いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ

文字の大きさ
38 / 42

逆上

しおりを挟む
 フィレンツィオは舞台役者のような大仰な素振りで腕を払ってさけぶ。


「俺はアムネジアを助けようと駆け寄った! 生徒達は俺を見て慌ててナイフを放り捨てたよ。王子である俺を敵に回したくなかったんだろうな。だが、エルメスは違った!」


 汗を額に滲ませた迫真のその表情は、見る者にそれが真実であるかのように錯覚させた。


「焦ったあの女はあろうことか! ネェロ家子飼いの暗殺者を使って、俺を含めたその場にいる全員の口封じを測ったのだ! 自分の悪行が露見するのを恐れてな!」


 生徒達が再びざわめいた。
 まさか自分達の友人の誰かが巻き込まれたのではないかと。


「俺は必死に剣を振るい、辛くも暗殺者達を返り討ちにできたが……女生徒達は抵抗することもできずに殺された。ホールを出て東の方にある一番奥の空き部屋に行ってみるが良い。そこの廊下や部屋の中には、今も生徒達の無残な亡骸が残されているだろう。ネェロ家の家紋が刻まれた剣を持つ、暗殺者共の死体と共にな!」


 フィレンツィオが鞘から刃こぼれした剣を抜いた。
 そこには今付着したばかりのまだ乾いていない血がこびりついている。
 それを見て、生徒達の親である貴族達もいよいよ顔を青ざめさせた。

 馬鹿王子で有名なフィレンツィオが狂言でも言い出したのかと楽観視していたのに、突然話が血生臭くなってきたからである。
 フィレンツィオは剣を床に突き立てて言った。


「暗殺者を切り伏せた後、俺はエルメスに剣を突きつけた。愛するアムネジアを殺そうとし、女生徒達を扇動した挙句、自分の保身のためだけに殺したエルメスを、俺は許せなかったからだ!」


 フィレンツィオがぎり、と歯を噛み締める。
 そしてガストンを指差してさけんだ。


「焦ったエルメスは命乞いをしながら俺に言った! すべてはネェロ公爵、貴方の差し金だったと! 自分は貴方に言われてアムネジアを虐待し、自殺まで追い込むように指示されていたのだと! アムネジアが持つ真実の瞳によって、いつか自分の悪事が表沙汰になることを恐れてな!」


 貴族達が顔をしかめてガストンの周囲から後ずさる。
 フィレンツィオの言うことをすべて真に受けたわけではない。
 ただ彼らは巻き込まれたくなかっただけだ。
 この降って湧いたような断罪劇に。


「エルメスが勝手にやったことだ、などという言い訳で逃げられると思うなよ! この国の貴族ならば誰しもが知っている! 貴方がいたる所に鳩という名のスパイをばら撒き、常に情報を集めていることをな! そんな貴方が自分の娘であるエルメスのやっていたことを知らぬわけがない! 黒幕は貴方だ、ガストン・ヴィラ・ネェロ!」


 ガストンに背を向け、フィレンツィオは両手を広げた。
 その場にいる全員を見回したフィレンツィオは、声高らかに宣言する。


「父上、貴族諸侯! そしてこの場にいるすべての者達よ! 今この場を持って、決を取りたい! 我が婚約者を殺害しようとしただけでなく! 悪徳の限りを尽くし! 数えきれないほどの者を卑劣に殺めた邪悪な一族、ネェロ家を断罪する決を! さあ、今こそ正義の鉄槌をこの悪人に――」


 フィレンツィオの言葉をさえぎるように、彼の傍のテーブルが風の刃によって粉々に砕け散った。
 目を見開いて固まったフィレンツィオは、恐る恐るガストンに振り返る。
 そこには片手を前方に突き出し、魔法を放ったガストンが、怒りの形相で立っていた。


「黙りおれ、小童が……!」


 あまりの怒りに肩を震わせながら、ガストンが足を踏み出す。
 ガストンの魔法の力を見たフィレンツィオは、先程までの威勢はどこへやら口をモゴモゴさせて後ずさる。
 それも仕方ない。なぜなら先程までの演説はすべてアムネジアによって言わされていたものだったからだ。

 しかしそんなことは知らないガストンは、フィレンツィオを憎しみの目で睨みつけながら皆の前に歩み出る。


「先程からこちらが黙って聞いていれば思い上がりおって……エルメスがそこの小娘の殺人を試みた? 暗殺者を使って口封じ? 極めつけはこの私がすべての黒幕だから、断罪するだと?」


 目を大きく見開いてガストンがさけんだ。


「何一つ確固たる証拠もなく! 戯言ばかり口にしおって! ふざけるのも大概にせい! 跳ねっ返りのガキ共がぁッ!」

「ひいっ!?」


 大音声に空気が震えた。
 あまりの迫力にフィレンツィオが腰を抜かしてその場にへたり込む。
 周囲の生徒達も思わず顔を引き攣らせて、後ずさった。
 ガストンはそんな生徒達の中で手近な男子を睨みつける。

 睨まれた生徒はビクっと身体を震わせて視線をそらした。
 しかしガストンはそれに構わず、生徒に歩み寄ると恫喝するように口を開く。


「……貴様。エルメスが虐待を行っていたというのは本当か?」

「えっ……その、ぼ、僕は……」

「本当かと聞いている! 答えんか!」

「し、してませんっ! え、エルメス様は何もしていませんっ!」


 生徒が涙目でさけぶとガストンは満足したようにうなずき視線を外した。
 そして次はその隣にいた女生徒を睨みつけて怒鳴る。


「エルメスにアムネジアを虐待するように指示を受けたか?」

「ひっ!? う、うけ、うけて……」

「はっきり答えんか!」

「うけてまひぇん……うぐっ、ひぐっ……」


 女生徒がへたり込んで号泣しながら答えた。
 ガストンはさらに次へ次へと、生徒達全員に同じような質問を繰り返していく。
 エルメスは当事者だったのか。
 エルメスに命令を受けたのかと。

 歳若く生温い環境で育ってきた貴族の生徒達は、ガストンの剣幕とその背景にあるネェロ家の権力に怯えて、皆がエルメスの関与を否定した。
 ひとしきり生徒達への恫喝を終えたガストンは、アムネジアに向き直るとニヤけた表情で口を開く。


「証人は誰一人おらんようだが? あてが外れたな、小娘」


 その言葉にアムネジアは、無表情だった顔の口元をわずかに吊り上げて言った。


「……さて、それはどうでしょう?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

処理中です...