【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス

文字の大きさ
42 / 123
【二章:樹海の守護者と襲来する勇者パーティー】

冒険者殲滅戦――<ラストバトル>【後編】

しおりを挟む


 圧縮された紫の煙が、大砲のような轟音を伴いながら放たれる。
ロナの最終兵器――“猛毒弾” ちびロナの時に見せてもらったものよりも遥かに巨大な煙の弾がフォーミュラへ迫る。

「やらせるかぁぁぁ――!!」

 フォーミュラは身体から壮絶な輝き発する。
 取りついてマタンゴとベラが輝きの嵐に飲まれて突き飛ばされた。
ラフレシアの棘の鞭を一瞬で焼き切り、彼女さえも木の葉のように吹き飛ばされる。
更に輝きはロナの放った猛毒弾さえも、光属性の力によって燃やし、かき消した。

「そ、そんな……!」
「ひゅー、危なかったぁ。さすがに貰ってたら死んでたぜ。さぁて!」

 フォーミュラはサディスティックな笑みを浮かべてロナへ腕を翳す。
すかさずロナは蔓の盾を形作ろうとするも、フォーミュラが光弾を放つ方が早かった。

「きゃっ!!」
「ロナーっ!!」

 彼女の悲鳴とクルスの声が重なり、爆音でかき消される。
 煙の向こうでは、ぼんやりと力なく首を落とす、哀れなロナの姿が映った。

「く、クソッ……!」

 クルスは突っ伏したまま、無力な自分へ憤りを感じる。
これが勇者とEランクの圧倒的な差なのだろうか。

 大切な場所を、仲間を、愛する者さえも守れないのか。
 
 戦う意思はある。ロナや樹海を守りたいという決意は微塵も揺らいではいない。
しかしこれまでの連戦で、クルスの身体は悲鳴を上げ、起き上がることすら満足にできそうもない。

「ぐああああ――っ!!」

 そんなクルスの手を、フォーミュラは聖剣で突き刺してきた。
更にフォーミュラは顔に邪悪な笑みを浮かべつつ、クルスの頭を靴底で踏みつける。

「クルス、ここまでよくもまぁ好き勝手にやってくれたな。ええ? おい!」
「くっ……つぁ……!」
「おい、おっさん! 俺の名前を呼んでみろよ。“フォーミュラ様、助けてください。お願いします”て、命乞いしてみろよ! 俺は寛大な勇者だ。だからそうすりゃお前ぐらいは助けてやる。どうよ?」
「だ、誰が、そんなことを……こ、殺す! フォーミュラ、お前は必ず、俺の手で……!」
「なぁにぃ!? フォーミュラだとぉ!?」
「ぐああああ!!」

 フォーミュラは眉間にしわを寄せて思い切り、クルスの手から剣を抜く。
そして聖剣を高く掲げた。その顔は勇者とは思えない、邪悪な笑みを浮かべていた。

「ならまずはお前から殺す。次に俺をコケにしたビギナを殺す。魔物共はゆっくりバラバラに解体して、素材にしてカロッゾへ売り払ってやる!」
「ッ……!!」
「勇者であるこの俺を怒らせたことを後悔して死ねぇぇぇ!」

 無力のクルスへ輝く聖剣が振り落される。諦めを感じる暇は皆無。すると聖剣はクルスの頭を叩き割る直前で止まった。

「こ、これは……!?」

 驚愕するフォーミュラの声が聞こえ、クルスは咄嗟に顔を上げた。
 フォーミュラの腕は、青白い輝きを纏った魔法の帯で拘束されている。

 魔法の帯を放っていたのは、災厄の勇者の背後で勇ましく金の錫杖を掲げ、憤怒の表情を浮かべた、小さな体に大きな力を宿した彼女。

「ビギナ! てめぇ、なにしやがる!」

 魔法の帯で拘束されたフォーミュラはビギナへ怒りの視線を向けた。しかし、ビギナは小さな足で精一杯踏ん張り、フォーミュラを拘束し続けていた。

「先輩っ! 今です、お願いしますっ!!」
「こ、この女(あま)ぁ……!」
「フォーミュラ=シールエット! どんなに強い力が有ろうと、お前がどんなに名家出身であろうとも! お前のようなワガママで最低な人は勇者失格! いえ、人間失格です!!」

