95 / 123
【最終章:ベルナデットの記憶】
学術都市ティータンズの危機
しおりを挟む「ベルナデット……それは一体誰ことのことですか?」
ロナが聞き返すと、聖王は歩みを止めた。
「違うのか……?」
「えっと、はい。すみません。私は、その……ロナと申します。ベルナデットという名前では……」
「しかし……!」
「すみません。きっと人違いです」
ロナは聖王から視線を外す。すると聖王は暫く食い入るようにロナを見つめたが、やがてため息を付き、表情を王のものへと戻した。
「そうか……申し訳なかった。昔の知人にあまりに似ていたもので……非礼をお詫びします、お嬢さん」
「いえ……」
聖王は踵を返し、ロナから離れてゆく。そして改めて、傅くフルバへ向き直った。
「緊急事態が発生した。早急に調査を依頼したく、自ら参った次第だ」
「調査ですかい? 一体どこの?」
「昨日未明より、学術都市ティータンズとの連絡が途絶えた。同時にソロモンより、東の魔女の塔から異常な魔力の反応が発生したと報告が上がっている」
「東の魔女の塔!? てぇ、こたぁ!?」
「ありえるかもしれぬ。五魔刃、その筆頭で五ノ刃――東の魔女タウバ・ローテンブルクの復活が」
聖王の言葉を聞き、クルスをはじめ、聖王国の常識を知るものは一斉に息を飲んだ。
東の魔女タウバ・ローテンブルク。
リアガード島を支配していたオルツタイラーゲ家の若き当主:ラインを魔神皇として目覚めさせ、魔神皇大戦を引き起こした罪深きハイエルフ。一時期、ヴァンガード島の東方を支配したことから"東の魔女"と呼ばれている。
「現在、東の魔女の塔へは我が国の兵団を派遣し調査をさせている。ビムガンは早急に連絡の途絶えたティータンズへ急行し、調査に当たってもらいたい」
「承知しやした!」
その時新たな飛龍が上を過って着陸し、騎兵が慌てた様子でかけてきた。
「報告します! 東の塔へ向かった調査隊が全滅! 影のような魔物にやられたそうです!」
「ザンゲツか……おのれ、タウバめ! 至急城へ戻る! 三戦騎を集結さておけ! 各方面軍へも連絡を!」
キングジムは再び、フルバへ向き直った。
「ティータンズの件、くれぐれも頼んだぞ」
「お任せくだせぇ! 親父!」
聖王は踵を返す瞬間、ロナへ視線を送ったような気した。
そして聖王を乗せた飛龍は舞い上がり、空の彼方へ消えてゆく。
「おい、今すぐ動けるうんと強いやつを集めておけぇ! すぐにティータンズへ出発じゃ!」
「おっす!」
フルバの指示を受け、ビムガンの男は駆け出してゆく。
学術都市ティータンズ。
聖王国の巨大都市の一つであり、最高学府である"魔法学院"が所在する場所でもある。
「先輩、ティータンズには……!」
ビギナは不安げに唇を震わせた。
魔法学院には、秋頃交流をしたリンカ、オーキス、サリス。そして冬に共闘したモーラが在籍している。
きっとビギナは彼女達の心配をしているのだと思った。
「クルスさん!」
ロナは強い眼差しで、青い瞳にクルスを映す。
そうされずとも、鼻からクルスの意思は決まっていた。
「フルバ、一足し先にティータンズへ向かいたい。飛龍の用意はできるか?」
「なんじゃ兄弟? 急にどうしたんじゃ?」
「ティータンズには世話になった人達がいる。彼女達の安否を確かめたい。そしてもしも危機に陥っているのなら助けになりたいと考えている。頼めるか?」
「任せるけ! 兄弟のお願いじゃ、最優先で用意させちゃる!」
「ありがとう、フルバ。助かる」
クルスは改めて、仲間達の方を向いた。
「この通りだ。ロナとビギナと俺はティータンズへ向かう。皆はどうか?」
「もちろん、ウチも行くっす! ちびっ子達が心配っす!」
ゼラは迷わず同行を願い出てくれた。
「お嬢様、我々は?」
「うーん、そうねぇ……ベラはどうするの?」
「僕は行くぞい! ねえ様とクルスが行くならどこへでも!」
「それもそうね。良いわクルス、私とフェアも同行するわ!」
セシリー、フェア、ベラも同意してくれた。
やはりクルスを囲む今の仲間たちは頼もしい面々ばかりだと、改めて思った。
「行っちゃうにゃ……?」
そんな中ゼフィが不安げな視線でクルスを見上げていた。
寂しげな表情に、胸へ痛みを感じる。しかし今は一刻を争う場面であった。
「はい。申し訳ございません。自分たちはこれで旅立ちます」
「そうかにゃ……」
寂しさなのか、不安なのか、ゼフィは耳を萎れさせ、尻尾をブラブラと揺らしている。
そんなゼフィの頭をクルスは撫でた。
「また来ます。必ず」
「クルス……」
「それまでお待ちいただけますか、ゼフィ姫様」
「わかったにゃ! 僕、またクルスに会える日を楽しみに待ってるにゃ!」
ゼフィは丸い目に浮かんだ涙を拭って元気よく、そう答えてくれたのだった。
かくしてクルス一行はフルバの邸宅へ向かってゆく。
仕事の早いフルバは既に灰色の鱗を持つ、たくましい飛竜を用意してくれていた。
背中には豪奢な籠のようなものが設えられていて、ただまたがるよりも格段に乗り心地が良さそうだった。
「こいつはワシらの専用じゃ。足の悪いロナさんでもこれならしゃーなかろ?」
「しゃー……?」
「おう、すまん! “大丈夫”って意味じゃけん」
「そうか。なにからなにまでありがとうフルバ。感謝する」
「ええさ! 兄弟の頼みじゃけぇな! くれぐれも気ぃつけてな! ワシらも1000人の一族と一緒に後で合流する!」
クルスとフルバ固い握手を交わし、暫しの別れを伝え合う。
クルスたちは続々と、飛竜の背中に設えられた籠へ乗り込んでゆく。
「またにゃークルス! 待ってるにゃー!!」
「兄弟、気をつけるけん! あとでまた会おう!!」
飛び立つ飛竜へゼフィとフルバは手を振り見送ってくれた。
クルスたちを乗せた飛龍は雄々しく翼を開き、ビムガン自治区を飛び立ってゆく。
「ねぇ、クルス」
飛行途中、脇に座っていたセシリーが声をかけてきた。
「どうかしたか?」
「あんたちゃんとゼフィとの約束守ってやんなさいよ。あんたは前科があるんだから」
「前科……?」
「待つのって案外辛いんだからね……」
幼い日のセシリーはたった一度だけ逢ったクルスを待ち続けていた。
きっとその時のことを思い出しているのだろうと思い、
「わかった。今度こそ気を付ける」
「うん。お願いね」
そんなやり取りをするクルスとセシリーを、ロナは優し気な笑顔を浮かべながら見ていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる