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【二章:樹海の守護者と襲来する勇者パーティー】
冒険者殲滅戦――<仕置き2 斥候・闘術士>
しおりを挟むクルスは距離を測りつつ、ジェガとイルスの攻撃をかわし続ける。
できれば樹上へ戻り、体勢を立て直したかった。
「イルス、そっち!」
「わかった、ジェガ!」
「――くっ!?」
しかし息の合ったジェガとイルスの連撃は、クルスへ回避以外の暇を与えない。
(やはり2対1では分が悪いか。そろそろ増援に来てもらいたいものだな!)
そう思った時、視界の隅へ“赤い影”が僅かに映りこむ。クルスは仮面の裏で口元を緩めた。
「きゃっ!」
「おわっ!?」
木々の間から鋭い刃のような棘のついた、円盤状の“種”が飛来し、ジェガとイルスの連撃を分断する。
二人の動きが止まる。その隙を見逃さず、クルスは腰から短剣を抜き、刃へ血を塗って駈け出す。目標は小男の斥候ジェガ。
Cランクの斥候ジェガ――彼は自分の損得を優先して動く男。そのためならば、多少人が傷つこうと、構わないという性格をしている。実力はまだ乏しい。しかしこの男は、このままではいつかフォーミュラのような、最悪の冒険者になりかねないと危惧していた。
「ジェガ、お前はもう少し人の気持ちを考えた方が良い。このままではいずれお前は自滅する。くれぐれも行動には気を付けることだ」
「っ!? お、おめぇはまさかクル――!」
ジェガは寸前とのところで腕の爪を掲げて、クルスの斬撃を防いだ。
短剣と爪が絡み合い、拮抗し、互いに一歩も動けなくなる。
「は、ははっ! ビビらせんなよ! どうするよ、おっさん? 格上の俺に勝てると思ってんのかよ?」
「……」
「な、なんだよ、何睨んでやがんだよぉ!! 糞がぁ!!」
怯えたジェガは虚勢を叫ぶ。格上だろうと、やはり未だ精神が未熟な子供。注意が散漫になっている。
クルスは素早く背中の矢筒から矢を抜いた。
「ぐあぁっ!?」
そしてジェガの太ももへ、矢を直接突き立てた。
短剣と爪の拮抗が破れる。
クルスは短剣へ再び、自分を血を塗り、一歩前へ踏み出た。
「悔い改めろ、小僧ッ!」
「がっ!?」
自らの血をしみこませた短剣でジェガの脇腹を迷うことなく、そして深く切り裂いた。
小柄なジェガは軽く突き飛ばされ吹っ飛び、ゴロゴロと地面へ転がる。
「い、いてぇ……! いてぇよぉー……! んだよ、これぇ……! 糞がぁ……!」
ジェガは地面の上をのたうち回りながら、悔しそうに顔を歪ませながらもがき苦しむ。
そんな無様な男を、クルスは冷たい視線で見下ろしていた。
「それが痛みだ。お前の軽薄さの裏で、いつも多くの人が苦しんでいた。ならば今度はお前の身体で、その痛みと苦しみを思い知るが良い!」
「なんで俺がこんな目にぃ……かはっ!」
ジェガは血反吐を吐き出したのと同時に、ピクリとも動かなくなる。麻痺毒の効果は抜群だった。
(二人目!)
