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第16話 今度こそテンプレかな!?
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⑯
果てさて、トキワとシュアンの乗る船がカミアリヅの街を出て三日ほどが経過した。空を仰げば雲の見えない快晴。彼方に見える世界樹も、その姿をはっきりとさせてきた。
「ん-、暇だねー」
「そう、だね……」
確かに世界樹は近づいてきてはいる。しかし、その他は水平線の彼方まで続く海しか見えず、あまりに代り映えのしない景色に、二人も飽きてしまっていた。
それはほかの乗客たちも同様のようで、方々で大きな欠伸をする姿が見られる。まあ、この陽気もその一助となっているのだろうが、ともあれ、その時間は間もなく終わる。
「うん?」
まず気が付いたのは我らが駄エルフ、トキワだ。いくら駄エルフなどと呼ばれていても、――うん? そう呼んでいるのは私だけ? ……そうは言っても、エルフはエルフ。この手の事には敏感だ。高い耳をピクピクとさせると、船の縁から投げ出していた上体を更に曲げ、船体へ視線を移す。
(何これ、魔力がうにょうにょしてる?)
うにょうにょ……、まあ、そのうにょうにょしている魔力は、よくよく感じ取ってみると、船体に刻まれた無数の文様に沿って動いていることが分かる。それは乗船する際に彼らも気にしていたもので、とある効果を発揮するための魔法陣だった。
『乗船中の皆さま、間もなく海中航行に移ります。甲板に出ておられるお客様は船縁からお離れください』
船内放送の告げた数秒後、魔法陣がその効力を発揮し、船上部を光の幕が包んでいく。初めての光景に、トキワもシュアンも目を輝かせ、その光景に見入る。
やがて膜が完全に閉じ、内に空気を閉じ込めると、同時に奇妙な浮遊感が彼らを襲った。
「わぁ! シュアンちゃん、沈んでいくよ!」
「う、うん」
シュアンの不安をよそに船はどんどんと沈んでいく。人間ならば恐怖を感じても仕方のない状況だが、心配はいらない。人間たちの知恵の生み出した光の幕は海水をしっかりと遮断し、日の光の届かない海の底まで彼らを運ぶ。
そう、この船の向かう先は、海底の国。海の民たちの住む都市国家、カンナヅの街だ。
◆◇◆
「たのもーう!」
いつものかけ声と共にトキワたちが入っていったのは、カンナヅの街の外れにある傭兵ギルドだ。……シュアンの事は見ないでやってくれ。彼女は今必死に空気になろうとしているのだ。
「ん? シュアンちゃん、どうかした?」
「う、うんう、なんでもない、よ……?」
こら駄エルフ! 話しかけてやるな! 駄エルフに集中していた視線がシュアンに行ってしまっただろう!
全くもって図太いというかなんというか、姿は様々だが、見た目に厳つい傭兵たちの視線を一身に受けてもこの調子なのだから、駄エルフには呆れるばかりだ。
その厳つい傭兵たちだが、海底の街というだけあって水生生物の特徴が混じった種族の者が多い。当然他の種族もいるが、どちらかと言えばトキワの世界で言う観光客に近い雰囲気を放っている。
(まあ、水中が得意な種族以外はまともに仕事も出来ないって話だしなぁ)
海底都市の主な仕事場は都市を覆う空気の膜の外になる。幕の内側から釣りをするように行われる漁もあるが、そちらを仕事にしているのは漁師たちくらいでその他は自分や家族で消費する分だけを獲るに限られた。
「さて、シュアンちゃん、宿のことは聞けたけど、この後どうする? 先に観光に行く?」
「今日はゆっくりしたい、かな」
「そうだね、船旅疲れたしね」
「うん。あ、でも、先に依頼だけ見てみたい、かな?」
個人の資産が船代で殆ど底をついているシュアンだが、カンナヅの街は中継地点。好きなタイミングで反対側の大陸まで渡れるし、宿代についてもパーティーとしての活動資金で相当な日数賄える為、心配は無い。それに、二人にはこの海底都市でも仕事が出来るあてがあった。
「おっけ。じゃあ依頼見に行こっか!」
そんな会話をしながら歩いていた二人に、不意にかけられる声があった。
「なあ、エラナシども」
声の主は、ずんぐりむっくりとした朱色の巨漢。両手足と頭が同じような太さを持っており、そのいずれも先が細って尖っている。四肢の先には指に当たる部位は無いようで、代わりにいくつもの突起に覆われていた。
(ヒトデ?)
