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第六章 怨敵
予期せぬ提案(修史side)⑥
「なんだよ。もしかしてまだ何か引っかかることがあるのか?」
「いや……実は、この合併の条件に、藤城の娘との結婚を提示されたんだ。昔、父と交わした約束だったらしいんだが……」
「はっ? 結婚? それって政略結婚ってことか?」
真壁はまたしても驚いたように、目を瞠って俺の顔を見た。無言のまま首を縦に振ると、真壁も納得したように頷いた。
「政略結婚か……。確かにこの合併を揺るぎないものにするなら、条件に結婚を提示してくるのは常套な手段ではあるよな……。でもそしたら美琴さんはどうするんだ? 別れないといけなくなるぞ」
今まで父が結婚に反対していたこともあり、俺から美琴に将来的な話を口にすることはほとんどなかったが、美琴からは事あるごとに結婚に関する話題が出ていた。
この一年、俺の環境が変わったことや、喪中ということで少し落ち着いてはいたが、美琴は父が亡くなったことで、何の障害もなくなり、俺と結婚できると思っている。
だがもしこの合併を受け入れるとなると、俺は美琴と別れなければならない。
「どうするべきなのか……。どうしたらいいのか……。昨日からずっと考え続けているよ」
俺が重い息を吐いて黙り込んだことで、真壁が少し声のトーンを落として名前を呼んだ。
「なあ修史、怒らないで聞いてほしいんだが、言ってもいいか?」
「何だよ? 急に改まって」
「今まで言わなかったけど、俺は結婚に関してはお前のお父さん……五十嵐前社長と同じ意見なんだ。最初はお前が美琴さんを好きならそれでいいと思った。だが、正直美琴さんはお前の肩書きや資産、家柄に惹かれたんじゃないかと思えてしまうことがあるんだ。お前の社会的地位は美琴さんにとって誇れる材料になるからな」
「お前まで父と同じことを言うんだな」
「悪い。でもお前と連絡がつかないからって、普通俺にまで尋ねてくるか? お前が大変なのは知っているんだし、仕事してるってことくらいわかるだろ? 確かにお前を好きな気持ちは本物だろう。でも俺からしたら、お前にはあんな派手な芸能関係の女性じゃなくて、もっと一般の、お前のことを陰から支えて、誰もが憂いなく祝福してくれるような、そんな女性と結婚してほしいんだ」
真壁がそんなことを思っていたとは。
自嘲気味に頬を緩める。
そんな俺に真壁はとどめを刺すような言葉を放ってきた。
「本当はお前も心の奥底ではそう思っているんじゃないのか? いくら前社長が亡くなったとはいえ、本当に美琴さんと結婚するつもりがあるなら準備だけでも進めるだろ? 反対する人がいなくなったんだからな。けどそうしなかったのは、お前の中で何か引っかかることがあるんじゃないのか?」
この確信を突いた発言に、俺は何も言えなくなってしまった。
真壁の言う通り、父が亡くなるまでは本当に美琴と結婚するつもりでいた。だが、父の後を継ぎ、この一年IGS製薬の社長として経営を担ってきたことで、父の懸念していたことが手に取るようにわかり、痛感したのだ。
でも、それを認めてしまうと、今までの自分を否定することになってしまう。それができず、俺は気づかぬふりをしていた。
「俺は藤城社長の娘との結婚、いいと思うけどな。お前に相応しい相手だと思う。政略結婚かもしれないが、案外お前が本気で惚れて溺愛するようになるとかあり得そうだしな」
「なんだよそれ」
「よくあるだろ? ドラマとかで。政略結婚から溺愛していくやつ。うちの母さんは毎日そんなドラマばかり見て、年甲斐もなくきゃあきゃあ言ってるぞ」
ニヤニヤと嬉しそうな笑顔を見せる真壁に、「知らねえよ」と冷たく返す。
「だが修史、冗談抜きでこの合併の話は真剣に考えた方がいいと思う。相談できるなら、五十嵐本部長か結城本部長にも意見を聞いてみた方がいいんじゃないか?」
「そうだな。そうしてみるよ」
