【完結】【R18】伯爵夫人の務めだと、甘い夜に堕とされています。

水樹風

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6 『魅了』

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「ヴォルニー、フォルカーたちの様子はどうだ?」
「はい、陛下。今のところ離脱症状はなく、静かにお休みになっておられます。ヘルムートとリカードも落ち着いておりますし、一両日中には確認ができるかと」
「そうか……」

 卒業パーティの翌日──。
 ウォルフリック王国で唯一、公に魔法を使うことを許された王宮魔術師たちが集う魔術塔の一室には、事件の『被害者』となった者たちの父親が一堂に会していた。
 この塔には、筆頭魔術師ヴォルニーの魔法によって完全に秘匿された部屋が存在する。
 集まった父親たちは一様に疲労の色が濃く、言葉も少なかった。

「マレルダの様子はどうだ?」

 国王アロンザに問われたディール公爵は、ひとつ苦しげに息をついてから口を開く。

「……自室に引きこもったままです。侍女の話では、殿下をお守りできなかった自分をずっと責め続けているようだと……」
「まったく、あの子らしい……。幼いころから、優しい子だったからな、マレルダは……」
「…………」

 そんな二人のやりとりを見つめながら、レイナートは『被害者』となった息子に思いを馳せていた。

(魔術師の預かりになったままだが、リカードは無事だろうか……?)

 それは隣に座るヘルムートの父、コルトン侯爵も同じようで……。しかし二人の立場では、国王から伝えられるのをただ待つことしかできない。
 やがてしばしの静寂のあと、アロンザは国王の肩書を脱いだ一人の父親としての素を垣間見せながら己の中で覚悟を決めるかのように天を仰ぐと、真っ直ぐにヴォルニーを見据え核心へと話を進めた。

「筆頭魔術師の名において、わかっていることを、全て皆に話せ」
「はっ」

 はじまりは二年前──。
 市井で暮らしていたミアがベルガー男爵家の養女となり、学院に編入してきたことだった。
 元平民のせいか、貴族制に対する知識が乏しく言動に問題のある彼女に対し、正義感の強いフォルカーは学院の風紀を守るために度々注意を与えていたのだ。そして当然のことながら、その場にはいつもヘルムートとリカードも控えていた。

「三人には、間違いなく『魅了チャーム』がかけられていました」
「っ、まさか!」
「『魅了』などどうやって!? 百年近く前に関連する全てのものが焼かれ、消し去られた魔法ではありませんか!」

 あり得ない魔法の名前を耳にし、レイナートもコルトン侯爵も色を失っていく。
 息子たちが『何か』によって操られていたことは予想がついていたが、二人とも恐らくは麻薬の類だろうと思っていたのだ。

 ウォルフリックで魔法が禁止されたのは百七十年ほど前のこと。
 そして特に危険とされたのが精神魔法で、それらは幾重にも術をかけ封印された。
 だが約百年前。一人の魔女がその封印を解き『魅了』の魔法を復活させ、当時の国王を傀儡としてしまったのだ。
 国は大いに乱れ、他国からの侵攻を許してしまい、王国は滅亡寸前となった。
 その戦争で活躍した英雄が他でもない先祖であるワーリン伯爵だったため、これはレイナートが幼いころからよく聞かされてきた話だった。
 当時のワーリン伯爵と王宮魔術師団によって魔女が討たれ、ウォルフリックは滅亡を免れる。
 そうして『魅了』に関するものは徹底的に焼きつくされ、この世界からその存在を抹消されたのだった。

「……驚くのはまだ早いぞ」
「はい。陛下の仰るとおりなのです……。まったく信じられない……」
「ヴォルニー殿。それはどういう……」

 『魅了』が復活していた──それ以上に驚くことなど……。
 レイナートはそう頭の中で呟き眉をひそめる。ふと目の前に座るディール公爵に目をやれば、彼は既に聞かされているらしく、目頭を指でつまむように押さえ軽く頭を振っていた。

「ワーリン卿。そしてコルトン卿も落ち着いて聞いてください。実は……今回の事件はすべて、ミア・ベルガーが一人で起こしたものなのです」
「…………は?」
「彼女は何故か、『魅了』を完璧に使いこなしている」
「なっ……!?」

 ここが国王の御前であることなどすっかり頭から抜け落ち、レイナートは動揺を隠せないまま目を見開いて身体を硬直させる。

「その後、あの娘からまともな証言はとれたのか?」
「いいえ、陛下。ミア・ベルガーは自身のことを『テンセイシャ』などと言い、訳の分からない妄言を吐いてばかりおります」
「はぁぁ。埒があかんな……。ヴォルニー。この二人を息子たちのところに連れていってやれ」
「っ、よろしいのですか!?」
「ああ……。フォルカーもあの子たち二人も『被害者』だ。だがあの子たちの立場が、それで許してはくれないだろう。……あと何回、会わせてやれるかわからん。今のうちに……」

 喉奥から必死に絞り出されたアロンザの言葉。最後に掠れて消えた「許せ」の一言に、レイナートとコルトン侯爵は立ち上がり、服従を示す臣下の礼を執った。

「陛下のご温情に心より感謝申し上げます」
「……早く、いってやってくれ……」

 アロンザが立ち上がったのを合図に、父親たちが無言のまま、それぞれのドアを開ける。
 そうして秘匿の間は、音もなく消え去っていった……。







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