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最終章 君の為に
第106話 信用の為に
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⑬
◆◇◆
ガタゴトと鳴っていた馬車が動きを止め、静かになった。
「着いたぞ」
ブルドの声が聞こえるのと同時に、翔たちの目を覆っていた布が外される。急に生まれた光に目が眩み、中々瞼を開けられない。彼が手を翳してゆっくり目を開くと、見えたのは毒島と再会した街の様な石造りの建物だった。周囲には革命軍以外にも多くの人の気配が感じられる。
「思導、舞上さん、お疲れ。演説はすぐ始まる。騎士団の奴らが潜り込んでるかもしれないらしいから、気を引き締めろよ」
「うん、了解」
馬車の乗り口から顔を覗かせた毒島に返事を返しながら、二人も外に出て伸びをする。
今翔たちがいるのは、革命軍が占領した街の一つの中央広場だ。そこそこ広く、時計台に見下ろされる位置にある。占領と言っても騎士団を締め出している程度で、住人達の生活に変わりは無い。治安維持も革命軍の兵士が代わりに行っていた。
――思ってたより平和だな。
周囲を見渡した翔の感想だ。不安げに革命軍を見つめる視線もあるが、彼の想像していたほど住人たちから敵意を向けられていない。
翔が広場の中央付近を見ると、演説の為の簡易的な舞台が設置されたところだった。
これから最高幹部の一人、タブルが住人たちに演説を行うのだ。その護衛が翔たちに与えられた役割だった。
革命軍の信用を得ようと思えば、その役割を十全にこなして然るべきだ。翔たちは一言断ってから広場をぐるりと回って周囲を確認する。
――死角になりそうな所はあまり無いか。大体は察知できる範囲だし、大丈夫かな?
加えて彼は、人込みから突然、という事は無いだろうと『龍人族』の性行と騎士団の立場、政治的都合を鑑みて予想する。始めは堂々と囲むようにして襲撃をかける筈だ。
――怖いのは、乱戦になってからかな。
翔は時計台の方を見上げる。
その視線の先にあるモノに陽菜も気づいたらしい。
「確かに、狙撃もあり得るね。あの時計台からなら、広場がよく見えるだろうし」
「うん。陽菜、もしあそこから煉二が[雷矢]を撃ったら止められそう?」
陽菜は少し考える素振りを見せ、すぐに翔に向き直った。
「タイミングが分かれば、かな?」
「俺もかな。やっぱりどっちかはタブルさんから離れないようにしないとか」
「うん、その方がいいと思う」
可能性として高いものだとは翔たちも考えていない。それでも、彼らはもしもを想定する。師に口を酸っぱくして言われてきたことだ。そうでなければ遠に死んでいただろう。
二人は気を引き締め直し、怪しい人物はいないか目を光らせながら毒島たちの方へ戻る。
「周りの確認はもういいのか?」
「うん、たぶん大丈夫」
毒島は満足げな返事を返すと、後ろから近づいてくる気配に振り返った。そこにいたのは、短く青い髪に水色の瞳を持った端正な顔立ちの『龍人族』だ。
「やあ、君たちがカケルとヒナだね。僕はタブル。ブラウマのやつに勝ったって実力、頼りにしてるよ」
彼の向ける笑みに含んだものは無い。よく通る声は耳ざわりがよく、彼の甘いマスクもあって、特に女性たちの人気を集めている。それは革命軍内でも同様だ。当然実力も高く、Aランクの中堅程度の力がある。
「はい、頑張ります」
「はは。まあ、そんなに硬くならなくても大丈夫だとは思うけどね。これまでこの街での演説中に騎士団の奴らが襲ってきた事はないし、もし万が一誰かが捕まっても、すぐに自決するくらいの覚悟は誰もがしているからね」
僕も含めてね、と言う彼の瞳に、冗談の色は無い。翔はちらりと毒島の様子を伺った。
「さて、いい感じに人も集まってきた。そろそろ始めようかな。よろしく頼んだよ」
タブルの言うように、広場には本来の灰色が殆ど見えないくらいの人々が集まっている。
