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第26話 ただいま逃走中!
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㉖
対象はカフンイヤ通りを抜けツツジミツアマ通りへ向かっている。二手に分かれ、ボツリヌス通りで挟みうて。
「ハッ!」
トキワ達を追う五人のうち二人が離脱し、木陰へ消える。トキワ達も不審には思いつつ、足を止められない。
「なんかっ、さっきから、動き読まれ過ぎじゃない!?」
「う、うん、なんか、誰かと話してる、みたい?」
「えー! 何それ! って、前からも来た!?」
慌てて方向を変え、屋根の上へ逃げるトキワ達。護衛達も彼らを追って飛び上がる。
む、この先は観光客の多いエリアだな。反対へ誘導させなければ。
住人達には周知してあるが、旅人達は何も知らない。驚かせても悪かろう。
「お、嬢ちゃん達、逃げてんのか。ほら、これ持ってきな」
「え、あ、ありがと!」
「おうがんばれよー!」
トキワは屋台の男から赤い果実を投げ渡されて、ようやく周囲の視線がおかしな事に気がついた。
これだけ駆け回っていたら不審な目で見られそうなものだが、住人達の目はむしろ演劇の舞台に向けられる観客のソレだ。
(意味わかんない!)
それはそうだろう。
この世界では珍しい観光地とは言え、娯楽の類は多くない。住人達からすれば、この逃走劇も一種の見せ物だ。
そういう訳で、私も偶には楽しむこととする。
うん? 単純に楽しくなってきただけ? 否定はしないでおこう。
「シュアンちゃん、食べる?」
「え、あ、後で、いいかな?」
「ほう? うん、おいひい」
駄エルフは駄エルフで楽しんでいるな?
というかシュアンを抱えたまま、器用に食べるものだ。
「おっと、こっち!」
ちっ、相変わらず妙に勘の良いやつだ。そのまま行けば待ち伏せ地点だったのだが。
あっ、待て駄エルフ、その建物はマズい!
「ふぇっ? お風呂?」
「きゃああああ! 覗きよ!!」
「あっ、ごめんなさいっ!」
「トキワくん?」
ああっ、だから言ったのに。いや、聞こえてはいないが。
シュアンの目から光が消えたぞ。
「ふむ、眼福だった」
「トキワ、くん?」
「なっ、何でもないです!」
本当に駄エルフである。これでも一応は、元少女なのだが。
慌てて飛び出した先は、大通り。ギンナンシュウ通りと呼ばれている、この街の中心部へ続く道だ。
「どうされますか。このまま追い込みますか?」
私に対する護衛隊長の言葉だ。
いや、まだ早い。少し向きを変えて、鎮めの森へ。
「承知いたしました。……どうした、お前たち」
「いや、隊長ばっかり羨ましいなーって」
「お黙りなさい。最も位の高いのは隊長です。当然でしょう」
「そう言う副隊長も羨ましそうに見てたじゃないですか……って、ちょっ、無言で無駄に精度の良い雷落とすのやめてくれません!? うぉっ、あでっ!?」
……他の者たちにも後で労いの言葉を送っておくか。いや、しかしこやつらもこやつらで楽しんではいるな?
街の中を飛んだり跳ねたり、隠れたり。そうして駆けずり回り、件の森に着いたのは逃走劇が始まってから小一時間ほど経った頃だった。
この鎮めの森は世界樹の麓にあり、広大なハヅキの街の半分のほどの面積を持つ。街全体が森そのものの様なハヅキの街にあって唯一、人の気配が無い、且つ最も木々の繁った地だ。
「なっ、なんか、誘導されたかな!?」
「か、かも?」
ここなら、周囲に遠慮する必要はない。もう少し楽しんだら、もとい疲れさせたら、種明かしとしよう。
「うぅ、どうしよ。あの人たち、皆私たちより強いよ!」
「う、うん、でも、大丈夫、じゃないかな?」
「どういうって、うわっ!?」
さあ、ここからは鬼役も魔法解禁だ。遠慮はいらぬ。やっておしまい!
