4 / 123
【一章:状態異常耐性とアルラウネ】
解雇宣告
しおりを挟む「突然だな……」
一瞬、自分からかわれているのかとさえ思った。
しかし集合場所である早朝の宿屋のロビーには既に、彼と同じように弓を背負った見知らぬ冒険者の女がいた。どうやら冗談ではないらしい。
「実は昨日の祝賀会で、この方、弓使(アーチャー)でAランク冒険者のマリーさんと意気投合しまして。今後のことを考えると彼女と契約をした方が良いと思ってですね……はは」
フォーミュラは申し訳なさそうに見えるも、どこか軽さを感じられた。
物腰も柔らかく、優男のように見えるフォーミュラという男。彼の腹黒い場面は多々見てきた。
しかし仕事と収入のためにと、我慢をして着いてきていた。
(大方、この弓使の女と一晩を過ごして、勢いで契約をしたというところか……)
この軽薄な男に怒りを覚えた。この場で殴り倒して、性根を叩きなおしてやりたかった。
しかしクルスはほぼ底辺のEランク冒険者。相手は名家シールエットの出身で、更に近いうちに“勇者”に任じらるであろうと噂されているAランクで希少な魔法剣士である。
ここでクルスに味方をしても得する者など誰一人いない。
案の定、重戦士:ヘビーガは固く口を閉ざしていた。
ジェガとイルスのカップルも、クルスから視線を外して一言も発しない。
彼らもここで異議を申し立てて、逆に自分が攻められて今の立場失うことを恐れている様子だった。
クルスが命の恩人であろうとも、自分が無事でさえあれば、自分が可愛い。自分の平穏が最優先で、他人に構う余裕はないらしい。
「あの! と、突然過ぎませんか!? 先輩、困ってますよ!?」
そんな中、勇気ある甲高い声が響き渡り、一同が息を飲む。クルスを冒険者としての“先輩”と慕うビギナは、わずかに肩を震わせながらも、赤い瞳でフォーミュラを見上げていた。
「ヘビーガさん! ジェガさんも、イルスさんもこれで良いんですかっ!? 先輩は昨日、苦労して溜めた魔力を全部使って、命もかけて助けてくれたんですよ!? そんな恩人へこんな仕打ちをしても良いですか!!」
ビギナのまっすぐな主張に、誰もが口を閉ざす。するとフォーミュラは表情を引き締めた。
「これはビギナ、君のためでもあるんだよ?」
「えっ……?」
「このマリーさんは昇段試験委員会の審査員の方でね。依頼(クエスト)を一緒にこなしつつ、一緒に審査をしてくれるんだって。実は昨日ドラーツェ討伐でたくさん依頼が入っててね。たぶん暫くは色んなところへ出向くことになって昇段試験どころじゃないんだよ。でもマリーさんさえいれば、彼女を通じて昇段の申請をしてくれる。わざわざ試験を受けに出向く必要もなくなるんだ。ビギナだって一刻も早く昇段したいって言ってたじゃないか」
「そ、それは……!」
正義感に満ち溢れていたビギナは、声を濁した。
彼女の実家はワイナリーを経営しているらしいが、ここ数年の天候不順が続き、原料となる良いブドウが収穫できず、満足にワインが生産できず経営が苦しいらしい。
普通の家の生まれのビギナは高額な魔法学院での授業料を全額奨学金で賄っていた。だから彼女は一刻も早く高収入が約束されるAかSランクの冒険者になる必要があった。少しでも多くの金が彼女にとっては必要だった。彼女もまた必死な身の上であった。
「きっとマリーさんならビギナならすぐにAランク、いや、俺なんかを追い抜いてすぐにSランク冒険者にしてくれるよ。それに君は希少な“妖精”の血を引いてるんだからさ!」
フォーミュラが目配せをすると、脇に居たAランク弓使いのマリーは頷いた。
「ビギナさん、貴方に関しては聖王都よりも審査命令が下っております。貴方は貴方が思っている以上に期待されています。私も僭越ながら、随行審査官としてお手伝いできればと思っております」
「だからって先輩をクビにする必要なんてないじゃないですか! だったらこれからは六人で……!」
「じゃあこれからクルスさんの取り分はビギナがなんとかしてくれるってことで良いんだね?」
フォーミュラの言葉に、ビギナは息を飲んだ。彼女も彼女とて金が必要な身。余裕があるわけではない。
「わ、私だけでは無理、ですけど……でも! だったら少しずつ皆さんで! それならっ!」
「あのさ、勝手な提案しないでくれるかな?」
ビギナの言葉遮るように、闘術士のイルスが不快そうに声を上げた。
「悪いんだけど、こっちもそんな余裕ないの、ジェガとの結婚のこととかいろいろと。ねっ?」
「あ、うん。俺たち、色々入用なんだよ……ごめんねビギナちゃん」
次いでヘビーガへ視線を送るも、彼も首を横へ振る。
「確かに昨日のクルス殿の活躍には感謝している。しかし俺自身も故郷の親や兄弟たちに金を送ってやらねばならん。申し訳ないが……」
最後にビギナはフォーミュラを見るも、彼はあきれ顔をするだけだった。
「俺はもともと余裕がないからこういう話をしているんだけどね。で、どうする? ビギナが個人的にクルスさんを雇うってなら止めやしないけど、そのために取り分を増やしたりはしないからね」
「……」
「どうするの?」
「……もう良い。分かった。抜ける」
とうとう見ていられなくなったクルスは声を上げた。
「先輩……! 私……!」
ビギナは歯噛みし、瞳へうっすらと涙を浮かべていた。彼女の悔しさが痛いほど伝わってくる。
これ以上、慕ってくれた後輩が、自分のことで責められるのを見たくは無かった。
傷つくのを看過できなかった。
「ありがとう。でも、もう良いから」
「で、でもっ……!」
「頑張れ。ずっと応援してるぞ。そして必ず夢を叶えてくれ」
クルスはビギナを横切り、そしてフォーミュラの前へ立った。
「今まで世話になった」
「いえ、こちらこそこれまでありがとうございました。昨日の件も感謝しています。こいつはお礼も込めてのものです。受け取ってください」
フォーミュラはクルスへ濃紺色の鉄片のようなものを握り渡してきた。昨日討伐したドラーツェの鱗だった。
鑑定士によると、この鱗は希少金属に匹敵し、数十万Gの価値がある代物。どうやらこれは手切れ金の代わりらしい。たしかにこれを換金すれば、ある程度の期間は遊んで暮らして行ける。今、ここで追い出されても、すぐに路頭に迷うことはない
。
背に腹は代えられない――しかし例えEランクであろうとも、彼は命を危険にさらして金を稼ぐ冒険者だった。ちっぽけで愚かと言われようとも男としてのプライドもある。第一、こんな策略を練った卑劣漢から金など受け取れない。
クルスはドラーツェの鱗をそっと突き返し、踵を返す。
「先輩っ! クルスさんっ!!」
ビギナの声を振り切って、クルスは一人宿屋を出て行った。
男としての格好はついた。これで素直に状況が飲み込めれば良かったものの、そうはならなかった。
一人になってようやく、心の奥底にどす黒い感情が沸き起こる。
0
あなたにおすすめの小説
お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる