スウィートカース(Ⅹ):カラミティハニーズ・ヴァルキリーリダイブ

湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)

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第四話「銀河」

「銀河」(6)

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「〝石の都ルルイエ〟」

 ジュズの発射した光線は、不自然な軌道を描いて拡散した。

 ガードする腕の隙間から、そっと顔を上げたのはフィアだ。

 見れば、敵勢の前にひとりの女子高生が立ち塞がっている。

 なんと、久灯瑠璃絵くとうるりえではないか。

 封印されていた〝断罪の書リブレ・ダムナトス〟から脱出し、ルリエはふたたび現世に舞い戻った。颯爽と現れた彼女の超重力〝石の都ルルイエ〟が、ジュズどもの攻撃を防いだのだ。呪力の片手を怪物の群れにかざしたまま、ルリエは背後のフィアをねぎらった。

「よく持ちこたえたわ。あなたはもう、ひとりじゃない」

 ルリエの台詞にあわせ、赤務あかむ市の大空にかんだかい飛翔音が響き渡った。

 呪力の飛行機雲を残す銀翼の影は、ふたつある。魔法少女が変形した白と黒の戦闘機だった。熱波の白光を放つのは〝翼ある貴婦人ヴァイアクヘイ伊捨星歌いすてほしか、空間を殺すどす黒い反動で飛ぶのは〝蜘蛛の騎士メーディン江藤詩鶴えとうしづるだ。

「いっくぜえぇッ! 〝翼ある貴婦人ヴァイアクヘイ〟!」

「外の空気は久々や! 〝蜘蛛の騎士メーディン〟!」

 にわかに接近してきた飛行型のジュズどもを、ホシカとシヅルは迅速に迎え討った。急角度で何度も宙を曲がりつつ、ふたりは次々と敵機を撃墜していく。

 一方、ルリエのあちこちから伸びたのは、奇妙な太い触手だった。頭足類じみた吸盤の目立つそれらは、ホーリーに倒された男たちにするりと巻きつく。救助した大勢の味方たちを触手で抱え、ルリエは自衛隊の控える後方に下がった。

 ただ、それを黙って見過ごすジュズではない。逃げるルリエを追い、十体のジュズが軍隊から飛び出してくる。

 フィアが助けに入るより早く、ジュズどもの狭間を駆け抜けたのは一陣の旋風だ。ワイングラスの角と角をぶつけるようなこだま。揃って動くのをやめたジュズの背後で、その女子高生は砂塵を噴いて急停止した。ひとつ回転した片刃の長刀〝闇の彷徨者アズラット〟を、静かに鞘へ納めてつぶやく。

「〝深海層しんかいそう〟」

 鍔鳴りが響くや、斬り裂かれた十体のジュズは斜めにずれて地面に落ちた。

 マタドールシステム・タイプSの黒野美湖くろのみこだ。

 居合斬りの発射体勢のまま、ミコはフィアへうながした。

「ホーリーを目指してください、一直線に。突破口は私たちが開きます」

「了解! ありがとね!」

 礼を残し、フィアは地を蹴った。

 同時に、ミコを追い抜いて疾走したのはフィアだけではない。フィアと肩を並べて駆けるのは、片目を眼帯で封じた女子高生だ。専用武装のタイプ02オーツーを尖ったハイヒールに変形させ、たちまち爪先に履く。

 逆吸血鬼ザトレータのエリザベート・クタートだった。

「エドを傷つけたな、ホーリー! うぬらの血の味を確かめる!」

 素早く跳躍するなり、エリーはジュズどものど真ん中に降り立った。ずらした眼帯からハイヒールに流されたエリーの血液は、瞬時に凝結。爆発した地面から外側へ、人食いザメの背びれじみた赤い刃が無数に生える。

血晶呪ナイハーゴ血濤フラン〟!」

 エリーを中心に波紋を広げた血の歯列は、あたりのジュズを続けざまに断ち割った。

 エリーに背中を任せて走るフィアを、幾筋ものジュズの眼光が襲う。しかし切れ味抜群のビーム掃射は、突如として降り注いだ岩石の雨に遮られて届かない。それはただの固体ではなく、〝過去、ここに落ちた隕石の記憶〟そのものだ。

