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7代目デュロック辺境伯爵編
新生イヴ
トゲトゲのウニは中身をよく洗って可食部をくり抜き、軽く蒸してそのまま皿に乗せた。ワザと下手な味を付けず、大人向きに練ったチーズとクラッカーを添えて出してみる。
大きな牡蠣貝はそのまま炭火に乗せレモンを絞り、ホタテも柱を残して貝を皿代わりに炙り、バターをひとかけ落とす。
そして箱の底から出てきたのは大きなヨロイエビ。
青や紫の縞模様が鮮やかで、デイビッドの手の平2つ分はある大振りのものだ。
活きが良く、まだ跳ねているところを捕まえ、たっぷり沸かした湯の中に放り込み、上からフタに重しをしてしばし待つ。
ガンガンと暴れていた音が聞こえなくなると、真っ赤に茹だったエビを取り出し、ナタで縦半分に叩き切ると真っ白な身が顔を出した。
「あ、このエビ!さっき食べたヤツ!」
「へぇ、コイツはここらでも高級品だぞ?美味くなかったのか。」
「なんかソースがしつこくて臭かったです!」
「…そっか。レストランなんかじゃ客の注文のために魚介を生け簀で保管することが多いんだ。その時に餌をやらなかったり水を循環させずにいると、だんだん身が痩せて不純物が溜まるんだよ。必ずしも生きてりゃ新鮮で美味いってわけじゃねぇって事だな。」
「それだって貴族向けのレストランで出せるレベルの品質は保ってるハズでしょ?ヴィオラ様の舌が相当肥えてるんですよ。誰かさんのせいで。」
「責任取んなさいよ?!」
「うるせぇな!!」
ただ塩茹でしただけのヨロイエビは、しっとりとして噛み応えがあり、旨味がギュッと染み出して、ヴィオラはあっという間に一匹食べてしまった。
「海のエビは味も食感も違うんですね。どっちも美味しいです!」
「小振りなエビも美味いだろ?」
「プリップリで口の中で弾けました!」
すっかり海のエビを楽しんだヴィオラは、ジョエルとの嫌な記憶もキレイに忘れてしまった。
「デイビッド様、ホタテおかわり!」
「薄切りを炙ったヤツもっと食べたいわ!」
「赤い魚、もう無いの?」
「私には牡蠣をもういくらか焼いてもらおうか?」
「食うのが早い!!」
焼き台を総動員して魚介を捌く間、デイビッドは牡蠣をひとつナイフでこじ開けると、レモンを絞りチュルリと啜り込んだ。
「あ!デイビッド様また生で食べてる!!」
「カキは当たると怖いぞ?」
「知ってるよ。“半ば博打の鉄砲貝”ってな。それでも食いたいって奴の気持ちも分かるだろ?美味いんだよ!」
「私は随分前に一度当たってからは食わんことにした。あれは酷い目に遭ったぞ?!」
「焼いたのだって美味しいじゃない!」
「私には、お酒を振って軽く炙ったものにレモンをひと搾りしてちょうだい。半生で。」
「もう好きに食え!!」
海を眺めながらの楽しい宴会は、箱の中身が底をつくまで終わらなかった。
磯の砂浜には、貝殻や海の生き物がたくさん潜んでいる。
ライラは夢中で砂や小石を掘り返し、うごめく宝物を探していた。
「かに!」
「そう!カニさんよライラちゃん。」
「あい、どーじょ!」
「まぁ、キレイな貝殻ねぇ!こうして耳に当てると海の音が…イャーッ!中になんかいたぁっ!!」
「ヤドカリだな。」
シェルリアーナは、ライラに渡された巻貝の中にいたヤドカリに驚き、貝を海に投げ捨ててしまった。
「いたー!」
「ライラちゃん!変なモノつかまえないで!!」
「ナマコだな。」
「どーじょ!」
「なんで僕に!?そういうの苦手なんですよ!気持ち悪いって…ちょ…ズボンの裾に突っ込まないで!!」
「やっちまえライラ。」
「キャッキャッ!」
物怖じしないライラは、次々にいろんな生き物を捕まえようとするため、危険なものがないか目が離せない。