真壁に話して少し気持ちが固まったところで、俺はもうひとり相談してみようと心に決めた。
「いや……実は、この合併の条件に、藤城の娘との結婚を提示されたんだ。昔、父と交わした約束だったらしいんだが……」
「はっ? 結婚? それって政略結婚ってことか?」
真壁はまたしても驚いたように、目を瞠って俺の顔を見た。無言のまま首を縦に振ると、真壁も納得したように頷いた。
「政略結婚か……。確かにこの合併を揺るぎないものにするなら、条件に結婚を提示してくるのは常套な手段ではあるよな……。でもそしたら美琴さんはどうするんだ? 別れないといけなくなるぞ」
今まで父が結婚に反対していたこともあり、俺から美琴に将来的な話を口にすることはほとんどなかったが、美琴からは事あるごとに結婚に関する話題が出ていた。
この一年、俺の環境が変わったことや、喪中ということで少し落ち着いてはいたが、美琴は父が亡くなったことで、何の障害もなくなり、俺と結婚できると思っている。
だがもしこの合併を受け入れるとなると、俺は美琴と別れなければならない。
「どうするべきなのか……。どうしたらいいのか……。昨日からずっと考え続けているよ」
俺が重い息を吐いて黙り込んだことで、真壁が少し声のトーンを落として名前を呼んだ。
「なあ修史、怒らないで聞いてほしいんだが、言ってもいいか?」
「何だよ? 急に改まって」
「今まで言わなかったけど、俺は結婚に関してはお前のお父さん……五十嵐前社長と同じ意見なんだ。最初はお前が美琴さんを好きならそれでいいと思った。だが、正直美琴さんはお前の肩書きや資産、家柄に惹かれたんじゃないかと思えてしまうことがあるんだ。お前の社会的地位は美琴さんにとって誇れる材料になるからな」
「お前まで父と同じことを言うんだな」
「悪い。でもお前と連絡がつかないからって、普通俺にまで尋ねてくるか? お前が大変なのは知っているんだし、仕事してるってことくらいわかるだろ? 確かにお前を好きな気持ちは本物だろう。でも俺からしたら、お前にはあんな派手な芸能関係の女性じゃなくて、もっと一般の、お前のことを陰から支えて、誰もが憂いなく祝福してくれるような、そんな女性と結婚してほしいんだ」
真壁がそんなことを思っていたとは。
自嘲気味に頬を緩める。
そんな俺に真壁はとどめを刺すような言葉を放ってきた。
「本当はお前も心の奥底ではそう思っているんじゃないのか? いくら前社長が亡くなったとはいえ、本当に美琴さんと結婚するつもりがあるなら準備だけでも進めるだろ? 反対する人がいなくなったんだからな。けどそうしなかったのは、お前の中で何か引っかかることがあるんじゃないのか?」
この確信を突いた発言に、俺は何も言えなくなってしまった。
真壁の言う通り、父が亡くなるまでは本当に美琴と結婚するつもりでいた。だが、父の後を継ぎ、この一年IGS製薬の社長として経営を担ってきたことで、父の懸念していたことが手に取るようにわかり、痛感したのだ。
でも、それを認めてしまうと、今までの自分を否定することになってしまう。それができず、俺は気づかぬふりをしていた。
「俺は藤城社長の娘との結婚、いいと思うけどな。お前に相応しい相手だと思う。政略結婚かもしれないが、案外お前が本気で惚れて溺愛するようになるとかあり得そうだしな」
「なんだよそれ」
「よくあるだろ? ドラマとかで。政略結婚から溺愛していくやつ。うちの母さんは毎日そんなドラマばかり見て、年甲斐もなくきゃあきゃあ言ってるぞ」
ニヤニヤと嬉しそうな笑顔を見せる真壁に、「知らねえよ」と冷たく返す。
「だが修史、冗談抜きでこの合併の話は真剣に考えた方がいいと思う。相談できるなら、五十嵐本部長か結城本部長にも意見を聞いてみた方がいいんじゃないか?」
「そうだな。そうしてみるよ」
真壁に話して少し気持ちが固まったところで、俺はもうひとり相談してみようと心に決めた。
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