品質です。金貨三枚でどうでしょう?」

 なん、だと…!?
いや、まて、おかしい。

今のやり取りでこの建物が何かはわかった。
商業ギルドだ。

(お~、聞いてたとおり傭兵ギルドの相場より高いね。でも、まだそれじゃ安いんじゃないかな?)

「せっかく人の寄り付かない森の奥のほうまでいって、それだけですか?
これなんて、傷んでいても一束で銀貨七十枚は固いはずですよね?
採ってすぐ魔力で処理をしなければならないので、新鮮なものは、魔の森付近以外では手に入りにくいはずですが?
王都までの距離を考えたら、一束金貨一枚でもかなりの利益が出ますよね?
 これなんて、今ははやり病のせいで不足しているはずです。
他へもっていけば1.5倍は固いですよ」

 おいおいおいおいおい、こいつ、ほんとに駄エルフか?
交渉してるぞ?
しかも割とまっとうに。

 いや、こいつが駄エルフであるはずがない!
なぜなら駄エルフは駄エルフだからだ!
頼む!そうだと言ってくれ!

「ふむふむ、では、金貨十枚でどうでしょう?」

 ちょ、ちょっと心の中をのぞくことにする。

(いきなり跳ね上がったよ!
それだけもらえたら、武器も更新できるし、宿のあの子とデートしたっておつりがくるじゃない!
きゃっほ~~う!)

 あぁ、よかった。
駄エルフだ。(ほっ)

(なーんて。適正価格から吊り上げすぎだよ。
まだ私はそんなに価値を示してないはずだし、ためされてるのかな?)

 やっぱり違う!
誰だお前は!

「それでは、この話はなかったことに。
そんな価格で仕入れられては、薬がどれほど高くなるかわかりませんので」

 くそ!
誰か、ラ○の鏡を持ってくるんだ!
モシ○スで何かが化けてるに違いない!

「それは面白くない。では、金貨七枚でどうでしょう?」

(まあ、適正の範囲内かな?
傭兵ギルドで漏れ聞こえた話でごり押したけど、何とかなってよかったよ)

 …すまない。しばらく旅に出ようと思う。
そうだな、そこの君。代わりに彼の様子を語っていてはくれまいか。

「取引契約、成立ですね」
「ええ、はい」

 ……男が何やらにこやかにしているな。

「まあ、合格でいいでしょう。
未熟な点は多々ありますし、ぎりぎりではありますが、ね」
(だ、だって、商談なんてやったことないんだもん!
私、ついこの間までただの高校生だったんだよ!?)

 ぷるぷる震えて心の中で言い訳をする駄エルフ。

 ん?ああ、旅はやめたよ。

 …そうだな、今回は褒めてやってもいい気がするぞ。

「それでは、取引を済ませてしまいましょう」
「はい!」

 薬草を卸し、金貨を七枚受け取るトキワ。
ニコニコしているところで、男はにやりと笑った。

「油断大敵ですよ?
先に登録を済ませれば、手数料は利益の一パーセントでよかったのですが、まだあなたは組合員でないので二十パーセントをいただきます」
「あ、あぁぁ!」

 うむ。やはり駄エルフは駄エルフだ。
涙目になりながら、金貨七枚、つまり銀貨七百枚の二十パーセントである銀貨百四十枚を納める駄エルフ。
これで駄エルフの手持ちは金貨五枚と銀貨六十枚になったわけだ。

「では、手続きをしてしまいましょう」

 あぁ、また制度の説明が始まるな。
まあ、傭兵ギルドと違って少々複雑だ。割愛しよう。




「これであなたも商業ギルドの一員です。
貴重な素材を見つけたら、ぜひ私に売ってくださいね?
その前に、交渉のお勉強が必要かもしれませんが」
「はぅっ…」

 まあ、さっきのよくわからないやり取りくらい説明しておこうか。
 まず、商業ギルドはこの世界の大部分を牛耳ってる。
そんな組織に、経済のけの字も知らないような大バカ者が加入していたらどうなるだろうか?
一人二人では大した影響はないだろう。
だが、欲深き愚者が増えれば増えるほど、とある懸念が増していく。
 経済の崩壊だ。
かすり傷を直すので精一杯の低級《ロー》ポーションに金貨が吹き飛ぶようなことになってはたまらない。
 これは大げさな話ではあるが、そのくらい商業ギルドは経済に影響力を持っている。
だから、ああやってテストを行うのだ。

 ちなみに、始めの安すぎる値段で了承していた場合は組合員になることはできず、次回以降も超低価格で買い取られて試験の相手が適正価格で売って儲ける、なんてことをされる。
 逆に高い値段で了承してしまったら商業ギルドへの出入りが禁止される。
 まあ、その辺の交渉がめんどうだし、たいていの傭兵は多少安くても傭兵ギルドで売ってしまうが。

 彼の場合は、あれだ。
…聞いてもらったほうが早いな。

(デュフフフフフ!
これでまた一歩、お姉様とキュートガールとのイチャコラ生活に近づいたよ!
色々ネタはありそうだし、私の冒険は、これからだ!)

 とまあ、こんな感じだ。
駄エルフだ。

 うん、なんだろうか。この感じは。
往来の真ん中でエルフの少年が気持ちの悪い笑みを浮かべていることに、道行く人々がドン引きしているが、そうだな。うん。駄エルフだ。

 なかなか安心する響きだな。

(デュフフフフフ!)

 駄エルフだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...