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家に帰ると、部屋の壁が虹色だった。
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家に帰ると、部屋の壁が虹色だった。絵具でべったりと塗ったような品のない色を前に僕は目を覆った。壁の色から家具の色まで全部が虹色。雨に降られながらようやく帰ってきたというのに、なんという仕打ちだろうか。
「まったく、いったい誰がこんな悪戯を……」
壁に手を当てて触ってみたところ、何かで上塗りしたような感じではなく、最初からそういう色であるかのような感じだ。爪で軽く引っ掻いてみても色が剥げることがない。いったい誰がこんな手の込んだことをできるのだろうか。
僕は眩しい色の座椅子に腰掛けてテレビをつけた。テレビに映る画面はいつも通りらしい。壁紙のせいで落ち着かないので、僕はテレビに意識を集中した。ニュースを映してみても、僕と同じような被害が出ているというような報道はない。そのままパチパチとチャンネルを切り替える間にも、周囲の呆れるほど気が散る配色のために気が散って仕方がない。あまりに気が散るのに痺れを切らした僕は、頭を掻き毟りながら叫んだ。
「ああ、もう! なんなんだよこの部屋はぁ! ふざけんなよ!」
そう叫んだ直後、窓を何かが叩く音が聞こえた。ノックのような軽い音ではなく、太いもので打つような音だ。まさかこれは新手の強盗なのだろうか。「元の色に戻して欲しければ」云々みたいな。僕は慎重にカーテンを開けて窓の外を見た。するとそこには雲の隙間から顔を覗かせる白髭のおじいさんがいた。白い布を纏ったような古い時代の神話に出てくるような服装だ。彼は僕と目が合うと手招きをした。恐る恐る窓を開けると、彼は思いの外響く声で話し始めた。
「いやーすまない。君の部屋、大変なことになっているね」
雲間の男はお茶目に「すまんすまん」と手を合わせた。
「いやいや、なんですかあなた。全然理解が追いつかないんですけど」
「いやな、わし神様なんじゃけどね、そろそろ雨があがるんで空に虹を描こうとしたんじゃよ。そしてバケツツールでベタッと塗ったらあら不思議、あんたさんの部屋まで塗っちゃってしまったんだよ。心当たりはないかね?」
ベランダから体を乗り出して空を見上げれば、ちょうどこの部屋の上に虹の根本がきているのがわかった。どうやら神が空模様を描くのは随分デジタルな手法らしい。
「心当たりって……なんか隙間が空いてるとかそういうのですかね?」
「まあそうじゃな。普通部屋に隙間なんて空いてないんじゃが……」
そう言われて僕は部屋の中を見渡した。鍵はしっかり閉めてあったし、窓ももちろん施錠してあった。じゃああと隙間が空きそうな場所は……
「あっ……」
部屋の角に目を向けると、天井に穴が開いている。そういえば最近雨漏りで天井に隙間が空いていたんだった。そこから染み出してきたのかもしれない。
「あの、雨漏りで天井空いてたんですけど」
「おお、多分それじゃ。いやー本当に申し訳ないことをした。今戻すから待ってくれ」
そう言って雲間の神は手元のキーボードをタン、と入力した。すると部屋の中を見ると、部屋の中の全ての色彩が元に戻った。落ち着きのある白の壁紙に、マットなブラックのシートの座椅子。完璧だ。
「あの、次回からは気をつけてくださいね。すごい大変なんで」
「おお、今度からは道楽せずにペンで描くことにするよ。すまんかったな。それじゃあ、失礼するぞ」
そう言って雲間の神は案外気安く手を振って空の光の中に消えていった。
一息ついた僕は、部屋に置いてあったパソコンを起動しようと電源ボタンを押した。今日はやらなければいけないことがあるんだ。早く終わらせよう。そう思って起動した矢先、僕は窓を開けて空に向かって叫んだ。
「……ふ、ふざけんなよお前ーっ!」
表示されたデスクトップの背景のキャラクターは全て虹色に染まっていた。
「まったく、いったい誰がこんな悪戯を……」
壁に手を当てて触ってみたところ、何かで上塗りしたような感じではなく、最初からそういう色であるかのような感じだ。爪で軽く引っ掻いてみても色が剥げることがない。いったい誰がこんな手の込んだことをできるのだろうか。
僕は眩しい色の座椅子に腰掛けてテレビをつけた。テレビに映る画面はいつも通りらしい。壁紙のせいで落ち着かないので、僕はテレビに意識を集中した。ニュースを映してみても、僕と同じような被害が出ているというような報道はない。そのままパチパチとチャンネルを切り替える間にも、周囲の呆れるほど気が散る配色のために気が散って仕方がない。あまりに気が散るのに痺れを切らした僕は、頭を掻き毟りながら叫んだ。
「ああ、もう! なんなんだよこの部屋はぁ! ふざけんなよ!」
そう叫んだ直後、窓を何かが叩く音が聞こえた。ノックのような軽い音ではなく、太いもので打つような音だ。まさかこれは新手の強盗なのだろうか。「元の色に戻して欲しければ」云々みたいな。僕は慎重にカーテンを開けて窓の外を見た。するとそこには雲の隙間から顔を覗かせる白髭のおじいさんがいた。白い布を纏ったような古い時代の神話に出てくるような服装だ。彼は僕と目が合うと手招きをした。恐る恐る窓を開けると、彼は思いの外響く声で話し始めた。
「いやーすまない。君の部屋、大変なことになっているね」
雲間の男はお茶目に「すまんすまん」と手を合わせた。
「いやいや、なんですかあなた。全然理解が追いつかないんですけど」
「いやな、わし神様なんじゃけどね、そろそろ雨があがるんで空に虹を描こうとしたんじゃよ。そしてバケツツールでベタッと塗ったらあら不思議、あんたさんの部屋まで塗っちゃってしまったんだよ。心当たりはないかね?」
ベランダから体を乗り出して空を見上げれば、ちょうどこの部屋の上に虹の根本がきているのがわかった。どうやら神が空模様を描くのは随分デジタルな手法らしい。
「心当たりって……なんか隙間が空いてるとかそういうのですかね?」
「まあそうじゃな。普通部屋に隙間なんて空いてないんじゃが……」
そう言われて僕は部屋の中を見渡した。鍵はしっかり閉めてあったし、窓ももちろん施錠してあった。じゃああと隙間が空きそうな場所は……
「あっ……」
部屋の角に目を向けると、天井に穴が開いている。そういえば最近雨漏りで天井に隙間が空いていたんだった。そこから染み出してきたのかもしれない。
「あの、雨漏りで天井空いてたんですけど」
「おお、多分それじゃ。いやー本当に申し訳ないことをした。今戻すから待ってくれ」
そう言って雲間の神は手元のキーボードをタン、と入力した。すると部屋の中を見ると、部屋の中の全ての色彩が元に戻った。落ち着きのある白の壁紙に、マットなブラックのシートの座椅子。完璧だ。
「あの、次回からは気をつけてくださいね。すごい大変なんで」
「おお、今度からは道楽せずにペンで描くことにするよ。すまんかったな。それじゃあ、失礼するぞ」
そう言って雲間の神は案外気安く手を振って空の光の中に消えていった。
一息ついた僕は、部屋に置いてあったパソコンを起動しようと電源ボタンを押した。今日はやらなければいけないことがあるんだ。早く終わらせよう。そう思って起動した矢先、僕は窓を開けて空に向かって叫んだ。
「……ふ、ふざけんなよお前ーっ!」
表示されたデスクトップの背景のキャラクターは全て虹色に染まっていた。
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