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三章 北の大地と豪快なお嬢様とヘタレな皇子
北の大地に別れを告げてーーそして予想外すぎる再会!?
しおりを挟むデートの日を境に、レオヴィルとラスカーズは頻繁に逢瀬を重ねるようになっていた。
この間なんて、仲良く手を繋いで歩いているところも見掛けたし。
北の大地での俺の役目は終わった。
むしろ幸せそうな二人を見ていると、俺も少し旅をお休みにして、大事と言える人たちと再会したいと強く想い始めていた。
そんな訳で、とっくに準備を済ませていた鞄を掲げる。
2年間暮らした北の大地から、大陸の中間店である"大陸の臍"へ向かうためだ。
そしていざ、ボルドー家を出ようとした夜半過ぎ、部屋へノックの音が響き渡る。
「ど、どちら様?」
「私よ! 開けなさい!」
きっと偶然じゃない。
レオヴィルは分かった上で、俺の部屋までやってきたのだろう。
いつも思うけど、俺ってこっそり今の環境から抜け出せない運命なんだなぁ……
「やっぱり出て行くのね?」
レオヴィルは扉を開けて真っ先にそう言い放つ。
「ええ。長い間お世話になりました。本当に助かりました」
「告白の答えをまだ聞いていないのだけど?」
「分かりました……レオヴィル、君からの結婚の申し出だけど、お断りさせて頂く」
「そう……」
レオヴィルはため息のように言葉を漏らす。
「君にはラスカーズがいるじゃないか。君だって、彼のことを相当見直したんだろ?」
「そ、そうね……」
レオヴィルは頬を赤らめて、そう答えた。
ようやく見たかったリアクションが見られて、俺はホッと胸を撫で下ろす。
「彼がああなったのも、アルビスのおかげよね」
「もしかして、気づいてました……?」
「勿論よ!」
「一体どこで?」
「どんなに姿を真似たって匂いでわかるわ! それだけ私はアルビスのことが大好きなのよ!」
大好きと言われて喜んで良いような、ダメなような……
「でもねこの大好きにはきっと、政略結婚への反発の気持ちもあったと思うの……勝手に人生を決められることへの反発……」
「……」
「それに彼は本当はカッコいい癖に、私の前だと急に情けなくなって、ずっとそんな態度にイライラしてて、そんな時に私の前にアルビスが現れてくれて、それからの2年間は本当に楽しくて……本当にありがとう」
「お礼を言うのはこちらの方ですよ。あの時レオヴォルに拾われなかったら、野垂れ死にしていたところです」
「ふふん! いい拾い物だったわ! そして私は拾って気に入ったものはずっと大事にするわ! だから!」
レオヴィルはビシィッと俺を指で指す。
「アルビスとの結婚は諦めるわ! だけど、貴方を私の恋人にするわ!」
「は……? な、な、なに言ってるんですか! レオヴィルにはラスカーズっていう旦那さんがいるでしょうが!」
「旦那がいるからなんなの?」
「いや、なんなのって……」
「だって、あのラズカーズにはもうたくさんの奥さんがいるのよ? たしか騎士団の全員がそうだったかしら?」
「マジっすか……?」
「だって彼は次期国王ですもの! 側室なんて当たり前だし、私はその一人でしかないわ! だったら私も同じことをして良いじゃない!」
ラスカーズがあまりに親しみやす過ぎて、彼が俺とは違う次元で生きている人間だということを忘れていた……
「今はラスカーズとの婚姻前だから動けないわ! だけど婚姻の儀が終わり次第、必ずアルビスのところへ行くわ! それまでコレを私だと思って持っていなさい!」
レオヴィルが渡してきたのは、獣の角で作られた立派な印章だった。
農具と森そして剣が組み合わされたこの刻印ってもしかして!?
