黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

姫の憂鬱

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「辺境地にはノエルのお祭りは無いんですか?」
「無いことはないんだが…全然別の祭になってて、雰囲気も全く違うからなぁ。」
「ノエルより、エトワールの方が多いかも知れませんね。丁度この時期から年が明けるまでの間、星とそれにまつわる精霊や神様を迎えて、一年の感謝と新しい年の幸福を祈るお祭ですよ!」
「家によって飾り付けが違ってな。」
「どの家も迎えたい精霊や神様がバラバラなので、玄関にそれぞれにあったイメージの飾り付けをするんです。見てて面白いですよ!?」

ヴィオラは知らない文化の話を聞いてわくわくした。

「エトワールは話にしか聞いたことがないですわね。星の12夜…でしたかしら?」
「そうです!王都近郊は教会の影響力が強いですから、あんまりやる所がないでしょう。」
「初めて聞きました!きっと素敵なお祭なんでしょうね!?いつか見に行けますか…?」
「そうだなぁ…」

ヴィオラとシェルリアーナを寮へ見送り、デイビッドとエリックも研究室へ戻った。


「どうですか!?この新しいソファ!以前の物より大きくて、どこにでも寝っ転がれちゃうこの広さ!」
「わかったわかった、もう好きにしろ!」
「お布団もふわふわの温かいやつに変えたんですよ!あとはコレ!!おニューの部屋着!ついに新調しちゃいました!」
「こんなんどこで誰が作ってんだ…?」
「はい、こっちデイビッド様の分!」
「やっぱそうきたか!?」
「着心地最高なんですってば!」
「知るか!いらん!!」

服を座面のはるか奥に放り込み封印すると、デイビッドはさっさと寝てしまった。


きらびやかな街の灯りは明日の朝まで消えることがない。
そんな城下の光を見つめながら、王宮のアリスティアは深い深いため息をついた。

「はぁーーー…なぜ私はここにいるのでしょう…」
「我慢しろアリスティア。デビュタントの打ち合わせが急遽入ったんだ、仕方ないだろう?!」

アリスティアはあんなに楽しみにしていた学園のノエルパーティーにも、今日の祭にも参加できず、王宮の談話室で兄と向かい合っていた…

「見たかったです…友人達のダンスも、ノエルのお祭も…」
「もう終わってしまったんだ、諦めてくれ。代わりに最高のパーティーを用意するから…」
「ボンボンを寮に置いてきてしまったんです…枕元に置いて毎日ひと粒ずつ大事に食べてたのに…」
「ボンボンて…まさか例の酒入りのヤツじゃないだろうな?!」
「果汁入りのボンボンですよ。目を閉じてどの味が出るか運試しするのが朝の楽しみだったんです…代わりを用意させたけど…全然違う…」

アリスティアはデイビッドに送らせたボンボンをそれは大事に食べていた。
代わりと言われたボンボンも決して不味い訳では無い。
ただのだ。

「そう言えば、昨夜幸せな夢を見ました。」
「ほう、どんな?」
「お兄様が失脚して…」
「初っ端から穏やかじゃないな!?」
「私がいきなり王女になるんです。でも上手く行かなくて…」
「それはそうなるだろう…」
「デイビッド様を相談役に据えて、毎日美味しい物を食べたら全て上手くいく夢でした。」
「後半ずいぶんブッ飛んだな!?どんな夢だ??」
「ハァ………またあのシフォンケーキが食べたい…」

