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四の浪 王都エルデン④
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④
アストやティオルティカを不用意に緊張させないよう、平然を装ったまま奥に向かう。もう五分も歩かないうちに、目的の地下神殿に辿り着けると思う。
周囲の魔力濃度は既に魔境と呼ばれるような地域並みに濃くなっており、地下空間であることを加味しても不自然だと誰の目にも明らかな状態だ。このくらいになると、弱い魔物の魔力では紛れてしまって分からなくなる。
だけれど、それはここに入り込んだ魔物の気配を確認できないのとは関係ないだろう。
「これ、本当にリッチ?」
ティオルティカの呟きには、誰も返さない。正直、私にも分からない。リッチの気配に近いのは確かだけれど、それよりももっと歪で気持ちの悪い、強い気配。
「一つ確かなのは、下手なCランクがこの依頼を受けなくて良かった、てことかしら」
「そうねぇ。魔力だけならワタシと同じくらいありそう」
中位精霊と同等となると、最低でもAランク。勿論それだけでは戦闘力は決まらないけれど、Cランク程度の力なら発せられる魔力だけで身動きが取れなくなってしまってもおかしくはない。
「そこを曲がった先だよ。匂いは広い空間の真ん中あたり。向こうも気付いてそうだけど、変な感じがして自信ない」
「気付かれていると思いましょう。それじゃあティオルティカ、打ち合わせ通りまずは周りの補強で」
「うん。アネムはアストと一緒に牽制をお願い」
アネムが了承の返事をするのを確認して、アストとアイコンタクトをする。
「いくわよ。いち、に、さん!」
角を飛び出し、アストの言っていた広場へ飛び出す。目に入った標的は、リッチと同じ、ぼろぼろのローブを纏った人型のアンデッド。生前は墓守だったのか、大きなスコップを手に持っている。肉体への魔力の浸透具合からして上位種の古代死魔霊ではないが、普通でないのは間違いない。
「グルルァァア!」
魔力を動かし、魔術を使おうとしたリッチへ向けて、巨大化したアストが飛び掛かる。リッチはスコップでこれを受け止めたけれど、ライオンの倍はある猫精霊の爪はその眼前にまで迫っていた。
でも押し込む前に魔術で反撃されるだろうから、急いで魔術を発動。ティオルティカと二人で壁や奥の神殿を補強する。思った以上に強そうだから、念入りに。
そうしている間に反撃の氷槍でアストが飛び退かさせられたけれど、リッチは次の行動をする前にアネムの風で吹き飛んだ。
「こっちは完了」
「こっちも大丈夫! ちょっとやそっとじゃ崩れないよ!」
よし、これで準備は整った。本気の魔導は怖いけれど、このメンバーなら大丈夫。魔法は、どの道使えそうにない。ざっと土地の記憶を見た感じ、有効なものは無かった。
タイムリミットがあるとすれば、ティオルティカの魔力残量か。召喚の都合上、アネムの行使する魔導の魔力を賄う必要がある。
「ソフィア、近づくと魔力を吸われる感じがする! 僕の魔力消費量、多めに考えて!」
面倒な。彼の巨大化は半分魔力で身体を形成される特性を利用して再形成したものだ。触れる度に身体を構成する魔力を吸われるなら、アレと接触する度に再形成に魔力を使う事になる。
「ワタシは触れちゃダメなやつねぇ。アストくん、ソフィアちゃん、ティカの方に通しちゃダメよー」
「心配しなくてもそのつもりよ」
とりあえず、使うなら光の魔術かな。拘束するにしても既存の実体を使わないといけなくて面倒だし、ひたすら攻撃で。
まずは、[光槍]。数は一。
暗い墓所内を照らしながら、光というエネルギーの塊が飛翔する。普段ならレーザーのような熱の攻撃として使う事が多いのだけれど、今回は正の方向への活性化という属性本来の力を与えるようにしてぶつける。アンデッド以外にぶつけるなら魔力なら何なりの暴走を無理やり引き起こしてダメージを与える使い方。これを闇属性による負への活性化の効果を使って存在を保つアンデッドにぶつけると、それぞれの効果が相殺されて生命力を直接削ぐような結果になる。
さて、効果の程は……。
「魔力の吸収は一定量ずつ継続的に。近いほど強い」
次は数を増やす。
二本、一緒。三本、一緒。四本、これも一緒。
同時にティオルティカやアネムの撃ち出した魔術も同じような結果ね。
「数は関係なさそう。次は魔力密度を上げるわ」
観測結果を共有しつつ、飛んでくる氷の槍を躱す。今の所被弾ゼロ。こちらの魔術は、いくつかは直撃しているので、このままごり押せそうではある。
「密度が高いと吸収効率が落ちるみたい」
「おっけー、了解!」
二人の手数が減って、代わりに一撃あたりの魔力量が増えた。
うん、このまま押し切れる。
と思ったのだけれど、安心するのは早すぎたみたい。
「うわっ!?」
アストが弾き飛ばされ、私に向かってくる。急に力が増した。身体強化? 魔法主体に見えたけれど、違ったのね。
一先ずは回避。見た目よりは軽いとはいえ、それなりの重量だ。潰されては敵わない。
アストはアストで身を捻って着地するから問題無し。
リッチは――くっ!
