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【最終章:ベルナデットの記憶】
★【セシリー】のところへゆく
しおりを挟む(さてセシリーはどこにいるのか?)
クルスはラフレシアのセシリーの姿を求めて、閑散とした魔法学院の校舎を巡ってゆく。
「あら、クルス丁度良いところにいるじゃない!」
と、廊下の向こうから件の少女がかけて来る。
何故か手には大きなバスケットを持っていた。
「君のことを探していた」
「私もよ」
「そうなのか?」
「これから一緒にお茶をしない? 美味しそうなお菓子もみつけたのよ!」
クルスはセシリーに連れられて、学院の中庭にあるテラスにたどり着く。
セシリーは早速バスケットを開いてティーカップや、茶葉を取り出す。
手際良くお茶の準備が進んでゆく。
「手際がいいな」
「お茶は貴族の嗜みよ? これぐらい朝飯前よ。はい、どうぞ!」
かくしてお茶会が始まった。お茶もいい香りがして、カップケーキのようなものは甘さが絶妙で美味しい。
これで空が赤紫でなく、青空ならばどれほど良かったことか。
「この菓子はどこから見つけてきたんだ?」
「厨房を探したら出て来てね」
「なんだ、盗んできたものなのか?」
「なによ、盗んだだなんて人聞きの悪い! これは報酬よ、報酬! 一応、私だってクルスと協力して学院を守ったんだから! スコーンくらい貰ったって、罰は当たらないはずよ」
「確かにそうかもな」
「そうでしょ?」
クルスとセシリーはテーブルを挟んで笑いあった。決戦が明日など忘れてしまうほど穏やかな時間だった。
「なんかようやく念願かなったなぁって」
「念願?」
「ええ。私ね、ずっとクルスとこうしてお茶をしたかったのよ。それこそ、まだ私がただのセシリー=カロッゾであった時からずっと……」
「……そうか」
きっかけは軽い口約束だった。“ラフレシアの花を見せる”。その約束は幼い日にたった一回だけ出会った病弱な令嬢へ懸けたリップサービスでしかなかった。
しかし令嬢は、彼の言葉を信じ、待ち続けていた。真実を知った時、クルスは心の底から、申し訳ないことをしたと思った。
そして今でもそのことを思い出すと、気分が勝手に少し沈み込む。
「こうして一緒にお茶ができるだなんて夢みたいよ。それに……」
セシリーはカップを両手で掴みながら、俯いた。
肩が僅かに震え、顔が頭の花の様に赤く染まっているように見える。
「私、クルスのものになれたから……もしも、クルスが約束を破ってなかったら、私はとっくの昔に死んでた。ラフレシアに身体を捧げようだなんて考えなかった。でも、約束を破ったことは正直まだ怒ってる」
「……」
「だけど、その……これから一つお願いを言うから、それを叶えてくれたら、約束破ったことはもう怒らない……」
どうしようもないほど、目の前にいる少女が可愛いと思ってしまうクルスがいた。
そしてそろそろ、セシリーに対する、申し訳なさも解消せねばならないと思った。
「わかった。俺ができることならなんでも」
「じゃ、じゃあ……キ……」
「き?」
「キ、キスしなさい!! こないだは私がしたんだから、アンタからも!! それで嘘ついたことはチャラにしてあげるわっ!」
セシリーは顔を真っ赤に染めながら大絶叫。
そしてクルスはためらわずに立ち上がり、彼女の下へと向かってゆく。
「あ、あ、ちょっと!? いきなり!? 心の準備とか、そういうの!!」
クルスはセシリーの顎を掴んで、こちらを向かせる。
「セシリー」
「ひゃぁ!?」
顔が真っ赤なセシリーは、視線を右往左往させて、言った本人が一番動揺していた。
「あっ……」
クルスはセシリーに顔を寄せ、そして彼女の額へ軽く口づけをする。
「今はここまでにしておこう。続きは帰ってからだ」
「帰ってからって……」
クルスは少しばかり不満なのか、ぷっくり膨らませたセシリーの頬へと触れる。
そうするとセシリーは眉間の皺を解き、頬を嬉しそうに緩ませた。
「くれぐれも気を付けてくれ。そして無理をせず、必ず帰ってきてくれ。そうしたらこの続きを。君が満足するまで」
「もう、また待たせる気なの?」
「いや、今度は俺が君のことを待っている」
「……バカ。バカクルス……なにカッコつけてんのよ……」
そんなことを言いつつも、頬をあやされるセシリーは満足げな様子だった。
セシリーもまたクルスにとって大事な人の一人。
もう決して待たせたりはしない。クルスは心の中で、そう誓うのだった。
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