53 / 53
二章
勇者の誕生。そして新たな旅立ち!
しおりを挟む超巨大ゴーレムの襲来という未曽有の災禍に見舞われた地方都市のトロイホースだったが、復興は意外なほどに早かった。
まだ戦いの爪痕は各所に色濃く残っているが、それでもトロイホースの住民は明日を信じて歩み始めている。
「瓦礫撤去作業への参加希望の方はこちらでーす! まもなく受付を終了しまーす!!」
既に受付の野外展との前には、屈強な冒険者や人々が、ずらりと列をなしている。
そしてそこに一人の青年を伴った、牛黒瑠璃の姿があった。
「色々とお世話をしていただきありがとうございました! このご恩は決して忘れません!」
「気にしないでくれ。流れでしたまでだからな」
瑠璃は静かにそう答えた。青年を前にして、熱い何かがこみ上げてきた、瑠璃は僅かに涙を流す。
「だ、大丈夫ですか?」
青年は人が良いのか、狼狽る。
門出なのだからこれ以上涙は見せたくない。そう思った瑠璃は目元をそっと袖で拭う。
「目にゴミが入っただけだ。心配をかけてすまない……」
「そうですか。確かにこの街、まだ少し埃っぽいですもんね」
「ああ。それじゃあお元気で。これからも頑張ってくれ……ライト君……」
「はい! ルリさんもお元気で! カズマさんや、ニーヤさん、ドラちゃんにもよろしくお伝えください!」
瑠璃は踵を返して歩き出し、青年――ライト――は深々と頭を下げて人々の中に消えてゆく。
もはやこの世に瑠璃の幼馴染で、かつては弟のように可愛がった吉良 煌斗は存在しない。
今別れたのは、たまたま瓦礫の中から救出し、記憶を失った気の毒な煌帝国の一人の青年――ライトである。
だからこそ、この二週間、一馬の許しを得て名前以外の記憶を失った気の毒な彼の面倒を見ていた。
彼が超巨大ゴーレムを操りトロイホースを蹂躙した煌斗なのかどうかは正直なところ分からない。
しかし件の彼が何者などはどうでも良い。
煌斗によく似た、ライトという青年が、復興しつつあるこの街で新しい一歩を踏み出せればそれで。
「さぁ、私も支度をせねば!」
瑠璃は自らの頬を叩いて気合を入れ直し、歩き出す。
●●●
「マスター、物資の確認終了しました。積み忘れありません!」
ニーヤが馬車の幌の中から飛び降りてきて、積み込み品をチェックした羊皮紙を一馬へ手渡す。
これであとは瑠璃が戻ってくれば、いつでも出発できる。
「戻ったぞ」
と、タイミングよく背嚢を背負った瑠璃が現れた。
ここ二週間、ライトという青年に瑠璃は付きっ切りだったので、来てくれない可能性もあるのではないかと思っていた一馬は、ほっと胸をなでおろす。
「なんだ、その安心したような顔は。まさか、私が来ないとでも思ったのか?」
「あーいや……」
どうも一馬の心は容易に透けてしまうらしい。
「前にも言ったと思うが、煌斗はただの幼馴染で、弟分だっただけだ。それにライト君の面倒をみていたのは、拾ってしまった手前、放って置くのは無責任だと思ってしていただけだ」
瑠璃は一馬へグッと身を寄せて、一馬を見上げる。
「今も昔もそしてこれらからも私は一馬一筋だ。安心してくれ」
そんなことを耳元でささやかれれば、心臓は高鳴るし、顔は真っ赤になるというもの。
まったく牛黒瑠璃という年上の彼女は妖艶である。
「カッズマー!」
「のわっ!?」
と、今度はドラグネットが背後から思い切り抱きついてーーほぼ体当たりだが……ーーきた。
「なんだドラか? 見送りに来てくれ……ん?」
何故かドラグネットは大きな背嚢を背負い、足元にはこれまた巨大なバッグが地面に置かれている。
「この荷物って、もしかして!?」
「もしかしても、くそもないよぉ。一緒に行くに決まってんっじゃん!」
「マジか!?」
「マジマジ! だってあたし、カズマだいすきなんだもーん! もう絶対に離れないって決めてるんだもーん!」
そう叫んで、一馬の腰元にしっかりと抱きつく始末。確かにここでお別れは寂しいし、本音を言え、こうして付いてきてくれるのはとても嬉しい……のだけれども、ニーヤと瑠璃がやや冷たい視線を送っているので、正直怖いし、今後が少々思いやられる。
「は、離れろ、ドラ! とりあえず!」
「やっだもーん!」
「こら!」
「勇者殿ぉー! 少々お待ちくだされ~!」
今度は道の向こうからトロイホースの領主の男と、多数の住民が続々とやってくる。
ここ二週間、街の復興を手伝って、懇意となった顔ぶればかりである。
「どうも、皆さん! 揃いも揃ってどうしたんっすか?」
「今一度だけお願いをしに参りました。勇者カズマ殿、そしてお仲間の方々、よろしければこのトロイホースに留まってはいただけませんか!? いつまた先日の超巨大ゴーレムが現れるやもしれません。住まいはもちろんのこと、十分な報酬を恒久的にお支払いいたします! どうか、どうか!」
「あー、えっと……」
いつの間にか一馬はトロイホースでは勇者ということになってしまっていた。確かに超巨大ゴーレムを倒して、街の復興に尽力したから、そう呼ばれるようになるのは仕方のないこと。しかし嬉しい反面、やはり勇者という響きはこそばゆいものがある。
「皆のもの、控えろ!」
困った一馬の前へ飛び出したるは、彼の忠実なるパートナーホムンクルスのニーヤ。
彼女の号令に、住民は一斉に傅く。
「偉大なる我が主、勇者一馬様より解答を頂く! 皆のもの心してきけ!」
「ちょ、ちょっとニーヤ!」
「さぁ、勇者一馬様、皆へ解答を!」
