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7代目デュロック辺境伯爵編
アルテミシア
通りの先には広い公園があり、その先の小高い丘の上に青い屋根の家が建っている。
「デブロック様、まずは城主様へご挨拶を…」
「ああ、わかってる。ありがとう、ここからは俺達だけで行くよ。」
老ゴブリンは深く深く頭を下げ、デイビッド達をいつまでも見送っていた。
丘の上の家は少し広めの平屋で、庭先には小さな畑と花が植えられ、誰かが水を撒いている。
家へ続く道を進んで行くと、大きな帽子を被った女性がこちらを向いた。
「…珍しいお客様ね。」
「ご無沙汰しておりました…」
「ここへはもう来ないと思っていたのに。」
「そのつもりでした。でも諸事情ありまして…」
「…大きくなったわね、デイビッド。」
「お祖母様もお変わりないようで…」
「いらっしゃい、丁度お茶の時間にするところよ。そちらのお嬢さん達もご一緒に、少し年寄りのお喋りに付き合って下さると嬉しいわ。」
帽子を取ったその顔は、褐色の肌に黒髪の、デイビッドに良く似た黒い瞳をしている。
ヴィオラは、初めて会うデイビッドの親族を前に、さっきまでの浮かれた気分がどこかへ行ってしまい、ガチガチに緊張していた。
部屋の中は、気取らないごく普通の家屋で、来客用のテーブルに座らされると、直ぐにハーブティーの良い香りがしてきた。
「おチビちゃんにはミルクの方が良いわね。」
「だぁ!」
優雅な手付きや物腰はとても上品で、思わず見惚れてしまう。
手のシワなどから相応に齢は取っていると分かるが、実に妖艶で美しい。
「さてと、何から聞かせてもらおうかしら…?」
「そうですね、まずは彼女を紹介させて下さい。俺の…婚約者です。」
「そうね。まだお名前しか伺っていないものね。ミス・ヴィオラ・ローベル令嬢、初めまして、デイビッドの祖母、アルテミシア・サウラリースと申します。」
「ヴィオラと申します!よろしくお願いします!!」
「そんなに固くならないで、いつかお会いできる日を楽しみにしていたのよ?本当に可愛らしいお嬢さんだこと。」
「ああありがとうございます!」
くすくす笑うアルテミシアの顔は、デイビッドにそっくりだ。
アデラの王族達より更に色濃く、直系の血筋を確かに思わせる。
「エリック、貴方が仕事をしないから、こちらに入って来る情報が乏しくてならないわ。」
「そのお仕事は他の誰かにお譲りしました。現在僕はデイビッド様に直に雇われた身の上ですので!」
「お隣の美人さんはロシェの家のお嬢さんね?」
「シ…シェルリアーナと申します!」
「僕の婚約者です。」
「賑やかなこと。楽しそうで羨ましいわ。こっちは一歩でも領の外へ出ると窮屈でならないと言うのに…ところで、こちらのおチビちゃんは貴女のお子さんかしら?」
「いえ!あの…ここここの子はええと…」
「冗談よ。養子の知らせは聞いているわ。そう、この子が私の孫になったのね?」
「ライラです。正式な縁組はしていませんから、養育義務だけですが…」
「なんてこと言うの?こんな可愛い子を身内に引き入れて置いて、何も与えないつもり?貴方はそんな薄情者なの?」
「現状措置ですよ。今後の事は自分の手が伸ばせる様になったら考えます。」
アルテミシアは、ミルクを飲み干しビスケットをかじるライラを抱き上げると、膝に乗せて微笑んだ。
「お利口さんねぇ。知らない家でもちゃんと大人しくしてられるなんて。」
「あむあむ」
「この後はどこに行くの?」
「ギディオン爺さんのとこに呼ばれてて…」
「そう…ねぇ、貴方達?ライラちゃんは私が見ててあげるから、先に用を済ませて来なさいな。」
「え!?いいんですか?」
「年寄りの研究室なんて、子供にはつまらないわよ。ここで遊んでてあげるから、貴方達だけで行ってらっしゃい。」
「そりゃ、ありがたいですが…」
