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黒豚令息の領地改革編
甘い甘い戦い
デイビッドがまず取り掛かったのは、マダム・ネリーのレシピ。題して「至高のカトルカール」。
バターをふんだんに使い、卵は卵黄のみを混ぜて焼き上げ、クリームも何も付けずに粉砂糖を掛けただけのごくシンプルなもの。
マダム・ネリーの原点と言っても過言ではない、昔から伝わる有名なレシピ。
同じ材料と同じレシピで、果たして違いは出るのだろうか?
ひとつ目を焼いている間に次のケーキにも取り掛かる。
冊子を何度も読んでケーキ以外の描写から背景と材料を割り出すと、用意された食材の中からプラムを選んで切っていった。
少し重ための生地を天板にたっぷり焼き上げたら、角と膨らんだ突起の部分を切り落とし、冷ます間に切れ端をヴィオラとライラに味見させる。
「どうだ?」
「おいしー!」
「しっとりふわふわ!まだ温かい!」
焼けるまでにクリームを泡立て、小鍋で煮ておいたジャムを冷ましながら、今度はシロップに香りをつけていく。
「あむあむ!」
「このプラム、甘いですね!」
「そう、甘いから使えなかったんだ。」
「甘いと使えないんですか?!」
「果物は加熱すると甘味が増すから、料理にはもっと若くて酸味のあるやつがいい。それ食っちまってくれ。」
「んふふ~私プラム大好き!」
「もうすぐ時期も終わるから、その前にどっか採りに行ってみるかぁ。」
「そうしたらパイにして下さい!サクサクのパイにジューシーなプラムととろけたカスタード!はぁ…想像しただけで美味しそう…」
「そうだなぁ。」
何気ない話をしながら、冷めた生地にジャムを塗り、バタークリームを乗せて挟むと、その上にはシロップを染み込ませ、皮を剥いてワインで軽く煮たプラムを並べ、またクリームで挟んでいく。
「とぅいーむ!」
「こーら!触っちゃダメだぞ?」
「とぅいーむぅ…」
「余ったのやるから、ちょっと待ってろよ?」
ライラにスプーンを渡し、余ったクリームをさっきのケーキの切りクズにつけて皿に盛ってやると、鼻の頭までクリームまみれにして食べている。
ヴィオラまで一緒になって…
やがて口が甘くなったライラは、観客の目などお構い無しに持って来たバスケットのサンドイッチをモリモリ食べ出した。
(ねぇリナ、審査員じゃなくて助手として立候補した方が良かったかしら…)
(そうね、ルナ…私、あのおチビちゃんと入れ替わりたいわ…)
審査員達は、そのやり取りのすべてを見逃すことなく見つめていた。
手元に集中し、無駄な動きひとつなく一心不乱動くロダンと、兵隊の様に統率の取れた完全分担の作業を黙々とこなし、指揮の通りに動くスウィーティオ。
2チームは砂時計の砂がだいぶ残っている内に、ほとんどの作業を終わらせてしまった。
「皆お疲れ様!後は最後の飾り付けだけよ?!」
「これなら勝てる…最高のケーキになりましたね!?」
ロダンは早くもチームの固い絆とそれぞれの得意分野を生かした団結力を見せつけ、場を盛り上げた。
スウィーティオも負けておらず、優男が仕上げを終わらせ客席に向き直る。
「完璧だ!惚れ惚れする程美しいケーキが完成したよ?どうです?皆さん!ご覧下さい、この素晴らしい“ウェディングケーキ”を!!」
2チームの前にそびえているのは、大きな数段重ねのウェディングケーキ。
これはふたつ目の出題、小説に出て来る花嫁に向けたケーキなのだそう…
ロダンはクラシカルな、真っ白なシュガークラフトとクリームの薔薇の花を散らした伝統的な仕様。
対するスウィーティオは、果物と食用花で鮮やかに仕上げ、彫刻の様に美しい模様で飾られた華やかなタワー型。
「なんかあっちはスゴいの作ってますよ!?」
「な!?流石にああいうのは時間かかるし無理だなぁ。」
「デイビッド様のケーキは?!」
「これ。」
デイビッドの手には、昔ながらのどっしり重めの四角いプレートケーキに、ジャムとコンポートを挟み、アイシングの上にプラムの薄切りで作った花を飾っただけのごくシンプルなもの。
完成品を台に置くと、会場がどよめいた。
「何あれ?田舎のおばあちゃんが作るケーキみたい!」
「時間をかけた割につまんないのが出てきたな?」
「隣と比べちゃかわいそうだけど、あれは食べる気にならないわ…」
好き勝手言う見物人を他所に、早くも審査員達はそわそわし始めた。
周囲のことは気にせず、デイビッドは最後のケーキに取り掛かった。
テーマは一番得意なケーキ…
(得意…?)
