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第10話 絡まれた!
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「おはよ、シュアンちゃん!」
「お、おはよ、トキワ君……」
二人がいるのは古くはあるが掃除の行き届いた宿屋の一階、その食堂として使われる一角だ。今日トキワは、昨日出会った犬獣人のシュアンと依頼を受ける約束をしていた。
さて、そのシュアンだが、天然パーマの茶髪は短く、中性的な顔の作りをしている。年齢的に身体が発達しきっていない事もあり、一見すれば少年のようにも見える。その為、男女問わず密かに人気を集めていた。
そして、我らが駄エルフ、トキワは同じく中性的な外見の美少年である。
つまり何が言いたいのかというと、だ。
(な、なんかめちゃめちゃ見られてる……)
「シュ、シュアンちゃん? そろそろ、出発しない……? ね?」
「えっ、でも、朝ご飯……」
「向かいながら食べればいいよ! ほら、いこっ!」
「あ、ちょ、待ってっ」
(ちっ)
(けっ)
(腐ぅ)
(私のシュアンちゃんが……)
とまぁ、このように、トキワは注目を集める事になっていた。……薔薇の花? 気のせいだ。いいな?
「ふぅ……。ごめんね? ちょっと、視線が怖かったから……」
「視線? うーん、よく分からないけど、気にしてないよ? 早く行った方がいい依頼あるしね」
「そか、ありがと!」
しかし、一晩で仲良くなったモノだな、この二人。私としては喜ばしい事だ。
っと、もう傭兵ギルドについたらしい。慣れた様子でギルドの扉を潜っていく。
「うん、早めに出て良かった。まだあんまり人いないね」
トキワが満足げに言ったとおり、ギルド内にある人の姿はまばらで、依頼が張り出される掲示板のうち、銅ランク推奨用のスペースには殆ど隙間がない。
「……うん」
「うん? 誰か探してるの?」
「えっ、あ、いや、大丈夫だよっ!」
「……ふーん? まあいいや、依頼見に行こ!」
……駄エルフ、ポーカーフェイスなんて出来たのだな。内心ではかなり気にしているようなのだが、傍目には分かるまい。
「ん~、昨日教えて貰った感じだと、これとか良さそうじゃない?」
「えっと、ゴブリンの群れの討伐。上位種(ソルジャー)一体と、それに率いられた普通種が三から五体。推奨ランクは、銅一級……」
今の二人のランクは共に銅二級だが、問題は無いだろう。トキワの実力なら、上手く立ち回りさえすれば銀一級まではどうにかなる。
「ダメ?」
「い、いや、いいと思う。うんう、これを受けたい!」
「そ、そう。わかった、わかったから、一旦、ね?」
シュアンは、トキワが仰け反らなければならないくらいに身を乗り出していた自分に気づいて慌てて体勢を戻した。その顔は恥ずかしさで朱に染まっている。
しかし、駄エルフ。本当は喜んでいるのではないだろうな?
(よ、よかった……。なんだかまた危険な視線を感じたよ⁉)
危険な視線? ……ああ、これか。
(尊い……)
(はぁ……)
(挟まりt、ひっ⁉)
……薔薇の次は百合の花か? 確かにどちらともとれるような二人ではあるが……あ、いや。薔薇なんて私は知らないぞ! あと百合に挟まろうとするのは止めておけ。血を見るから。
「それじゃ、いこっか」
「うん!」
ふむ、ここで会う事は無かったか――と思った矢先だな。漸く登場だ。
「ん? おい、シュアンじゃねぇか。これから仕事か?」
シュアンに声をかけた男は、見るからにガラの悪そうな男。歳は、成人済みの十六、七といったところか。日本人なら、二十歳くらいの見た目だ。
右目の直ぐ下には三本の傷跡があり、傭兵らしくしっかり鍛えられた肉体は狼の魔物の革で作られたレザーメイルに覆われている。この濁ったような黒色は、以前トキワが戦ったグレーウルフの上位種、ブラックウルフか。ブラックのウルフのランクは単体で銀二級なので、単体なら今のトキワでも対処可能な相手ではある。武器は、オーソドックスな両刃の剣。地球の長剣より長いが、この世界では標準的なサイズだ。
(うん、いかにもって感じだね)
「ぁ、えっと……、あっ!」
男はシュアンから依頼票を奪い取り、目を通す。
「ゴブリンの群れ、それも上位種混じりねぇ。お前一人でか?」
「あ、あの、その……」
(むぅ……!)