「私も退屈してるのよ。たった一人で何十年も一人暮らしよ?領主の仕事だってもうほとんど人任せだし、家族なんて気まぐれに帰って来る息子夫妻だけ、やってらんないわ。私ずっと女の子を抱っこしてみたかったの。なのに誰も叶えてくれないんだもの。」
「それは…」
「やっと会えた孫は他人行儀だし、つまんないわ!」
忘れてはならない。
アルテミシアはデイビッドの祖母なのだ。
つまりあのアデラの王族兄弟とも血縁のある女性。
一筋縄で行くとは思えない。
「では、お言葉に甘えて…」
「ついでにヴィオラちゃんも置いて行ったら?」
「何故!?」
「だって、用があるのは貴方達だけなんでしょ?私は女の子とお喋りしたいの。」
「いや、それだってヴィオラは初めての場所で緊張してる訳で!」
「大丈夫よ、曲がりなりにも城主よ私。人のもてなし方は心得てるわ。それに貴方の話も聞きたいもの。私にもお喋りさせてよ。」
「なんで直接聞かないんです…?」
「人の話は身近な第三者から聞くのが一番楽しくて正確なのよ。この子なら誰より貴方を知っているはずだわ。違わなくて?」
「でも…」
「どうかしら?見ず知らずの爺のつまんない話を横でただ聞かされるよりずっと楽しいわよ?」
「誘い方が露骨!」
「あの!私でよろしければ…お話のお相手に…その…ご迷惑でないなら…」
「まぁ、ご迷惑だなんて!言ったでしょう?私は女の子とお喋りがしたいのよ!緊張しなくていいわ!私の事はアルテと呼んで?」
「よろしくお願いします!アルテ様!」
確かに、ギディオンとの繋がりも、デュロックの複雑な事情もまだハッキリとは話していないヴィオラには、この先の展開はつまらないものだろう。
それよりも日の当たるこの家で、ライラと一緒にアルテミシアの元に居たほうが楽しいかも知れない。
デイビッドが迷っていると、ヴィオラが顔を覗き込んでにっこり笑った。
「私、デイビッド様のご家族ときちんとお話した事がないんです。良ければここでアルテ様とお話させて下さい。私は大丈夫ですので。」
「ヴィオラがいいなら、わかったよ…ありがとう…」
ヴィオラは、この後デイビッドには何か重い話し合いがあるのではないかと危惧していたが、自分は恐らくその話に入り込めない、あるいは遠ざけられる可能性がある事を予想していた。
今のヴィオラには、まだ婚約者の抱える問題を共に背負う事は出来ないのだ。
ならせめて邪魔にならないよう、ライラを連れて一度離れるべきだと判断し、アルテミシアの案に乗ることにした。
アルテミシアもそれを見越してのことだろうと、差し伸べられた手を取るつもりで、ヴィオラはこの家に残る事を決めた。
「何かあれば直ぐに知らせる!」
「行ってらっしゃいデイビッド様!」
「枯れ木爺によろしくね。」
「「「枯れ木爺!!??」」」
「何驚いてるの。痩せた年寄りなんて枯れ木みたいなモノでしょ?!」
眉間にシワを寄せた顔が、そのままデイビッドに見える。
「おっと…この辺りで思い切りデイビッド様の身内って気がしてきました…」
「いきなり素が出た感じね…」
ライラとヴィオラをアルテミシアに任せ、3人は小川沿いの小道を登り、ゆっくりと森の中へ入って行った。
森の空気は清浄で、とても澄んでいる。
まるで精霊の領域に迷い込んだ様だ。
「いいえ…これは本当に居るわよ!」
「居ますねぇ…ただ、特定の精霊の領域ではないようですよ。皆がそれぞれ居心地の良い環境を展開して、それが上手いこと融合してるんです。」
そこは正に、絶妙なバランスで保たれた軌跡の空間。
ほんの僅かな行き違いで一瞬で壊れてしまう、薄いガラス板の様な結界で覆われた箱庭だ。
しかし、中の均衡が保たれている限り、決して人の手で壊すことはできない。
「そう言えば、前にも精霊の領域を歩いたわね…あの時は動けなくなっちゃったけど、今はなんとか正気を保っていられるわ…」
「そりゃアレだけ強固な妖精の加護を持ったわけですから!言っときますけど、僕1人では今のルーチェにも敵わないんですよ?」
「妖精ってそんなに強くなるの!?」
「ねぇ~ホント怖いですよねぇ~!?」
