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【最終章:ベルナデットの記憶】

ゼラと少女たちのドキドキ大作戦【前編】(*ゼラ視点)

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「ちぇすとぉー!」

 朝の凛とした空気の中へ、ゼラの勇ましい声が響き渡った。
 振り落とした大剣(ハイパーソード)が、標的として用意した丸太を盛大に叩き割る。
 これで叩き割った丸太の数は30本を超えた。
さすがのゼラも肩で息をし、体中から汗を噴出している。

 いつもならばこうして身体を動かせば、大体の悩みは吹っ飛んで、心身ともにすっきりするはずである。
 
「はぁ……」

 しかしこぼれ出たのは盛大なため息だった。
 
 いくら身体を動かそうとも、胸の内にあるもやっとした感情は払しょくされなかった。
 なんだか立っているのも億劫になったゼラは、大剣を投げ捨て、地面へ大の字に倒れこんだ。
 
「クルス先輩、か……」

 いつからだろうか、その名を口にすると子宮がうずく様になったのは。
 もしかすると初めて出会ったときから、ずっと疼いていたのかもしれないと思う。
 
 常により強い遺伝子を求めるのが戦闘民族たる“ビムガン”の、しかも生命の誕生を司る“女”の役目だった。
故に、ビムガンは心と共に“子宮”で恋をする定めにある。

 確かにゼラは少し奥手なところがあると、自分でも自覚している。しかし持って生まれた性格の問題よりも、子宮の疼きに素直に従えないのは、ひとえに親友の“ビギナ”の存在があることに他ならなかった。
 
 クルスを追い求めて傷つく親友の姿を、ずっと傍で見続けていた。
そんな彼女の想いは成就させ、今クルスの傍に居る。

 自分の好きな人は、親友の大事な人。
 輪を尊ぶ性格のゼラにとって、どちらを取るかなど、答えは決まり切っている。
と、頭ではそう思えど、子宮の疼きは日に日に激しさを増し続けている。

 今ほど“ビムガン”として生を受けたことを呪ったことは無かった。

「なにしてんの? 寝てるの?」

 不意に声を掛けられ目線を上に動かせば、そこには頭に巨大な花を咲かせた魔物の少女:セシリーが腕を組んで佇んでいた。
 
「おはようっす。まぁ、そんなとこっす。セシリーはこんなとこで何してるっすか? まさか朝のお散歩とか、そんな健康的なキャラじゃないっすよね?」
「あのさ、アンタなんでそういっつも一言多いわけ? まぁ、確かに早起きは苦手だけど……」
「そうそう! そういうリアクション! セシリーってそうやって反応してくれるから楽しいんっすよ」
「た、楽しい!? へ、へぇ……そっか」

 セシリーは嬉し恥ずかしいといった具合に、視線を逸らす。
 素直じゃないし、口も悪い。だけどこうして時々可愛らしい表情を見せるセシリーがゼラは嫌いではなかった。
むしろ好きで、どうやったらもっと仲良くなれるのかと今は考えている。
 