「私と二人で、だよ!」
「なんだ、お前? エルフのガキ?」
「なにか文句あるの?」
(強きだよ、私!)
「ふぅん……。なぁ、俺たちもついて行ってやろうか?」
男はトキワからシュアンに視線を移してそう提案した。彼の親指が指す先には、彼と同じようなランクの装備をした男女三人が居る。
「え、えっと……」
シュアンはチラチラとトキワを見るばかりで答えない。その視線を向けられているトキワの内心は、こんな感じだ。
(うわぁ、嫌らしい笑い方……。これ、やっぱりシュアンちゃん怖がってるよね!)
「あなた達の助けなんていらないよ! ほら、シュアンちゃん、行こ!」
「あっ、うん!」
そそくさと受付カウンターの方へ向かうトキワ。それを追ってシュアンも歩き出そうとするが、一瞬立ち止まって男に一言謝っていた。
男とその仲間達は立ち去る二人をじっと見つめている。トキワがその視線に気づいていたなら、ますます警戒していただろう。
……さて、観客の諸君には先にネタばらしをしておこう。
シュアンの立場に自分がいたなら、駄エルフのやつがテンプレだと歓喜していたに違いないこの状況だが、全ては駄エルフの勘違いである。
あたかも後輩傭兵に絡む悪い先輩傭兵のようで、いかにもな見た目のこの男+αは、孤児だったシュアンと同じ孤児院出身で、彼女の兄や姉のような存在だ。
つまりは本当に彼女の事を心配して声をかけただけなのだが、テンプレを求めるあの駄エルフの視界にはおかしなフィルターがかかっているらしく、見事に勘違いをしてくれたわけだ。
なに? 私が『勘づいたな?』とかそれらしい事を言っていた?
ああ、確かに言ったな。
シュアンが悩みを抱えているのは本当だ。兄たちが過保護すぎて、簡単な依頼しか受けさせてもらえないという悩みをな。
くくくっ、これから駄エルフのやつがどう踊るのか、楽しみでしかたない。私には、そんな駄エルフが、愛おしくて堪らないのだよ。
……と、今のは聞かなかったことにしてくれ。
私は語り部。彼の行く末を、喜劇を見守り、ただ君たちに語るだけだ。
「お、おはよ、トキワ君……」
二人がいるのは古くはあるが掃除の行き届いた宿屋の一階、その食堂として使われる一角だ。今日トキワは、昨日出会った犬獣人のシュアンと依頼を受ける約束をしていた。
さて、そのシュアンだが、天然パーマの茶髪は短く、中性的な顔の作りをしている。年齢的に身体が発達しきっていない事もあり、一見すれば少年のようにも見える。その為、男女問わず密かに人気を集めていた。
そして、我らが駄エルフ、トキワは同じく中性的な外見の美少年である。
つまり何が言いたいのかというと、だ。
(な、なんかめちゃめちゃ見られてる……)
「シュ、シュアンちゃん? そろそろ、出発しない……? ね?」
「えっ、でも、朝ご飯……」
「向かいながら食べればいいよ! ほら、いこっ!」
「あ、ちょ、待ってっ」
(ちっ)
(けっ)
(腐ぅ)
(私のシュアンちゃんが……)
とまぁ、このように、トキワは注目を集める事になっていた。……薔薇の花? 気のせいだ。いいな?
「ふぅ……。ごめんね? ちょっと、視線が怖かったから……」
「視線? うーん、よく分からないけど、気にしてないよ? 早く行った方がいい依頼あるしね」
「そか、ありがと!」
しかし、一晩で仲良くなったモノだな、この二人。私としては喜ばしい事だ。
っと、もう傭兵ギルドについたらしい。慣れた様子でギルドの扉を潜っていく。
「うん、早めに出て良かった。まだあんまり人いないね」
トキワが満足げに言ったとおり、ギルド内にある人の姿はまばらで、依頼が張り出される掲示板のうち、銅ランク推奨用のスペースには殆ど隙間がない。
「……うん」
「うん? 誰か探してるの?」
「えっ、あ、いや、大丈夫だよっ!」
「……ふーん? まあいいや、依頼見に行こ!」
……駄エルフ、ポーカーフェイスなんて出来たのだな。内心ではかなり気にしているようなのだが、傍目には分かるまい。
「ん~、昨日教えて貰った感じだと、これとか良さそうじゃない?」
「えっと、ゴブリンの群れの討伐。上位種(ソルジャー)一体と、それに率いられた普通種が三から五体。推奨ランクは、銅一級……」
今の二人のランクは共に銅二級だが、問題は無いだろう。トキワの実力なら、上手く立ち回りさえすれば銀一級まではどうにかなる。
「ダメ?」
「い、いや、いいと思う。うんう、これを受けたい!」
「そ、そう。わかった、わかったから、一旦、ね?」
シュアンは、トキワが仰け反らなければならないくらいに身を乗り出していた自分に気づいて慌てて体勢を戻した。その顔は恥ずかしさで朱に染まっている。
しかし、駄エルフ。本当は喜んでいるのではないだろうな?
