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第八章 決断
選択した道(修史side)①
藤城の娘と顔合わせを終えたあと、俺は真壁と一緒にバーで酒を飲んでいた。
あのまま真っ直ぐ家に帰る気にはなれず、ひとりで飲み直そうかと考えていたところ、タイミングよくかかってきた真壁からの電話で、すかさずバーに呼び出したのだ。
俺から話を聞きたかった真壁は、二つ返事で出てきてくれた。
ただ、呼び出したまでは良かったのだが──。
「いやぁ、彼女なかなかやるよな。世間知らずのお嬢さんかと思ったら、修史相手にそんな条件を突きつけてくるなんて……」
さっきからこいつは何度も俺の顔を見ながら、涙を浮かべて楽しそうに肩を震わせている。
こんな話ができるのは真壁しかいないので仕方なく我慢しているが、はっきり言って居心地は最悪だ。
隣で大笑いしながら美味そうに酒を飲む姿に若干苛つきつつも、俺は無言のまま静かにビールを口に運んだ。
「不機嫌な態度を改めろ、外で子どもを作るなって……。その条件、最高すぎないか!」
これで何度目だろう。
あの女の出した条件のどこに褒め称える要素があるのか、真壁は絶賛し続けている。
「何が最高なんだよ!」
「だって普通はさ、お前に気に入られようと自分を売り込んできたり、お前の言葉に素直に従おうとするだろ? それが条件を突きつけてきて、しかもその条件が……ぷぷぷっ。これを笑わずにいられるかよ」
俺の事情を唯一知る人物だけに、全く遠慮する様子は微塵もない。
そんな真壁を俺は冷めた表情で睨みつけた。
「そんなに睨むなよ。俺はお前の結婚を祝福してるんだから」
「その顔のどこが祝福なんだよ?」
「こんなに嬉しい顔してるのにわからないのか?」
酒の影響もあってか、ニヤニヤしながら俺の顔を覗きこんでくる。そして、大きく頷きながら勢いよく俺の肩に手を置いた。
「修史、これでお前の結婚生活も安泰だな」
「どこをどう解釈したら安泰なんだよ? あんな気が強い女、破綻する未来しか待ってねえよ」
「破綻する未来? 言いにくいことをストレートに伝えてくるなんて、本音で向き合おうとしている証拠じゃないか。俺は彼女を気に入った。これはお前が彼女を溺愛する日も近そうだな」
テンションの高い真壁を尻目に、ふとこの決断で間違いなかったのだろうかと、正解のない答えを求めてしまう。
自分で決めた以上、もう後戻りすることはできないが、自分の、そして会社の未来がこれからどう変わっていくのかと思案せずにはいられない。
藤城から合併の話を聞かされた翌日、俺は真壁に相談したあと、もう一人恭輔義兄さんにも意見を聞いてみた。
雅紀叔父さんに尋ねなかったのは、藤城が父を裏切っていたことを知っているからだ。相談したところで、有無も言わさず「裏切り者なんて信用できない」と反対されるだろう。
俺は先入観のない公平な視点での意見が聞きたかった。
仕事が終わって実家を訪ねると、姉さんが快く出迎えてくれた。父が亡くなった後、実家には姉さんの家族が住んでいる。最初は俺が住むように言われたのだが、この家の広さだと俺一人では持て余してしまうため、姉さんにお願いしたのだ。
姉さん自身は会社には一切関わっていないが、ここ数年の間に続けて両親を亡くした俺にとって、唯一の家族である姉さんの存在は有り難くもあり、とても大きかった。
「姉さん悪いな、こんな時間に。恭輔義兄さんは?」
「書斎で待ってるわよ。話が終わったら一緒に夕飯食べていくでしょ? 用意しておくから」
経営者である父を見てきたせいか、それとも母の教えなのか、これから何の話をするのかといった詮索は全くしてこない。そういうところも大いに助かっている。
「ありがとう。じゃあちょっと義兄さんと話をしてくるよ」
俺はそう言って義兄さんがいる書斎に向かった。