そもそもデイビッドは菓子職人でもケーキを作るのが特別好きな訳でもない。
料理の延長で喜ぶ相手(主にヴィオラ)がいるので作っているだけだ。
「俺の得意なケーキって…?」
「デイビッド様のケーキはどれも最高に美味しくて素敵ですよ?」
「ままのけーち!ライラしゅき!」
「う~~~ん……あ、そうだ!」
デイビッドは何か思いつくと、ヴィオラとライラを呼んで3人でこそこそ話をし始めた。
大きな砂時計の砂が残り僅かとなり、あわやひと掴み程の量になった時、ようやくデイビッドのケーキが完成し、他の2チームの隣に並べられた。
「間に合ったぁ!」
「ギリギリだったな…」
「けーち!ライラのけーち!」
「採点が終わったらな?」
「ぶぅぅ…」
ケーキを持って行かれてしまい、文句を言うライラは、またバスケットから自分のオヤツを取り出してかじっていた。
「それでは時間前ですが、3人分のケーキが完成しましたのでこれより審査に入ります、まずはマダム・ネリーのカトルカールから!」
マダムのレシピはケーキの基本を抑えた伝統菓子。
とてもシンプルなバターケーキだ。
そのため3人のケーキは形も大きさも見た目がほとんど同じ。
だからこそ誤魔化しの効かないケーキなのだ。
審査員の前に並べられた3切れのケーキ。
どの皿が一番美味しかったか、食べた後に皿を裏返すと、答えが出るそうだ。
ひとつ、ふたつ、みっつ…
小さな一切れを口にする審査員達を観客が羨ましそうに眺めている。
「これですわ!」
「ええ!間違いなくこのお皿のケーキですわ!」
「私はこの皿のケーキが口に合いましたな。」
「ふむ…同じ材料とレシピでもここまで個性が出るのは面白い!」
「皆さん、お決まりですか?では皿を裏返して下さい。」
審査員達は一斉に皿をひっくり返し、客席に見えるように掲げた。
皿の裏に書かれていたのはアルファベット。
D、D、D、D、R、R、D、R…
「結果が出ました!ロダンチームに3点!デイビッドさんに5点!」
スウィーティオの“S”は無く、ここでのポイントは0点となる。
「バターと卵の風味が少しも損なうことなく、お互いを高め合っていますわ!」
「口の中でもたつかず、儚く消えて行く味わい、全てが調和した素晴らしいケーキですわ!」
「外はしっかりと焼かれているのに、中は驚く程しっとりとして、少しもしつこく無い。これがお茶の時間に出るなら、私は喜んで残業を引き受けるぞ?!」
「大変美味しいケーキですね…(しまった!食べ慣れ過ぎて驚きが無い!!逆に他のケーキが霞んで、むしろ驚きました!)」
審査員の絶賛を受けたケーキは、あっという間になくなり、審査員達に紅茶が出されて次の審査の支度に入る。
「ま…まぁ、僕のコンセプトとはかけ離れたレシピだしね。ボクはもっと美しいケーキの方が得意なんだ!」
アンドレは悔し紛れに言い訳をしていたが、基本の基礎となるケーキで誰からも評価されないというのは大失点だと気がついているのだろうか?
