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第一話「起動」
「起動」(10)
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動画をさかのぼるように、幻想的な異世界は後退していった。
景色はもとに戻り、場面はふたたびゲーム会社の倉庫内へ。
たちまち〝魔女の家〟の矢筒から引き抜いた三本の矢を、仮面の女はいっせいに弓で放っている。絶妙な角度に羽を調整された矢は、射手が演算したとおりの空気抵抗を活かして軌道を変化。それぞれトリッキーな方向から獲物を襲う風の牙を、ふつうの人間が回避しきることはまずできない。
ミコのまわりの闇を、光がなでた。地面に刺さって呪力の電光をちらつかせるのは、正確に打ち落とされた矢たちだ。横一直線に振りきられたミコの細腕の先、戻った主に拾われた鉄棒はいっそう冷え冷えと輝いている。
すかさず新たな矢をつがえ、弓使いはいまいましげに問うた。
「こうなることを組織は計算していたのか? 最初から全部?」
「いいえ。計算外だらけです。そして同時に」
そっけなく首を振りながら、ミコは鉄棒の先端を仮面の女へ向けた。
「同時に、私のこうむったダメージの大きさも計測不能。したがって、すべての武装の使用許可はおりています……痛かったですよ、さっきの矢は」
「人並みの痛覚を騙るか、人形ごときが!」
怨嗟をそのまま帯びて、矢は飛来した。
一閃したミコの鉄棒に触れたとたん、その矢がいきなり爆発したではないか。機械じかけの矢筒の中で、爆薬入りの矢尻に換装したのだ。こなごなに砕け散った鉄棒の破片を目のあたりにして、仮面の女は狂喜した。
「武器はもうない! ぼくの勝ちだ! これでご主人様に認めてもらえる!」
「〝闇の彷徨者〟3―0121号の損壊を確認しました。刀剣衛星〝ハイドラ〟へ申請します。予備武器の投下まで、およそ一秒」
とつぜん床に突き立った別の光条に、とどめの矢は弾かれた。
カラの弓をかまえたまま、おぞましげに半顔をゆがめたのは仮面の女だ。
「そんな……ご主人様、話がちがう。あれへのアクセスは、電子ウィルスが遮断したはずじゃないのか?」
倉庫の天井を突き破り、瞬時にミコの前に現れたのは新たな鉄棒だった。高度五百キロ超の大気圏外を旋回する〝ファイア〟の軍事衛星が、ここを狙って投下したのだ。とんでもないスピードで空気の摩擦をくぐり抜けてきた証拠に、鉄棒の表面はまだ赤く灼けて薄煙を漂わせている。
そんな代物をすみやかに手にとっておきながら、ミコは顔色ひとつ変えない。ただ、鉄棒を片方の腰へ引き寄せ、大きく膝を曲げて重心を落としただけだ。
異世界は、ありえない場所から、あらゆる角度から、そしてすぐそばから突如として現れる。そんな〝災害〟に対抗するため開発されたのが、この擬似的かつ強引な武装召喚システム……刀剣衛星だ。
鉄棒を中心として、ミコは電光にきらめいた。
猛烈な電力と呪力の触手になでられ、倉庫内のあらゆる電子機器はショートする。天井の照明も、片っ端から花火のようにまたたいては破裂した。ただごとではない。おそるべき高出力だ。ミコの機体に残されたエネルギーから考えて、タイプS専用の奥義が繰り出せるのはあと多分この一度きり。まばゆい稲妻の奔流は、音をたててミコへ集束していく。
発射態勢のまま、ミコは呪われた詠唱をつむいだ。
「電磁加速射出刀鞘〝闇の彷徨者〟起動。斬撃段階、ステージ(2)……」
こちらもコマ落としの素早さで弓矢をつがえ、仮面の女は叫んだ。
「くそおォォっっ!!」
「〝深海層〟」
ワイングラスを打ち合わせるような響きとともに、ミコは弓使いの背後に現れていた。
仮面の女と背中合わせに急停止したミコの手、横一閃に振り抜かれて輝くのは極薄の長刀だ。うしろの弓使いは動かない。まずは仮面の眼前で、射つ前に神速で爆弾の信管を斬られた矢が床へ落ちる。
ひとつ回転したミコの白刃は、鞘に納められて静かにその光を閉じていった。