いつの間にか道がなくなり、しかし足は不思議と止まらずどこかを目指している。
(自分で動かしてるはずなのに…どこに行くのかわからないなんて…)
(あまり意識しない方がいいですよ?下手に探ろうとすると彼等の気を損ねますから…)
シェルリアーナは周囲の気配にゾッとしたが、何も言わずエリックの腕を掴んで歩みを速めた。
デイビッドだけは何も言わず、森の奥を目指して歩いている。
やがて、3人は人の手で整えられた薬草畑へ入り込んだ。
所狭しと生えるハーブに魔草に山菜、その間を何かがチョロチョロと動き回っている。
「歩き草!?」
「アンブラレルバよ!まさかここにもいるなんて!」
よく見ると、手に何か持っている。
それは小さなジョウロやバケツで、どうやら畑に水を撒いているようだ。
中央の噴水から水を汲み、あちこちに運んでいる。
「知能があるんですね…」
「ベルダ先生が見たら狂喜しそう…」
「2人とも、こっちだ。」
デイビッドが指差す先には、大きな木があり、なんとそこから煙突が生えていて煙が出ている。
巨木をくり抜き、そのまま家にしているようだ。
リスや小鳥が枝を走り回り、巣箱で餌をつついている。
入り口のベルを鳴らすと、コロンコロンと心地良い鳴子の音がして背の低いドアがゆっくりと開いた。
シェルリアーナは心臓がバクバクと鳴り響き、嬉しさと緊張とほんの少しの申し訳なさで足元がふらついていた。
しかし、開いたのはドアだけで中には誰も居ない。
「入りなさい。」
優しく、しゃがれた声がして、デイビッドが先に中に入った。
腰を曲げてドアを潜ると、中は広く天井も高い。
良く片付いた部屋の壁は棚になっており、物が所狭しと置かれ、本が天井近くまで収まっている。
整頓された気持ちの良い空間は、優しく3人を迎え入れてくれたが、肝心の家主はどこだろうか。
辺りを見回していると、中央の螺旋階段から誰かが降りて来た。
「やれやれ、やはり連れて来てしまったか…」
ゆっくりとこちらへ降りて来て、正面を向いたのは灰色のローブに身を包み、片眼鏡をかけた背の低い
ゴブリンだった。
「デブロック様、まずは城主様へご挨拶を…」
「ああ、わかってる。ありがとう、ここからは俺達だけで行くよ。」
老ゴブリンは深く深く頭を下げ、デイビッド達をいつまでも見送っていた。
丘の上の家は少し広めの平屋で、庭先には小さな畑と花が植えられ、誰かが水を撒いている。
家へ続く道を進んで行くと、大きな帽子を被った女性がこちらを向いた。
「…珍しいお客様ね。」
「ご無沙汰しておりました…」
「ここへはもう来ないと思っていたのに。」
「そのつもりでした。でも諸事情ありまして…」
「…大きくなったわね、デイビッド。」
「お祖母様もお変わりないようで…」
「いらっしゃい、丁度お茶の時間にするところよ。そちらのお嬢さん達もご一緒に、少し年寄りのお喋りに付き合って下さると嬉しいわ。」
帽子を取ったその顔は、褐色の肌に黒髪の、デイビッドに良く似た黒い瞳をしている。
ヴィオラは、初めて会うデイビッドの親族を前に、さっきまでの浮かれた気分がどこかへ行ってしまい、ガチガチに緊張していた。
部屋の中は、気取らないごく普通の家屋で、来客用のテーブルに座らされると、直ぐにハーブティーの良い香りがしてきた。
「おチビちゃんにはミルクの方が良いわね。」
「だぁ!」
優雅な手付きや物腰はとても上品で、思わず見惚れてしまう。
手のシワなどから相応に齢は取っていると分かるが、実に妖艶で美しい。
「さてと、何から聞かせてもらおうかしら…?」
「そうですね、まずは彼女を紹介させて下さい。俺の…婚約者です。」
「そうね。まだお名前しか伺っていないものね。ミス・ヴィオラ・ローベル令嬢、初めまして、デイビッドの祖母、アルテミシア・サウラリースと申します。」
「ヴィオラと申します!よろしくお願いします!!」
「そんなに固くならないで、いつかお会いできる日を楽しみにしていたのよ?本当に可愛らしいお嬢さんだこと。」
「ああありがとうございます!」
