黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息の領地改革編

白と黒

(やり方がヤクザに近いな…)
「こちらはいつでも手を下せるぞ」という牽制。
ヴィオラの時もそうだったように、相手の弱味になる人間にわざといい顔をして愛想よく振る舞い、先に懐柔しようとする。
そしていざという時には、手は出さないまま、事実上の人質にしてしまうのだ。

箔押しのカードには繁華街の一角にある高級ショークラブの名前が書かれている。
最上階はプライベートルーム。
会いたくもない相手に会うため、一番苦手な場所へ行かなければならない事に、デイビッドは頭を抱えた。

「行きたくねぇ…」
「ワガママ言わないで、ホラ、これも商談と思って!一度話して来ないと、向こうの目的が分からない以上、何かしでかされた時に自衛も難しいでしょう?」
「ワガママじゃねぇよ!」

ヴィオラに心配は掛けないよう、商会の関係者に会食に呼ばれたという事にして、デイビッドは少しだけカジュアルなスーツで出掛ける支度をした。


「帰りは遅くなると思うから、ちゃんと寮に帰るんだぞ?」
「はいっ!」
「ライラはトムに任しときゃいいからな?」
「はーい!」
「なんかあればシェルに…」
「しつこいわよ!さっさと行きなさい!面倒臭い男ねまったく!!」

横で聞いていたシェルリアーナに蹴り出される様に外へ出ると、エリックがニヤニヤしながら馬車の用意をして待っていた。

「なんでお前まで…」
「え~?だって僕は貴方の護衛ですからね!」

繁華街の中でも上品な街並みの一等地のショークラブでカードを見せると、直ぐに上階へ案内される。
魔導式のエレベーターで外を眺めながら最上階へ着くと、並んだドアのひとつが開き、あの日“リコ”と呼ばれていた男が現れた。

(彼は?)
(奴の護衛らしい。)
(黒髪黒目で褐色の肌って…似てるのはこっちですね。長身で切れ長のイケメンって…あ!確かに特徴の似た正反対!)
(いっぺん黙れ!!)

中に入り、待っていた男を見て、エリックは表情は変えずに内心かなり驚き、また下らないことを考え出した。
(トムの言った通り…確かに真逆だ…デイビッド様を裏っ返して洗ったらこうなるのかな…)

「チャーオ!来てくれて嬉しいよ、フラれたらどうしよう思ってた!さ、座って!?後ろのオニーさんは護衛かな?リコ、そんなに警戒するんじゃない。お客さんの前だよ?」
「ですがボス…」
「敵か味方かわからない相手と会うのに、この程度で済ませてくれてるんだ。リコ、これは命令だ。控えろ。」
「…失礼しました…」
「すまない、彼は少し真面目過ぎるところがあってね。そっちのオニーさんも良ければ座って?」

にこやかに2人を迎えながら、一瞬だけ護衛相手に見せた刃物の様な鋭い視線はワザとだろうか?
デイビッドは嫌々向かいの席に着いた。

「改めまして、ディーノ・ブロンコいいます!エルムのコラソン側から来ました。後ろのは護衛のエンリコ、君達の事も教えて欲しいナ?」
「白々しい野郎だな。とっくに調べ済みだろうが!」
「少なくとも、オニーさんの事はまだなんにも?」
「はじめまして、エリックと申します。デイビッド様の護衛兼従者です。」
「なんだか、お互いカードの裏と表みたいだね!何もかも色違い、まるでチグハグな双子に見えないかい?!」
「フザケんな!さっさと用件を言え!」
「焦らないでよ…お楽しみはこれからなのに…」

ディーノがベルを鳴らすと、店の物が取り寄せのケーキと紅茶を運んで来た。

「君はお酒もタバコも苦手だろう?だから昼間のアフタヌーンティーにお誘いさせてもらったんだ!こっちへ来てから美味しいケーキのお店を探して色々食べ歩いたんダヨ!こう見えて甘いものには目がなくてね!」

デイビッドの趣向に探りを入れている辺り、敵対するつもりは無い様だ。
こちらを潰す気ならば、真っ先に身辺の護衛や本人の戦闘能力の方を気にするだろう。
目的も意図も読み難く、本当にやり辛い。


出されたのは、マダム・ネリーのパティスリー“ロダン”のチョコレートケーキ。
アントルメの中でも人気のビスキュイと生チョコを使ったオトナ向けの一品だ。

「緊張シテる?それとも信用が無いかな?大丈夫、毒なんて仕込んでないよ。パティシエが作った大切なケーキにそんな酷い真似はしないさ!」

いつまでも態度を変えないデイビッドに、ディーノは根気よく話し掛け続けた。
しかしデイビッドは頑として口も開かず身動きひとつしない。

「…君、中々面白いネ?効きにくい奴は何人もいたけど、は初めてだ…」
「…やっぱり魅了か…止めとけ、俺にそういうのは意味ねぇからよ。話がしたきゃその気にさせてみやがれ豚野郎セルディート。」
「好戦的だね!ますます気に入ったヨ!」
「人の婚約者に接触したのもワザとか!?」
「ううん!あれはホントに偶然なんだ!なんでこんなに人違いされるのかフシギでちょっと探ってみたら、それがたまたま尋ね人だったってワケ!きっと君とは出会う運命だったんだヨ!」
「気色悪ぃ!」
「強気だね、でも君は優しいから、きっと仲良くしてくれるって信じてるよ?!ネ?」

