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時雨山の主
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それから数日後、野ネズミの団長が意気揚々とやって来ました。
「いい知らせです、お針子殿。指輪のありかがわかったのです。時雨山のアナグマが空から降ってきた光る指輪を拾ったのだそうです。ただ、それをアナグマは時雨山の主に届けたようでして」
時雨山の主と聞いてお針子の顔は青ざめてしまいました。
時雨山の主ときたら、とてもとても怖い親分だとこの黄昏ヶ丘にまで評判が届いているくらいでしたから。
なんでも山を荒らす暴れ牛を一口で飲み込んでしまったとか、烈火のごとく怒った時は山が揺れるほどとかの大変な評判でしたので、お針子は少し躊躇しました。
ですが、悲しみにくれる流れ星の涙を思い出し勇気を振り絞りました。
「まさか指輪を返して欲しいと頼みにいくだけでとって食われることもないでしょうよ」
危ないからやめておけと止めるリスに留守番を頼み、お針子は時雨山に向かいました。
黄昏ヶ丘から山を3つ越えると時雨山です。通りかかった山犬に道案内を頼み、お針子は主のすみかにたどりつきました。
すみかを守っているかのような二匹の蛇に用向きを伝えしばらく待つと、奥からのそりのそりと大蛇が現れました。これが音に聞く時雨山の主なのでしょう。
「あの、少し前にアナグマが届けたという指輪のことなのです。その指輪は、うちにお仕事の依頼に来たお客様である星の子さんが、天に戻るのに必要な大事な指輪なのだそうです。指輪を返してやっていただけませんか?」
しばらく沈黙が続き、お針子の心臓はばくばくと音がするのではないかというくらい早く打っていました。そして、時雨山の主はようやく口を開きました。
「黄昏ヶ丘のお針子さんとはお前さんのことだそうだね。ずっと会いたいと思っていたよ」
お針子は驚いて口も聞けませんでした。私に会いたかった?でもどうしてかしら?
「長い間枯れていた精霊の泉を蘇らしてくれたそうだね。凄い腕をお持ちのようだ。あの泉はわしが幼い頃暮らしていた思い出の泉でね、枯れたと聞いて随分淋しく思っていたものさ。それを水源を刺繍することで蘇らしたと聞いて驚いたよ。何かお礼ができればと思っていたから、丁度よかった。この指輪はその客人へ返しておやり。なんせ私には指がないものだから指輪を持っていたとしてもなんの使い道もないのさ」
そういって大きな口をぐわっと開けて笑ったので、緊張がゆるんでほっとしたお針子もつられて微笑んだのでした。
戻ってきたお針子が指輪を差し出すと星の子は飛び上がって喜びました。
「ありがとう!ありがとう!なんとお礼を言ったらいいのでしょう。本当にありがとう」
指輪をそっとはめると、星の子の体は透き通りはじめ、そしてキラキラ輝く粉になって消えはじめました。
「ありがとう、本当にありがとう」
声だけが天から降るように響いてきました。そして姿の消えた後には小さな石のかけらが残されていました。
「あんな危険な目にあって、こんな石のかけら一つだってさ」
またリスが悪態をつきます。お針子は家に入ってお茶の用意をしながらリスに言いました。
「ただの石のかけらじゃないのよ。星のかけら。とっても珍しいものって言っていたでしょ。夜になると光るんですってよ、あぁ夜が待ちきれないわ」
お針子はテーブルに熱いお茶のたっぷりはいったティーポットとカップ、そしてスコーンと野ネズミ団長が持ってきた木苺のジャムを並べ、腰掛けました。
「ふぅ、なんだか忙しかったわね。少しお仕事をおやすみしてのんびりしたい気分だわ。」
ちょうどその時、トントンと扉を叩く音が聞こえました。
お針子とリスは顔を見合わせました。
どうも次の依頼主のようです。
さてさて、次はどんな仕事を頼まれることやら……
「いい知らせです、お針子殿。指輪のありかがわかったのです。時雨山のアナグマが空から降ってきた光る指輪を拾ったのだそうです。ただ、それをアナグマは時雨山の主に届けたようでして」
時雨山の主と聞いてお針子の顔は青ざめてしまいました。
時雨山の主ときたら、とてもとても怖い親分だとこの黄昏ヶ丘にまで評判が届いているくらいでしたから。
なんでも山を荒らす暴れ牛を一口で飲み込んでしまったとか、烈火のごとく怒った時は山が揺れるほどとかの大変な評判でしたので、お針子は少し躊躇しました。
ですが、悲しみにくれる流れ星の涙を思い出し勇気を振り絞りました。
「まさか指輪を返して欲しいと頼みにいくだけでとって食われることもないでしょうよ」
危ないからやめておけと止めるリスに留守番を頼み、お針子は時雨山に向かいました。
黄昏ヶ丘から山を3つ越えると時雨山です。通りかかった山犬に道案内を頼み、お針子は主のすみかにたどりつきました。
すみかを守っているかのような二匹の蛇に用向きを伝えしばらく待つと、奥からのそりのそりと大蛇が現れました。これが音に聞く時雨山の主なのでしょう。
「あの、少し前にアナグマが届けたという指輪のことなのです。その指輪は、うちにお仕事の依頼に来たお客様である星の子さんが、天に戻るのに必要な大事な指輪なのだそうです。指輪を返してやっていただけませんか?」
しばらく沈黙が続き、お針子の心臓はばくばくと音がするのではないかというくらい早く打っていました。そして、時雨山の主はようやく口を開きました。
「黄昏ヶ丘のお針子さんとはお前さんのことだそうだね。ずっと会いたいと思っていたよ」
お針子は驚いて口も聞けませんでした。私に会いたかった?でもどうしてかしら?
「長い間枯れていた精霊の泉を蘇らしてくれたそうだね。凄い腕をお持ちのようだ。あの泉はわしが幼い頃暮らしていた思い出の泉でね、枯れたと聞いて随分淋しく思っていたものさ。それを水源を刺繍することで蘇らしたと聞いて驚いたよ。何かお礼ができればと思っていたから、丁度よかった。この指輪はその客人へ返しておやり。なんせ私には指がないものだから指輪を持っていたとしてもなんの使い道もないのさ」
そういって大きな口をぐわっと開けて笑ったので、緊張がゆるんでほっとしたお針子もつられて微笑んだのでした。
戻ってきたお針子が指輪を差し出すと星の子は飛び上がって喜びました。
「ありがとう!ありがとう!なんとお礼を言ったらいいのでしょう。本当にありがとう」
指輪をそっとはめると、星の子の体は透き通りはじめ、そしてキラキラ輝く粉になって消えはじめました。
「ありがとう、本当にありがとう」
声だけが天から降るように響いてきました。そして姿の消えた後には小さな石のかけらが残されていました。
「あんな危険な目にあって、こんな石のかけら一つだってさ」
またリスが悪態をつきます。お針子は家に入ってお茶の用意をしながらリスに言いました。
「ただの石のかけらじゃないのよ。星のかけら。とっても珍しいものって言っていたでしょ。夜になると光るんですってよ、あぁ夜が待ちきれないわ」
お針子はテーブルに熱いお茶のたっぷりはいったティーポットとカップ、そしてスコーンと野ネズミ団長が持ってきた木苺のジャムを並べ、腰掛けました。
「ふぅ、なんだか忙しかったわね。少しお仕事をおやすみしてのんびりしたい気分だわ。」
ちょうどその時、トントンと扉を叩く音が聞こえました。
お針子とリスは顔を見合わせました。
どうも次の依頼主のようです。
さてさて、次はどんな仕事を頼まれることやら……
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