【完結】君の為に翔ける箱庭世界

嘉神かろ

文字の大きさ
83 / 126
三章 朱里の為に

第83話 守る為に

しおりを挟む

「横倒しにするよ! 煉二は軸足を狙って! 俺と陽菜、寧音は上体を浮かせる! あいつの動きに合わせて爆発系で!」

 言い終わるのと同時に封印は砕かれ、その身体に一切傷のない巨大な亀が再び姿を見せる。

「上体を浮かせるって、考えがあるんですねー!?」
「うん!」
「わかりましたー!」

 降り注ぐ[光槍]の雨を躱しながら翔は自身の調子を確かめる。霊樹亀は先ほどのように翔たちを蹴り飛ばせるタイミングを探っているようだったが、二度目を貰うほど翔たちは愚鈍でない。
 ――うん、いい感じにほぐれてる。周りもよく見えるし、さっきは固くなりすぎてたかな。

 実際、霊樹亀の迫力に飲まれていた部分はあるだろう。過度な緊張は全身の筋肉をこわばらせ、思考を鈍らせる。そうでなければ、意表を突かれたとはいえ動きの遅い蹴りを一度として食らうはずがなかった。
 内心で反省しつつ、狙いを実行するための機を窺う。
 ――狙うのは、あいつがこっちを蹴ろうと脚を上げた瞬間……。

 その時は、さほど待たずに訪れた。

 霊樹亀が脚を上げようとする瞬間、その眼球と顎の下で強化された[大爆発エクスプロージヨン]が発動する。霊樹亀の反応は、陽菜がそれをした時と同じ。違うのは脚を大きく上げようとしていたタイミングであるという事だ。

「二人とも、今だ!」
 
 直前にしようとしていた動きと連動し、霊樹亀はその両足を高く浮かせることになる。更に身体の下で起きたいくつもの爆風に煽られ、その勢いは増す。治療がある程度進んで余裕ができた頃よりじっくり観察していただけあって、完璧なタイミングだ。
 陽菜と寧音に続いて翔も強化した[風爆ふうばく]を多重に発動し、霊樹亀の体勢を崩していく。
 
「煉二!」
「――[水蒸気スチームエクス爆発プロージヨン]!」

 ダメ押しに、火山と同じ原理を利用した大爆発がその巨体を襲った。
 霊樹亀の巨体を吹き飛ばすには至らないが、体勢を完全に崩し、横倒しにするには十分だ。ズン、と地響きを立て、弱点の隠された甲羅を翔たちの目前に晒す。
 ――よし、亀だし、ここから起き上がるのは簡単でないはず!

「煉二、甲羅を!」
「踊り狂え 南天に座すいかずちの――」

 霊樹亀は足をばたつかせ、どうにか起き上がろうとする。この様子ならいけると、翔が確信を強めた時だった。

「そんなのも有りか!」

 霊樹亀の脚から新たな根が伸び、地面を掴んで巨体を引き起こそうとした。このままでは、詠唱完了よりも先に身体を起こされてしまう。そうなると、仮に甲羅を破壊できたとしても核を破壊する一撃が届かない。

「寧音ちゃん、あれ、やってみよう!」
「あー、了解ですー!」

 何をする気かと翔の見つめる先で、まず寧音が〈結界魔導〉による結界空間を生み出した。そこに付与された効果は、重力増大。たしかに霊樹亀の体重なら、その影響は大きいだろう。しかし、それでもまだ、起き上がるのを防ぐには不十分らしい。

「ダメだ、起き上がられる!」
「想定済みですよー」
「仕上げは、私!」

 今にも起き上がろうとしていた霊樹亀の巨体が凄まじい勢いで地面に引き寄せられ、めり込む。いったい何をしたのかと翔は目を見開いた。

「〈光魔道〉で魔法と重力そのものを強化したんですよー。私一人でやるときの十倍くらい強力なんですー!」

 蟀谷こめかみに汗を流しながら彼女は自慢げな表情をつくる。重力増大を付与した結界は彼女の演算能力でも負荷が大きく、口調ほど余裕がないのだ。今こうして実用できているのも陽菜の協力があってこそであり、舞を踊りながらとなるとその陽菜もギリギリだ。