そう、ヒトデの特徴を持った人間種族、ヒトデ人だ。ちなみにエラナシは水中で呼吸の出来ない種族に対する蔑称である。
「なんですか?」
「てめぇらエラナシの仕事なんざここにはねぇよ、さっさと帰りな」
諒の腕を組み、ヒトデ人の巨漢は駄エルフたちを威圧する。二人の倍は優にある彼に睨まれる現状は、シュアンを怯えさせるには十分。彼女は無意識にトキワの後ろへ回り込む。
「ねえ」
流石のトキワも、相方の怯えようは看過できないか。ヒトデ人の目をまっすぐに見つめ返す。
まさに一触即発。周囲で様子を見ていた傭兵たちの間にも緊張感が走――。
「ヒトデってエラあったっけ?」
……どうやら私は、未だ彼の図太さを理解しきれていなかったようだ。そんな純粋な眼差しは、確実に今の状況にはそぐわないぞ。
見てみろ、ポカンと間抜けな顔をしていたヒトデ人の顔が一層赤くなってプルプルし始めたじゃないか。
(あれ、私何かおかしなこと言ったかな?)
ああ言ったとも。
(あっ、この状況!)
お、気が付いたか。
(ギルドで新人が絡まれるテンプレだよ!)
違う、そうじゃない。そうだけど、そうじゃない。
くわっと目を見開くな。瞳をキラキラさせるな。
「――ふぅ」
ほら、ヒトデ人が深呼吸して気を落ち着けている今のうちに、一応謝っておけ? 無駄にトラブルを起こしても面倒なだけだぞ?
「お前らみたいなのが無理にここで仕事して、何人も死――」
「はぁ、いいよ、掛かって来な!」
うん、決まったぜじゃないんだ、駄エルフ。
テンプレとやらに憧れていたのも知っているが、確実に今じゃない。貴様のどや顔で空気が凍り付いているぞ。
「ト、トキワ君、たぶん、そういう話じゃ、ない……」
シュアンの言う通りだ。
目をぱちくりとさせ、周囲を見たトキワだが、まだよく分かっていないらしい。ヒトデ人と目を合わせて首を傾げる。
「この人、普通に、心配してくれてるんだと、思う」
「……ふぇ?」
骨格的にそれ以上首は傾げられないと思うぞ、駄エルフ。限界に挑戦するのは後にしてくれ。
「……はぁ。別にお前らの実力が足りねえなんて言って無いだろ」
「……確かぬぃ?」
腰から傾げられた駄エルフの首から上が、徐々に朱く染まっていく。
「えーっと、そのー……」
駄エルフの目がそれはもう見事に泳ぎ、シュアンを見て、またヒトデ人に戻る。
「ごめんなさいぃぃぃいいいいい!!」
そして、健康な肺を十全に使った叫びが、カンナヅの街に木霊した。
そう言えば二回目だな、この流れ。
果てさて、トキワとシュアンの乗る船がカミアリヅの街を出て三日ほどが経過した。空を仰げば雲の見えない快晴。彼方に見える世界樹も、その姿をはっきりとさせてきた。
「ん-、暇だねー」
「そう、だね……」
確かに世界樹は近づいてきてはいる。しかし、その他は水平線の彼方まで続く海しか見えず、あまりに代り映えのしない景色に、二人も飽きてしまっていた。
それはほかの乗客たちも同様のようで、方々で大きな欠伸をする姿が見られる。まあ、この陽気もその一助となっているのだろうが、ともあれ、その時間は間もなく終わる。
「うん?」
まず気が付いたのは我らが駄エルフ、トキワだ。いくら駄エルフなどと呼ばれていても、――うん? そう呼んでいるのは私だけ? ……そうは言っても、エルフはエルフ。この手の事には敏感だ。高い耳をピクピクとさせると、船の縁から投げ出していた上体を更に曲げ、船体へ視線を移す。
(何これ、魔力がうにょうにょしてる?)
うにょうにょ……、まあ、そのうにょうにょしている魔力は、よくよく感じ取ってみると、船体に刻まれた無数の文様に沿って動いていることが分かる。それは乗船する際に彼らも気にしていたもので、とある効果を発揮するための魔法陣だった。
『乗船中の皆さま、間もなく海中航行に移ります。甲板に出ておられるお客様は船縁からお離れください』
船内放送の告げた数秒後、魔法陣がその効力を発揮し、船上部を光の幕が包んでいく。初めての光景に、トキワもシュアンも目を輝かせ、その光景に見入る。
やがて膜が完全に閉じ、内に空気を閉じ込めると、同時に奇妙な浮遊感が彼らを襲った。
「わぁ! シュアンちゃん、沈んでいくよ!」
「う、うん」
シュアンの不安をよそに船はどんどんと沈んでいく。人間ならば恐怖を感じても仕方のない状況だが、心配はいらない。人間たちの知恵の生み出した光の幕は海水をしっかりと遮断し、日の光の届かない海の底まで彼らを運ぶ。
そう、この船の向かう先は、海底の国。海の民たちの住む都市国家、カンナヅの街だ。
◆◇◆
「たのもーう!」
いつものかけ声と共にトキワたちが入っていったのは、カンナヅの街の外れにある傭兵ギルドだ。……シュアンの事は見ないでやってくれ。彼女は今必死に空気になろうとしているのだ。
「ん? シュアンちゃん、どうかした?」
「う、うんう、なんでもない、よ……?」
こら駄エルフ! 話しかけてやるな! 駄エルフに集中していた視線がシュアンに行ってしまっただろう!