お土産に貰った紅茶味のシフォンケーキを料理人達に再現させたが、どうもあの味にはならなかった。

「確かにアレは最高だったなぁ!ふわふわで口溶けも良くて甘さも絶妙だった。一切れ摘んだだけで丸一日口聞いて貰えなくなったのには驚いたが…」
「私の貴重な癒しを横から掻っ攫おうとなさるからです!」
「あれもアイツが取り寄せた物なんだろう?食べたければまた手に入れればいい。」
「王宮から指示を出して、あちらも忙しい中、作って寄越せと仰るおつもりですか?それは流石に恥ですね。」
「待て待て、作るのは職人だろう?店を訪ねれば良いだけじゃないのか?」
「職人…確かに職人技かも知れませんね…いっそ専属の職人にしてしまえたらどんなに幸せでしょうね…」
「まさかとは思うが…アレを作ったのは…」
「デイビッド様に決まってるじゃないですか。」
「はぁ?知らないぞそんなの?!アイツ料理が出来るのか?!」
「なぁんだ…なーーんにもご存じないんですのね、お兄様って……」

謎の敗北感に襲われたアーネストは、信じられないという顔で妹を凝視した。

「ヴィオラ様が羨ましい…毎日美味しい物に囲まれて、食べたい物何でも直ぐに作って貰えて…」
「ヴィオラ?ヴィオラって、あの…例のデイビッドと婚約した令嬢の事か?!貴族院から婚約受領の書面が送られてきて以降何の情報も入って来ないんだ…前回アイツに会った時、珍しく指輪を着けて来てたから、色々聞こうと思ってて何も聞き出せなかった…」
「お兄様って本当にあの方のご友人なのですか?お兄様の一方通行ではなくて?」
「10歳の頃から剣に勉学に交流を重ねて来たんだ!…友人枠には違いないはずだ!!」
「ただ権力目当てで、体の良い仕事の押し付け先にされただけでは?」
「アリス!?兄の友人関係を否定するのはヤメなさい!」
「友達少ないですものね、お兄様…」
「アリス!!!」

デビュタントまであと4日。
アリスティアは鬱々とした気持ちで日々を過すのだった。


学園の冬休みは一月と短い。
寒さも厳しく移動も大変なので、夏よりも寮に残る生徒が多い。
青い廊下側は、魔石や魔道具による暖房設備が整い、部屋の外まで温かいが、緑の廊下は冷え切って窓が凍りついている事もある。

「ストーブ温か~い!」
「当たるのはいいが鍋には触るなよ?!中身はまだ試験中の材料だからな?!言ったぞ俺は?!腹壊しても知らねぇからな?!」
「誰も食べませんて心配症な…わぁ!美味しそ~!」
「食うなよ?!」

デイビッドはそう言って上着を着て外に出ると、ひたすら何のかの作業をし始めた。
火にも当たらず、日陰の一番寒い所に座って何か作っているようだ。

「わぁ温かい!色んな良い匂いがしてますね!?」

そのうちヴィオラがやって来て部屋の中を見回し、あちこちで火に掛かっている鍋を覗き込んだ。

「ブラウンシチューに、こっちはお団子のスープ!そっちのストーブのは何ですか?」
「新作だからまだ食べちゃだめだそうですよ?でも臓物系の料理みたいだから、女性の口に合うかどうか…」
「あら、私ハギスもトリッパも好きですよ?ところでデイビッド様は?」
「この寒いのに外でなんかやってんですよ。」
「ちょっと様子見てきます!」

ヴィオラが外に出ると、丁度デイビッドが立ち上がりボールをいくつも運んで来る所だった。

「来てたのか!外寒いだろ?」
「それなんですか?!」
「なんだと思う?」

テーブルに並べられたボールの中には、固く練り上げられたクリームがどっさり入っていた。

「アイスクリーム!!」
「こればっかりは冬にしか作れねぇんだよ。」

魔道具を使って作る方法が主流になりつつある昨今、デイビッドは昔ながらのやり方でしか氷を扱う事ができないため、どうしてもアイスは冬の物になってしまう。
ボールの中に砕いたクッキーやマシュマロやチョコチップをドサッと加え、更に混ぜていく。
何も混ぜず、そのままの白いアイスを見て、ヴィオラは後ろから漂って来る甘い香りに、この後何が起こるか気が付いてしまった。
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