エリックはナマコを捲ったズボンの裾に差し込まれ、波打ち際で逃げ回っていた。
ライラと海を楽しむヴィオラ達の後ろでは、船内でギディオンとアルテミシアが何か話し合っている。
「壁がないと言うだけで、これほど開放感があるのだなぁ。」
「ええ…だからこそ、あの計画は1日も早く完遂させなければいけないわ。サウラリースの民のためにも…」
「200年…実に長かった…」
「私の孫のおかげよ?感謝なさい。」
「本当に良い男になりおった。今後も楽しみでならんわい。」
日が暮れるまで磯辺で遊んだ一行は、月が昇る前に鏡を通り抜け、各々の居場所へ帰って行った。
(大活躍なんだけどなぁ…俺…)
デイビッド達がいなくなった学園は夏休み真っ只中。
やっと得られた休暇に羽根を伸ばす学生達を他所に、資格の必要な上級生達は実習などに忙しい。
「よく来てくれたねイヴェット。いや、今はイヴと呼ばねばならないのだったね。」
「オジ様も、身体を壊されていたとお聞きしておりましたが、お元気そうで良かったです。」
「いやはや、危うく召される所だったがね。窮地を救ってくれた恩人には本当に感謝している。おかげで、こうしてまた再業することができたよ。」
イヴェットは医師になるための実習先に、セオドア家が市井で開業している個人医院を指定し、受け入れてもらえることになった。
幼い頃からの知り合いと言うこともあり、イヴェットの事情も理解した上で、色々なアドバイスをくれるので、市井について右も左もわからないイヴェットには本当にありがたかった。
「あまり丁寧過ぎる言動はここでは浮いてしまう。気軽に、しかし患者に寄り添うように、優しく大らかな態度でいると良い。」
「わかりました。」
あれからイヴェットは、家の者に見つからないよう、髪を切り、服装も郊外の古着屋で集め、メガネも掛けて誰もイヴェットだと分からないよう過ごしている。
所作も口調も貴族の令嬢とバレないよう、気を使わねばならず、診療中どう振る舞うべきか悩んでいる内に、もう患者がやって来る時間になってしまった。
「なるべく魔法薬や治療魔法は使わんように。相手は平民だ。高額な魔法医療は返って迷惑になる。地味だが、基本は薬草から作る薬を処方してくれ。」
「はい。」
「今日は私の診断に合わせて、患者の処置を頼む。隣の部屋にいてくれれば、看護婦が案内するからね。」
「よろしくお願いします。」
少し緊張しながら、薬品や包帯、器具等の備品を確認して待っていると、待合室がだんだん賑やかになってくるのが聞こえた。
(今までずっと貴族同士としか話したことなかったからな…特に口調は気をつけないと…お座り下さい…いや、座っての方が庶民らしいかな…優しく、でも丁寧過ぎず、かつ医師らしい態度…?…)
ぐるぐる考えている内に、最初の患者がやって来た。
医師の指示を受け、カルテを持った看護婦に連れられて来たのは、母親に付き添われた10歳程の少年だった。
カルテを受け取り、指示を確認すると、イヴェットは口の端をニッと引き上げて少年に話しかけた。
「よぉ坊主、そこに座んな。まったく、木から落ちて捻挫したって?母ちゃんに心配かけんじゃねぇよ。骨が無事でよかったな。安心しな、朝晩湿布しときゃすぐ治る。膝の傷にもなんか塗っとくか。滲みない薬はどれだ…」
テキパキと動く手と、正確で丁寧な処置。
看護婦達からは褒められたが、イヴェットはもう自分が信じられなかった。
(なんでこのキャラでいこうとしたんだ僕は…)
瓶の中に詰まった薬草と、昔ながらの製法で作られた薬を見ていたら、イヴェットの頭にふとデイビッドの顔が浮かんだのだ。
彼もこうして地道に薬を作っては、いろんなところで使っていたなと…
(だからって違うだろ!)