「瑠璃まで!」
「勇者カズマぁー、さっさと答えてあげなよぉ!」
「ドラも!? ああもう!!」
一馬が一歩踏み出すと、住民やふざけている仲間たちを僅かに腰を折って礼を取る。
「あー、そのぉ……ご、ごめんなさい! 引き受けられませーん!!」
一馬の大絶叫が響き渡り、領主は"やっぱりそうか"と言った具合に苦笑いを浮かべる。
「やはりお気持ちはお変わりないのですね?」
「ええ、まぁ。これからも色々と観て回りたいもんで。だけど、困ったときは呼んでください。必ず駆けつけますから! 勿論有償ですけども」
「承知しました。残念ですが、それがカズマ様の御意思ならば……ではせめてこちらだけでもお納めください」
領主の声に従って、控えていた住民が重そうな麻袋を一馬へ恭しく差し出す。
その中にはぎっしりと、金貨が詰め込まれていた。
「トロイホースを救っていただいたばかりか、街の復興にも尽力してくださった勇者様へのせめてものお礼です」
「ありがとうございます。こういうお礼は本当に助かります! じゃあ、俺たちはこれで!」
一馬が麻袋を掲げると、領主を初め、住民が一斉に立ち上がった。
「勇者カズマ殿とお仲間、そして偉大なる白き巨人アインの旅の無事を祈って! バンザーイ!」
「「「「「バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!!」」」」
ずっと一馬の後ろで出発の合図を待っていたアインが、僅かに震えたような気がしたのは気のせいか。
もしかするとアインも"偉大なる"と称えられて恥ずかしいのかもしれない。
「さぁ、行くぞ! アイン、出発だ!」
「ヴォッ!」
かくして多くの住民に見送られながら、巨大人形アインの引く馬車に乗って一馬たちはトロイホースを後にする。
「じゃあ、次はどこへ行ってみようか?」
「あの山を超えた先に、温泉と宿場町のガラリアという場所があるらしい。そこでゆっくりするのはどうだろう?」
「良いね、それ!」
湯煙の中の瑠璃……想像しただけで、一馬はごくりと生唾を飲む。
「温泉? なんですか、それは?」
「ニーヤ知らないのぉ? ばかだなぁ」
ドラグネットはにんまり笑みを浮かべてニーヤを見やる。
ニーヤはぷっくり頬を膨らませた。
「むっ……ワタシだって知らないことぐらいあります!」
「なら、この天才ドラグネット様がニーヤに教えてあげよう! 温泉というのはね、」
「結構です! ドラの力は借りません!」
「そう強情張らずに!」
「結構ですっ!」
そうして始まった喧喧轟々、2人のいつものじゃれあい。
最近は張り詰めた場面が多かったので、これはこれで癒しのBGMである。
「それじゃ一路、煌帝国の温泉郷ガラリアを目指して! アイン、速度上昇!」
「ヴォッ!」
一馬達は白き巨人にまでパワーアップしたアインの引く馬車に揺られ、旅を続けて行く。
いつまでも、どこまでも、果てしなく……。
おわり
**********
とても悔しい限りですが、本作はここで終了となります。
ここまでありがとうございました。
色々と伏線を残したままですみません。
ニーヤの日付カウントの意味、瑠璃の留年理由、ドラグネットは何者か?
なんで煌斗はあんなになったのか? 魔族って何ぞや? どうしてアインが勝手に動いたのか、などなど。
ちゃんと考えてたんですけどねぇ。
この先の展開としては綺麗の末路を描いて、魔族との本格的な戦いが始まり、
アインが喋りだしたり、また強化されたり、母艦としての巨大戦艦登場!
巨大モンスターハンティングライフwith仮面の戦士in温泉郷、などなど。
内容盛りだくさんで考えていたんですけど、仕方ありません。
時間は有限なので……ぐすん。
もしも完結ブーストがかかって、ぼんぼんポイント入って、惜しむ声が多数上がったら再開するやもしれませんが、
そうすると相当な覚悟と熱量が必要なので、ちょっとやそっとじゃその気にはなりません。
第一、奇跡に近い状況だと思ってますし……
と、いう訳でここで終わりだと思っていただければ幸いです。
新作は準備中で、やり方を戻し、
いつも通り100%完結保障&NOTロボット純粋ハイファンとし、半年後辺りに掲載できればと思っております。
他にもやること満載ですので、これぐらい時間がかかっちゃうんです。
が、つい先ごろ10万文字は書き終えました。あと15万~20万が目標です。
まぁ、忘れた頃にやってくる、といった気持ちで気長にお待ちいただければ幸いです。
次こそ良い作品&良い報告がお届けできますよう、このままお気に入り登録など、継続していただけるとウルトラ嬉しく思うでございます。
それでは短い間でしたがご愛読いただき誠にありがとうございました!
一旦、さよなら、さよなら、さよなら……元ネタ分かったそこの貴方! 同世代ですね?w
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
お気に入り登録( 。・ω・。)ノ 凸ポチッ無事に再開出来た!よかったな
ありがとうございます。ここまで長かったですよねぇ
ご指摘ありがとうございます。実はこれ仕様なんです。本来2話があって、自分でも好きな箇所なのですが、初見の方々へ、長い導入は閲覧を躊躇わせることになるんじゃないかと思って、今は掲載しないようにしています。ややこしくすみません。来週あたりには2話を挿入しても、良いタイミングだと考えてます。