ディーノは魅了チャームを使おうとしていた様だが、現在ベストを着ているデイビッドには通用しない。
しかし、そんな事は気にしないと言う様な素振りで、ディーノは幸せそうにケーキを頬張った。

「うん!やっぱり最高だ!もうひとつ話題のケーキ屋さんは紹介制の予約限定なんダって。残念だなぁ!」
「エルム西部からラムダまで出て来た理由は何だ?!」
「知りたがりだなぁ!色々聞きたいのはこっちなのに。でも、それで君が話してくれるって言うなら教えてアゲルよ?」

紅茶を飲んだディーノは、目を細めてデイビッドの真っ黒な瞳を見つめた。
これ以上のだんまりは返って分が悪い。
そう判断したデイビッドは、仕方なく相手のテーブルに乗ることにした。

「…エルムの大使から聞いた…水面下の抗争が激しい西側の地域で、尋問を得意とする官僚の家門からマフィアに堕ちた連中がこっちに来てるってよ。」
「尋問だなんて人聞きが悪いな!ちょっと人から情報を聞き出すのが得意ってだけなのに。」
「マフィアなのは否定しないんだな…裏稼業界隈でも要注意人物に挙がってた。ディーノ・ビアンコ…ピーカで過激派の親玉に取り入った挙句、一夜にして裏切ったイカれ野郎ってな…」
「そんな風に言われてるの?!なるべく血は流さない様にしてたのに。」

隙間から正体を見え隠れさせるのもこちらを揺さぶる手立てなのだろう。
しかし、デイビッドにはもう、この男の話に乗る以外の選択肢は残されていない。

「この国に来た理由のひとつはね、奴隷売買について調べてたら行き着いたんだ。」
「奴隷?まさか買うのか!?」
「いやいや、こっちにハリス国の従業奴隷が流れてきたの知ってるでショ?あれは実は囮でね。本命は魔族の裏取引。それもオークションだって。」
「奴隷のオークション!?この国でか?!」
「そ!それもかなりの数が出るらしい。その前に潰しておきたくて、情報集めてる。何か知らない?」
「ハリスの奴隷は向こうが把握してる人数は全員帰還した…でも、魔族の情報までは聞かねぇな…」
「そっか、残念…それじゃもうひとつ、この国が今、世界を揺るがす震源地になってるの、聞いたことない?」
「震源地?」
「大陸中の精霊や妖精がみんなこの国を目指して移動し始めてる。ここに来る途中にも、大精霊が力の無い妖精を大勢引き連れて空を渡って行く姿を見たんだ。で、ここだけのハナシ、世界樹が発現したんじゃないかって言われてるんだよ。現に大量の世界樹の樹の実がこの国で見つかったらしいんだ。」

一切動揺していない風を装って、心当たり有りまくりのデイビッドはどう話題を変えようか悩み始めた。

「ラムダの同盟国にそれぞれひとつずつ、ラムダ王から献上されたんだ。そして研究機関にひとつ、更に魔法庁にひとつ。これだけでも歴史上でも類を見ない数なんだ!その上更にあと2つ、これは国際オークションに掛けられるらしい。」
「国際オークション!?世界中の金持ちが集まるってアレか!?」
「そう…でもね、裏の情報じゃ、まだらしいんだ。それを探してる。」
「それで?なんで俺の所に来たんだ?今の話ひとつ取っても俺なんかとの繋がりなんざねぇだろ?」
「ホントかな?どの話を探る中にも必ず出てくるのに?ラムダ国のダークホースならぬの君の名前がサ!?」

知らない訳がない。
だいたいこの数年の間に起きた大事件系の出来事は、ほぼデイビッドが絡んでいる。

「そんな御大層なもん、手に入れてどうする気だ?」
「もちろん使うのさ!死なないためにね…」
「死ぬ?誰が?」
「フフ…こう見えてこの身体はずいぶんとガタが来てるんだよ。魔力回路の異常なんだ。制御できない魔力の導線が身体中に張り巡らされて、細胞に魔素が溜まる…消費し切れない魔素で身体が膨れて、やがて心臓が止まるんだって。数万人にひとりの奇病だよ。持ってあと数年…その前になんとしても世界樹の実を手に入れたいんだ…」

類稀なる特異体質まで似通っているとは、これにはデイビッドも他人事ではなく驚いた。

「それで治る確信はあるのか?」
「何言ってるの?万能薬だよ?!過去にも文献が残ってる。エルムの王族が暴走する魔力回路の異常を、世界樹の実を食べて治したって有名な話だよ。」

文献には「この世の全ての食物を集めても敵わない美味」とも書き残されている。
世界樹の実を食べた唯一と言える広く知られた記述だ。
恐らく本当に治るのだろう。
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