そうこうしている内に2人目が通されて来る。
今度は母親に抱かれた幼い女の子だ。
「じっとしててくれよ?あー、喉が腫れてんなぁ。今吸入器の支度するから、イイコで座ってなよ?親御さんも大変でしょう?風邪予防にはカレンデュラとヘビクサが良い。煮出してウガイするだけでも喉が潤いますよ?お茶にして飲むの時は蜂蜜も足すのもおすすめです。お嬢ちゃんには飲みやすい薬を出しましょう。大丈夫、あまぁ~い薬だから、ママの言うこと聞いてちゃんと飲むんだぞ?」
(あ…もう、これでいくしかないか…)
薬の精製を任されたデイビッドと過ごした僅かな時間が、イヴェットの中ではかなり大きなものになってしまっていた。
あれこれ雑談する中で、魔法薬の使えないデイビッドが語ってくれた、それまで使っていた薬草や自作の薬についての話。
その記憶が鮮明に蘇り、イヴェットの中に深く深く根を張っていく。
「よーし!こっち来て座りな。もう大丈夫だ。安心しろよ。」
砕けた口調で横柄なように見えるが、腕は確かで優しい女医の卵がいると、この日から市井では少し噂になった。
(やっぱり間違った気がする…)
その頃、エドは王城の医療棟に入り、同じく実習をさせられていた。
「この薬の中身悪くなってないか確認して!」
「はい…」
「血清薬の精製お願い!あと、こっちの塗り薬の詰め替えしといて!」
「はい…」
「おーい実習生君、それ終わったら、文官棟に胃薬の補充行って来て!ついでに魔術師棟に特殊魔法薬の依頼出して来て!」
「はい…」
大勢が働く王城は、医務室ですら忙しい。
バタバタと駆け回る医師や看護師達の横で、エドワードは便利な小間使いとして働かされていた。
「特殊血統だって?助かるよ~!いちいち魔術師棟まで行かなくていいしさ!」
「君、ここに就職しない?」
「……考えときます(絶対イヤです!)」
テストも実技もギリギリの点数で合格したエドワードは、家からは厳しい目で見られ、父の勧めでここへ来た。
ぶっつけ本番で現場に揉まれれば、多少は使い物になるだろうという算段だ。
エドワードは働かない頭をなんとか動かし、必死に言われた仕事をこなしていた。
(いつになったら独立できるんだ!)
イヴェットに思いの丈をぶつける日は、まだまだ先になりそうだ。
大きな牡蠣貝はそのまま炭火に乗せレモンを絞り、ホタテも柱を残して貝を皿代わりに炙り、バターをひとかけ落とす。
そして箱の底から出てきたのは大きなヨロイエビ。
青や紫の縞模様が鮮やかで、デイビッドの手の平2つ分はある大振りのものだ。
活きが良く、まだ跳ねているところを捕まえ、たっぷり沸かした湯の中に放り込み、上からフタに重しをしてしばし待つ。
ガンガンと暴れていた音が聞こえなくなると、真っ赤に茹だったエビを取り出し、ナタで縦半分に叩き切ると真っ白な身が顔を出した。
「あ、このエビ!さっき食べたヤツ!」
「へぇ、コイツはここらでも高級品だぞ?美味くなかったのか。」
「なんかソースがしつこくて臭かったです!」
「…そっか。レストランなんかじゃ客の注文のために魚介を生け簀で保管することが多いんだ。その時に餌をやらなかったり水を循環させずにいると、だんだん身が痩せて不純物が溜まるんだよ。必ずしも生きてりゃ新鮮で美味いってわけじゃねぇって事だな。」
「それだって貴族向けのレストランで出せるレベルの品質は保ってるハズでしょ?ヴィオラ様の舌が相当肥えてるんですよ。誰かさんのせいで。」
「責任取んなさいよ?!」
「うるせぇな!!」
ただ塩茹でしただけのヨロイエビは、しっとりとして噛み応えがあり、旨味がギュッと染み出して、ヴィオラはあっという間に一匹食べてしまった。
「海のエビは味も食感も違うんですね。どっちも美味しいです!」
「小振りなエビも美味いだろ?」
「プリップリで口の中で弾けました!」
すっかり海のエビを楽しんだヴィオラは、ジョエルとの嫌な記憶もキレイに忘れてしまった。