「で、なんっすか? その様子だとウチに用があるように思うっすけど」

 ゼラは起き上がり、胡坐をかいてセシリーへ振り向く。
胸のもやもやもセシリーとの軽口で多少は収まっている。来訪感謝だった。

 すると、セシリーは何かを思い出したような顔をして、ずんずんゼラへ歩み寄って来た。

「ど、どうしたっすか?」

 さすがのゼラも突然、セシリーに手を掴まれ、首を傾げた。
 
「ちょっと一緒に来なさい!」
「おわっ!? ちょ、ちょっと!?」

 ゼラは成すが成されるがまま、セシリーに手を引かれてゆく。
そうして連れ込まれたのは、父親のフルバ族長がセシリー達の滞在用にと用意した来賓用のコテージだった。
 
「フェア! ベラ! 連れてきたわよ!」
「お帰りなのだ! フェアは絶賛、奥で仕上げ作業中なのだ!」

 部屋の奥から出てきたベラは元気よく声をあげた。
 
「できた! ベラ殿、完成しま……おお、これはお嬢様! ゼラ殿! お帰りなさいませ!」

 次いで奥から、目の下に真っ黒なクマができたフェアが現れた。
 彼女の手には何故か真新しい“真っ赤なドレス”が握られている。
 
「よくやったわフェア、上出来よ!」
「ありがたきお言葉です、お嬢様」
「じゃあ、早速始めるのだぁ!」

 突然、ベラはゼラのショートパンツのボタンを外し、躊躇うことなく下した。

「な、なにするっすか!?」
「動いちゃだめよ? 動かないほうが良いわ? てか動いたら殺しちゃうわよ?」

 ゼラを羽交い絞めを掛けてきたセシリーは、耳元でそう囁く。
 戦闘民族としての感性が、セシリーの本気を知らせてくる。
 
 その間にもベラは順調に汗でびっしょりになったゼラの衣服の排除を進行させている。
シャツが取り払われると、ゼラの豊満な胸が解放されために、大きく弾む。

「ま、まさか、これほどの大きさとは、想定外だ……しかし直している間はなし……仕方あるまい……ご免!」

 赤いドレスを手にしたフェアが迫る。そして――
 
「こ、この恰好なんっすか!?」

 フェアのお手製、真っ赤なドレスに着替えさせられたゼラは、顔を真っ赤にして叫ぶ。

「おっと、あまり暴れないように! 胸のサイズが少し小さいのでボタンが弾けてしまいます! そのことだけはゆめゆめお忘れなきよう!」

 フェアにとって事情説明よりも、服の方が大事らしい。
 
「次は私の番ね!」
「御意!」
「拘束なのだー!」
「わわ!?」

 今度はフェアがゼラを羽交い絞めにし、ベラはにゅるりと蔓を伸ばして、先端にくくった鏡へゼラを写す。
 そして箱を手にしたセシリーはにやりと笑みを浮かべ、ゼラの顎を“クイっ”と掴んだ。
 
「さぁ、可愛くしてあげるわ。覚悟するのね!」
「か、可愛く!?」
「そうよ! 私の華麗なメイク捌き、とくとご覧なさい!」

 セシリーは広げた箱から、ルージュやらなにやら様々な道具を取り出し、ゼラの顔へ向かってくる。
 
 そして――
 
「お、お姫様なのだ! 凄いのだ―!!」

 ベラは興奮した声を上げ、
 
「素晴らしい出来です、お嬢様。いつの間にこのような技術(スキル)を?」
「カロッゾ家で寝込んでいた時にちょっとね。すごいでしょ?」

 フェアの関心に、セシリーは堂々と胸を張った。
 
「これがウチっすか……?」

 ゼラは鏡に映る自分を見て思わずそう漏らす。真っ赤なドレスを着て、綺麗な化粧をした鏡の中の存在は、ベラの言う通りまさしく“お姫様”である。
 
「おはようございまーす……わぁ、ゼラ! 可愛くなったね!!」

 最後に現れたビギナは、嬉しそうな声を上げた。
 
「ビギッチ、これなんなんすか!? なんのつもりっすか!?」
「だってせっかくのデートだもん。いつもの恰好じゃ味気ないかなって」
「デ、デート!? 誰が誰とっすか!?」
「そんなのゼラとクルス先輩に決まってるじゃん!」
「いやいやいや、急にそんな!」
「ゼラっ!」

 ビギナは大きな声を上げて、爪先立ちをしながらゼラの肩を掴んだ。
彼女の真剣な形相に、ゼラは息を飲む。

「本当にゼラが先輩と二人きりで過ごしたくないなら今すぐ止めるよ。だったら遠慮なく言って。でも、もしも私やみんなに気を使って、先輩へのゼラの素直な気持ちを押し留めてるなら、我慢しなくて良いんだよ! これはみんなの意思でもあるんだから!」
「……」
「どうする? 行くの? 行かないの?」
「……本当に良いんっすね?」
「あーもう! 良いって言ってるんだから“はい”か“いいえ”で答えなさいよ! いつもは軽口叩くくせに、こういう時ばっかりグジグジ言って!!」

 セシリーは眉間にシワを寄せながら、そう叫んだ。その言葉を受けて、ゼラは胸の内に燃え上がる何かを感じ取る。友達の、仲間の石を無駄にはしたくない。そしてこれはゼラの自身の望みである。

「……みんなありがとうっす。ウチ、行きたいっす!」
「わかった! じゃあ行こう!」
「うっす!」

 ゼラはビギナに腕を引かれコテージから連れ出される。
 セシリー達も後を追って、ぞろぞろと続いてゆくのだった。

「お嬢様、一応聞いておきますが、本当に宜しいのですか?」
「良いのよ。だって、分かるから、今のゼラの気持ち……」
「ご成長なさいましたね」
「協力ありがとね、フェア」
「滅相もございません。さぁ、急ぎましょう」
「ええ! ビムガン、ちゃんとやらないとぶっ殺すんだから」
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