「うぇっ、ちょっ、雷はっ、ずるっ、いっ!」
ふむ、よく避ける。すばしっこい奴だ。
多少の怪我は問題ないと伝えてある故、彼らも当てる気で撃っているのだが。
だがしかし、いつまで逃げられるだろうか。何せここは彼らの庭だ。
「ト、トキワくん! 前!」
「へっ!?」
シュアンの声にトキワが従うと、見えたのは視界いっぱいの蔦の壁だ。見るからに太いそれは、トキワ達を捉えるに十分。
――なのだが、トキワはこれを風の刃で切り裂いて、何なく通過してしまった。
ちっ、そのまま突っ込めば良いものを。
「ふぅ……ぶぁなーなっ!?」
……まさか効果があるとは。
古典的なものも一応、と思って置いておいただけの黄色い果実の皮、それを、駄エルフは見事に踏んだ。
まこと、美しい宙返りだ。これは芸術点が高い。
シュアンを離さなかった辺りは褒めたいが、そもそも引っかかる類の罠ではないと思っていたので何とも褒め難い。
思わぬ光景に護衛達まで一瞬動きを止めてしまったではないか。
そのせいで絶好の機会を逃したわけだが、これは責められない。悪いのは駄エルフであろう。
「び、びっくりしたー。なんであんな所にバナナの皮が?」
「バナ、ナ……?」
ビックリしたはこちらの台詞である。
気をとりなおして、次の罠だ。
次も先ほどの蔦と皮と同じく二段構え。その一段目は、ただのブラフだ。
垂直な壁にぶら下がった、明らかに真新しく、誰かが最近設置したのは丸わかりのロープ。更には横に、『罠じゃないよ。これを使って上るといいよ』だなどと白々しく書いてある看板。
この見え透いた罠は、次の幻術による罠を心理的に隠蔽するためのブラ――
「ラッキー! あれ上って大丈夫だって!」
「えっ……!?」
え?
「よっ――」
――ガシャーン!
「痛っタライーンっ!?」
嘘だろう?
一応の古典的な罠パートツーとして、いわゆる金ダライを仕掛けておいたのだが、出番があるとは思わなんだ……。
さすがの駄エルフである。
「痛ーい! 嘘つき! 罠じゃん!」
駄エルフである。
あとさっきから悲鳴がおかしいぞ。
「トキワ、くん、これに引っかかる人、滅多にいないん、じゃ……」
シュアンの言う通りだと思うぞ。
「……は、早く逃げないと!」
む、誤魔化したな。
実際、そうせねば追いつかれてしまうのは確かであるが。
さて、状況的に左右のどちらかに向かう事になるが、右は右の斜面は先述した幻術による罠だ。
斜面に見えて、実はやや下り勾配の洞穴になっており、うっかり踏み込めばそのまま真っ逆さまとなる。
とは言え、トキワ達であれば気付けてしまうモノ。その為のロープの罠だったのだが、それが機能しなかった以上はバレてしまうだろう。
「あの斜面は、幻術だね」
「う、ん」
やはりか。
ならば壁伝いにどちらかとなるだろう。
追い込むのなら、左だろ――
「罠、と見せかけて、実は行ってほしくない道をそれっぽくしてあるだけ説!」
どうしてそうなる?
「た、たぶん、違うと、思う、よ? 音の反響的に、あっちは、行き止まり、の、洞窟……」
その通りだ。さすが犬獣人というべきか。
やはり魔法で誘導し――
「だがしかーし! 私はこの可能性にかける!」
どうしてそうなる?
いや、本気でバカなのだろうか?
基本的に頭の悪い方ではないはずなのだが。
「とぅっ! あっ、れぇぇぇえええっ?」
……落ちていったな。
本当に、駄エルフである。
「ええと、どうしましょうか?」
護衛隊の隊長が遠慮がちに問うてきた。
彼の心中、察する。
そうだな、まあ、一旦捕らえてしまえ。一応油断はするでないぞ。
「はっ、ご忠告、ありがたく存じます」
まあ、問題はないと思うがな。
二人とも穴の底で目を回している。
哀れシュアン。やはりついて行く相手を間違えたのではなかろうか?