部屋の前に着くと、俺の到着を待っていたかのように既にドアが開けられていて、中からは子どもたちの笑い声が聞こえてきた。
あのまま真っ直ぐ家に帰る気にはなれず、ひとりで飲み直そうかと考えていたところ、タイミングよくかかってきた真壁からの電話で、すかさずバーに呼び出したのだ。
俺から話を聞きたかった真壁は、二つ返事で出てきてくれた。
ただ、呼び出したまでは良かったのだが──。
「いやぁ、彼女なかなかやるよな。世間知らずのお嬢さんかと思ったら、修史相手にそんな条件を突きつけてくるなんて……」
さっきからこいつは何度も俺の顔を見ながら、涙を浮かべて楽しそうに肩を震わせている。
こんな話ができるのは真壁しかいないので仕方なく我慢しているが、はっきり言って居心地は最悪だ。
隣で大笑いしながら美味そうに酒を飲む姿に若干苛つきつつも、俺は無言のまま静かにビールを口に運んだ。
「不機嫌な態度を改めろ、外で子どもを作るなって……。その条件、最高すぎないか!」
これで何度目だろう。
あの女の出した条件のどこに褒め称える要素があるのか、真壁は絶賛し続けている。
「何が最高なんだよ!」
「だって普通はさ、お前に気に入られようと自分を売り込んできたり、お前の言葉に素直に従おうとするだろ? それが条件を突きつけてきて、しかもその条件が……ぷぷぷっ。これを笑わずにいられるかよ」
俺の事情を唯一知る人物だけに、全く遠慮する様子は微塵もない。
そんな真壁を俺は冷めた表情で睨みつけた。
「そんなに睨むなよ。俺はお前の結婚を祝福してるんだから」
「その顔のどこが祝福なんだよ?」
「こんなに嬉しい顔してるのにわからないのか?」
酒の影響もあってか、ニヤニヤしながら俺の顔を覗きこんでくる。そして、大きく頷きながら勢いよく俺の肩に手を置いた。
「修史、これでお前の結婚生活も安泰だな」
「どこをどう解釈したら安泰なんだよ? あんな気が強い女、破綻する未来しか待ってねえよ」
「破綻する未来? 言いにくいことをストレートに伝えてくるなんて、本音で向き合おうとしている証拠じゃないか。俺は彼女を気に入った。これはお前が彼女を溺愛する日も近そうだな」
テンションの高い真壁を尻目に、ふとこの決断で間違いなかったのだろうかと、正解のない答えを求めてしまう。
自分で決めた以上、もう後戻りすることはできないが、自分の、そして会社の未来がこれからどう変わっていくのかと思案せずにはいられない。
藤城から合併の話を聞かされた翌日、俺は真壁に相談したあと、もう一人恭輔義兄さんにも意見を聞いてみた。
雅紀叔父さんに尋ねなかったのは、藤城が父を裏切っていたことを知っているからだ。相談したところで、有無も言わさず「裏切り者なんて信用できない」と反対されるだろう。
俺は先入観のない公平な視点での意見が聞きたかった。
仕事が終わって実家を訪ねると、姉さんが快く出迎えてくれた。父が亡くなった後、実家には姉さんの家族が住んでいる。最初は俺が住むように言われたのだが、この家の広さだと俺一人では持て余してしまうため、姉さんにお願いしたのだ。
姉さん自身は会社には一切関わっていないが、ここ数年の間に続けて両親を亡くした俺にとって、唯一の家族である姉さんの存在は有り難くもあり、とても大きかった。
「姉さん悪いな、こんな時間に。恭輔義兄さんは?」
「書斎で待ってるわよ。話が終わったら一緒に夕飯食べていくでしょ? 用意しておくから」
経営者である父を見てきたせいか、それとも母の教えなのか、これから何の話をするのかといった詮索は全くしてこない。そういうところも大いに助かっている。
「ありがとう。じゃあちょっと義兄さんと話をしてくるよ」
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