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一章 東の山と憧れの女性と亡霊騎士

シグリッドの姿を追い求めて

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ーー待ってろ、シグリッド! お前は俺が必ず探し出す!

ショートソードを履き、バックラーを装備した俺は冬山の中を駆け抜けてゆく。
山と古き魔術師の森の境は、この山の中では最も危険な地帯だ。
だけど最も狭いところだし、一日掛ければ隅々まで探すことができる。

 昼でも薄暗い山の中。
周囲からは飢えた獣や魔物の濃密な気配が感じられる。
 ウカウカしてられない。

 1分でも、1秒でも早くシグリッドを探さないと!

「GOBURURU!」

 すると、脇の茂みからトマホークを掲げた複数のゴブリンが飛び出してきた。
特に左から迫るゴブリンが危険と判断し、バックラーを掲げて、斬撃を防ぐ。
間髪入れずに、右手に握ったショートソードを思い切り突き出した。

「GOBUーーっ!!」

 鋒が右のゴブリンの眼底を貫き、一撃で葬り去った。
すぐさま剣を抜き、今度はバックラーの下から素早く突きを繰り出す。

「GOBURURUーー!!」

 顎からショートソードを叩き込まれた左のゴブリンも、一撃で絶命する。

 俺は「物真似」という能力があるせいか、戦闘力が低い。
下手をすれば新人の剣士の冒険者に劣ってしまう場合もある。
でも、俺には村を出てから1年、東の山に流れ着いてからの2年という努力の期間がある。
今の俺はゴブリン程度ならば、能力を使わずとも、まともに対峙ができる。

「ーーッ!?」

 確かな手応えを感じている中、ゾッと総毛立だって、バックラーを正面へ掲げた。
 ガチン! 重いかな音が引き、ずっしり重い感触が腕に伝わってくる。
どうやら残りのゴブリンがトマホークを投げつけてきたらしい。

 俺はすかさず、「物真似」の力を発動させた。

 体が勝手に動き出し、ゴブリンの投げてつけてきたトマホークを手に取った。
自分でも驚くほどの滑らかな動作で、トマホークを放り投げた。

「GOBーーーー!!」

 トマホークは綺麗な放物線を描いて飛び、ゴブリンの頭を叩き割って絶命させた。

 やれやれ……やっぱり俺ってゴブリン程度にも能力を使わないとダメなパターンがまだあるのね。
これからももっと能力以外の点を強化しないとね。

 俺は更に山の奥深くへと入ってゆく。
 今進んでいる道は、険しく、なんと言っても魔物の質が桁違いだ。
だけど、この道はシグリッドがいるかもしれない境に最も近い。
迂回なんてしている間は無い。今はでるだけ早く、少しでもシグリッドの居そうな場所へ近づくべき時!

「GAAAA!!」

 すると今度は、この山の支配階層に位置する魔物ーーギャングベアが姿を現した。
剣では切り裂くことができない鎧のような剛毛。ゴーレム並の膂力に、鋭い爪。
どう考えても、俺の物理攻撃では歯が立たない。

「そこをどぇぇぇぇ! シグリッドと一緒にお前を鍋料理にしちまうぞぉぉぉ!!」

 俺は叫び声をあげて自分を鼓舞しながら、ギャングベアへ突っ込んだ。
 ギャングベアもまた激しい咆哮を上げた。俺へギャングベアの鋭い爪が生えた剛腕が振り落とされる。

「ぎゃぁぁぁぁ!!」

 ギャングベアの爪が上等な皮の鎧を纏っている俺の胸から腹にかけてをあっさり切り裂いた。
夥しいほどの血が飛び散り、意識が飛びかけける。
しかし俺は根性で必死に意識を繋ぎ止める。

「お返しだぁぁぁぁ!!!」

 「物真似」の力が発動し、俺の体が真っ白な輝きに包まれた。
輝きは俺を取り込みつつ形を成してゆく。
そうして俺は白く、巨大な熊へ変化をした。

『GAAAA!!!』

 白い巨大な熊へ変化した俺は、爪を振り落とす。
 爪がギャングベアを切り裂き、吹っ飛ばす。
相手はもはやピクリとも動かなくなった。

「ううあああ、し、死ぬぅ……! は、早くエリクサを……!」

 元の姿に戻った俺は、必死に痛みを堪えながらエリクサを飲み込んだ。
飲み込んですぐに、血が止まり、傷口が塞がってゆく。
出血によって冷えた体が温まり、意識が判然とし始める。

にしても、いつも思うけどエリクサってすっげぇ効くよな。
効きすぎてなんか無茶苦茶怖いんだけど……

と、今はそんなくだらないことを考えている場合じゃない!

 すっかり体が元通りになった俺は再び走り出した。

 俺の物真似カウンターは強いと自覚している。
意識を保つ根性と、完全回復してくれるエリクサさえあれば、理論的には何度でも発動できる。
だけどどんなに根性があったって、どんなに傷が簡単に癒えたって……痛いものは痛いし、苦しいものは苦しい。
だから普段は1日数回使えるのが、精神的な限界だった。

でも今日の俺は違った。

 何度激しい流血を伴う傷を負おうとも、何度もあの世に逝きかけようとも……俺は境を目指して、最短ルートを駆け抜け続ける。

 きっとシグリッドは帰れなくなってベソを掻いているだろう。
寒くて、心細くて、震えているだろう。ならできるだけ早く、少しでも早くあの子を見つけ出してやりたい。
早く暖かい教会に返してあげたい。
そう考えれば考えるほど、物真似カウンターによる苦痛なんてなにするものぞ!
それに、ここで無事に助け出せれば、いつもとは立場逆転で、シグリッドをこっ酷く叱ることができるしね。
たまには子供らしくケツでも引っ叩いてやろうかな?

「ーー!」

 不意に何かがこちらを見ているような気がした。
急性動をかけて周囲を見渡す。
すると木々の間からキラリと何かが光を反射してくる。

 俺の視界へうっすらとではあるが、槍を持ち、全身甲冑が飛び込んでくる

「まさかあれがユリウス……?」

 ユリウスらしい槍を持った全身甲冑は金音を響かせて、目の前からサッと姿を消す。
俺は全身甲冑を追って、脇道へ入っていった。
やがて俺は、暗澹たる闇を讃える、洞窟の前に達する。
そしてその前で、バンドの切り裂かれたポーチを発見した。

 間違いなく、シグリッドが外出際に必ず身につけているポーチだった。

「シグリッド! いるのか! 居たら返事しろぉー!!」

 俺はそう叫び声をあげた。
しかし声は反響をするばかりで、応答は一切ない。
考えられることとなれば……たぶん、シグリッドはこの不気味な洞窟の中に。

 俺は洞窟を覗き込んだ。
不気味なくらいに静かだった。そして肌がまとわりつくような、風を感じ取る。

 ここは明らかに危険な場所だ。こんなところへシグリッドが飛び込むだろうか?
ならなんでこんなところにポーチが落ちていたのだろうか。
それにもしも、あの全身甲冑の野郎がユリウスだったとしたら……

 俺は可能性にかけて、洞窟の中へ踏み込んでゆく。
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