突然、燃えるような気配を背中へ感じた。
振り替えるとそこにはメイスを振り上げた闘術士の大女:イルスの姿が。
「死ねぇっ!!」
怒りの声と共にイルスは躊躇うことなくメイスを振り落す。
さすがのクルスも、かわす暇は無し。来たるべき衝撃に備えて、素直に身を固め、防御態勢を取る。
「ぎゃっ!?」
しかし突然、脇から甘い花の香りを伴って“赤い影”が矢のように飛び出し、イルスを蹴り飛ばす。
「お待たせっ!」
「待っていたぞ、ラフレシア!」
頭に咲き誇る赤い花。真っ赤ドレスに肩まであるウェーブかかった髪。
イルスを蹴り飛ばしたのはセシリー=カロッゾ嬢に寄生している魔物【ラフレシア】だった。
クルスはラフレシアの手を借りて立ち上がる。
丁度その頃、ラフレシアに蹴り飛ばされたイルスもメイスを杖に起き上がった所だった。
その顔はまるで鬼か、悪魔のように怒りで歪んでいた。
「許さない、ジェガを……私のジェガを良くも……殺す、ぶち殺す、ぶっ殺す、顏が分からなくなるぐらいグチャグチャにしてやる……殺してやる、殺して、ふふ、はは……!」
Bランク闘術士イルス――恋人のジェガへ異常なほどの深い愛情を注ぐ彼女。しかしその想いは度を過ぎていて、ジェガ以外の人間には全く興味を示さない危うさがあった。出自が複雑で、気の毒な身の上らしいが、だからといって甘えて何をしても許されるわけではない。
「魔法付与(エンチャント)ぉ! 猛火(ファイヤリーファイヤー)ぁっ!」
イルスは目の前に依頼の主目標である“セシリー”がいるにも関わらず、メイスを火属性魔法で真っ赤に発光させた。
どうやらジェガを倒されたことで錯乱しているらしい。本来は先ほどの火炎流を仕掛ければ早いものだが、未熟な冒険者は明らかに感情を優先し、冷静さを欠いている。
「私があの人間を引き付けるわ。その間にお願い」
「わかった。ラフレシア」
「んっ?」
「気を付けてくれ」
「ありがとう。でも安心して。私はこの森の守護者よ。あんな人間程度に後れを取るものですか!」
ラフレシアは棘の鞭で地面を打って、飛び出す。
「死ねぇ、糞魔物(モンスター)共があぁっ!」
イルスもまた炎のように真っ赤に燃えるメイスを手に、ラフレシアへ突っ込んだ。
棘の鞭と赤いメイスが激しくぶつかり合い、火花を散らす。
「へぇ! やるわね人間!」
「死ね! 死ね! 死ねぇっ! 殺す! 殺す! あははは!!」
火属性の力を付与したイルスのメイスはラフレシアの棘の鞭を焦がす。
属性の相性は最悪。それはラフレシアも分かっているらしく、イルスの攻撃をかわすことに専念している。
だからこそ激情しやすいイルスの注意は、完全にラフレシアへ向いていて、クルスのことは眼中にないらしい。
「イルス、君はもっと多くの人と関り、広い世界へ目を向けるんだ! ジェガよりも君を幸せにしてくれる人に出会えるはずだ!」
決して届くはずのない言葉を呟きながら、クルスはイルスに狙いをつけて矢を射った。
「あっ! つあぁぁぁー……!」
矢がイルスの太ももへ深く突き刺さる。瞬間、イルスの足から力が抜け、大きな体が盛大に地面へ転げた。
「ジェガと離れ、新たな道を探せ。忠告はしたぞ」
「ジェガぁ……!」
イルスは倒れるのと同時に、激しく地面へ後頭部を打ち付け気を失うのだった。
ラフレシアには甘いと言われるかもしれない。しかし若い冒険者達の命を奪うことに、クルスは抵抗があった。
それに彼らはビギナには手を出していなかった。クルスが解雇通告を受けた時も、彼らは彼らなりの事情があって、フォーミュラへ意見することができなかっただけ。自分の立場を守るのに必死だっただけだった。
ならばこの機会に、人生を見つめなおして貰いたい。考えを改め、新しい道を進んでほしい。若い彼らはまだ人生をやり直す機会がある筈。
これがヘビーガ、ジェガ、イルスに対して冒険者の先輩としてのクルスがしたいこと、するべきことだった。
(三人目! 残るは――!!)
クルスとラフレシアは、気配を感じ取って視線を飛ばす。
すると木々の間から、ようやく弓使いのマリーと、魔法剣士フォーミュラが飛び出てきた。
「なっ……こ、これは!?」
*補足
賛否はあると思いますが、クルスさんはジェガやイルス達の宿屋でのやりとりを知らないのです。
クルスさんの性格を考え、このような仕置きになりました。
ですが、二章終盤付近で、それぞれに似合ったオチはあります。
次は弓使いと、そして待望の魔法剣士の番でございます。
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