「それではふたつ目の採点に入ります!その前に、各ケーキの詳細をお聞きしてみましょう。」
そう言うと、マイクを持った司会者が各チームを回り始めた。
「まずは一番にケーキを仕上げたロダンの皆様にお聞きします。このケーキに作るに至った理由はなんですか?」
「このケーキは、戦前流行したブーケスタイルの中でも、先代陛下の婚姻にも出された花嫁のためのケーキです!結ばれる2人に幸せになって欲しいと願いを込めて、格式と伝統を重視し、贈る相手を思って作りました。」
やり遂げた、と言う顔でロダンのパティシエ達が頷いている。
「スウィーティオもウェディングケーキをお作りになったのですね。こちらはとても鮮やかで見栄えがしますね。」
「当然、ケーキなんだから美しくなければ!花嫁に捧げる花束をイメージしたんだ。昔はケーキの背が高いほど喜ばれた。こぼれ落ちるほどの愛と情熱を詰め込んだ傑作だ!もちろん、見た目だけじゃなくて味も最高だよ?」
歓声を受けながら2組のケーキが前に出されると、残ったデイビッドのケーキは更に貧相に見えた。
「こちらは…ウェディングケーキではないのですか?」
「一応花嫁にって事で作ったけど…解釈違い…かなと…」
「解釈違い?」
「男が作ってる気がしたんで…」
「メルバは女性ですよ?」
「その主人公に贈るために作られたもんじゃないのか?」
「…なるほど!メルバに贈るためのケーキでしたか!それにしてもシンプルですね。」
「男が1人で作りゃこんなもんだろ。」
「男性が登場するのですか?」
「いや…そこは俺の勝手な想像だな…」
冊子には、秋の日に庭先の木々を見上げる描写から、ケーキを作り、花嫁の元まで運ぶところまでが書かれている。
デイビッドは何故、作り手を男性と思ったのだろうか?
「男の人が作ったケーキなんですか?」
「たぶん…そう思いこんでたから他に言いようがねぇなぁ…でも、栗の木を見て相手のために皮を剥いてやりたいって書いてあるんだよ。栗の皮剥きは重労働で、熟練者でも指を痛める。だから、配偶者や婚約者の為に栗の皮を剥く男は周りから羨ましがられるんだ。」
「へぇぇ…」
「あとは…なんか甘いものは作り慣れてない感じがした。主人公は何でも作れるから違う。こいつは主人公を一番に見てる人物だ。って事は男かなぁ…と…」
(なんだ…ちゃんと物語にも共感できるのね。)
劇場では何がいいのかわからないなどと言っていたが、きちんと物語の登場人物の気持ちにも気付けるようだ。
ヴィオラは、少し嬉しくなって片付けをするデイビッドの背中を見つめていた。
バターをふんだんに使い、卵は卵黄のみを混ぜて焼き上げ、クリームも何も付けずに粉砂糖を掛けただけのごくシンプルなもの。
マダム・ネリーの原点と言っても過言ではない、昔から伝わる有名なレシピ。
同じ材料と同じレシピで、果たして違いは出るのだろうか?
ひとつ目を焼いている間に次のケーキにも取り掛かる。
冊子を何度も読んでケーキ以外の描写から背景と材料を割り出すと、用意された食材の中からプラムを選んで切っていった。
少し重ための生地を天板にたっぷり焼き上げたら、角と膨らんだ突起の部分を切り落とし、冷ます間に切れ端をヴィオラとライラに味見させる。
「どうだ?」
「おいしー!」
「しっとりふわふわ!まだ温かい!」
焼けるまでにクリームを泡立て、小鍋で煮ておいたジャムを冷ましながら、今度はシロップに香りをつけていく。
「あむあむ!」
「このプラム、甘いですね!」
「そう、甘いから使えなかったんだ。」
「甘いと使えないんですか?!」
「果物は加熱すると甘味が増すから、料理にはもっと若くて酸味のあるやつがいい。それ食っちまってくれ。」
「んふふ~私プラム大好き!」
「もうすぐ時期も終わるから、その前にどっか採りに行ってみるかぁ。」
「そうしたらパイにして下さい!サクサクのパイにジューシーなプラムととろけたカスタード!はぁ…想像しただけで美味しそう…」
「そうだなぁ。」
何気ない話をしながら、冷めた生地にジャムを塗り、バタークリームを乗せて挟むと、その上にはシロップを染み込ませ、皮を剥いてワインで軽く煮たプラムを並べ、またクリームで挟んでいく。