視界を埋め尽くすスコップを杖で受ける。アストの体に視界を塞がれた一瞬で肉薄して来たらしい。咄嗟のことで受け止めるのが精一杯だった。
押し返そうと力を込めるけれど、びくともしない。代わりに地面が凹む。
だめだ、せめて体勢を立て直さないと、押し切られる!
「このっ……!」
強化に使う魔力量を増やし、どうにか反っていた上体を起こす。そのまま逆に押さえ込もうと更に強化、しようとしたところで、杖を伝わる違和感に気がついた。
考えるよりも先に力を抜き、後ろへ跳ぶ。その私の鼻先を掠めたのは、リッチのつま先だ。
安堵する間もなく飛来した氷の槍を杖で弾く。見ると、後ろから襲いかかろうとしたアストが急停止して裏拳をやり過ごしているところだった。
さっきまでより数段早くて強い。ティオルティカの精霊魔術も躱されているし、あのリッチの生前は近接が本職なんだろう。始めに魔術ばかり使ってきていたのは、小精霊を取り込んだ影響かしら。
「アスト! 射線を遮る様に誘導されてるわ!」
「分かってるけど、さ! あーもう! ちょこまかと!」
私は長い付き合いだから、辛うじて彼を避けて魔導を撃てているけれど、ティオルティカは手をこまねいている。その私の魔法も決定打は無し。
仕方が無い。杖術はあくまで補助なのだけれど、相手はスタミナ切れの無いリッチ。このままでは直ぐにじり貧になってしまう。
アストやティオルティカを不用意に緊張させないよう、平然を装ったまま奥に向かう。もう五分も歩かないうちに、目的の地下神殿に辿り着けると思う。
周囲の魔力濃度は既に魔境と呼ばれるような地域並みに濃くなっており、地下空間であることを加味しても不自然だと誰の目にも明らかな状態だ。このくらいになると、弱い魔物の魔力では紛れてしまって分からなくなる。
だけれど、それはここに入り込んだ魔物の気配を確認できないのとは関係ないだろう。
「これ、本当にリッチ?」
ティオルティカの呟きには、誰も返さない。正直、私にも分からない。リッチの気配に近いのは確かだけれど、それよりももっと歪で気持ちの悪い、強い気配。
「一つ確かなのは、下手なCランクがこの依頼を受けなくて良かった、てことかしら」
「そうねぇ。魔力だけならワタシと同じくらいありそう」
中位精霊と同等となると、最低でもAランク。勿論それだけでは戦闘力は決まらないけれど、Cランク程度の力なら発せられる魔力だけで身動きが取れなくなってしまってもおかしくはない。
「そこを曲がった先だよ。匂いは広い空間の真ん中あたり。向こうも気付いてそうだけど、変な感じがして自信ない」
「気付かれていると思いましょう。それじゃあティオルティカ、打ち合わせ通りまずは周りの補強で」
「うん。アネムはアストと一緒に牽制をお願い」
アネムが了承の返事をするのを確認して、アストとアイコンタクトをする。
「いくわよ。いち、に、さん!」
角を飛び出し、アストの言っていた広場へ飛び出す。目に入った標的は、リッチと同じ、ぼろぼろのローブを纏った人型のアンデッド。生前は墓守だったのか、大きなスコップを手に持っている。肉体への魔力の浸透具合からして上位種の古代死魔霊ではないが、普通でないのは間違いない。
「グルルァァア!」
魔力を動かし、魔術を使おうとしたリッチへ向けて、巨大化したアストが飛び掛かる。リッチはスコップでこれを受け止めたけれど、ライオンの倍はある猫精霊の爪はその眼前にまで迫っていた。
でも押し込む前に魔術で反撃されるだろうから、急いで魔術を発動。ティオルティカと二人で壁や奥の神殿を補強する。思った以上に強そうだから、念入りに。
そうしている間に反撃の氷槍でアストが飛び退かさせられたけれど、リッチは次の行動をする前にアネムの風で吹き飛んだ。
「こっちは完了」
「こっちも大丈夫! ちょっとやそっとじゃ崩れないよ!」
