薄氷が割れる

しまっコ

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一時は命を危ぶまれたが、3か月ほどかけてマリカの身体は徐々に快方に向かった。 
「今日は庭園に下りてみるか」 
「いいのですか」 
レオンハルトの言葉にマリカは瞳を輝かせた。 
外に出るのはあの事件以来である。
自然豊かなネーベル王国で自由に育ったマリカは外に出るのが好きだった。 
「今の時間ならばライルたちもいるだろう」 
「はい」 
「愛している。マリカ」 
耳元で囁く声は少しだけ掠れていて雄の色気がにじみ出るようだった。 

王族専用の庭園に下りるとライルとランディが遊んでいた。 
「ははうえ」 
一歳半になるライルが笑顔で寄ってきた。
ライルの首の後ろには黒い鬣が生えそろい、足取りもかなりしっかりしている。
獣人は幼少期の成長が早く、その分青年期が長いのだという。
幼少期が長く、体が成人すると見た目の老化がとまる妖精の血はライルには受け継がれていないらしい。 
面差しも肌の色もレオンハルトによく似ていて、きっとレオンハルトの幼い頃もこんな姿だったのだろうと微笑ましい気持ちになる。 
「ライル、今日も元気で可愛らしいこと」 
「ははうえ、ぼく、けんじゅつをならいます」 
「まぁ。立派ね。お父様のように強くなってね?」 
「はい」 
ライルの頭に着いた花弁をとってやりながら、マリカは笑いかけた。 
ローレンスのことを思い出してから、マリカは自分が罪深い身であることを忘れた日はない。
それでも生きていたいと今は思う。
いつか罪の報いを受ける日が来るとしても、それまでは許される限りレオンハルトとライルの傍にいたい。 
穏やかな秋の日差しに照らし出された庭園の、ある一角に来た時、マリカは足を止めた。あの獅子獣人の女性が飛び出してきたのはあのあたりだった――…。
植え込みは取り去られ秋の花で彩られた花壇が作られている。
きっとレオンハルトがマリカのために庭園の模様替えをしてくれたのだろう。
それなのに――…心臓がぎゅっと縮まるような嫌か感じがしてマリカは胸を押さえた。 
「マリカ、大丈夫か? 具体が悪いなら部屋に戻ろう」 
レオンハルトがマリカを抱き上げ踵を返したまさにその時、突然竜巻が庭園を襲った。 
マリカはこの光景に既視感がある。
マリカの父は風の妖精で、風を自在に操れる。 
竜巻が止み目を開けると、花壇の前に父エアリオが立っていた。 
「遅くなってすまない。救けにきたぞ」 
父は掌に載せていた小さなつむじ風をレオンハルトに向けて投げつけた。
風にさらわれそうになるマリカの身体をレオンハルトが離すまいと必死に抱き留めている。 
「お父様、お待ちください。お願いです」 
必死に叫ぶとレオンハルトに対する攻撃がいったん止んだ。 
「なぜ止める?」 
「お許しください。私はこの方を愛しているのです。この方の傍にいたいと望んでいるのです」 
父は気難しい顔でレオンハルトを睨んだ。 
「おまえを無理矢理さらった男ではないのか。ローレンスが嘘を?」 
「ローリーお兄様?」 
「ローレンスは、獅子獣人の男がおまえを無理矢理連れ去ったと言っていた」 
「生きておいでなのですね?」 
「ああ。重傷だったが、妖精たちの力で回復した」 
マリカは驚愕に目を瞠った。
レオンハルトが殺してしまったと思っていたローレンスが生きていた――…。 
「神様、感謝します」 
マリカの瞳から涙が溢れた。 
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