くすくす笑うアルテミシアの顔は、デイビッドにそっくりだ。
アデラの王族達より更に色濃く、直系の血筋を確かに思わせる。
「エリック、貴方が仕事をしないから、こちらに入って来る情報が乏しくてならないわ。」
「そのお仕事は他の誰かにお譲りしました。現在僕はデイビッド様に直に雇われた身の上ですので!」
「お隣の美人さんはロシェの家のお嬢さんね?」
「シ…シェルリアーナと申します!」
「僕の婚約者です。」
「賑やかなこと。楽しそうで羨ましいわ。こっちは一歩でも領の外へ出ると窮屈でならないと言うのに…ところで、こちらのおチビちゃんは貴女のお子さんかしら?」
「いえ!あの…ここここの子はええと…」
「冗談よ。養子の知らせは聞いているわ。そう、この子が私の孫になったのね?」
「ライラです。正式な縁組はしていませんから、養育義務だけですが…」
「なんてこと言うの?こんな可愛い子を身内に引き入れて置いて、何も与えないつもり?貴方はそんな薄情者なの?」
「現状措置ですよ。今後の事は自分の手が伸ばせる様になったら考えます。」
アルテミシアは、ミルクを飲み干しビスケットをかじるライラを抱き上げると、膝に乗せて微笑んだ。
「お利口さんねぇ。知らない家でもちゃんと大人しくしてられるなんて。」
「あむあむ」
「この後はどこに行くの?」
「ギディオン爺さんのとこに呼ばれてて…」
「そう…ねぇ、貴方達?ライラちゃんは私が見ててあげるから、先に用を済ませて来なさいな。」
「え!?いいんですか?」
「年寄りの研究室なんて、子供にはつまらないわよ。ここで遊んでてあげるから、貴方達だけで行ってらっしゃい。」
「そりゃ、ありがたいですが…」
「私も退屈してるのよ。たった一人で何十年も一人暮らしよ?領主の仕事だってもうほとんど人任せだし、家族なんて気まぐれに帰って来る息子夫妻だけ、やってらんないわ。私ずっと女の子を抱っこしてみたかったの。なのに誰も叶えてくれないんだもの。」
「それは…」
「やっと会えた孫は他人行儀だし、つまんないわ!」
忘れてはならない。
アルテミシアはデイビッドの祖母なのだ。
つまりあのアデラの王族兄弟とも血縁のある女性。
一筋縄で行くとは思えない。
「では、お言葉に甘えて…」
「ついでにヴィオラちゃんも置いて行ったら?」
「何故!?」
「だって、用があるのは貴方達だけなんでしょ?私は女の子とお喋りしたいの。」
「いや、それだってヴィオラは初めての場所で緊張してる訳で!」
「大丈夫よ、曲がりなりにも城主よ私。人のもてなし方は心得てるわ。それに貴方の話も聞きたいもの。私にもお喋りさせてよ。」
「なんで直接聞かないんです…?」
「人の話は身近な第三者から聞くのが一番楽しくて正確なのよ。この子なら誰より貴方を知っているはずだわ。違わなくて?」
「でも…」
「どうかしら?見ず知らずの爺のつまんない話を横でただ聞かされるよりずっと楽しいわよ?」
「誘い方が露骨!」
「あの!私でよろしければ…お話のお相手に…その…ご迷惑でないなら…」
「まぁ、ご迷惑だなんて!言ったでしょう?私は女の子とお喋りがしたいのよ!緊張しなくていいわ!私の事はアルテと呼んで?」
「よろしくお願いします!アルテ様!」
確かに、ギディオンとの繋がりも、デュロックの複雑な事情もまだハッキリとは話していないヴィオラには、この先の展開はつまらないものだろう。
それよりも日の当たるこの家で、ライラと一緒にアルテミシアの元に居たほうが楽しいかも知れない。
デイビッドが迷っていると、ヴィオラが顔を覗き込んでにっこり笑った。
「私、デイビッド様のご家族ときちんとお話した事がないんです。良ければここでアルテ様とお話させて下さい。私は大丈夫ですので。」
「ヴィオラがいいなら、わかったよ…ありがとう…」
ヴィオラは、この後デイビッドには何か重い話し合いがあるのではないかと危惧していたが、自分は恐らくその話に入り込めない、あるいは遠ざけられる可能性がある事を予想していた。
