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八の浪 独立迷宮都市バランシエ④
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④
四日目、ラムダ達の最高到達記録である百十二階層通過。それらしい痕跡はなし。
五日目、百十五階層到達。消えかけた野営の跡を発見したけれど、ラムダ達のものかは不明。ここで他のパーティは全て離脱して、単独行動に移る。
六日目、百十八階層到達。最優先のエリアを捜索しながらの移動だったけれど、私とアストだけになった分、階層移動のペースは保たれている。スズさんならもっと早いんだろうけれど……。いえ、考えても仕方ないわね。
七日目、百二十階層まで到達。ここ一ヶ月の間に守護者の討伐された形跡があった。百十五階層以降帰還途中の冒険者には遭遇していないから、ラムダ達のパーティによるものの可能性は十分にある。
「道中追い越したパーティに抜き返された可能性ってあると思う?」
「あの人達がSランクならね」
「まあ、そうよね」
ここまで駆け抜けたのは、階層移動を主目的としたときの主流ルートだった。依頼のために脇道に逸れるのでなければ、まずあの道を通る。
他にも一応ルートはあるし、迷い込みやすい場所もあるけれど、そういう場所はそのエリアの担当パーティが優先して捜索しているはずだ。
それで見つかっていないということは、怪我で動けない程度ではないトラブルが起きたのは確実でしょうね。
これから引き返しながら、いる可能性が低い、或いはいたとしても生存可能性が低いとした場所を探すことになる。
「急ぎましょう」
「うん」
私たちの表情が硬くなったのも、いたしかたのない事だと思いたい。
八日目、百十五階層まで戻ってきた。別の冒険者の遺体は見つけたけれど、ラムダ達は見つからない。十日目の朝には百十階層まで戻ってヴァンたちと合流する必要があるから、捜索に使える時間は今日明日の二日足らずを残すのみ。
九日目、見つからない。どこにもいない。
間もなく夕方。本来なら野営をして、明日の合流に備えなければいけない時間。
「ソフィア……」
「もう少し探しましょう。私たちなら、ぎりぎりまで粘っても問題ないわ」
あまり褒められた行為ではないけれど。
草木をかき分け、血肉を啜る化け物達を打ち払って、夜闇の中に光明を探す。いえ、既に失せた明かりでも良い。せめて、あの子のもとに帰してあげたい。いつかの月光の中、太陽の如くあった彼女にそう願う。
けれど私の願いが届くことはない。あの人がいくら冒険者たちの神であろうと、それが即ち導きを与える理由にはならない。分かっている。分かって、いた。
「……タイムアップね。アスト、結界を張って少し休みましょう」
「うん、そうだね……」
これだけ探して見つからないということは、魔物達に食われてしまったのだろう。植物系の魔物に捕らわれたなら、金属の装備も残らないだろうから。
ああ、ライル君になんと言って伝えようかしら。本当に、気が重い。
「――……! ……て! ソフィア!」
「……アスト? 何があったの?」
ぼやけた意識を即座に引き戻し、切羽詰まったアメジストの瞳を覗き返す。そこには焦燥と、僅かばかりの希望が見えた。
「見つかったって! でも危ない状態みたい!」
「移動しながら話して!」
「うん! 乗って!」
巨大化したアストの背に腰掛け、線になった景色を意識の外においやる。索敵は魔導任せだ。
「場所は百八階層。魔物に捕まってたのを見つけたみたい。ヴァンたちは先に向かってるって」
「息は!?」
「分からない! でも動いてるように見えたって!」
希望が繋がった!
「救出しようにも魔物の数が多くて近づけないみたい!」
数は多くないが、魔導や精霊魔術を扱える人も捜索には加わっていたはず。それでも苦戦していて、百八階層で群れを作る魔物ってなると、候補は一つしかない。
「クイーンアラクニアが発生していたのね。最悪」
百八階層にいる中では最強クラスの魔物だ。ランクは単体でA。この辺りの守護者に準じる強さを持つ蜘蛛型の魔物で、大量の子蜘蛛を従える。その子蜘蛛もCからBランク相当の力があるのだから厄介だ。
それだけではない。外敵を感知したときは、本来獲物をおびき寄せるのに使う強力なフェロモンで他種族の虫系魔物を操りぶつけてくる。正直言って、百八階層にいて良いクラスではない。
まったく、悪ふざけもほどほどにしてほしい。
百十階層を抜け、百九階層に出た。もう少し。
Aランク組が合流したようだけれど、まだ押し返すには至っていないみたい。負傷者の救護を優先しているのでしょう。そうでなくたって、痕跡を発見次第即離脱を推奨されている相手なのだから。
「お願いだから、もう少し堪えてよね……!」
百八階層に到着。通信魔道具で知らせた直後、樹上に出るのと同時に狼煙が上がるのが見えた。かなり近い。偽りの太陽と同じ方向だ。
「準備に入るわ」
「おっけ!」
索敵その他全てをアストに任せ、魔導の構成を始める。規模はできるだけ大きく。そこそこ以上の奴らは生き残っても良いけれど、他の人たちがすぐにトドメをさせる程度で。クイーンアラクニアは怯ませる程度で十分。あとは、草木に埋もれた中で他の人たちを巻き込まない選択性があればよし。
「見えた!」
「頭上へ!」
アストが跳び上がり、木々を蹴りながら戦場の中央付近上空へ躍り出る。眼下には大量の虫系魔物達がうごめき、それからいくつもの見知った顔が必死に武器を振るう姿があった。後ろの方で治療を受けている人も何人かいるけれど、死者はいないみたい。良かった……。