 猛スピードの流星群に混じり、猫のように身を丸めて飛来した女子高生がいる。

 結果使いエフェクター井踊静良いおどせらだった。

「よくもソーマを! 〝輝く追跡者ヴェディオヴィス〟!」

 セラの鮮やかな着地とともに、背後のジュズどもを貫いたのはおびただしい隕石だ。撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ。結果呪エフェクトの火の玉に大勢のジュズは薙ぎ払われ、フィアの進路は開けた。球状の巨人どもの向こうには、かすかにホーリーの姿が見え隠れしている。

 腕を払い、ホーリーは怒罵した。

「なにをしている!」

 フィアめがけて振り下ろされたのは、巨大な甲殻の脚だった。敵陣の主、ナクアトラスの超重量の一撃だ。高層ビルが落ちてくるようなその圧迫感は、もろに浴びればアンドロイドとて無事ではすまない。

「〝冥河の戸口ゲート・オブ・ステュクス〟!」

 ナクアトラスの踏みつけが直撃し、道路はクレバスさながらに深く陥没した。

 ただしナクアトラスの足裏に、フィアは影も形もない。そう、影だ。影から影へテレポートしたフィアは、その女子高生に横抱きにされて空中へ回避している。

 フィアの窮地を救ったのは、染夜名琴しみやなことだった。メガネの奥の鋭い瞳をしかめ、毒づく。

「重たいぞ、おまえ?」

 眉をひそめ、フィアは言い返した。

「当たり前じゃん、ほとんど機械なんだから」

「なら、ここから落ちても平気だな。放したら合図するから、走れ」

 渾身の力で、ナコトはフィアをホーリーの方角へ投げ飛ばした。投げ飛ばして一回転したその両腕に、大型の二挺拳銃が現れる。ナクアトラスの顔面をまっすぐ狙い、双方の銃口に集束したのは激しい呪力の光圧だ。

「〝黄衣の剣壁ウォール・オブ・エリュクス〟!」

 轟音、轟音、轟音……

 着弾の連続に仰け反ったものの、ナクアトラスのダメージは浅い。

 だが、そこに追い討ちをかける者たちがいた。

「ルルイエの館にて、死せるクトゥルフ、夢見るままに待ちいたり……魔人魚クトゥルフ、全開」

 途方もない呪力の輝きを放ち、ルリエは見る間に巨大化した。

 交差点を陰らせる死衣じみた双翼、強靭な鱗に覆われた隆々たる体表、そして顎に蠢く無数の触腕……ルリエが真の正体である悪夢の大怪物に変身したのだ。その体高はゆうに五十メートルを超える。だがそれでも、ナクアトラスの質量の半分にしか満たない。では残りの半分はどう穴埋めを?

 答えはその隣、長刀を天に掲げたミコにあった。

「拠点防衛型/制圧型機動装甲:マタドールシステム・タイプX〝冷海の鐘コールドマーリー〟、合体」

 ミコの切っ先をアンテナ代わりにし、指示を受信した各装置は集まり始めた。

 あちらでは列車〝あさひ〟が線路を外れ、海岸からは客船〝ゆうやけ〟が飛び立ち、空からは航空機〝みかづき〟が落ちてくる。無人の乗り物たちは組織ファイアが擬装し、巧妙に街へ溶け込ませた特製の秘密兵器だ。複雑な変形を経て四肢や胴体になったそれらは、ミコを核として高速で合体。こちらも頭頂五十メートル以上の機械の巨人と化し、稲妻や蒸気をまとって道路に金属質の着陸を決める。

 五十メートル級の魔と鋼の巨人たち……ルリエとミコは、地響きをたてて全長百メートルのナクアトラスへ肉薄した。球形の大蜘蛛から放たれる膨大な熱線を、それぞれ跳んでしゃがんで回避する。

「いくわよ、ミコ!」

「はい、ルリエ!」

 勢いそのままに、ルリエとミコは背中合わせになった。呪力と電力をフル稼働。重なって放たれた二人の鉄拳は、ダブルパンチでナクアトラスに突き刺さっている。

 ジュズの攻勢はいつしか、半分近くにまで減っていた。

 八人揃ったカラミティハニーズは、ここまで強い。

「これが、作戦名オペレーション……」

 自衛隊の応急処置を受けつつ、その光景を遠目に眺めるのはメネスだった。不敵な微笑みを浮かべ、続きを告げる。

「オペレーション〝戦乙女の再降下ヴァルキリーリダイブ〟……」
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