「煉二君、もってあと五秒ですー!」
「十分だ! 汝らが宴は罪人つみびとを裁く災禍とならん [乱狂雷風みだれくるうらいふう]!」

 寧音が崩れ落ち、結界が霧散するのと同時に、宴は災禍となった。雷をまとった暴風が星護る霊樹亀の甲羅を襲い、穿っていく。貫通力だけでいえば煉二の手札で最大最強の魔法。〈限界突破〉まで使って放ったそれはしかし、堅牢な甲羅を貫くには至らない。
 だが、それでいいのだ。彼の役目は、あくまでその核を衆目の下に晒し、死神をエスコートすること。実際に鎌をふるうのは、彼でなくてよい。

「寧音、悪いけどもうひと踏ん張りお願い。障壁で足場を作ってほしいんだ!」
「なるほど、試すんですねー。任せてくださいー!」

 あれだけの威力の魔法でも甲羅ごと破壊するには至らなかったのだ。であれば、ただ切り付けるだけでは壊せない。
 ――今できる、最高の一撃、『迅雷』でないと……!

 弱まっていく暴風が途切れる前にと翔は駆け出し、ようやく姿を見せた金色に輝く八面体の核を目指す。そして寧音の作った障壁を足場に核を見下ろせる位置まで駆け上がると、純白の剣身を漆黒の鞘に納め、居合の構えをとった。

 風が、収まった。陽菜の強化が自身に集中されるのを感じる。
 ――もうみんな、殆ど余裕がない。
 
 甲羅の再生が始まった。見る見るうちに傷が塞がっていく。
 ――これが最後のチャンスだ。失敗できない。

 重力に従うよう身体を前に倒す。あとはタイミングを見て踏み出し、あらゆる強化を乗せたその剣を振りぬくだけ。
 ――いける!

 それは自分に言い聞かせるものでもあった。彼のユニークギフトを思えば、それも必要ではあるだろう。強い意志を保つ為に。
 果たしてそれは成功し、力がみなぎるのを感じる。魔力による強化と、〈限界突破〉、そして己のユニークギフトによって最高潮までに高められたエネルギーが剣に宿り、彼の制御を外れた力が光となって標的を煌々と照らす。それは勝ちを確信させるには十分で、だからこそ、最も注意すべきことを思考の外に置き忘れてしまっていた。

 あとほんの刹那ののち、踏み出して、剣を振れば終わる。そんな瞬間だった。霊樹亀の首があり得ない方向へ曲がり、その瞳に、翔の姿を映した。

「なっ……」

 突然全身の力が抜け、ピクリとも動かせなくなった。
 ――〈固定の、魔眼〉……。

「まずい!」

 煉二の叫びと同時に翔の体は自由を取り戻す。寧音が魔眼の麻痺効果を解除したのだ。だが、もう間に合わない。体勢を立て直す間に霊樹亀は再生を完了し、起き上がってしまうだろう。

「翔君!」

 陽菜の叫びが、その大空間に響く。
 ――ダメだ。誓ったんだ、皆で生きて帰るって。ここで、終わらせない!

 強引に一歩を踏み出し、全身に力を籠める。
 核はその半分が既に再生された甲羅の向こう側にあり、今にもその姿を完全に隠そうとしている。
 しかし翔は、それに構わず光を失った不壊の剣を抜き放ち、出来得る限りの強化を載せて、振り切った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば
ファンタジー
シキは勇者に選ばれた。それは誰かの望みなのか、ただの伝統なのかは分からない。しかし、シキは勇者に選ばれた。果たしてシキは勇者として何を成すのだろうか。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...