我らが愛しきTS駄エルフ(♂)の旅

嘉神かろ

文字の大きさ
8 / 31

第8話 新たな街へ

しおりを挟む
 
 若草色の髪を弾ませ、トキワは意気揚々と宿の方に手を振る。

「ばいばーい!」
「じゃぁねー! お兄ちゃん!」

 そのトキワに手を振り返し、元気に別れを告げるのはトキワにとっての天使、宿屋の看板娘だ。
 なんだかんだでこの駄エルフ、その幼女と仲良くなってしまったのだから笑えない。

 いや、その幼女ばかりではない。
 トキワから視点を周囲に移せば、武器屋のドワーフに魔法の発動媒体を買った店の婆さん、いつぞやの門番やその他町の住人たちが彼に手を振り、あるいは声をかける。

 まあ、彼は元から人に好かれる人柄である。既にトキワがこの町に来てからひと月以上経っているのだから、この結果もおかしな話ではないだろう。

 さて、その肝心のトキワが今何を思っているかというとだが……。

(何あの可愛いキュートガール! ツインテールがぴょこぴょこしてぴょんぴょんで天使可愛いすぎ!)

 まともな言語を使え駄エルフ。

「おうトキワ、気を付けていけよー!」
「はーい!」

「トキワちゃん、元気でね」
「おばあちゃんもね!」

「考えてることあんまり口に出すんじゃねーぞー!」
「わ、わかってるって!」

 道を行くほどに、彼は声をかけられる。

 彼が培《つちか》ってきた、町の人たちとの関係。

 それらに別れを告げ、今日、彼は次の町へと旅立つ。

 旅は、出会いと別れ。今も明るく振舞っているが、トキワだって悲しくないというわけではない。心を覗けば、きっと悲しみを堪えているはずだ。

(あぁさっきの看板娘ちゃんほんと可愛かったなぁお持ち帰りしたかったなぁ今から戻ってつr——)

 ……きっと悲しみを堪えているはずだ。

(でも……)

 ほ、ほらな!

(受付のお姉さんとは結局キャッキャウフフできなかった! ガード堅すぎだよお姉さん!)

 ………………堪えているはずだ……!

 ◆◇◆
 気を取り直して、数日後。
 街道の左右から濃い影を落としていた深い森は姿を消し、木々が疎らにあるだけになってきた頃、トキワの目に、とうとう次の街が見えた。

「うわぁ~~‼」

 まだまだ遠い位置にいるトキワからもわかるほど高い灰色の街壁に囲われ、門には検問のための長い列ができている。
 彼がいる国で、最も外側にある都市、フミヅだ。

 トキワは思わず走り出した。
 彼の弾む心に引かれて辺りの小精霊たちが踊る。

 彼がこうなるのも無理はない。旅人にとって新しい街というのは、それだけで心躍るものだ。
 それに、この街には、きっとトキワにとって運命とも言える出会いがある。この私がそう言うのだから、間違いはない。
 ただまぁ、――

(大きな街だし、キュートガールもお姉さまも選取り見取りだよね! ひゃっふ~~~~い!!!)

こんな事を思ってテンションを上げている駄エルフとあの子を出会わせて良いのかという懸念はあるのだが……今更だな、うん。
 私にできることは、彼らの幸せを願うことくらいだ。

 今回はこの辺りにしておこう。次回はきっと、彼の旅を彩る掛け替えのない出会いを語ることになるだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

処理中です...