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第七章 隔意
冷酷な結婚相手②
レストランの受付で予約名を告げると、スタッフがスマートな所作で席まで案内してくれた。ここは前から一度訪れてみたいと思っていた高級フレンチレストランだ。
優雅でエレガントな空間の中で、夜景を見ながらアートのような美しいフレンチコースを楽しむことができる。
実は誕生日に父に連れてきてもらおうかと思ったけれど、恋人同士で来るような場所に父と来るのはどうしても気が引けて、いつか好きな人と訪れてみたいと夢を描いていた。
緊張しながら案内されたテーブル席に腰を下ろす。
五十嵐社長はまだ到着していないようだ。
腕時計を確認すると、約束の時間まであと七分ほどあるけれど、こういう場面での時間は一向に進みが遅いと感じてしまうのはいつもどうしてだろう。
椅子に座って待ちながら、ひとりでの時間を持て余してしまい、入り口のあたりにそれとなく視線を向けてみる。
こんな雰囲気のレストランでスマホを見ているのもマナー違反だと思われそうだし、スタッフに愛想笑いをしながら窓に目を向けると、うっとりしてしまうほどの美しい夜景に思わず声が漏れた。
「うわぁ、綺麗……」
眼下には東京湾が広がり、その向こうには煌めく高層ビルが立ち並び、きらきらと光を放つレインボーブリッジまで見える。
初めての顔合わせにこんな素敵な場所を予約してくれていたなんて──。
さらに緊張感が増してきて、落ち着かなくなってしまった。
「遅くなって申し訳ない」
突然男性の声が聞こえてきて、慌てて振り返る。
するとそこにはホームページで何度も見た精悍な顔立ちの男性が颯爽と立っていた。
不意打ちを突かれたことで、驚きを隠せないまま、反射的に立ち上がる。
「あっ、こちらこそ申し訳ございません」
窓の向こうの夜景に魅了されてしまっていて、すっかり顔合わせだということを忘れかけていた。
なんか思っていたよりもちょっと冷たそう……な感じ?
なんとなく想像と違う印象を抱きつつも、愛想よく会釈をしながら笑顔を向ける。
だけど席に着いた五十嵐社長は、私に微笑み返すことなく、慣れた手つきでメニューを見始めた。私も慌ててメニューを取り、同じようにページを開く。
「何がいい?」
声をかけられて顔を上げると、チラッとこっちに視線を向けられた。
目が合った瞬間、再びメニューに視線を戻される。
穏やかな雰囲気とはかけ離れた空気に、なんだか全身に緊張感が走る。
こういう顔合わせではいったい何が正解なの?
やっぱりフレンチだから最初はシャンパン?
スパークリングワインの方がいいかな?
ビールって感じじゃないよね?
いきなりカクテルは違う気がするし……。
瞬時に色々考えたあと、答えが出せなくなった私は、静かにメニューを閉じた。
「同じものでお願いします」
社長令嬢と言っても、世間一般のお嬢様に比べたら私は名ばかりの令嬢だ。仕事で忙しい父に代わり、しつけにだけは厳しかった祖母。幼い頃に母を亡くしたことで、多少甘やかされて育った部分はあるけれど、贅沢三昧で生活してきたわけではないので、こういう場にも慣れていない。なのでここは相手に合わせておけば大丈夫だろう。
五十嵐社長がスタッフに注文を終えたところで再び目が合ってしまい、私は慌てて頭を下げた。
「はじめまして。藤城彩花と申します」
「五十嵐修史です」
お互い自己紹介をしたあと、何か話題を振ってくれるのかと思ったけれど、一向に会話も始まらない。なんだか声も冷たい感じだし、気まずいというか不穏な雰囲気だ。
いったいどういうこと?
私から話しかけた方がいいってこと?
私は意を決し、表情に出さないよう笑みを浮かべて、五十嵐社長に話しかけてみた。
優雅でエレガントな空間の中で、夜景を見ながらアートのような美しいフレンチコースを楽しむことができる。
実は誕生日に父に連れてきてもらおうかと思ったけれど、恋人同士で来るような場所に父と来るのはどうしても気が引けて、いつか好きな人と訪れてみたいと夢を描いていた。
緊張しながら案内されたテーブル席に腰を下ろす。
五十嵐社長はまだ到着していないようだ。
腕時計を確認すると、約束の時間まであと七分ほどあるけれど、こういう場面での時間は一向に進みが遅いと感じてしまうのはいつもどうしてだろう。
椅子に座って待ちながら、ひとりでの時間を持て余してしまい、入り口のあたりにそれとなく視線を向けてみる。
こんな雰囲気のレストランでスマホを見ているのもマナー違反だと思われそうだし、スタッフに愛想笑いをしながら窓に目を向けると、うっとりしてしまうほどの美しい夜景に思わず声が漏れた。
「うわぁ、綺麗……」
眼下には東京湾が広がり、その向こうには煌めく高層ビルが立ち並び、きらきらと光を放つレインボーブリッジまで見える。
初めての顔合わせにこんな素敵な場所を予約してくれていたなんて──。
さらに緊張感が増してきて、落ち着かなくなってしまった。
「遅くなって申し訳ない」
突然男性の声が聞こえてきて、慌てて振り返る。
するとそこにはホームページで何度も見た精悍な顔立ちの男性が颯爽と立っていた。
不意打ちを突かれたことで、驚きを隠せないまま、反射的に立ち上がる。
「あっ、こちらこそ申し訳ございません」
窓の向こうの夜景に魅了されてしまっていて、すっかり顔合わせだということを忘れかけていた。
なんか思っていたよりもちょっと冷たそう……な感じ?
なんとなく想像と違う印象を抱きつつも、愛想よく会釈をしながら笑顔を向ける。
だけど席に着いた五十嵐社長は、私に微笑み返すことなく、慣れた手つきでメニューを見始めた。私も慌ててメニューを取り、同じようにページを開く。
「何がいい?」
声をかけられて顔を上げると、チラッとこっちに視線を向けられた。
目が合った瞬間、再びメニューに視線を戻される。
穏やかな雰囲気とはかけ離れた空気に、なんだか全身に緊張感が走る。
こういう顔合わせではいったい何が正解なの?
やっぱりフレンチだから最初はシャンパン?
スパークリングワインの方がいいかな?
ビールって感じじゃないよね?
いきなりカクテルは違う気がするし……。
瞬時に色々考えたあと、答えが出せなくなった私は、静かにメニューを閉じた。
「同じものでお願いします」
社長令嬢と言っても、世間一般のお嬢様に比べたら私は名ばかりの令嬢だ。仕事で忙しい父に代わり、しつけにだけは厳しかった祖母。幼い頃に母を亡くしたことで、多少甘やかされて育った部分はあるけれど、贅沢三昧で生活してきたわけではないので、こういう場にも慣れていない。なのでここは相手に合わせておけば大丈夫だろう。
五十嵐社長がスタッフに注文を終えたところで再び目が合ってしまい、私は慌てて頭を下げた。
「はじめまして。藤城彩花と申します」
「五十嵐修史です」
お互い自己紹介をしたあと、何か話題を振ってくれるのかと思ったけれど、一向に会話も始まらない。なんだか声も冷たい感じだし、気まずいというか不穏な雰囲気だ。
いったいどういうこと?
私から話しかけた方がいいってこと?
私は意を決し、表情に出さないよう笑みを浮かべて、五十嵐社長に話しかけてみた。
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