よし、これで準備は整った。本気の魔導は怖いけれど、このメンバーなら大丈夫。魔法は、どの道使えそうにない。ざっと土地の記憶を見た感じ、有効なものは無かった。
タイムリミットがあるとすれば、ティオルティカの魔力残量か。召喚の都合上、アネムの行使する魔導の魔力を賄う必要がある。
「ソフィア、近づくと魔力を吸われる感じがする! 僕の魔力消費量、多めに考えて!」
面倒な。彼の巨大化は半分魔力で身体を形成される特性を利用して再形成したものだ。触れる度に身体を構成する魔力を吸われるなら、アレと接触する度に再形成に魔力を使う事になる。
「ワタシは触れちゃダメなやつねぇ。アストくん、ソフィアちゃん、ティカの方に通しちゃダメよー」
「心配しなくてもそのつもりよ」
とりあえず、使うなら光の魔術かな。拘束するにしても既存の実体を使わないといけなくて面倒だし、ひたすら攻撃で。
まずは、[光槍]。数は一。
暗い墓所内を照らしながら、光というエネルギーの塊が飛翔する。普段ならレーザーのような熱の攻撃として使う事が多いのだけれど、今回は正の方向への活性化という属性本来の力を与えるようにしてぶつける。アンデッド以外にぶつけるなら魔力なら何なりの暴走を無理やり引き起こしてダメージを与える使い方。これを闇属性による負への活性化の効果を使って存在を保つアンデッドにぶつけると、それぞれの効果が相殺されて生命力を直接削ぐような結果になる。
さて、効果の程は……。
「魔力の吸収は一定量ずつ継続的に。近いほど強い」
次は数を増やす。
二本、一緒。三本、一緒。四本、これも一緒。
同時にティオルティカやアネムの撃ち出した魔術も同じような結果ね。
「数は関係なさそう。次は魔力密度を上げるわ」
観測結果を共有しつつ、飛んでくる氷の槍を躱す。今の所被弾ゼロ。こちらの魔術は、いくつかは直撃しているので、このままごり押せそうではある。
「密度が高いと吸収効率が落ちるみたい」
「おっけー、了解!」
二人の手数が減って、代わりに一撃あたりの魔力量が増えた。
うん、このまま押し切れる。
と思ったのだけれど、安心するのは早すぎたみたい。
「うわっ!?」
アストが弾き飛ばされ、私に向かってくる。急に力が増した。身体強化? 魔法主体に見えたけれど、違ったのね。
一先ずは回避。見た目よりは軽いとはいえ、それなりの重量だ。潰されては敵わない。
アストはアストで身を捻って着地するから問題無し。
リッチは――くっ!
視界を埋め尽くすスコップを杖で受ける。アストの体に視界を塞がれた一瞬で肉薄して来たらしい。咄嗟のことで受け止めるのが精一杯だった。
押し返そうと力を込めるけれど、びくともしない。代わりに地面が凹む。
だめだ、せめて体勢を立て直さないと、押し切られる!
「このっ……!」
強化に使う魔力量を増やし、どうにか反っていた上体を起こす。そのまま逆に押さえ込もうと更に強化、しようとしたところで、杖を伝わる違和感に気がついた。
考えるよりも先に力を抜き、後ろへ跳ぶ。その私の鼻先を掠めたのは、リッチのつま先だ。
安堵する間もなく飛来した氷の槍を杖で弾く。見ると、後ろから襲いかかろうとしたアストが急停止して裏拳をやり過ごしているところだった。
さっきまでより数段早くて強い。ティオルティカの精霊魔術も躱されているし、あのリッチの生前は近接が本職なんだろう。始めに魔術ばかり使ってきていたのは、小精霊を取り込んだ影響かしら。
「アスト! 射線を遮る様に誘導されてるわ!」
「分かってるけど、さ! あーもう! ちょこまかと!」
私は長い付き合いだから、辛うじて彼を避けて魔導を撃てているけれど、ティオルティカは手をこまねいている。その私の魔法も決定打は無し。
仕方が無い。杖術はあくまで補助なのだけれど、相手はスタミナ切れの無いリッチ。このままでは直ぐにじり貧になってしまう。
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