今のヴィオラには、まだ婚約者の抱える問題を共に背負う事は出来ないのだ。
ならせめて邪魔にならないよう、ライラを連れて一度離れるべきだと判断し、アルテミシアの案に乗ることにした。
アルテミシアもそれを見越してのことだろうと、差し伸べられた手を取るつもりで、ヴィオラはこの家に残る事を決めた。
「何かあれば直ぐに知らせる!」
「行ってらっしゃいデイビッド様!」
「枯れ木爺によろしくね。」
「「「枯れ木爺!!??」」」
「何驚いてるの。痩せた年寄りなんて枯れ木みたいなモノでしょ?!」
眉間にシワを寄せた顔が、そのままデイビッドに見える。
「おっと…この辺りで思い切りデイビッド様の身内って気がしてきました…」
「いきなり素が出た感じね…」
ライラとヴィオラをアルテミシアに任せ、3人は小川沿いの小道を登り、ゆっくりと森の中へ入って行った。
森の空気は清浄で、とても澄んでいる。
まるで精霊の領域に迷い込んだ様だ。
「いいえ…これは本当に居るわよ!」
「居ますねぇ…ただ、特定の精霊の領域ではないようですよ。皆がそれぞれ居心地の良い環境を展開して、それが上手いこと融合してるんです。」
そこは正に、絶妙なバランスで保たれた軌跡の空間。
ほんの僅かな行き違いで一瞬で壊れてしまう、薄いガラス板の様な結界で覆われた箱庭だ。
しかし、中の均衡が保たれている限り、決して人の手で壊すことはできない。
「そう言えば、前にも精霊の領域を歩いたわね…あの時は動けなくなっちゃったけど、今はなんとか正気を保っていられるわ…」
「そりゃアレだけ強固な妖精の加護を持ったわけですから!言っときますけど、僕1人では今のルーチェにも敵わないんですよ?」
「妖精ってそんなに強くなるの!?」
「ねぇ~ホント怖いですよねぇ~!?」
いつの間にか道がなくなり、しかし足は不思議と止まらずどこかを目指している。
(自分で動かしてるはずなのに…どこに行くのかわからないなんて…)
(あまり意識しない方がいいですよ?下手に探ろうとすると彼等の気を損ねますから…)
シェルリアーナは周囲の気配にゾッとしたが、何も言わずエリックの腕を掴んで歩みを速めた。
デイビッドだけは何も言わず、森の奥を目指して歩いている。
やがて、3人は人の手で整えられた薬草畑へ入り込んだ。
所狭しと生えるハーブに魔草に山菜、その間を何かがチョロチョロと動き回っている。
「歩き草!?」
「アンブラレルバよ!まさかここにもいるなんて!」
よく見ると、手に何か持っている。
それは小さなジョウロやバケツで、どうやら畑に水を撒いているようだ。
中央の噴水から水を汲み、あちこちに運んでいる。
「知能があるんですね…」
「ベルダ先生が見たら狂喜しそう…」
「2人とも、こっちだ。」
デイビッドが指差す先には、大きな木があり、なんとそこから煙突が生えていて煙が出ている。
巨木をくり抜き、そのまま家にしているようだ。
リスや小鳥が枝を走り回り、巣箱で餌をつついている。
入り口のベルを鳴らすと、コロンコロンと心地良い鳴子の音がして背の低いドアがゆっくりと開いた。
シェルリアーナは心臓がバクバクと鳴り響き、嬉しさと緊張とほんの少しの申し訳なさで足元がふらついていた。
しかし、開いたのはドアだけで中には誰も居ない。
「入りなさい。」
優しく、しゃがれた声がして、デイビッドが先に中に入った。
腰を曲げてドアを潜ると、中は広く天井も高い。
良く片付いた部屋の壁は棚になっており、物が所狭しと置かれ、本が天井近くまで収まっている。
整頓された気持ちの良い空間は、優しく3人を迎え入れてくれたが、肝心の家主はどこだろうか。
辺りを見回していると、中央の螺旋階段から誰かが降りて来た。
「やれやれ、やはり連れて来てしまったか…」
ゆっくりとこちらへ降りて来て、正面を向いたのは灰色のローブに身を包み、片眼鏡をかけた背の低い
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