93 / 105
第二部 一章【愛すべき妖精剣士とぶどう農園】(ジェスタ編)
熾烈を極める農繁期
しおりを挟む「まもなく雨が来そうだ! 皆、申し訳ないが急いでくれ!」
ジェスタは切迫した声を響かせた。
ノルンを含め、作業に従事していた者は皆、スピードを早める。
本日の作業は葡萄の房への傘かけ。
長い切れ目の入った紙を房の上へ円錐状に巻き、クリップで止めるといった単純な作業である。
しかしこれの効果は非常に大きい。
こうして房へ傘をかけることで、日光による熱害や、ベト病などといった病害が守ることができる。
しかし濡れた状態で傘を掛けると逆効果になってしまうので、房が乾燥している状態でかけるのが望ましい。
(雨に降られては傘かけができなくなる。急がねば……!)
今日も作業人数はノルンを含めてたったの六人。
傘かけはまだ半分も残ってしまっている。
「遅くなってすみません! 手伝います!」
教会での勉強を終えたトーカが合流してきた。
「最近、顔を出せずすみません。何をしたら良いですか!?」
夜勤明けのリゼルさんも眠気まなこを擦って、加わってくれた。
たった2人。されど2人。
傘かけのスピードは格段に上がってゆく。
(のこり三分の一。上手くゆけば今日中には!)
「みなさん、限界です! 早くあの樹の下へ避難してください」
ギラ農場長がそう叫んだ。
空からは、龍の声のような、稲妻の轟が降りてくる。
ノルン達は急いで、大樹の下へ走った。
途端、空が大泣きを始め、激しい雨が降り注ぐ。
「クソっ……あと少しだったのに!」
ジェスタは自然の力の前に、悔しそうに歯を食いしばっている。
雨は滝のように降り注ぎ、房へかけたばかりの傘を容赦なく打ち据える。
止めが甘かった傘は雨に叩き落とされる。ふくらみ始めた房が風雨の元に晒される。
「そんな……」
トーカは雨に叩き落とされた傘を見て、愕然としていた。
おそらく、あの傘は彼女がかけたものなのだろう。
するとそんな様子に気がついたジェスタは、落ち込むトーカの肩を抱く。
「大丈夫。あれぐらいで葡萄は負けないよ?」
「で、でも! ごめんなさい、下手そくで……」
「ちゃんと見てあげなかった私も悪いんだ。次は一緒に頑張ろ? ねっ?」
「ありがとうございます、ジェスタさん……」
たとえ真実は永遠に闇の中だったとしても、ジェスタとトーカは本当の姉妹なのだと感じるノルンなのだった。
その時、ノルンの感覚が、魔物の気配を感じ取る。
(またメガフィロキセラか! こんな時に!!)
ノルンが眴をすると、護衛隊の面々は頷いてみせた。
「またメガフィロキセラが現れた。討伐してくる!」
「そ、そうか。いつもすまない……」
「構わん。ジェスタ達は醸造場でできることをやっていてくれ。行くぞ!」
ノルンは勇ましく、護衛隊を引きつけれ、豪雨の中を走り出す。
⚫️⚫️⚫️
「メイガーマグナム! エンドシュートッ!」
ノルンの放った光弾が、雨を物とものせずに、虫の魔物を粉砕した。
護衛隊も果敢にメガフィロキセラと果敢に戦闘を繰り広げている。
メガフィロキセラ自体は弱い。
人となったノルンであっても容易に倒せる程度の魔物。
ただしーーそれは数は数匹から十数匹だった時に限ってである。
(なんだこの数は……以前より増えているぞ!?)