「離れて!」
四日目、ラムダ達の最高到達記録である百十二階層通過。それらしい痕跡はなし。
五日目、百十五階層到達。消えかけた野営の跡を発見したけれど、ラムダ達のものかは不明。ここで他のパーティは全て離脱して、単独行動に移る。
六日目、百十八階層到達。最優先のエリアを捜索しながらの移動だったけれど、私とアストだけになった分、階層移動のペースは保たれている。スズさんならもっと早いんだろうけれど……。いえ、考えても仕方ないわね。
七日目、百二十階層まで到達。ここ一ヶ月の間に守護者の討伐された形跡があった。百十五階層以降帰還途中の冒険者には遭遇していないから、ラムダ達のパーティによるものの可能性は十分にある。
「道中追い越したパーティに抜き返された可能性ってあると思う?」
「あの人達がSランクならね」
「まあ、そうよね」
ここまで駆け抜けたのは、階層移動を主目的としたときの主流ルートだった。依頼のために脇道に逸れるのでなければ、まずあの道を通る。
他にも一応ルートはあるし、迷い込みやすい場所もあるけれど、そういう場所はそのエリアの担当パーティが優先して捜索しているはずだ。
それで見つかっていないということは、怪我で動けない程度ではないトラブルが起きたのは確実でしょうね。
これから引き返しながら、いる可能性が低い、或いはいたとしても生存可能性が低いとした場所を探すことになる。
「急ぎましょう」
「うん」
私たちの表情が硬くなったのも、いたしかたのない事だと思いたい。
八日目、百十五階層まで戻ってきた。別の冒険者の遺体は見つけたけれど、ラムダ達は見つからない。十日目の朝には百十階層まで戻ってヴァンたちと合流する必要があるから、捜索に使える時間は今日明日の二日足らずを残すのみ。
九日目、見つからない。どこにもいない。
間もなく夕方。本来なら野営をして、明日の合流に備えなければいけない時間。
「ソフィア……」
「もう少し探しましょう。私たちなら、ぎりぎりまで粘っても問題ないわ」
あまり褒められた行為ではないけれど。
草木をかき分け、血肉を啜る化け物達を打ち払って、夜闇の中に光明を探す。いえ、既に失せた明かりでも良い。せめて、あの子のもとに帰してあげたい。いつかの月光の中、太陽の如くあった彼女にそう願う。
けれど私の願いが届くことはない。あの人がいくら冒険者たちの神であろうと、それが即ち導きを与える理由にはならない。分かっている。分かって、いた。
「……タイムアップね。アスト、結界を張って少し休みましょう」
「うん、そうだね……」
これだけ探して見つからないということは、魔物達に食われてしまったのだろう。植物系の魔物に捕らわれたなら、金属の装備も残らないだろうから。
ああ、ライル君になんと言って伝えようかしら。本当に、気が重い。
「――……! ……て! ソフィア!」
「……アスト? 何があったの?」
ぼやけた意識を即座に引き戻し、切羽詰まったアメジストの瞳を覗き返す。そこには焦燥と、僅かばかりの希望が見えた。
「見つかったって! でも危ない状態みたい!」
「移動しながら話して!」
「うん! 乗って!」
巨大化したアストの背に腰掛け、線になった景色を意識の外においやる。索敵は魔導任せだ。
「場所は百八階層。魔物に捕まってたのを見つけたみたい。ヴァンたちは先に向かってるって」
「息は!?」
「分からない! でも動いてるように見えたって!」
希望が繋がった!
「救出しようにも魔物の数が多くて近づけないみたい!」
数は多くないが、魔導や精霊魔術を扱える人も捜索には加わっていたはず。それでも苦戦していて、百八階層で群れを作る魔物ってなると、候補は一つしかない。
「クイーンアラクニアが発生していたのね。最悪」
百八階層にいる中では最強クラスの魔物だ。ランクは単体でA。この辺りの守護者に準じる強さを持つ蜘蛛型の魔物で、大量の子蜘蛛を従える。その子蜘蛛もCからBランク相当の力があるのだから厄介だ。
それだけではない。外敵を感知したときは、本来獲物をおびき寄せるのに使う強力なフェロモンで他種族の虫系魔物を操りぶつけてくる。正直言って、百八階層にいて良いクラスではない。
まったく、悪ふざけもほどほどにしてほしい。
百十階層を抜け、百九階層に出た。もう少し。
Aランク組が合流したようだけれど、まだ押し返すには至っていないみたい。負傷者の救護を優先しているのでしょう。そうでなくたって、痕跡を発見次第即離脱を推奨されている相手なのだから。
「お願いだから、もう少し堪えてよね……!」
百八階層に到着。通信魔道具で知らせた直後、樹上に出るのと同時に狼煙が上がるのが見えた。かなり近い。偽りの太陽と同じ方向だ。
「準備に入るわ」
「おっけ!」
索敵その他全てをアストに任せ、魔導の構成を始める。規模はできるだけ大きく。そこそこ以上の奴らは生き残っても良いけれど、他の人たちがすぐにトドメをさせる程度で。クイーンアラクニアは怯ませる程度で十分。あとは、草木に埋もれた中で他の人たちを巻き込まない選択性があればよし。
「見えた!」
「頭上へ!」
アストが跳び上がり、木々を蹴りながら戦場の中央付近上空へ躍り出る。眼下には大量の虫系魔物達がうごめき、それからいくつもの見知った顔が必死に武器を振るう姿があった。後ろの方で治療を受けている人も何人かいるけれど、死者はいないみたい。良かった……。
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