世界は荒野でできている

立夏 よう

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悠 1

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「伊東先生が転落死したらしい」

朝、LINEを開いて、思わず声がでた。
「ウソ……」
伊東先生といえば、来たばかりの若いなんか自信なさげなオーラの女の地学の講師。っていうか、つい昨日喋ったばかりなんだけど。急に話しかけられてびっくりしたんだった。

学校関係のグループLINEがざわついている。追ってると母親が心配そうな顔になるので、慌ててスマホを伏せる。絡まれたくないから。

中学の時はそうでもなかったのに、高校にはいってから、というより4月から父親が単身赴任で家を出てから、どうもわたしたちはギクシャクしてる。中学の頃は気にならなかったいろんなことが、気になってしまう。専業主婦で家にいるからか、わたしのことにかかりきりとは言わないけど、彼女にとってわたしのウエイトが高すぎる気がしてしまってそれを圧に感じる。単純に鬱陶しいって、思っちゃいけないのに思ってしまう。
完璧に用意された朝食をなるべく残さないようにたいらげて、洗面所にこもる。そしてあまり顔を合わせないように、玄関を出る。中学生までは行ってらっしゃいって見送りに来てたけど、もういらないからやめてくれって言ったら来なくなった。でもわたしが玄関の鍵をめんどくさがってかけないから、行ったのを見計らって締めにくる。わたしが家を出たあと、カチリと鍵が閉まるのが聞こえる。冷たい硬い音。

やっぱり気になるから、自転車乗る前にLINEを眺める。
みんな混乱してるのが伝わってくる。びっくりという内容の嵐。
なんだろう、引っかかる。
そして、いつものグループにLINE送る。
「何か知ってる?伊東先生のことだけど」
そして、自転車のペダルを踏み込む。急がないと今朝はすることあるのに結構ぎりぎりだ。

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