黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

文字の大きさ
462 / 513
黒豚令息の領地改革編

決戦準備

露店のカフェで果物を盛ったココナッツの容器からトロピカルジュースを飲んでいたジェイムスが、デイビッドに気が付き手を振った。

「おお!デイビッド、よく来たな!なんとミス・ヴィオラも一緒とは!ずいぶんと大勢で来たのだなぁ!まぁ全員座りなさい、少し話をしようじゃないか!」

座らされたテーブルに更にフルーツや甘味が運ばれて来る。
デイビッドはファルコを大人しく座らせると、ライラを膝に乗せて父親と向き合った。

「さ、堅苦しいのは無しにしよう。食べながら聞いて欲しい。まず、デイビッド。明日の正午から2日間、何でもいいからこの街で商いをしなさい。その売り上げで勝敗を決める。見ての通り今は祭りの時期だ。客なら選び放題だぞ?」
「仕入れ先は決まってんのか?」
「そこは好きにするといい。どこで何を売るかはお前次第だ。」
「人を雇うのは?」
「それも自由だ。ただし身内を使う場合でも人件費は計上する事。今頃ジョエルも仲間と既に視察と商品の仕入れに奔走しているよ。自信はかなりあるそうだ。不正ができないようちょっとした魔道具も使う事になった。仕入れに使った金額も全て計上し、半銅貨1枚足りとも見逃さないことだ。」
「ギルドは通さなくて良いのか?」
「必要性は無いが、通した方が確実に良いだろう。ジョエルはもう話を通しているそうだ。ランクもシルバーとなかなか高いぞ?色々融通も効くし、今回は空き店舗を格安で借りられることになって、そこで店を開くそうだ。」
「あっちは固定の店か…」

ではデイビッドの出す店はなんだろうか…

「俺はこの後、商業ギルドに顔出して来る。お前等はどうせ街歩きだろ?」
「はい!僕はシェル様とお祭りを楽しんできます!」

最早従者としての意識が欠片もないこの発言にも、もう誰もツッコまなくなった。

「ヴィオラ…悪いが少しライラを見ててくれるか?」
「はい!任せて下さい!」
「デイビッド…ところでそのお膝の上でいい子にしているおチビさんはドナタかな?」
「ライラでしゅ!」
「ライラ…?」
「ライラ・デュロック。現当主の養子だ。」
「それって私の事だろう!?」
「暫定な。年が明ける前にはが付くことになってんだからいいだろ別に。」
「私にはカトレアさんという愛妻が居るんだぞ?!書面上だろうと疑われる様な事は避けたいのに!」 
「バァちゃんは知ってるよ。」
「なんで実の父親には報告しない!」
「信用ねぇから。」
「ハッキリ言うなぁ…」

ジェイムスはやれやれと言った様子でヴィオラの方に向き直った。

「成婚前に養子なぞ取りおって、ウチの息子が申し訳ない…」
「いえ!デイビッド様は私が連れて来た赤ちゃんを引き取って下さったんです!とても優しくて頼もしい方です!」
「そうか…?まぁ、上手くやれているようだね。」
「はいっ!とても良くしてもらっています!」
「それを当然と思うくらいでいいんだよ?愛情が足りないと感じればいくらでもネダりなさい。主導権は常に君が持っているといい。」
「いいえ?私はデイビッド様と常に対等でありたいんです。何でも言い合えて、お互いに支え合える仲でいたいんです!」
「そうかそうか。君達は君達の思う人生を歩み出しているのだね。」

そう言えば、もう1人絶世の美女が他所行きの顔で座っているが、こちらは…と尋ねかけたジェイムスに、エリックの視線が突き刺さる。
その物々しさに口を噤むことにした。

「お前ね…主人格の人間にその目はないだろう?」
「お構いなく!直属の主人はもうデイビッド様ですから。」
「う~ん…エリックがどんどん私の知らない人間になってゆく…まぁいい、皆ゆっくりして行きなさい。オヤツでも食べながら色々話してくれると嬉しいな!」
「あ、もう食べちゃいました!ごちそうさまです!では失礼します!」
「結構な量注文しといたはずが!?」

貴族的な意識があれば、あと1時間は足止めが効くだろう量のスイーツも、食いしん坊エリックとシェルリアーナにかかればものの10分で消え去る。
所作が美しく音を立てないので、皿の上から勝手に物が消えているような錯覚まで起こる程だ。

「じゃぁな親父、明日の昼前またここに来るから、忘れんなよ?」
「それでは失礼します。」
「では、我々もこれで!」
「ごちそうさまでしたわ。」
「ばいば~い!」

「ばいば~い…私は…子供の育て方を間違えたかなぁ…」

そもそも育児など一度もしたことのない人間がよく言うものだ。


エリック達と別れたデイビッドは、商業ギルドで商いの許可書を発行してもらいに向かった。
自由市などでは場所代さえ払えば好きに物を売り買いできる所もあるが、する事も視野に入れるとこの方が都合がいい。

「プレートはございますか?」
「それが、一度作ったっ切りで更新してねぇんだよ。年間の登録料の支払いはしてたが、実際のプレートがわかんねぇんだ。」
「こちらでのご商売は初めてとの事ですので、一度お調べしましょう。プレートをお預かりしてよろしいですか?」
「はいよ。」
「お名前が、デイビッド・デュロック様…これは失礼致しました、グロッグマン商会会頭様よりご推薦が付いております。直ぐにプレートをご用意致します!」

プレートの情報は全てのギルドで確認が取れるらしい。
仕組みはよく分からないが、プレート1つとっても冒険者ギルドと違う。
デイビッドが出した木製プレートを受け取ると、しばらくして従業員が恭しく木箱に納めたプレートを持って来た。