まこと、駄エルフである。
対象はカフンイヤ通りを抜けツツジミツアマ通りへ向かっている。二手に分かれ、ボツリヌス通りで挟みうて。
「ハッ!」
トキワ達を追う五人のうち二人が離脱し、木陰へ消える。トキワ達も不審には思いつつ、足を止められない。
「なんかっ、さっきから、動き読まれ過ぎじゃない!?」
「う、うん、なんか、誰かと話してる、みたい?」
「えー! 何それ! って、前からも来た!?」
慌てて方向を変え、屋根の上へ逃げるトキワ達。護衛達も彼らを追って飛び上がる。
む、この先は観光客の多いエリアだな。反対へ誘導させなければ。
住人達には周知してあるが、旅人達は何も知らない。驚かせても悪かろう。
「お、嬢ちゃん達、逃げてんのか。ほら、これ持ってきな」
「え、あ、ありがと!」
「おうがんばれよー!」
トキワは屋台の男から赤い果実を投げ渡されて、ようやく周囲の視線がおかしな事に気がついた。
これだけ駆け回っていたら不審な目で見られそうなものだが、住人達の目はむしろ演劇の舞台に向けられる観客のソレだ。
(意味わかんない!)
それはそうだろう。
この世界では珍しい観光地とは言え、娯楽の類は多くない。住人達からすれば、この逃走劇も一種の見せ物だ。
そういう訳で、私も偶には楽しむこととする。
うん? 単純に楽しくなってきただけ? 否定はしないでおこう。
「シュアンちゃん、食べる?」
「え、あ、後で、いいかな?」
「ほう? うん、おいひい」
駄エルフは駄エルフで楽しんでいるな?
というかシュアンを抱えたまま、器用に食べるものだ。
「おっと、こっち!」
ちっ、相変わらず妙に勘の良いやつだ。そのまま行けば待ち伏せ地点だったのだが。
あっ、待て駄エルフ、その建物はマズい!
「ふぇっ? お風呂?」
「きゃああああ! 覗きよ!!」
「あっ、ごめんなさいっ!」
「トキワくん?」
ああっ、だから言ったのに。いや、聞こえてはいないが。
シュアンの目から光が消えたぞ。
「ふむ、眼福だった」
「トキワ、くん?」
「なっ、何でもないです!」
本当に駄エルフである。これでも一応は、元少女なのだが。
慌てて飛び出した先は、大通り。ギンナンシュウ通りと呼ばれている、この街の中心部へ続く道だ。
「どうされますか。このまま追い込みますか?」
私に対する護衛隊長の言葉だ。
いや、まだ早い。少し向きを変えて、鎮めの森へ。
「承知いたしました。……どうした、お前たち」
「いや、隊長ばっかり羨ましいなーって」
「お黙りなさい。最も位の高いのは隊長です。当然でしょう」
「そう言う副隊長も羨ましそうに見てたじゃないですか……って、ちょっ、無言で無駄に精度の良い雷落とすのやめてくれません!? うぉっ、あでっ!?」
……他の者たちにも後で労いの言葉を送っておくか。いや、しかしこやつらもこやつらで楽しんではいるな?
街の中を飛んだり跳ねたり、隠れたり。そうして駆けずり回り、件の森に着いたのは逃走劇が始まってから小一時間ほど経った頃だった。
この鎮めの森は世界樹の麓にあり、広大なハヅキの街の半分のほどの面積を持つ。街全体が森そのものの様なハヅキの街にあって唯一、人の気配が無い、且つ最も木々の繁った地だ。
「なっ、なんか、誘導されたかな!?」
「か、かも?」
ここなら、周囲に遠慮する必要はない。もう少し楽しんだら、もとい疲れさせたら、種明かしとしよう。
「うぅ、どうしよ。あの人たち、皆私たちより強いよ!」
「う、うん、でも、大丈夫、じゃないかな?」
「どういうって、うわっ!?」
さあ、ここからは鬼役も魔法解禁だ。遠慮はいらぬ。やっておしまい!