気負った様子もなく言う彼に翔は短く返し、自分の持ち場に着いた。
◆◇◆
ガタゴトと鳴っていた馬車が動きを止め、静かになった。
「着いたぞ」
ブルドの声が聞こえるのと同時に、翔たちの目を覆っていた布が外される。急に生まれた光に目が眩み、中々瞼を開けられない。彼が手を翳してゆっくり目を開くと、見えたのは毒島と再会した街の様な石造りの建物だった。周囲には革命軍以外にも多くの人の気配が感じられる。
「思導、舞上さん、お疲れ。演説はすぐ始まる。騎士団の奴らが潜り込んでるかもしれないらしいから、気を引き締めろよ」
「うん、了解」
馬車の乗り口から顔を覗かせた毒島に返事を返しながら、二人も外に出て伸びをする。
今翔たちがいるのは、革命軍が占領した街の一つの中央広場だ。そこそこ広く、時計台に見下ろされる位置にある。占領と言っても騎士団を締め出している程度で、住人達の生活に変わりは無い。治安維持も革命軍の兵士が代わりに行っていた。
――思ってたより平和だな。
周囲を見渡した翔の感想だ。不安げに革命軍を見つめる視線もあるが、彼の想像していたほど住人たちから敵意を向けられていない。
翔が広場の中央付近を見ると、演説の為の簡易的な舞台が設置されたところだった。
これから最高幹部の一人、タブルが住人たちに演説を行うのだ。その護衛が翔たちに与えられた役割だった。
革命軍の信用を得ようと思えば、その役割を十全にこなして然るべきだ。翔たちは一言断ってから広場をぐるりと回って周囲を確認する。
――死角になりそうな所はあまり無いか。大体は察知できる範囲だし、大丈夫かな?
加えて彼は、人込みから突然、という事は無いだろうと『龍人族』の性行と騎士団の立場、政治的都合を鑑みて予想する。始めは堂々と囲むようにして襲撃をかける筈だ。
――怖いのは、乱戦になってからかな。
翔は時計台の方を見上げる。
その視線の先にあるモノに陽菜も気づいたらしい。
「確かに、狙撃もあり得るね。あの時計台からなら、広場がよく見えるだろうし」
「うん。陽菜、もしあそこから煉二が[雷矢]を撃ったら止められそう?」
陽菜は少し考える素振りを見せ、すぐに翔に向き直った。
「タイミングが分かれば、かな?」
「俺もかな。やっぱりどっちかはタブルさんから離れないようにしないとか」
「うん、その方がいいと思う」
可能性として高いものだとは翔たちも考えていない。それでも、彼らはもしもを想定する。師に口を酸っぱくして言われてきたことだ。そうでなければ遠に死んでいただろう。
二人は気を引き締め直し、怪しい人物はいないか目を光らせながら毒島たちの方へ戻る。
「周りの確認はもういいのか?」
「うん、たぶん大丈夫」
毒島は満足げな返事を返すと、後ろから近づいてくる気配に振り返った。そこにいたのは、短く青い髪に水色の瞳を持った端正な顔立ちの『龍人族』だ。
「やあ、君たちがカケルとヒナだね。僕はタブル。ブラウマのやつに勝ったって実力、頼りにしてるよ」
彼の向ける笑みに含んだものは無い。よく通る声は耳ざわりがよく、彼の甘いマスクもあって、特に女性たちの人気を集めている。それは革命軍内でも同様だ。当然実力も高く、Aランクの中堅程度の力がある。
「はい、頑張ります」
「はは。まあ、そんなに硬くならなくても大丈夫だとは思うけどね。これまでこの街での演説中に騎士団の奴らが襲ってきた事はないし、もし万が一誰かが捕まっても、すぐに自決するくらいの覚悟は誰もがしているからね」
僕も含めてね、と言う彼の瞳に、冗談の色は無い。翔はちらりと毒島の様子を伺った。
「さて、いい感じに人も集まってきた。そろそろ始めようかな。よろしく頼んだよ」
タブルの言うように、広場には本来の灰色が殆ど見えないくらいの人々が集まっている。
気負った様子もなく言う彼に翔は短く返し、自分の持ち場に着いた。
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