【完結】【R18】伯爵夫人の務めだと、甘い夜に堕とされています。

水樹風

文字の大きさ
3 / 12

2 温もり

しおりを挟む

 その後麻薬事件はエルシャの証言によって物的証拠が見つかり、彼女の父である子爵とそれに連なる貴族たちが全員捕縛され法の下で裁かれることとなった。

 一方で、王命によって作られたレイナートとエルシャの婚姻届は滞りなく教会に受理され、二人の新たな生活は穏やかに始まっていった。
 思春期真っただ中のリカードも、エルシャの事情はよくわかっていたし、父が騎士としての責任感から彼女を後妻にしたであろうことは説明がなくとも察していたため、歳の近いエルシャを『家族』として快く迎え入れてくれたのだ。

 夫婦となって初めての夜──。
 ベッドの縁に腰かけ緊張に震えるエルシャ。レイナートは隣に座るとそんな彼女に優しく笑いかけた。

「大丈夫だ。言っただろう? 白い結婚でいいんだと」
「……でも……」
「エルシャは真面目すぎるな。もっと楽にしていいんだよ? ……まあ、そうはいっても、いきなりは難しいか」
「……申し訳……」

 俯く彼女の唇に、レイナートは人差し指の指先をあて言葉を止める。

「エルシャ? 俺を見て?」
「…………」

(あれ? なんだか雰囲気が……。旦那様は素のとき、ご自分のことを「私」ではなく「俺」と言われるのね……)

 ふとそんなことを思いながら、エルシャは素直に瑠璃色の双眸を夫へと向ける。
 レイナートも慈しんで視線を交わすと、伯爵家に保護されてから侍女たちに念入りに手入れされるようになったことで美しさを取り戻し始めた小麦色の髪をゆっくりと撫でた。

「俺も変に取り繕うのはやめる。だからエルシャももっと力を抜いていい」
「旦那様……」

 両親から愛情を向けられなかったエルシャには、こんなふうに頭を撫でてもらった記憶はなかった。
 彼女を落ち着かせようと、殊更に優しく髪を滑る大きすぎると感じるほどの逞しい掌。
 レイナートは騎士団長としてではなく、家族として向き合ってくれている。そう実感し理解した途端、その温もりはエルシャの心を安らぎで満たしていったのだ。

「どうする? 俺がいると眠れそうもないなら……」
「いえっ……あ、あの、旦那様……」
「ん? なんだい?」
「お願いが、あるのですが……」
「いいよ。なんでも言ってごらん?」

 もっと温もりを感じてみたい。
 エルシャの心に生まれた、我が儘というにはあまりにも可愛いささやかな願い。
 彼女は勇気を振り絞って掠れる声で問いかけた。

「あの、一度だけ……その、私を抱きしめてもらえませんか……?」
「っ、エルシャ……」

 ずっと虐げられてきたエルシャの健気な願いを聞いて、レイナートはたまらず彼女を胸に掻き抱く。
 息子とさして歳の違わない彼女。本当なら着飾って茶会や舞踏会に出かけ、恋だってしていただろう。社交界に出ていれば、間違いなく貴公子たちの目を奪う愛らしい女性なのだから。

(この子を大切にしなくては! 愛情を知らないエルシャを絶対に幸せにしてやらなきゃならない!)

 彼女の初めての温もりは、これ以上ない逞しい腕が包んで与えてくれた。
 耳に直接響く鼓動……。エルシャのなかに降り積もり続け、どうすることもできずに凝り固まっていた『辛かった時間』を、その音はじんわりと溶かしていく。
 もれ出る嗚咽を押し殺しながら涙で頬を濡らす彼女の髪に口づけ、レイナートは耳元で低く柔く囁いた。

「もう大丈夫。大丈夫だ。これからは、俺がいる」
「……っ、はい……」

 やがて泣きつかれて眠ってしまったエルシャを腕に抱いて、彼はこの特別な夜を越えていった……。







しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』

星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】 経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。 なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。 「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」 階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。 全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに! 「頬が赤い。必要だ」 「君を、大事にしたい」 真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。 さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!? これは健康管理?それとも恋愛? ――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

義姉の身代わりで変態侯爵に嫁ぐはずが囚われました〜助けた人は騎士団長で溺愛してきます〜

涙乃(るの)
恋愛
「お姉さまが死んだ……?」 「なくなったというのがきこえなかったのか!お前は耳までグズだな!」 母が亡くなり、後妻としてやってきたメアリー夫人と連れ子のステラによって、執拗に嫌がらせをされて育ったルーナ。 ある日ハワード伯爵は、もうすぐ50になる嗜虐趣味のあるイエール侯爵にステラの身代わりにルーナを嫁がせようとしていた。 結婚が嫌で逃亡したステラのことを誤魔化すように、なくなったと伝えるようにと強要して。 足枷をされていて逃げることのできないルーナは、嫁ぐことを決意する。 最後の日に行き倒れている老人を助けたのだが、その人物はじつは……。 不遇なルーナが溺愛さるまで ゆるっとサクッとショートストーリー ムーンライトノベルズ様にも投稿しています

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。

汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。 元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。 与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。 本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。 人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。 そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。 「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」 戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。 誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。 やわらかな人肌と、眠れない心。 静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。 [こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...