「うぇっ、ちょっ、雷はっ、ずるっ、いっ!」
ふむ、よく避ける。すばしっこい奴だ。
多少の怪我は問題ないと伝えてある故、彼らも当てる気で撃っているのだが。
だがしかし、いつまで逃げられるだろうか。何せここは彼らの庭だ。
「ト、トキワくん! 前!」
「へっ!?」
シュアンの声にトキワが従うと、見えたのは視界いっぱいの蔦の壁だ。見るからに太いそれは、トキワ達を捉えるに十分。
――なのだが、トキワはこれを風の刃で切り裂いて、何なく通過してしまった。
ちっ、そのまま突っ込めば良いものを。
「ふぅ……ぶぁなーなっ!?」
……まさか効果があるとは。
古典的なものも一応、と思って置いておいただけの黄色い果実の皮、それを、駄エルフは見事に踏んだ。
まこと、美しい宙返りだ。これは芸術点が高い。
シュアンを離さなかった辺りは褒めたいが、そもそも引っかかる類の罠ではないと思っていたので何とも褒め難い。
思わぬ光景に護衛達まで一瞬動きを止めてしまったではないか。
そのせいで絶好の機会を逃したわけだが、これは責められない。悪いのは駄エルフであろう。
「び、びっくりしたー。なんであんな所にバナナの皮が?」
「バナ、ナ……?」
ビックリしたはこちらの台詞である。
気をとりなおして、次の罠だ。
次も先ほどの蔦と皮と同じく二段構え。その一段目は、ただのブラフだ。
垂直な壁にぶら下がった、明らかに真新しく、誰かが最近設置したのは丸わかりのロープ。更には横に、『罠じゃないよ。これを使って上るといいよ』だなどと白々しく書いてある看板。
この見え透いた罠は、次の幻術による罠を心理的に隠蔽するためのブラ――
「ラッキー! あれ上って大丈夫だって!」
「えっ……!?」
え?
「よっ――」
――ガシャーン!
「痛っタライーンっ!?」
嘘だろう?
一応の古典的な罠パートツーとして、いわゆる金ダライを仕掛けておいたのだが、出番があるとは思わなんだ……。
さすがの駄エルフである。
「痛ーい! 嘘つき! 罠じゃん!」
駄エルフである。
あとさっきから悲鳴がおかしいぞ。
「トキワ、くん、これに引っかかる人、滅多にいないん、じゃ……」
シュアンの言う通りだと思うぞ。
「……は、早く逃げないと!」
む、誤魔化したな。
実際、そうせねば追いつかれてしまうのは確かであるが。
さて、状況的に左右のどちらかに向かう事になるが、右は右の斜面は先述した幻術による罠だ。
斜面に見えて、実はやや下り勾配の洞穴になっており、うっかり踏み込めばそのまま真っ逆さまとなる。
とは言え、トキワ達であれば気付けてしまうモノ。その為のロープの罠だったのだが、それが機能しなかった以上はバレてしまうだろう。
「あの斜面は、幻術だね」
「う、ん」
やはりか。
ならば壁伝いにどちらかとなるだろう。
追い込むのなら、左だろ――
「罠、と見せかけて、実は行ってほしくない道をそれっぽくしてあるだけ説!」
どうしてそうなる?
「た、たぶん、違うと、思う、よ? 音の反響的に、あっちは、行き止まり、の、洞窟……」
その通りだ。さすが犬獣人というべきか。
やはり魔法で誘導し――
「だがしかーし! 私はこの可能性にかける!」
どうしてそうなる?
いや、本気でバカなのだろうか?
基本的に頭の悪い方ではないはずなのだが。
「とぅっ! あっ、れぇぇぇえええっ?」
……落ちていったな。
本当に、駄エルフである。
「ええと、どうしましょうか?」
護衛隊の隊長が遠慮がちに問うてきた。
彼の心中、察する。
そうだな、まあ、一旦捕らえてしまえ。一応油断はするでないぞ。
「はっ、ご忠告、ありがたく存じます」
まあ、問題はないと思うがな。
二人とも穴の底で目を回している。
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まこと、駄エルフである。
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