世界は荒野でできている

立夏 よう

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美冬 10

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「『今のわたしが怖いのは、いろんな感情を麻痺させてこんなことになってしまってる自分自身なのかもしれない。この怖いものを消してしまうには、もう自分自身を消さないと駄目みたい。全てのことを終わりにして自由になりたい。だって、もうどうやって元の自分に戻っていいのかわからない。何を頼りにどうやって生きていけばいいのか全然わからない』。伊東先生はそう言って、この柵を乗り越えてしまいました。僕はどうしていいかわからなかった。先生は僕が手帳を読んでしまったことにすごくショックを受けてて、僕が読んで傷ついたと思って、それで思い詰めちゃったんだと思います」

そんな……、辛すぎる。なんでそんな。

「先生はスレスレの端っこに立って、それで、ごめんねって僕にいっぱい謝ってくれて。僕はそんなこともういいですから、僕は大丈夫なんで、気にしてないから、だからこっちに戻ってきてくださいって何度も言ったんだけど、先生は、もう無理、もう疲れたって。でもそのまま足がすくんだのか動けなくてしばらくそのまま立ち尽くしてる状態でした。で、先生が言ったんです。『雪彦くん、怒ってるでしょ?怒っていいの。わたしは酷い教師だから。だから、押して?』って。足がどうしても動かないから、背中を押してくれって僕に頼んだんです。」

え、それって、それって。

「僕は迷いませんでした。手帳を全部読んでいたから。先生はいっぱいいっぱいで、とても辛そうで、孤独で、僕は怒りよりもただ助けてあげたかった。開放してあげたかった。だから」
「押してあげたんです、先生の背を。トンって軽く押しただけで先生は、落ちていきました。そうです。あれは僕がやったんです」

言葉が出てこない。

「それが美冬先輩が知りたがってた、9月18日の真相です。これが全部。まだ何か聞きたいことありますか?」

やっぱり、言葉が出てこない。
雪彦は、黙ってるわたしを見つめ、そしてあの手帳を、わたしに握らせた。

「これ、僕がもらったんですけど、もういらないんで先輩にあげます。それでは望遠鏡をしまって帰りますね。」

そう言って望遠鏡を片付け始めた。

「僕、先輩のこともちゃんと好きでしたよ」

帰り際に一度だけ振り返るとそう言って、雪彦は立ち去った。

何も言えないまま、ただその後ろ姿を見つめながら、ポケットに入れていた取材用レコーダーのレックボタンをオフにして、そしてしばらくその場に立ち尽くす。
動けなかった。

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