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第18話~魔王城の変貌~
しおりを挟む魔王城に優しい風が吹き抜けていた。草一本生えぬ漆黒の岩山に囲まれ、上空は常に厚い雲に覆われて陽も差さぬ暗黒城。しかし、主のいなくなった城に雲はなく穏やかな晴天に覆われていた。その城に訪れている魔族の影があった。朱龍族のセリカと、黄獣族のパーニだ。彼女達は魔王に力を与えられ、その力によってそれぞれの部族の長となった。そして、自らの部族を編成した軍を率い、先の大戦を戦った魔族の将だ。
「あぁ、魔王様。本当に、いらっしゃらないのですね」
勇者と魔王が死闘を繰り広げた王の間で、セリカが膝をついた。燃えるような真紅の髪の上には二本の角が突き出している。
「人間如きに、してやられるとは情けねえ」
頭上の耳をピクピクとさせ毒づくバーニだが、その表情には無念さが滲んでいた。
「やはりあの時、魔王様だけを残すべきではなかったのです。まさか、門(ゲート)を逆に利用されるとは」
「なんでそんな事ができんだよ。あの魔法は、失われた禁呪だって、魔王も言ってたじゃねえか」
「人間の中にも、門(ゲート)の術式を解読できる者がいたということですわ」
魔王は四人の将に四つの軍を与えていた。戦の始めこそ、魔族が戦いを優位に進めていた。しかし、魔力の豊富な南の大地で生きてきた人間達は、魔法の技術では魔族を凌駕していた。魔族達を悩ませたのが、人間達の持つ治癒の魔法だった。肉体の能力では遥かに人間に勝る魔族であったが、
殺さない限り、怪我を治癒できる人間達に、物資と人的な補充では、はるかに及ばなかった。そして、戦線は膠着した。
その状況を打開するべく、魔王は一斉攻勢に乗り出した。その隙をつかれリリア達に魔王城に侵入され、魔王は負けた。
魔王の死を知った四人の将は、即座に軍勢を撤退させた。人間達の軍も北の大地まで入り込んでくることはなかった。セリカとバーニは自分達の軍を一時解散させた後、少数の部下たちを連れ、魔王城へ戻ってきたのだ。
「セ、セリカ様! 大変です。一大事です!」
城内の調査をしていたセリカの従者が慌てた様子で駆け込んできた。
「どうしたの、そんなに慌てて」
「あ、ありえないものが、中庭に!」
顔を見合わせた二人は中庭に急いだ。
魔王城の中庭に陽光が挿し込んでいた。その場所に、緑の新芽が息吹いていた。それは、南の大地ならありふれた情景でしかない。しかし、ここ魔王城が立つ場所は草木一本生えることのない不毛の土地と呼ばれていたのだ。
「どういう事だ、なんで魔王城に……」
「そう言われると、感じませんか?」
「何?」
「地下からのようですわ、これは魔力?」
「馬鹿な。ここは魔王城だぞ!」
北の大地のほぼ中央に位置する魔王城は、いつ建てられたかもわからない古い城だ。全ての魔族に認められた、最も強き者に与えられる称号、それが魔族の王である魔王だ。魔王と名乗るのを認められた者だけが住むことができるのが、この城だった。この場所は魔力の真空地帯とも呼ばれ、力のない者だと3日も過ごせば、干乾びて死ぬとまで言われた。魔族達も好き好んで立ち寄らない。魔王と呼ばれるほど強き者でないと住むこともできない。そんな城だった。
それなのにだ。今この城を包んでいる空気は柔らかく、力に満ちていた。
「この城に何が起こっているのか、調べてみる必要がありますわね」
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