いくらメガフィロキセラを倒そうとも、森の奥から続々と出てくる始末。
更にノルン達は滝のように降り注ぐ雨に打たれながらである。
雨によって体温を奪われ、みるみるうちに体力が減少してゆく。
「負けるか……魔物などに負けてたまるかぁぁ!!」
ノルンは冷え切った体へ叫ぶ。
そうして自分へ檄を飛ばして、拳でメガフィロキセラの甲羅を叩き割る。
その時、護衛隊のダリルが、メガフィロキセラに突き飛ばされた。
陣形が崩れ、1人、また1人とメガフィロキセラの体当たりを受けて、突き飛ばされてゆく。
「やらせん! やらせん……ぐわっ!?」
冷え切った体の影響で注意力が散漫になっていた。
ノルンまたメガフィロキセラに突き飛ばされ、球のように地面の上を何度も跳ねる。
誰もが限界だった。もはや立ち上がることさえできなかった。
そんなノルン達の様子に気づいた巨大な虫達は、彼らを無視して山を降り始める。
元々フィロキセラは"ブドウネアブラム"と呼ばれ、葡萄の樹を殺してしまう害虫である。
「狙いはやはり、農園か……! させん……させんぞ……! こんなことでジェスタの夢を……!」
ノルンは意識を朦朧とさせながらも立ち上がった。
覚束ない足取りで、しかし敵の姿はしっかりと見据えつつ跡を追う。
頑張っているジェスタのためならば……しかしそんな意思に反して、ノルンの体はいうことを効かない。
(俺はまた失うのか……大事なものが失われるのを指を加えてみているしかないのか……!)
「GYUKYUーー!!」
突然、雨音の中にメガフィロキセラの断末魔が響き渡った。
目の前では巨大な虫の魔物が次々と切り裂かれ、体液を上げている。
あっという間に目前のメガフィロキセラは駆逐された。
死骸の中に佇んでいたのは、柳葉刀を持った、麗しい女性の妖精。
「立て! この程度の戦いでへばってしまうなど、ジェスタ様の護衛隊として恥ずかしいぞ!」
「シェザール隊長!」
護衛隊の面々は激しく喜びをあらわにする。
シェザールは豪雨などものともせずに、いつもの凜然とした佇まいでノルンへ歩み寄る。
そして颯爽と傅いた。
「傷はすっかり癒えました。シェザール、只今より姫様護衛の任に復帰いたします!」
「よく戻ってくれたシェザール。頼りにしているぞ」
「はっ! この身この命はジェスタ様、そしてノルン様のもの! 誠心誠意尽くさせていただきます!」
シェザールはすくっと立ち上がった。
指示を出さずとも、護衛隊は彼女を中心に陣を組む。
「さぁ、皆のもの! 久々に行きますよ! 八卦陣!」
シェザールを中心に据えた護衛隊の面々から鮮やかな緑の輝きが迸る。
「「「「暴龍風」」」」
鍵たる言葉とともに、護衛隊から激しいつむじ風が巻き上がった。
風は木々の間を龍のようにすり抜けて、迫り来るメガフィロキセラのみを曇天へ巻き上げた。
風圧が巨大な虫の魔物を次々と圧殺してゆく。
「抜剣! 残りは白兵戦で各個と殲滅する! アタック!」
シェザールの勇ましい指示の下、護衛隊はそれぞれの武器を手に散ってゆく。
先程までは皆、限界だった。
もはやこれまでと諦めかけていた。
しかし、それは弱い心が、体へそうさせていたのだと思えならない。
「ジェスタの、トーカの……皆の夢を壊させはしない!」
たった1人。されど偉大なる1人。
シェザールの復帰により精神的な支えを得た護衛隊は獅子奮迅の活躍を見せている
いつの間にか雨は止み、曇天の向こうからは太陽が暖かな光を降らせてきている。
(俺も護衛隊に負けてられんか!)
ノルンもまた気持ちを一新し、地面を蹴った。
そして果敢にメガフィロキセラへ挑んでゆく。
⚫️⚫️⚫️
雨が止み、暗く沈んだジェスタの顔を、太陽が明るく照らし出す。
美しい緑色を取り戻した農園。
そのはるか彼方に彼女はみた。
この農園を魔物から守るために必死に戦ってくれた戦士達を。
そして戦士達の中に、本当の家族以上に大切の思える女性の姿を。
「シェザールっ!!」
0
あなたにおすすめの小説
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる