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三章 朱里の為に
第80話 密林の脅威
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⑮
「翔君、後ろ!」
「っ! くっ!?」
声と同時に鳴った〈危機察知〉の警鐘。考えるよりも先に〈直感〉の示す方向へと身体を逸らす。瞬間、彼の目の前を茶色の何かが通り過ぎて地面を揺らした。
――枝!? トレントか!
植物系の魔物でもっとも有名なモノの一体、トレントは、地球の知識の通り木の姿をした魔物だ。それが森に紛れ、いつの間にかすぐ傍まで来ていた。
彼は再度警鐘を鳴らすスキルに従い、その場を飛び退く。刹那の後、一瞬前まで翔のいた位置を地面から飛び出した木の根が貫いていた。更にその根から枝が伸び、翔の顔面を追う。無理矢理顔を逸らした翔の頬に紅の線が描かれた。
――速い!
このままではいずれ串刺しにされてしまうと、思いっきり地面を蹴って森から離れようとする。しかし気にも留めていなかった小石に引っ掛かり、その隙を突かれてどこからともなく伸びてきた蔓に足を絡めとられてしまった。
――まずっ!
足を引かれ、天と地が逆転する。
その窮地を救ったのは、一本の光の矢だ。速度を重視した陽菜の[光矢]が蔓を焼き切り、翔を解放する。
「陽菜、ありがとう、助かった!」
「気にしないで! それより来るよ!」
未だトレントの位置は正確に掴めない。その為〈鑑定〉する事も出来ないが、強さから最低でもAランク上位のエルダートレントだと翔は確信していた。残った狼型や虫型の対処をしつつ、些細な異変にも気が付けるように集中力を高める。
「寧音! 後ろだ!」
煉二の声に翔も振り返り、狙われた彼女が障壁で防御するのを確かめながら蔓を辿る。が、そこに本体の姿はない。どういうことかと思考を巡らせようとした次の瞬間、彼は剣を真後ろに振っていた。無意識に意識が追いつき、自らの愛剣が太い木の枝を切り裂いたことを知る。そしてその意味を知るよりも早く、その場を飛び退いた。
――こいつ、俺を狙ってる!?
左右を数条の光と雷が通り過ぎ、地面から飛び出した根ごとその奥の本体を焼く。翔も追撃に[光槍] を放ちつつ、ようやく姿を見せたソレを〈鑑定〉した。
「エルダートレント! 根元にある魔石を破壊するか回収しないと無限に再生するよ!」
「うへぇー、面倒ですねー」
実際、先ほど魔法でつけた傷はもう七割がたが再生されている。
その間も絶えず根や蔓を伸ばし、枝で叩きつけてくる上に、一瞬でも目を離せば周囲の木々に紛れてしまうのだから厄介極まりない。
「煉二、魔石ごといける!?」
「後の事を考えなければ、な!」
「なら、露出させるだけなら!?」
「任せておけ!」
背後で煉二が魔法の詠唱に入った。エルダートレントもそれを察知したらしく、狙いを煉二へ切り替える。しかし当然ほかの三人が許す筈はない。彼を狙う枝は翔と陽菜が切り飛ばし、回り込んできた蔓を寧音が焼く。もっとも厄介な地下からの攻撃は、寧音の多重障壁の上に彼が乗ることで防いだ。
エルダートレントにとってそれは、明確な死だ。より一層激しく枝を振り、障壁を根の槍で穿たんとする。
だがしかし、魔法の完成の方が早い。
「疾く奔れよ奔れ、轟く五月雨! [雷矢雨]!」
奇しくも同じエルダートレントの素材から作られた長杖はいくつもの雷矢を顕現させ、その名の表すように、雨の如く滅ぼすべき敵へと降り注ぐ。
自身の攻撃に巻き込まれないよう避けていた魔物たちを傘として、エルダートレントはそれをやり過ごそうとするがしかし、激しすぎる雨は傘だけでは防ぎきれない。覆いきれない足元をぐっしょりと濡らし、熱を奪うように、雷の雨もまた、彼の魔物の根元を抉って死へと近づけていく。
そして雨が止むのと同時に姿を現したのは、鮮やかな琥珀色をした、拳大の魔石だ。
それに狙いを定め、翔が土を爆ぜさせる。彼を止めようと選んだ手の悉くは、陽菜が許さない。ならば再生をと急ぎ魔力を集める様子は、翔たちのスキルがはっきりと捉えた。
ただでさえ早い再生速度を意識的に早めたはずなのに、それは遅々として進まない。情緒の薄いトレントでさえ、死の気配に焦り、自分がされていることに気が付かず、ただ魔力を注ぎ続ける。
死神の鎌がその魂に添えられた時、エルダートレントは、ようやく自身の傷を覆う闇属性の魔力に気が付いたのだった。
「翔君、後ろ!」
「っ! くっ!?」
声と同時に鳴った〈危機察知〉の警鐘。考えるよりも先に〈直感〉の示す方向へと身体を逸らす。瞬間、彼の目の前を茶色の何かが通り過ぎて地面を揺らした。
――枝!? トレントか!
植物系の魔物でもっとも有名なモノの一体、トレントは、地球の知識の通り木の姿をした魔物だ。それが森に紛れ、いつの間にかすぐ傍まで来ていた。
彼は再度警鐘を鳴らすスキルに従い、その場を飛び退く。刹那の後、一瞬前まで翔のいた位置を地面から飛び出した木の根が貫いていた。更にその根から枝が伸び、翔の顔面を追う。無理矢理顔を逸らした翔の頬に紅の線が描かれた。
――速い!
このままではいずれ串刺しにされてしまうと、思いっきり地面を蹴って森から離れようとする。しかし気にも留めていなかった小石に引っ掛かり、その隙を突かれてどこからともなく伸びてきた蔓に足を絡めとられてしまった。
――まずっ!
足を引かれ、天と地が逆転する。
その窮地を救ったのは、一本の光の矢だ。速度を重視した陽菜の[光矢]が蔓を焼き切り、翔を解放する。
「陽菜、ありがとう、助かった!」
「気にしないで! それより来るよ!」
未だトレントの位置は正確に掴めない。その為〈鑑定〉する事も出来ないが、強さから最低でもAランク上位のエルダートレントだと翔は確信していた。残った狼型や虫型の対処をしつつ、些細な異変にも気が付けるように集中力を高める。
「寧音! 後ろだ!」
煉二の声に翔も振り返り、狙われた彼女が障壁で防御するのを確かめながら蔓を辿る。が、そこに本体の姿はない。どういうことかと思考を巡らせようとした次の瞬間、彼は剣を真後ろに振っていた。無意識に意識が追いつき、自らの愛剣が太い木の枝を切り裂いたことを知る。そしてその意味を知るよりも早く、その場を飛び退いた。
――こいつ、俺を狙ってる!?
左右を数条の光と雷が通り過ぎ、地面から飛び出した根ごとその奥の本体を焼く。翔も追撃に[光槍] を放ちつつ、ようやく姿を見せたソレを〈鑑定〉した。
「エルダートレント! 根元にある魔石を破壊するか回収しないと無限に再生するよ!」
「うへぇー、面倒ですねー」
実際、先ほど魔法でつけた傷はもう七割がたが再生されている。
その間も絶えず根や蔓を伸ばし、枝で叩きつけてくる上に、一瞬でも目を離せば周囲の木々に紛れてしまうのだから厄介極まりない。
「煉二、魔石ごといける!?」
「後の事を考えなければ、な!」
「なら、露出させるだけなら!?」
「任せておけ!」
背後で煉二が魔法の詠唱に入った。エルダートレントもそれを察知したらしく、狙いを煉二へ切り替える。しかし当然ほかの三人が許す筈はない。彼を狙う枝は翔と陽菜が切り飛ばし、回り込んできた蔓を寧音が焼く。もっとも厄介な地下からの攻撃は、寧音の多重障壁の上に彼が乗ることで防いだ。
エルダートレントにとってそれは、明確な死だ。より一層激しく枝を振り、障壁を根の槍で穿たんとする。
だがしかし、魔法の完成の方が早い。
「疾く奔れよ奔れ、轟く五月雨! [雷矢雨]!」
奇しくも同じエルダートレントの素材から作られた長杖はいくつもの雷矢を顕現させ、その名の表すように、雨の如く滅ぼすべき敵へと降り注ぐ。
自身の攻撃に巻き込まれないよう避けていた魔物たちを傘として、エルダートレントはそれをやり過ごそうとするがしかし、激しすぎる雨は傘だけでは防ぎきれない。覆いきれない足元をぐっしょりと濡らし、熱を奪うように、雷の雨もまた、彼の魔物の根元を抉って死へと近づけていく。
そして雨が止むのと同時に姿を現したのは、鮮やかな琥珀色をした、拳大の魔石だ。
それに狙いを定め、翔が土を爆ぜさせる。彼を止めようと選んだ手の悉くは、陽菜が許さない。ならば再生をと急ぎ魔力を集める様子は、翔たちのスキルがはっきりと捉えた。
ただでさえ早い再生速度を意識的に早めたはずなのに、それは遅々として進まない。情緒の薄いトレントでさえ、死の気配に焦り、自分がされていることに気が付かず、ただ魔力を注ぎ続ける。
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