「こ、この刻印ってジュリアン王家の!?」
「そうよ! ラスカーズに作らせたわ! 支払いにはそれを使うと良いわ! これからのアルビスの支払いは全部ラスカーズがしてくれることになっているから! これでもう出会った頃のような金欠には悩まされないはずよ!」
「良いですかこんなものを……?」
「良いに決まっているじゃない! だってアルビスが頑張ってくれたから今の私とラスカーズの関係があるのだもの。安いものだわ!」
相変わらずレオヴィルは豪快な子だと思った。
そしてきっと、この印章を受け取らないなんて言ったらブチ切れるはず。
「ありがとう、レオヴィル。大事に使わせて貰うよ」
「遠慮せずジャンジャン使いなさい!」
「了解っす。それじゃ!」
俺は荷物を掲げてレオヴィルの脇を過ぎてゆく。
すると後ろから服の裾を摘まれた。
「気をつけなさいよ。私と再会するまで死ぬんじゃないわよ……」
「分かってますよ。レオヴィルも、元気で。害獣駆除にはくれぐれも気をつけてね」
「ありがとう。必ず、また会うから。貴方の元へ行くから……」
俺はポンとレオヴィルの頭を撫で、部屋を出る。
そして2年間お世話になったボルドー家を跡にした。
……にしても、レオヴィルからあんな宣言をされるだなんて予想外だった。
だけど、想いの形はどうであれ、またレオヴィルと会って楽しい時間を過ごしたいのは確かだった。
……
……
……
北の大地を旅立ち、俺は広大なる大陸の中央に位置する"臍"といわれる街を目指した。
ここは四カ国のどこにも属さない中立地帯だ。
そして各国への中継地点であり、最新式の移動手段である魔列車というものがあるらしい。
この魔列車というものは、魔導石を動力にする乗り物で、大勢の人を、馬車よりも早い速度で運んでくれるらしい。
代わりに運行が始まったばかりなので、乗車賃はかなりの高値らしいが……今の俺には、ジュリアン王家の刻印があるし、問題ないだろう。
「ほぅ……すっげぇ……」
臍の街は立派なものだった。
高い建築物に、様々な国の多様な人種。
道もほとんどが石で舗装されていて、すごく歩きやすい。
すぐに魔列車に乗ろうと思っていたが、それは勿体無い気がした。
俺はしばらくの間、臍の街を見て回ることにした。
いや、この人の数は本当にすごいな……
「号外! ごうがーい! 遂に出たよ! 100年ぶりの逸材! 聖光の魔術士が誕生したよー!」
道端からそんな声が聞こえ、ビラが空から降り注いでくる。
「へぇ、聖光の魔術士が出たんだ」
聖光の魔術師ーー大国西の果ての国にある、超エリート学校魔術師学園の卒業生に与えられる最高位の学位のことだ。
この学位の由来は建国英雄の一人に由来している。それだけ優秀で将来有望な魔法使いの証だ。
そして喧伝されている通り、この位が発生したのは100年前である。
興味が湧き、手に収まったビラへ視線を落とす。
むむ? ここの言語は西の果ての国のものなんだ。
勉強不足で、まだ読みづらいんだよな……
ええっと……聖光の魔術士に任命されたのは、東の山、出身の……
「どぉーん!」
「うおっ!?」
唐突に誰かが背後から突っ込んできた。
あまりの驚きに思考が追いついていない。
「ねぇ、私が誰だかわかる?」
少し甲高い声が後ろから聞こえてくる。
背中の辺りにむにゅんと柔らかい感触がある。
これは胸、か? じゃあ、女の人……?
「わ、分かりませんが……てか、何をいきなり……?」
「まぁ、そっかぁ、そうだよね。だいぶ時間も経っているし……仕方ない!」
背中から胸の圧力が消え失せた。
「こっち向いて!」
背後に現れや誰かに促されるまま振り返る。
するとそこにいたのは、臍の街にしっかり馴染んでいる都会っぽい格好に、大きな鞄を抱えた、金髪青眼の小柄の女の子。
「シ、シルバルさん!? なんでここに!?」
俺にとってあらゆることで初めて尽くしだった人、東の山のシルバルさん。
でもこんなに胸が大きかったか……? それにちょっと印象が違うような、幼いような……?
「ぶぅー! お姉ちゃんなんかと間違わないでよ、アルお兄ちゃん!」
「もしかして……シグリッド!?」
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