「こちらがデイビッド様のギルド証、のプレートでございます。スクレープは7つ。どうぞお確かめ下さい。」
「ええ…?」

ギルド登録者がどこで何をしたかは、受付を通して全て確認される。
相手は大勢いる商人をまとめ、その動向全てに目を光らせる商人ギルド。ごまかしは効かない
仕入れ、売り上げ、評判、期間、貢献度、商人としての心構え…細かな項目の総合評価がこのプレートに反映されるのだ。
王都での評判は最悪だが、商品開発とその利益、雇用主としての姿勢、市場を独占せず周囲への配慮も足りているなどの評価から、デイビッドの商人としての質がこのプレートに表されている。
あと足りないのは経験と自身の売り込みくらいだろうか。
噂や周囲の声も評価に入るが、裏付けされ精査された情報のみ上げられるため、疚しいことがなければ堂々としていられる。

かつてロドム・グロッグマンもこの仕組みには大いに助けられた。
その経験もあり、デイビッドがどこで商売を始めるにしても、ギルドに信用ある商人であると言う証に推薦状を付けてくれていたのだ。
こういう所は、実父より親心がある。

「では!早速ですが、どの様なご商売を想定されておいでですか?!」
「うーん…短期集中で稼ぎたいから、飲食系だな。」
「でしたら、こちらの貸店舗か空き店舗の一覧からお選び頂けます!商業区の一等地に、観光名所の大通り…あとは…」
「いや、屋台でいいよ。」
「は?やたい…?!」
「中古で買える屋台とかあったら見せて欲しい。」
「屋台…あ!でしたら最新式の移動レストランや、可動式バースタンドなども取り揃えておりまして!」
「いや、手引きの屋台でいいよ。ちょい大きめで鍋が3つくらい沸かせるヤツないかな?」
「本当に屋台をお出しになると!?」
「え?!ダメなのか…?」
「いえ…申し訳ありません、取り乱しました。」

水晶級ともなれば、普通は大きな商会を切り盛りする商人の中の商人と認められた人物となる。
そんな称号を持ちながら、この男は最底辺層が使う屋台を選んだ。

裏手の倉庫へ連れて行かれたデイビッドは、その中で少し古い四輪付きの箱型屋台を見つけた。
板を開くとテーブルと作業台になり、中で鍋を沸かしながら調理ができるようになっている。
厨房部分が広めに作られていて収納も多い。
何よりデイビッドが気に入ったのは看板の形。
塗料は既に剥がれてしまっているが、細かな模様が掘り込まれた龍の形をしている。
(ユェイがくれた龍の絵に似てるな…)

直ぐに屋台を購入し、ギルドの作業部屋を借りると、持って来た大工道具で所々手直ししてから、作業台部分だけ木製から金属板を貼った合板に取り替えた。

「これで銀貨5枚なら格安だな!」
「もうかなり古いものですからね。ですがモノは良いのですよ。前の所有者が高齢で手放されるまで大切に使われていたそうです。」
「なら、俺も大事にしてやらないと…」

ファルコから荷物を降ろすと、冒険者ギルドの獣魔用の厩舎に預け、早速仕事に取り掛かる。
柱や壁に丁寧にヤスリをかけ、錆びた蝶番などを交換し、屋根を張り替えて色に塗ると、古い屋台が見違える程綺麗になった。
仕上げに看板を下地の色に合わせて丁寧に着色すると、五色の龍が現れた。
屋台の壁にユェイが吉祥の願を懸けて描いてくれた龍画を飾り、遂に店が完成する。

「よし、こんなもんか…あとはここで何を作るか…」

大まかに決めているのは学園でも人気の高かったダンプリング類。
蒸し立ての饅頭はエリックの好物にもなった。
(あとは揚げ菓子と…甘いものばかりじゃなくて塩気も欲しいな。汁物は…皿洗いがネックか…)

外へ屋台を引いて出ると、ちょうどヴィオラが戻って来た。
大きな棒付きの板飴をかじりながら、ドーナツを持ってよちよち歩くライラの手を引いている。

「デイビッド様!お祭り楽しいです!」
「良かったな。ライラもおいしいモノ買ってもらったのか?いいなぁ!」
「これがデイビッド様の屋台ですか!?ステキ!このドラゴン、ユェイ様が描いてくれたものですよね!すごく縁起良さそう!」
「なぁ…ヴィオラだったらこの店で何が作れると思う?」
「細切り麺!」
「…ッあれかぁ!」
「文献で見たんです!細切り麺は元々屋台で売り歩く労働者の食べ物だったんですって!」
「ああ、銅貨4~5枚で食べられる庶民の路地飯なんだよ。」
「あとはご飯のお店がいっぱい出てました。」
「米だと…肉と炊き込んだこってり系の飯が多いんだったかな…?」
   
デイビッドはあれこれ考えながら、ライラを抱き上げ歩き出した。
感想 5

あなたにおすすめの小説

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った

歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。 だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」 追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。 舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。 一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。 「もう、残業はしません」

家族に忘れられていた第五王子は愛され生活を送る

りーさん
ファンタジー
 アズール王国の王宮には、多くの王子や王女が住んでいる蒼星宮という宮がある。  その宮にはとある噂が広まっていた。併設されている図書館に子どもの幽霊が現れると。  そんなある日、図書館に出入りしていた第一王子は子どものような人影を見かける。  その時、父である国王にすら忘れられ、存在を知られていなかった第五王子の才覚が露になっていく。

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした

ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?  ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。 十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に… 無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。 周囲は国王の命令だと我慢する日々。 だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に… 行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる… 「おぉー聖女様ぁ」 眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた… タイトル変更しました 召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。

木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。 本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。 しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。 特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。 せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。 そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。 幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。 こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。 ※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)