「とぅいーむ!」
「こーら!触っちゃダメだぞ?」
「とぅいーむぅ…」
「余ったのやるから、ちょっと待ってろよ?」
ライラにスプーンを渡し、余ったクリームをさっきのケーキの切りクズにつけて皿に盛ってやると、鼻の頭までクリームまみれにして食べている。
ヴィオラまで一緒になって…
やがて口が甘くなったライラは、観客の目などお構い無しに持って来たバスケットのサンドイッチをモリモリ食べ出した。
(ねぇリナ、審査員じゃなくて助手として立候補した方が良かったかしら…)
(そうね、ルナ…私、あのおチビちゃんと入れ替わりたいわ…)
審査員達は、そのやり取りのすべてを見逃すことなく見つめていた。
手元に集中し、無駄な動きひとつなく一心不乱動くロダンと、兵隊の様に統率の取れた完全分担の作業を黙々とこなし、指揮の通りに動くスウィーティオ。
2チームは砂時計の砂がだいぶ残っている内に、ほとんどの作業を終わらせてしまった。
「皆お疲れ様!後は最後の飾り付けだけよ?!」
「これなら勝てる…最高のケーキになりましたね!?」
ロダンは早くもチームの固い絆とそれぞれの得意分野を生かした団結力を見せつけ、場を盛り上げた。
スウィーティオも負けておらず、優男が仕上げを終わらせ客席に向き直る。
「完璧だ!惚れ惚れする程美しいケーキが完成したよ?どうです?皆さん!ご覧下さい、この素晴らしい“ウェディングケーキ”を!!」
2チームの前にそびえているのは、大きな数段重ねのウェディングケーキ。
これはふたつ目の出題、小説に出て来る花嫁に向けたケーキなのだそう…
ロダンはクラシカルな、真っ白なシュガークラフトとクリームの薔薇の花を散らした伝統的な仕様。
対するスウィーティオは、果物と食用花で鮮やかに仕上げ、彫刻の様に美しい模様で飾られた華やかなタワー型。
「なんかあっちはスゴいの作ってますよ!?」
「な!?流石にああいうのは時間かかるし無理だなぁ。」
「デイビッド様のケーキは?!」
「これ。」
デイビッドの手には、昔ながらのどっしり重めの四角いプレートケーキに、ジャムとコンポートを挟み、アイシングの上にプラムの薄切りで作った花を飾っただけのごくシンプルなもの。
完成品を台に置くと、会場がどよめいた。
「何あれ?田舎のおばあちゃんが作るケーキみたい!」
「時間をかけた割につまんないのが出てきたな?」
「隣と比べちゃかわいそうだけど、あれは食べる気にならないわ…」
好き勝手言う見物人を他所に、早くも審査員達はそわそわし始めた。
周囲のことは気にせず、デイビッドは最後のケーキに取り掛かった。
テーマは一番得意なケーキ…
(得意…?)
そもそもデイビッドは菓子職人でもケーキを作るのが特別好きな訳でもない。
料理の延長で喜ぶ相手(主にヴィオラ)がいるので作っているだけだ。
「俺の得意なケーキって…?」
「デイビッド様のケーキはどれも最高に美味しくて素敵ですよ?」
「ままのけーち!ライラしゅき!」
「う~~~ん……あ、そうだ!」
デイビッドは何か思いつくと、ヴィオラとライラを呼んで3人でこそこそ話をし始めた。
大きな砂時計の砂が残り僅かとなり、あわやひと掴み程の量になった時、ようやくデイビッドのケーキが完成し、他の2チームの隣に並べられた。
「間に合ったぁ!」
「ギリギリだったな…」
「けーち!ライラのけーち!」
「採点が終わったらな?」
「ぶぅぅ…」
ケーキを持って行かれてしまい、文句を言うライラは、またバスケットから自分のオヤツを取り出してかじっていた。
「それでは時間前ですが、3人分のケーキが完成しましたのでこれより審査に入ります、まずはマダム・ネリーのカトルカールから!」
マダムのレシピはケーキの基本を抑えた伝統菓子。
とてもシンプルなバターケーキだ。
そのため3人のケーキは形も大きさも見た目がほとんど同じ。
だからこそ誤魔化しの効かないケーキなのだ。
審査員の前に並べられた3切れのケーキ。
どの皿が一番美味しかったか、食べた後に皿を裏返すと、答えが出るそうだ。
ひとつ、ふたつ、みっつ…