「敵性反応の沈黙を確認……戦闘を終了します」
硬い鍔鳴りと同時に、仮面の女は腹から赤いものをしぶかせて倒れた。
景色はもとに戻り、場面はふたたびゲーム会社の倉庫内へ。
たちまち〝魔女の家〟の矢筒から引き抜いた三本の矢を、仮面の女はいっせいに弓で放っている。絶妙な角度に羽を調整された矢は、射手が演算したとおりの空気抵抗を活かして軌道を変化。それぞれトリッキーな方向から獲物を襲う風の牙を、ふつうの人間が回避しきることはまずできない。
ミコのまわりの闇を、光がなでた。地面に刺さって呪力の電光をちらつかせるのは、正確に打ち落とされた矢たちだ。横一直線に振りきられたミコの細腕の先、戻った主に拾われた鉄棒はいっそう冷え冷えと輝いている。
すかさず新たな矢をつがえ、弓使いはいまいましげに問うた。
「こうなることを組織は計算していたのか? 最初から全部?」
「いいえ。計算外だらけです。そして同時に」
そっけなく首を振りながら、ミコは鉄棒の先端を仮面の女へ向けた。
「同時に、私のこうむったダメージの大きさも計測不能。したがって、すべての武装の使用許可はおりています……痛かったですよ、さっきの矢は」
「人並みの痛覚を騙るか、人形ごときが!」
怨嗟をそのまま帯びて、矢は飛来した。
一閃したミコの鉄棒に触れたとたん、その矢がいきなり爆発したではないか。機械じかけの矢筒の中で、爆薬入りの矢尻に換装したのだ。こなごなに砕け散った鉄棒の破片を目のあたりにして、仮面の女は狂喜した。
「武器はもうない! ぼくの勝ちだ! これでご主人様に認めてもらえる!」
「〝闇の彷徨者〟3―0121号の損壊を確認しました。刀剣衛星〝ハイドラ〟へ申請します。予備武器の投下まで、およそ一秒」
とつぜん床に突き立った別の光条に、とどめの矢は弾かれた。
カラの弓をかまえたまま、おぞましげに半顔をゆがめたのは仮面の女だ。
「そんな……ご主人様、話がちがう。あれへのアクセスは、電子ウィルスが遮断したはずじゃないのか?」
倉庫の天井を突き破り、瞬時にミコの前に現れたのは新たな鉄棒だった。高度五百キロ超の大気圏外を旋回する〝ファイア〟の軍事衛星が、ここを狙って投下したのだ。とんでもないスピードで空気の摩擦をくぐり抜けてきた証拠に、鉄棒の表面はまだ赤く灼けて薄煙を漂わせている。
そんな代物をすみやかに手にとっておきながら、ミコは顔色ひとつ変えない。ただ、鉄棒を片方の腰へ引き寄せ、大きく膝を曲げて重心を落としただけだ。
異世界は、ありえない場所から、あらゆる角度から、そしてすぐそばから突如として現れる。そんな〝災害〟に対抗するため開発されたのが、この擬似的かつ強引な武装召喚システム……刀剣衛星だ。
鉄棒を中心として、ミコは電光にきらめいた。
猛烈な電力と呪力の触手になでられ、倉庫内のあらゆる電子機器はショートする。天井の照明も、片っ端から花火のようにまたたいては破裂した。ただごとではない。おそるべき高出力だ。ミコの機体に残されたエネルギーから考えて、タイプS専用の奥義が繰り出せるのはあと多分この一度きり。まばゆい稲妻の奔流は、音をたててミコへ集束していく。
発射態勢のまま、ミコは呪われた詠唱をつむいだ。
「電磁加速射出刀鞘〝闇の彷徨者〟起動。斬撃段階、ステージ(2)……」
こちらもコマ落としの素早さで弓矢をつがえ、仮面の女は叫んだ。
「くそおォォっっ!!」
「〝深海層〟」
ワイングラスを打ち合わせるような響きとともに、ミコは弓使いの背後に現れていた。
仮面の女と背中合わせに急停止したミコの手、横一閃に振り抜かれて輝くのは極薄の長刀だ。うしろの弓使いは動かない。まずは仮面の眼前で、射つ前に神速で爆弾の信管を斬られた矢が床へ落ちる。
ひとつ回転したミコの白刃は、鞘に納められて静かにその光を閉じていった。
「敵性反応の沈黙を確認……戦闘を終了します」
硬い鍔鳴りと同時に、仮面の女は腹から赤いものをしぶかせて倒れた。
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