【完結】君の為に翔ける箱庭世界

嘉神かろ

文字の大きさ
80 / 126
三章 朱里の為に

第80話 密林の脅威

しおりを挟む

「翔君、後ろ!」
「っ! くっ!?」

 声と同時に鳴った〈危機察知〉の警鐘。考えるよりも先に〈直感〉の示す方向へと身体を逸らす。瞬間、彼の目の前を茶色の何かが通り過ぎて地面を揺らした。
 ――枝!? トレントか!

 植物系の魔物でもっとも有名なモノの一体、トレントは、地球の知識の通り木の姿をした魔物だ。それが森に紛れ、いつの間にかすぐ傍まで来ていた。
 彼は再度警鐘を鳴らすスキルに従い、その場を飛び退く。刹那ののち、一瞬前まで翔のいた位置を地面から飛び出した木の根が貫いていた。更にその根から枝が伸び、翔の顔面を追う。無理矢理顔を逸らした翔の頬に紅の線が描かれた。
 ――速い!

 このままではいずれ串刺しにされてしまうと、思いっきり地面を蹴って森から離れようとする。しかし気にも留めていなかった小石に引っ掛かり、その隙を突かれてどこからともなく伸びてきた蔓に足を絡めとられてしまった。
 ――まずっ!

 足を引かれ、天と地が逆転する。
 その窮地を救ったのは、一本の光の矢だ。速度を重視した陽菜の[光矢フォトンアロー]が蔓を焼き切り、翔を解放する。

「陽菜、ありがとう、助かった!」
「気にしないで! それより来るよ!」

 未だトレントの位置は正確に掴めない。その為〈鑑定〉する事も出来ないが、強さから最低でもAランク上位のエルダートレントだと翔は確信していた。残った狼型や虫型の対処をしつつ、些細な異変にも気が付けるように集中力を高める。

「寧音! 後ろだ!」

 煉二の声に翔も振り返り、狙われた彼女が障壁で防御するのを確かめながら蔓を辿る。が、そこに本体の姿はない。どういうことかと思考を巡らせようとした次の瞬間、彼は剣を真後ろに振っていた。無意識に意識が追いつき、自らの愛剣が太い木の枝を切り裂いたことを知る。そしてその意味を知るよりも早く、その場を飛び退いた。
 ――こいつ、俺を狙ってる!?

 左右を数条の光といかずちが通り過ぎ、地面から飛び出した根ごとその奥の本体を焼く。翔も追撃に[光槍フォトンランス] を放ちつつ、ようやく姿を見せたソレを〈鑑定〉した。

「エルダートレント! 根元にある魔石を破壊するか回収しないと無限に再生するよ!」
「うへぇー、面倒ですねー」

 実際、先ほど魔法でつけた傷はもう七割がたが再生されている。
 その間も絶えず根や蔓を伸ばし、枝で叩きつけてくる上に、一瞬でも目を離せば周囲の木々に紛れてしまうのだから厄介極まりない。

「煉二、魔石ごといける!?」
「後の事を考えなければ、な!」
「なら、露出させるだけなら!?」
「任せておけ!」

 背後で煉二が魔法の詠唱に入った。エルダートレントもそれを察知したらしく、狙いを煉二へ切り替える。しかし当然ほかの三人が許す筈はない。彼を狙う枝は翔と陽菜が切り飛ばし、回り込んできた蔓を寧音が焼く。もっとも厄介な地下からの攻撃は、寧音の多重障壁の上に彼が乗ることで防いだ。
 エルダートレントにとってそれは、明確な死だ。より一層激しく枝を振り、障壁を根の槍で穿たんとする。
 だがしかし、魔法の完成の方が早い。

はしれよ奔れ、轟く五月雨! [雷矢雨らいしう]!」

 奇しくも同じエルダートレントの素材から作られた長杖ちようじようはいくつもの雷矢を顕現させ、その名の表すように、雨の如く滅ぼすべき敵へと降り注ぐ。
 自身の攻撃に巻き込まれないよう避けていた魔物たちを傘として、エルダートレントはそれをやり過ごそうとするがしかし、激しすぎる雨は傘だけでは防ぎきれない。覆いきれない足元をぐっしょりと濡らし、熱を奪うように、雷の雨もまた、彼の魔物の根元を抉って死へと近づけていく。
 そして雨が止むのと同時に姿を現したのは、鮮やかな琥珀色をした、拳大の魔石だ。
 それに狙いを定め、翔が土を爆ぜさせる。彼を止めようと選んだ手の悉くは、陽菜が許さない。ならば再生をと急ぎ魔力を集める様子は、翔たちのスキルがはっきりと捉えた。

 ただでさえ早い再生速度を意識的に早めたはずなのに、それは遅々として進まない。情緒の薄いトレントでさえ、死の気配に焦り、自分がされていることに気が付かず、ただ魔力を注ぎ続ける。
 死神の鎌がその魂に添えられた時、エルダートレントは、ようやく自身の傷を覆う闇属性の魔力に気が付いたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば
ファンタジー
シキは勇者に選ばれた。それは誰かの望みなのか、ただの伝統なのかは分からない。しかし、シキは勇者に選ばれた。果たしてシキは勇者として何を成すのだろうか。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...