「デイビッド様、ホタテおかわり!」
「薄切りを炙ったヤツもっと食べたいわ!」
「赤い魚、もう無いの?」
「私には牡蠣をもういくらか焼いてもらおうか?」
「食うのが早い!!」
焼き台を総動員して魚介を捌く間、デイビッドは牡蠣をひとつナイフでこじ開けると、レモンを絞りチュルリと啜り込んだ。
「あ!デイビッド様また生で食べてる!!」
「カキは当たると怖いぞ?」
「知ってるよ。“半ば博打の鉄砲貝”ってな。それでも食いたいって奴の気持ちも分かるだろ?美味いんだよ!」
「私は随分前に一度当たってからは食わんことにした。あれは酷い目に遭ったぞ?!」
「焼いたのだって美味しいじゃない!」
「私には、お酒を振って軽く炙ったものにレモンをひと搾りしてちょうだい。半生で。」
「もう好きに食え!!」
海を眺めながらの楽しい宴会は、箱の中身が底をつくまで終わらなかった。
磯の砂浜には、貝殻や海の生き物がたくさん潜んでいる。
ライラは夢中で砂や小石を掘り返し、うごめく宝物を探していた。
「かに!」
「そう!カニさんよライラちゃん。」
「あい、どーじょ!」
「まぁ、キレイな貝殻ねぇ!こうして耳に当てると海の音が…イャーッ!中になんかいたぁっ!!」
「ヤドカリだな。」
シェルリアーナは、ライラに渡された巻貝の中にいたヤドカリに驚き、貝を海に投げ捨ててしまった。
「いたー!」
「ライラちゃん!変なモノつかまえないで!!」
「ナマコだな。」
「どーじょ!」
「なんで僕に!?そういうの苦手なんですよ!気持ち悪いって…ちょ…ズボンの裾に突っ込まないで!!」
「やっちまえライラ。」
「キャッキャッ!」
物怖じしないライラは、次々にいろんな生き物を捕まえようとするため、危険なものがないか目が離せない。
エリックはナマコを捲ったズボンの裾に差し込まれ、波打ち際で逃げ回っていた。
ライラと海を楽しむヴィオラ達の後ろでは、船内でギディオンとアルテミシアが何か話し合っている。
「壁がないと言うだけで、これほど開放感があるのだなぁ。」
「ええ…だからこそ、あの計画は1日も早く完遂させなければいけないわ。サウラリースの民のためにも…」
「200年…実に長かった…」
「私の孫のおかげよ?感謝なさい。」
「本当に良い男になりおった。今後も楽しみでならんわい。」
日が暮れるまで磯辺で遊んだ一行は、月が昇る前に鏡を通り抜け、各々の居場所へ帰って行った。
(大活躍なんだけどなぁ…俺…)
デイビッド達がいなくなった学園は夏休み真っ只中。
やっと得られた休暇に羽根を伸ばす学生達を他所に、資格の必要な上級生達は実習などに忙しい。
「よく来てくれたねイヴェット。いや、今はイヴと呼ばねばならないのだったね。」
「オジ様も、身体を壊されていたとお聞きしておりましたが、お元気そうで良かったです。」
「いやはや、危うく召される所だったがね。窮地を救ってくれた恩人には本当に感謝している。おかげで、こうしてまた再業することができたよ。」
イヴェットは医師になるための実習先に、セオドア家が市井で開業している個人医院を指定し、受け入れてもらえることになった。
幼い頃からの知り合いと言うこともあり、イヴェットの事情も理解した上で、色々なアドバイスをくれるので、市井について右も左もわからないイヴェットには本当にありがたかった。
「あまり丁寧過ぎる言動はここでは浮いてしまう。気軽に、しかし患者に寄り添うように、優しく大らかな態度でいると良い。」
「わかりました。」
あれからイヴェットは、家の者に見つからないよう、髪を切り、服装も郊外の古着屋で集め、メガネも掛けて誰もイヴェットだと分からないよう過ごしている。
所作も口調も貴族の令嬢とバレないよう、気を使わねばならず、診療中どう振る舞うべきか悩んでいる内に、もう患者がやって来る時間になってしまった。