小さな一切れを口にする審査員達を観客が羨ましそうに眺めている。
「これですわ!」
「ええ!間違いなくこのお皿のケーキですわ!」
「私はこの皿のケーキが口に合いましたな。」
「ふむ…同じ材料とレシピでもここまで個性が出るのは面白い!」
「皆さん、お決まりですか?では皿を裏返して下さい。」
審査員達は一斉に皿をひっくり返し、客席に見えるように掲げた。
皿の裏に書かれていたのはアルファベット。
D、D、D、D、R、R、D、R…
「結果が出ました!ロダンチームに3点!デイビッドさんに5点!」
スウィーティオの“S”は無く、ここでのポイントは0点となる。
「バターと卵の風味が少しも損なうことなく、お互いを高め合っていますわ!」
「口の中でもたつかず、儚く消えて行く味わい、全てが調和した素晴らしいケーキですわ!」
「外はしっかりと焼かれているのに、中は驚く程しっとりとして、少しもしつこく無い。これがお茶の時間に出るなら、私は喜んで残業を引き受けるぞ?!」
「大変美味しいケーキですね…(しまった!食べ慣れ過ぎて驚きが無い!!逆に他のケーキが霞んで、むしろ驚きました!)」
審査員の絶賛を受けたケーキは、あっという間になくなり、審査員達に紅茶が出されて次の審査の支度に入る。
「ま…まぁ、僕のコンセプトとはかけ離れたレシピだしね。ボクはもっと美しいケーキの方が得意なんだ!」
アンドレは悔し紛れに言い訳をしていたが、基本の基礎となるケーキで誰からも評価されないというのは大失点だと気がついているのだろうか?
「それではふたつ目の採点に入ります!その前に、各ケーキの詳細をお聞きしてみましょう。」
そう言うと、マイクを持った司会者が各チームを回り始めた。
「まずは一番にケーキを仕上げたロダンの皆様にお聞きします。このケーキに作るに至った理由はなんですか?」
「このケーキは、戦前流行したブーケスタイルの中でも、先代陛下の婚姻にも出された花嫁のためのケーキです!結ばれる2人に幸せになって欲しいと願いを込めて、格式と伝統を重視し、贈る相手を思って作りました。」
やり遂げた、と言う顔でロダンのパティシエ達が頷いている。
「スウィーティオもウェディングケーキをお作りになったのですね。こちらはとても鮮やかで見栄えがしますね。」
「当然、ケーキなんだから美しくなければ!花嫁に捧げる花束をイメージしたんだ。昔はケーキの背が高いほど喜ばれた。こぼれ落ちるほどの愛と情熱を詰め込んだ傑作だ!もちろん、見た目だけじゃなくて味も最高だよ?」
歓声を受けながら2組のケーキが前に出されると、残ったデイビッドのケーキは更に貧相に見えた。
「こちらは…ウェディングケーキではないのですか?」
「一応花嫁にって事で作ったけど…解釈違い…かなと…」
「解釈違い?」
「男が作ってる気がしたんで…」
「メルバは女性ですよ?」
「その主人公に贈るために作られたもんじゃないのか?」
「…なるほど!メルバに贈るためのケーキでしたか!それにしてもシンプルですね。」
「男が1人で作りゃこんなもんだろ。」
「男性が登場するのですか?」
「いや…そこは俺の勝手な想像だな…」
冊子には、秋の日に庭先の木々を見上げる描写から、ケーキを作り、花嫁の元まで運ぶところまでが書かれている。
デイビッドは何故、作り手を男性と思ったのだろうか?
「男の人が作ったケーキなんですか?」
「たぶん…そう思いこんでたから他に言いようがねぇなぁ…でも、栗の木を見て相手のために皮を剥いてやりたいって書いてあるんだよ。栗の皮剥きは重労働で、熟練者でも指を痛める。だから、配偶者や婚約者の為に栗の皮を剥く男は周りから羨ましがられるんだ。」
「へぇぇ…」
「あとは…なんか甘いものは作り慣れてない感じがした。主人公は何でも作れるから違う。こいつは主人公を一番に見てる人物だ。って事は男かなぁ…と…」
(なんだ…ちゃんと物語にも共感できるのね。)
劇場では何がいいのかわからないなどと言っていたが、きちんと物語の登場人物の気持ちにも気付けるようだ。
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