 ビギナの叫びは、諦めかけたクルスの胸へ再び闘志を宿らせる。
 クルスは最後の力を振り絞り、矢筒から矢を抜いた。

「うおぉぉぉっ!!」
「――ッ!? ぐああ――っ!!」

 渾身の力を込めて、手にした矢をフォーミュラのつま先を突き刺した。
矢はフォーミュラのつま先を貫通し、彼をその場へ釘づける。

「この、てめ……は、離せ! 離せぇぇぇ!!」

 どんなにフォーミュラに踏みつけられようと、たとえ無様に地面へ突っ伏したままだろうと、クルスは決して矢を手放そうとはしない。

「うぐっ、あ、脚がっ……!?」

 やがて、彼を蹴ったぐるフォーミュラの動きが鈍り始めた。
ようやくクルスの血に染みこませた“麻痺毒”が効果を示しだしたらしい。

「ロナッ! 殺(や)れっ!!」

 クルスの声が周囲に響き渡る。フォーミュラの背後、そこには既に傷を癒し、蔓からいつでも“猛毒弾”を発射できる体勢を取った、ロナの姿が。

「人の姿をした悪魔よ! お逝きなさいっ!!」

 猛毒が圧縮された煙の弾が、フォーミュラの背中へぶつかり、爆音と共に弾けた。
フォーミュラの顔から一気に血の気が引き、身体から力が抜けてゆく。

「っ……ああ……!」
「今度こそ終わりだフォーミュラ。最後は苦しみながら、地獄へ行け」

 起き上がったクルスは満身創痍のフォーミュラを、思い切り蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたフォーミュラはふらふらと膝をついた。

「かはっ! げほっ! ごほっ!! こ、これは……!?」

 フォーミュラは血反吐を吐きだした。髪が抜け落ち、肌が溶け出し、瞳が輝きを失ってゆく。
しかし彼の持つ最大の力“再生(リジェネレイト)”が発動し、傷を修復する。
その直後、ロナの猛毒は再びフォーミュラの身体を乱暴に食い荒らす。

「か、髪が! お、俺の、髪……! なんだ、これっ……げほっ!」

 死と再生の繰り返し。それは終わらぬ拷問の如く、フォーミュラを苛む。

 しかし共に猛毒弾を浴びたクルスは当然無事である。
“状態異常耐性”様々だった。

「こ、こんなところで、俺は……俺は勇者! 勇者なんだぞっ!」
「……」
「あ、ああ! かはっ! ごほっ! た、助けて……! オレを……!」
「……」
「謝ル! いママでの、こと、全部! ダから……!」
「……」
「お、お願イダ! 頼ム……! ホシイモノ、カネ、オンナ、メイよ、やる……! ダカラぁ……!」

 今さら命乞いをするフォーミュラへ、クルスは冷たい視線で睨んだ。

「勇者らしく潔く眠りに就け、フォーミュラ。最期くらいは見届けてやる」

 崩れたフォーミュラの顔が、絶望に染まった瞬間だった。

「イヤだ……こんナ……コンナ、サイゴ、ナンテ……!」
「……」
「オレハ、ユウシャ……オレハユウシャナンダ……オレハ……」
「……」
「……タスケテ クレェェェェ―――っ!」

 断末魔の叫びと共に、フォーミュラの身体の至る所から血が噴き出した。
彼はそのまま倒れ、自らの血の池に沈む。

 魔力が完全に底を尽き、再生ができなくなったフォーミュラはドロドロに溶け、もう二度と起き上がることは無かったのだった。


*あと2話で二章終了です。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...