「なるべく魔法薬や治療魔法は使わんように。相手は平民だ。高額な魔法医療は返って迷惑になる。地味だが、基本は薬草から作る薬を処方してくれ。」
「はい。」
「今日は私の診断に合わせて、患者の処置を頼む。隣の部屋にいてくれれば、看護婦が案内するからね。」
「よろしくお願いします。」
少し緊張しながら、薬品や包帯、器具等の備品を確認して待っていると、待合室がだんだん賑やかになってくるのが聞こえた。
(今までずっと貴族同士としか話したことなかったからな…特に口調は気をつけないと…お座り下さい…いや、座っての方が庶民らしいかな…優しく、でも丁寧過ぎず、かつ医師らしい態度…?…)
ぐるぐる考えている内に、最初の患者がやって来た。
医師の指示を受け、カルテを持った看護婦に連れられて来たのは、母親に付き添われた10歳程の少年だった。
カルテを受け取り、指示を確認すると、イヴェットは口の端をニッと引き上げて少年に話しかけた。
「よぉ坊主、そこに座んな。まったく、木から落ちて捻挫したって?母ちゃんに心配かけんじゃねぇよ。骨が無事でよかったな。安心しな、朝晩湿布しときゃすぐ治る。膝の傷にもなんか塗っとくか。滲みない薬はどれだ…」
テキパキと動く手と、正確で丁寧な処置。
看護婦達からは褒められたが、イヴェットはもう自分が信じられなかった。
(なんでこのキャラでいこうとしたんだ僕は…)
瓶の中に詰まった薬草と、昔ながらの製法で作られた薬を見ていたら、イヴェットの頭にふとデイビッドの顔が浮かんだのだ。
彼もこうして地道に薬を作っては、いろんなところで使っていたなと…
(だからって違うだろ!)
そうこうしている内に2人目が通されて来る。
今度は母親に抱かれた幼い女の子だ。
「じっとしててくれよ?あー、喉が腫れてんなぁ。今吸入器の支度するから、イイコで座ってなよ?親御さんも大変でしょう?風邪予防にはカレンデュラとヘビクサが良い。煮出してウガイするだけでも喉が潤いますよ?お茶にして飲むの時は蜂蜜も足すのもおすすめです。お嬢ちゃんには飲みやすい薬を出しましょう。大丈夫、あまぁ~い薬だから、ママの言うこと聞いてちゃんと飲むんだぞ?」
(あ…もう、これでいくしかないか…)
薬の精製を任されたデイビッドと過ごした僅かな時間が、イヴェットの中ではかなり大きなものになってしまっていた。
あれこれ雑談する中で、魔法薬の使えないデイビッドが語ってくれた、それまで使っていた薬草や自作の薬についての話。
その記憶が鮮明に蘇り、イヴェットの中に深く深く根を張っていく。
「よーし!こっち来て座りな。もう大丈夫だ。安心しろよ。」
砕けた口調で横柄なように見えるが、腕は確かで優しい女医の卵がいると、この日から市井では少し噂になった。
(やっぱり間違った気がする…)
その頃、エドは王城の医療棟に入り、同じく実習をさせられていた。
「この薬の中身悪くなってないか確認して!」
「はい…」
「血清薬の精製お願い!あと、こっちの塗り薬の詰め替えしといて!」
「はい…」
「おーい実習生君、それ終わったら、文官棟に胃薬の補充行って来て!ついでに魔術師棟に特殊魔法薬の依頼出して来て!」
「はい…」
大勢が働く王城は、医務室ですら忙しい。
バタバタと駆け回る医師や看護師達の横で、エドワードは便利な小間使いとして働かされていた。
「特殊血統だって?助かるよ~!いちいち魔術師棟まで行かなくていいしさ!」
「君、ここに就職しない?」
「……考えときます(絶対イヤです!)」
テストも実技もギリギリの点数で合格したエドワードは、家からは厳しい目で見られ、父の勧めでここへ来た。
ぶっつけ本番で現場に揉まれれば、多少は使い物になるだろうという算段だ。
エドワードは働かない頭をなんとか動かし、必死に言われた仕事をこなしていた。
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