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第八章 決断
選択した道(修史side)②
「義兄さん、お疲れさまです」
開いたドアをノックしながら声をかける。
その瞬間、子どもたちが振り返り、「修史兄ちゃんだー」とまとわりついてきた。
小学五年生の真翔に四歳の花音だ。
「おう、お前たち大きくなったな」
自然と頬が緩み、頭を撫でると、二人が嬉しそうな笑顔を向けてきた。
それにしても子どもの成長の早さにはびっくりしてしまう。少し会わない間に、また少し大きくなっている。
義兄さんが子どもたちに姉さんのところへ行くように促し、部屋の中が静まったところで、俺は改めて義兄さんに詫びた。
「義兄さん、急な話でごめん。家まで押しかけて」
午前中、真壁に相談したあと、恭輔義兄さんに電話をかけたのだ。今日中にどうしても相談したいことがあるので、直接家に行ってもいいかと尋ね、快諾してくれた。
「まあ会社じゃ色んな目もあるし、話しづらいこともあるもんな」
俺の心情を理解しているように優しい表情で頷いてくれる。おそらく誰にも聞かれたくない内容の話だと認識してくれているのだろう。
「じゃあさっそく相談したい話の内容なんだけど、実は藤城バイオテックの藤城社長から合併の話を持ちかけられたんだ」
その瞬間、義兄さんの顔つきが鋭い表情に変わった。
「この話は父さんが亡くなる前、父さんと藤城社長との間で進めていたらしいんだ。二人の自筆の署名がある覚書も見せてもらった。本物だった」
俺は真壁に話した内容と同じことを伝え、合併の内容や条件、そして藤城の娘との結婚を提示されたことも話した。そして全てを伝えたあと、改めて義兄さんに尋ねた。
「これを聞いて義兄さんはどう思う? 義兄さんの率直な意見が聞きたいんだ」
ひと言も口を挟まず腕を組んで真剣に聞いていた義兄さんが、眉間に皺を寄せて大きく息を吐いた。
「まずはちょっとびっくりだね。お義父さんがそんなことを考えていたとは。いや、別に悪いとかではなくて、そういう未来を考えていたのかという驚きが大きいかな」
「俺も……。最初にこの話を聞いたときはびっくりした」
「率直な意見を言わせてもらうと、この話はアリというか、俺は進めていいんじゃないかと思う。これから製薬業界もどんどん厳しくなっていくし、低分子だけでは限界がある。生き残りをかけて動いていかなければいけない。そこにバイオが加われば、新たな領域を確立できるからね」
やっぱり義兄さんも俺と同じ意見のようだ。
「ありがとう。義兄さんも俺と同じ意見でほっとしたというか、迷いが軽減した」
「うちがもし今後バイオに参入しようとしても、バイオは多額の初期費用が必要になる。それが合併という形で共有できるなら、うちにとっては有り難い話だよ。お義父さんもその辺りを考えていたんじゃないかな?」
「でもひとつ気になることがあるんだ」
俺はどうしても父を裏切っていたという藤城のことが心配で、義兄さんに聞いてみることにした。
「気になること?」
義兄さんが首を傾げて、眉根を寄せる。
「実は藤城社長が父さんのことを陰で裏切っていたって聞いたんだけど、父さんから何か聞いてたり……する?」
「藤城社長がお義父さんを裏切っていた? いや、そんな話は一度も聞いたことがないよ。本当に藤城社長がお義父さんを裏切っていたのかい? あの二人って昔からの親友同士だろう?」
義兄さんは全く知らないようで、信じられないといった表情で首を横に振った。
「俺もそう思っていたんだけど……。実はうちの研究員が三人も藤城バイオテックに転職しているんだ。そのせいで新薬の承認申請が止まっているらしい。立て続けに三人も藤城バイオテックに転職するなんておかしいし、何かあると思うんだ」
「新薬の申請が止まっている話は聞いていたけど、研究員が藤城バイオテックに転職? それは間違いなく事実なのかい?」
「そうみたい。雅紀叔父さんが言ってた。急に三人の研究員が辞めて、不思議に思って調べたら、三人ともが藤城バイオテックに移っていたって。相当金を積んだんだろうって言ってた。父さんはそれでかなりショックを受けてたみたいだけど」
