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四章 臍の街、集うアルビスの女たち

新たなる旅立ち!

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「アルさん、お疲れ様です! さすがです!」

 シグリッドの反対側にはドレがいて、興奮を隠してきれていない様子だ。

「き、君は一体何者なんだ……?」

 そして正面ではジャガナートと真っ先に戦っていた兵士の隊長が驚きの表情を浮かべている。
更に周囲は"どうして俺が聖光の魔術師シグリッドや西岸事変の英傑ドレを連れているのか"などと囁きあっている。

「俺はアルビス。ただの冒険者ですよ」

「そ、そうか……この度は助力を感謝する。皆を救ってくれてどうもありがとう!」

「いえいえ、できることをしたまでですよ! それじゃ!」

 俺は手短にそう伝えると、兵長や乗客へ背を向けて歩き出した。
 シグリッドとドレは慌てた様子で横へ並んでくる。

「列車には乗らないの?」

「今乗ったら大騒ぎになるだろ? もう西の果ての国には入ってるし、少し歩こうかなって」

「そっかぁ、たしかにそうした方が良いかもね。はぁ……こっからは歩きかぁ……」

 シグリッドはため息を吐く。徒歩が嫌なんだろう。

「あ、あたしは大丈夫だから! 歩けるから! 鍛えてるから!」

 ドレがそう声を上げると、シグリッドはなぜかニヤリを笑みを浮かべた。

「私はか弱いし、一人じゃ歩くの辛いから……支えて、お兄ちゃんっ!」

「お、おい!?」

 シグリッドは有無を言わさず、腕の絡みついてきた。
それを見たドレは、頬を膨らませる。

「あ、あたしも、やっぱりちょっと辛いっ! さっきの戦いでクタクタっ!」

「ドレまで……」

 ドレも身を寄せて来る。

 正直、歩きづらかった。
 だけどシグリッドとドレに挟まれて嬉しいのもまた確かだ。

 にしても二人ともすごく成長したな。
あの時から慕ってくれていたのはわかっていたけど、まさか数年越しでこんな有難い状況になるだなんて。

「ま、待ってくれ! アルビスっ!」

 不意に懐かしい声が聞こえて振り返った。
そこには2年ぶりの再会となる"漆黒の騎士団"のノワルや、その取り巻き達がいた。
全員、ひどく落ち込んだ表情をしている。

「よっ、久しぶり。そういやお前達も居たな。たしかお前達国境の警備を請け負っていたんだっけ? ジャガナートみたいな危険な魔物を取り逃しちゃダメじゃん」

「くっ……面目ない……」

 ノワルは少し悔しそうに顔を歪めた。
しかし何も言い返さない辺り、失態を自覚しているのだろう。

「で、何の用よ?」

「俺たちの代わりに……ジャガナートを倒してくれてありがとう……」

「できることをやっただけさ。礼を言われるようなことじゃない」

「ところでお前と一緒にいるのは聖光の魔術師シグリッドと西岸事変の英傑ドレだよな?」

 どうやら今の問いがノワルの本命のようだ。
そりゃ、大陸の旬の話題の二人が揃っていれば気にはなるだろう。

「そうだけど?」

「お前達の関係は一体……?」

「恋人ですっ!」

 シグリッドが真っ先に、自信満々に答えた。

「あ、あたしも! それに師匠でもあるんだ!」

「君は確か南の荒野で!?」

 ようやくノワルもドレのことを思い出したらしい。

「あなた達だよね? アルお兄ちゃんと一緒に英雄の村から旅立った人達って?」

「そうだが……?」

「ふーん……一度見ておきたかったんだ。お兄ちゃんの心を深く傷つけたのがどんな顔をしているのかをね!」

 シグリッドは盛大な笑みを浮かべた。
そして言葉を続けてゆく。

「だけどね、あなた達が追い出してくれたから、私はお兄ちゃんに出会えて、聖光の魔術師になれたの! どうもありがとう!」

「っ……」

「とりあえずそのことに免じて、今回の失態は私の口からは黙って置いてあげるよ。その代わりに、もう二度とお兄ちゃんに近づかないで!」

 シグリッドはノワルへ思い切り魔法の杖を突き出した。

「あたしも同感! それにもうあなた達"漆黒の騎士団"は時代遅れだから! これからはアルさんの時代がやってくるんだから!」

 ドレにそう言われ、ノワルは何か言いたげな表情を浮かべる。
散々な言われようで悔しいのだろう。

「ドレの言うような俺の時代が来るかどうかは分かんないけどさ……英雄の村出身者として、お互い世のため、人のために頑張ろうぜ!」

「あ、ああ……」

「そんじゃそういうことで! またな!」

 俺たちは改めてノワル達へ背を向け、歩き出す。

「ねぇねぇ、お兄ちゃん、いい機会だったんだよ? この際だからガツンと言ってやればよかったじゃん?」

 シグリッドの言う通り、一瞬そうしようかと思った俺が居たのは確かだった。
しかし、

「5年も前の話だし、もう良いよ。そんなマイナスな気持ちとか考えよりもーー!」

「わっ!」

「わわ!? ア、アルさんっ!?」

 俺はグイッとシグリッドとドレを抱き寄せた。

「今はシグリッドとドレがいるんだ。お前達が俺の本当の仲間だ! だから、マイナスな感情よりも、楽しいプラスの感情の方を優先したいんだ!」

「お兄ちゃん……」

「アルさん……」

 なぜかシグリッドとドレは俺を挟んで笑みを浮かべあう。
そして二人揃って背伸びをして、唇を近づけてくる。

 これからもずっとこうありたいと願った。
そしてこれからが本当のスタートだと考えた。

 もはや物真似の力の使用を躊躇う必要はない。

 だって今の俺にはシグリッドとドレがいるのだから。

シグリッドとドレと俺の3人でいつまでも旅が続けられたならと思った俺だった。

ちょっと大変そうだけど……


●●●


「白銀の騎士団……」

 去っていったアルビスたちを見て、誰かがそう呟いた。
やがてその名は、西の果ての国は基より、広大なる大陸の全土へ広まってゆく。

ーー100年ぶりの聖光の魔術師シグリッド

ーー西の果ての国の危機を救った西岸事変の英傑ドレ

 そんな最強な二人が慕うは、あらゆることを器用にこなす、謎の銀髪の冒険者アルビス。

 大陸の人々はアルビスの髪色とその勇敢さから彼らのことを『白銀の騎士団』と称し、崇め奉り始める。
そして広大なる大陸はこれまでにない戦乱に巻き込まれてゆく。
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