(よ、よかった……。なんだかまた危険な視線を感じたよ⁉)
危険な視線? ……ああ、これか。
(尊い……)
(はぁ……)
(挟まりt、ひっ⁉)
……薔薇の次は百合の花か? 確かにどちらともとれるような二人ではあるが……あ、いや。薔薇なんて私は知らないぞ! あと百合に挟まろうとするのは止めておけ。血を見るから。
「それじゃ、いこっか」
「うん!」
ふむ、ここで会う事は無かったか――と思った矢先だな。漸く登場だ。
「ん? おい、シュアンじゃねぇか。これから仕事か?」
シュアンに声をかけた男は、見るからにガラの悪そうな男。歳は、成人済みの十六、七といったところか。日本人なら、二十歳くらいの見た目だ。
右目の直ぐ下には三本の傷跡があり、傭兵らしくしっかり鍛えられた肉体は狼の魔物の革で作られたレザーメイルに覆われている。この濁ったような黒色は、以前トキワが戦ったグレーウルフの上位種、ブラックウルフか。ブラックのウルフのランクは単体で銀二級なので、単体なら今のトキワでも対処可能な相手ではある。武器は、オーソドックスな両刃の剣。地球の長剣より長いが、この世界では標準的なサイズだ。
(うん、いかにもって感じだね)
「ぁ、えっと……、あっ!」
男はシュアンから依頼票を奪い取り、目を通す。
「ゴブリンの群れ、それも上位種混じりねぇ。お前一人でか?」
「あ、あの、その……」
(むぅ……!)
「私と二人で、だよ!」
「なんだ、お前? エルフのガキ?」
「なにか文句あるの?」
(強きだよ、私!)
「ふぅん……。なぁ、俺たちもついて行ってやろうか?」
男はトキワからシュアンに視線を移してそう提案した。彼の親指が指す先には、彼と同じようなランクの装備をした男女三人が居る。
「え、えっと……」
シュアンはチラチラとトキワを見るばかりで答えない。その視線を向けられているトキワの内心は、こんな感じだ。
(うわぁ、嫌らしい笑い方……。これ、やっぱりシュアンちゃん怖がってるよね!)
「あなた達の助けなんていらないよ! ほら、シュアンちゃん、行こ!」
「あっ、うん!」
そそくさと受付カウンターの方へ向かうトキワ。それを追ってシュアンも歩き出そうとするが、一瞬立ち止まって男に一言謝っていた。
男とその仲間達は立ち去る二人をじっと見つめている。トキワがその視線に気づいていたなら、ますます警戒していただろう。
……さて、観客の諸君には先にネタばらしをしておこう。
シュアンの立場に自分がいたなら、駄エルフのやつがテンプレだと歓喜していたに違いないこの状況だが、全ては駄エルフの勘違いである。
あたかも後輩傭兵に絡む悪い先輩傭兵のようで、いかにもな見た目のこの男+αは、孤児だったシュアンと同じ孤児院出身で、彼女の兄や姉のような存在だ。
つまりは本当に彼女の事を心配して声をかけただけなのだが、テンプレを求めるあの駄エルフの視界にはおかしなフィルターがかかっているらしく、見事に勘違いをしてくれたわけだ。
なに? 私が『勘づいたな?』とかそれらしい事を言っていた?
ああ、確かに言ったな。
シュアンが悩みを抱えているのは本当だ。兄たちが過保護すぎて、簡単な依頼しか受けさせてもらえないという悩みをな。
くくくっ、これから駄エルフのやつがどう踊るのか、楽しみでしかたない。私には、そんな駄エルフが、愛おしくて堪らないのだよ。
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私は語り部。彼の行く末を、喜劇を見守り、ただ君たちに語るだけだ。
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