俺の話を聞いても、恭輔義兄さんは難しい顔をして首を傾げている。
開いたドアをノックしながら声をかける。
その瞬間、子どもたちが振り返り、「修史兄ちゃんだー」とまとわりついてきた。
小学五年生の真翔に四歳の花音だ。
「おう、お前たち大きくなったな」
自然と頬が緩み、頭を撫でると、二人が嬉しそうな笑顔を向けてきた。
それにしても子どもの成長の早さにはびっくりしてしまう。少し会わない間に、また少し大きくなっている。
義兄さんが子どもたちに姉さんのところへ行くように促し、部屋の中が静まったところで、俺は改めて義兄さんに詫びた。
「義兄さん、急な話でごめん。家まで押しかけて」
午前中、真壁に相談したあと、恭輔義兄さんに電話をかけたのだ。今日中にどうしても相談したいことがあるので、直接家に行ってもいいかと尋ね、快諾してくれた。
「まあ会社じゃ色んな目もあるし、話しづらいこともあるもんな」
俺の心情を理解しているように優しい表情で頷いてくれる。おそらく誰にも聞かれたくない内容の話だと認識してくれているのだろう。
「じゃあさっそく相談したい話の内容なんだけど、実は藤城バイオテックの藤城社長から合併の話を持ちかけられたんだ」
その瞬間、義兄さんの顔つきが鋭い表情に変わった。
「この話は父さんが亡くなる前、父さんと藤城社長との間で進めていたらしいんだ。二人の自筆の署名がある覚書も見せてもらった。本物だった」
俺は真壁に話した内容と同じことを伝え、合併の内容や条件、そして藤城の娘との結婚を提示されたことも話した。そして全てを伝えたあと、改めて義兄さんに尋ねた。
「これを聞いて義兄さんはどう思う? 義兄さんの率直な意見が聞きたいんだ」
ひと言も口を挟まず腕を組んで真剣に聞いていた義兄さんが、眉間に皺を寄せて大きく息を吐いた。
「まずはちょっとびっくりだね。お義父さんがそんなことを考えていたとは。いや、別に悪いとかではなくて、そういう未来を考えていたのかという驚きが大きいかな」
「俺も……。最初にこの話を聞いたときはびっくりした」
「率直な意見を言わせてもらうと、この話はアリというか、俺は進めていいんじゃないかと思う。これから製薬業界もどんどん厳しくなっていくし、低分子だけでは限界がある。生き残りをかけて動いていかなければいけない。そこにバイオが加われば、新たな領域を確立できるからね」
やっぱり義兄さんも俺と同じ意見のようだ。
「ありがとう。義兄さんも俺と同じ意見でほっとしたというか、迷いが軽減した」
「うちがもし今後バイオに参入しようとしても、バイオは多額の初期費用が必要になる。それが合併という形で共有できるなら、うちにとっては有り難い話だよ。お義父さんもその辺りを考えていたんじゃないかな?」
「でもひとつ気になることがあるんだ」
俺はどうしても父を裏切っていたという藤城のことが心配で、義兄さんに聞いてみることにした。
「気になること?」
義兄さんが首を傾げて、眉根を寄せる。
「実は藤城社長が父さんのことを陰で裏切っていたって聞いたんだけど、父さんから何か聞いてたり……する?」
「藤城社長がお義父さんを裏切っていた? いや、そんな話は一度も聞いたことがないよ。本当に藤城社長がお義父さんを裏切っていたのかい? あの二人って昔からの親友同士だろう?」
義兄さんは全く知らないようで、信じられないといった表情で首を横に振った。
「俺もそう思っていたんだけど……。実はうちの研究員が三人も藤城バイオテックに転職しているんだ。そのせいで新薬の承認申請が止まっているらしい。立て続けに三人も藤城バイオテックに転職するなんておかしいし、何かあると思うんだ」
「新薬の申請が止まっている話は聞いていたけど、研究員が藤城バイオテックに転職? それは間違いなく事実なのかい?」
「そうみたい。雅紀叔父さんが言ってた。急に三人の研究員が辞めて、不思議に思って調べたら、三人ともが藤城バイオテックに移っていたって。相当金を積んだんだろうって言ってた。父さんはそれでかなりショックを受けてたみたいだけど」
俺の話を聞いても、恭輔義兄さんは難しい顔をして首を傾げている。
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