全くもって図太いというかなんというか、姿は様々だが、見た目に厳つい傭兵たちの視線を一身に受けてもこの調子なのだから、駄エルフには呆れるばかりだ。
その厳つい傭兵たちだが、海底の街というだけあって水生生物の特徴が混じった種族の者が多い。当然他の種族もいるが、どちらかと言えばトキワの世界で言う観光客に近い雰囲気を放っている。
(まあ、水中が得意な種族以外はまともに仕事も出来ないって話だしなぁ)
海底都市の主な仕事場は都市を覆う空気の膜の外になる。幕の内側から釣りをするように行われる漁もあるが、そちらを仕事にしているのは漁師たちくらいでその他は自分や家族で消費する分だけを獲るに限られた。
「さて、シュアンちゃん、宿のことは聞けたけど、この後どうする? 先に観光に行く?」
「今日はゆっくりしたい、かな」
「そうだね、船旅疲れたしね」
「うん。あ、でも、先に依頼だけ見てみたい、かな?」
個人の資産が船代で殆ど底をついているシュアンだが、カンナヅの街は中継地点。好きなタイミングで反対側の大陸まで渡れるし、宿代についてもパーティーとしての活動資金で相当な日数賄える為、心配は無い。それに、二人にはこの海底都市でも仕事が出来るあてがあった。
「おっけ。じゃあ依頼見に行こっか!」
そんな会話をしながら歩いていた二人に、不意にかけられる声があった。
「なあ、エラナシども」
声の主は、ずんぐりむっくりとした朱色の巨漢。両手足と頭が同じような太さを持っており、そのいずれも先が細って尖っている。四肢の先には指に当たる部位は無いようで、代わりにいくつもの突起に覆われていた。
(ヒトデ?)
そう、ヒトデの特徴を持った人間種族、ヒトデ人だ。ちなみにエラナシは水中で呼吸の出来ない種族に対する蔑称である。
「なんですか?」
「てめぇらエラナシの仕事なんざここにはねぇよ、さっさと帰りな」
諒の腕を組み、ヒトデ人の巨漢は駄エルフたちを威圧する。二人の倍は優にある彼に睨まれる現状は、シュアンを怯えさせるには十分。彼女は無意識にトキワの後ろへ回り込む。
「ねえ」
流石のトキワも、相方の怯えようは看過できないか。ヒトデ人の目をまっすぐに見つめ返す。
まさに一触即発。周囲で様子を見ていた傭兵たちの間にも緊張感が走――。
「ヒトデってエラあったっけ?」
……どうやら私は、未だ彼の図太さを理解しきれていなかったようだ。そんな純粋な眼差しは、確実に今の状況にはそぐわないぞ。
見てみろ、ポカンと間抜けな顔をしていたヒトデ人の顔が一層赤くなってプルプルし始めたじゃないか。
(あれ、私何かおかしなこと言ったかな?)
ああ言ったとも。
(あっ、この状況!)
お、気が付いたか。
(ギルドで新人が絡まれるテンプレだよ!)
違う、そうじゃない。そうだけど、そうじゃない。
くわっと目を見開くな。瞳をキラキラさせるな。
「――ふぅ」
ほら、ヒトデ人が深呼吸して気を落ち着けている今のうちに、一応謝っておけ? 無駄にトラブルを起こしても面倒なだけだぞ?
「お前らみたいなのが無理にここで仕事して、何人も死――」
「はぁ、いいよ、掛かって来な!」
うん、決まったぜじゃないんだ、駄エルフ。
テンプレとやらに憧れていたのも知っているが、確実に今じゃない。貴様のどや顔で空気が凍り付いているぞ。
「ト、トキワ君、たぶん、そういう話じゃ、ない……」
シュアンの言う通りだ。
目をぱちくりとさせ、周囲を見たトキワだが、まだよく分かっていないらしい。ヒトデ人と目を合わせて首を傾げる。
「この人、普通に、心配してくれてるんだと、思う」
「……ふぇ?」
骨格的にそれ以上首は傾げられないと思うぞ、駄エルフ。限界に挑戦するのは後にしてくれ。
「……はぁ。別にお前らの実力が足りねえなんて言って無いだろ」
「……確かぬぃ?」
腰から傾げられた駄エルフの首から上が、徐々に朱く染まっていく。
「えーっと、そのー……」
駄エルフの目がそれはもう見事に泳ぎ、シュアンを見て、またヒトデ人に戻る。
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