陰キャラモブ(?)男子は異世界に行ったら最強でした

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プロローグ 勇者召喚

第三十一話 うっかりと脱出と

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 元龍神オルンフェルクに永遠の別れを告げた颯太は、現在ダンジョン内で困り果てていた。

「…やべぇ…どうやってここから出るか訊くの忘れてた」

 そう、脱出方法が分からないのだ。

 オルンフェルクの姿が完全に消え去った後、颯太はすぐに頭を切り替えて、ダンジョンのゴール地点(?)である鍛冶場やその一つ前の宝物庫を調べて回った。
 鍛冶場は既に錆びていて使えない物の方が多かったが、宝物庫にはこの世界の通貨や旅をする身には便利そうな物が色々あった。
 いつ誰が来るか分からない場所に、元々オルンフェルクの所有物だった物を置きっぱなしにするのも忍びなかったので、図々しいとは思いながら颯太はありがたく頂戴した。
 そして、さあ出発しようか、と思い直して気がついた。
 そういやどうやってここから出るか訊いてねぇな、と。
 せめてどこかに新しい扉があればすぐにそれが出口だと分かるのだが、何故かここにはそういう風な扉はおろか、鍛冶場から先の部屋は一つもない。

「…どうしたもんかなぁ…」

 颯太は大きな溜息をついて、鍛冶場の床に腰をおろした。
 学校で目立たないよう伸ばしていた、少し長めの前髪を軽く掻き上げて目頭を揉み解す。
 ここに置いてある道具を片っ端から鑑定していたせいで目が疲れているのだ。

(脱出に使える魔道具はなかったし、それらしき扉もない、か)
「まさに八方塞がりだな」

 自嘲気味の苦笑を溢して仰向けに寝転がった。
 天井には、電球の代わりに光の球がユラユラと漂っている。
 颯太はそれをボンヤリと眺めながら、物思いに耽る。


 ――この世界に来てから色んな事があったな…
 最初は何が何だか分からなくて混乱しかけたけど、大輝も綾乃も居てくれたから落ち着けて…
 目立ちたくないからって二人の事避けてたけど、二人には悪いことした、よな…
 いつも三人で何をするにも一緒だったから、突然「近づくな」はなかったな…今更だけど。
 周りに合わせた剣術訓練に魔法の勉強とか、色々と目紛めまぐるしかったから、こうやってゆっくり何かを考える時間は久々だな…
 ダンジョンでこの世界の戦闘経験重ねたおかげか、大分魔力操作も上達した感じがするし、自分流の戦闘スタイルも掴めた…気がする。
 ボス部屋の扉についてる複雑な魔法陣には苦労したけどなんとか……ん?――


「魔法陣…?」

 頭の中で何かが引っかかり、颯太は物思いから戻って来た。
 バッと身体を起こし、辺りを見渡す。

(…そういえば、まだ見てない)

 ボス部屋の扉と同じように、ダンジョンで次の階層に進む時、必ずと言って良い程頻繁に魔法陣を見かけていた。
 主に次の階層へ進む時に。
 ここでは、オルンフェルクに会ったラスボスの部屋の扉以外では見ていない。
 颯太は慌ただしく、床に這いつくばるようにして探した。

「!…あった…」

 それはすぐに見つかった。
 光の球の真下、部屋全体を覆う煤でとても見えにくかったが、ボンヤリと紫色に輝るそれは確かに魔法陣だ。
 颯太は【アイテムボックス】から、ダンジョンの戦闘でボロボロになった麻のシャツを取り出して煤を拭く。
 今までのものよりと大きさは同じだ。
 しかし感じる魔力のケタが違う。
 颯太は【鑑定】を使用して、自分の予想が正しいかどうか確認する。


********************************

【魔法陣】

 転移の術式が書かれている。
 これを使えば、術式に書き込まれた場所まで一瞬で移動出来る。
 時空上級魔法【転移】の劣化版。

********************************


(…最後の一行は余計だな…)

 しかし、これで彼の予想が正しいことが証明された。
 脱出方法をようやく確保し、思わず安堵の溜息が出る。
 颯太はすぐさま魔法陣を、上から覆いかぶさるようにして眺め、その術式を確認した。

(異常や間違いはないな。かなり古いけど壊れてもない。…ここは、なんて書いてるんだ…?)

 颯太は、こういった魔法陣の読みがあまり得意ではない。
 魔法陣のは彼の精密な魔力操作でどうとでもなるのだが、となると一気に苦手になる。
 これらに使われる文字は普段使う言語とは違っている上に、似たようなものが多く覚えるのが大変なのだ。
 颯太達の世界で言えば、それらは外国語に近い。
 普段使わないからか日本人に英語が苦手な人が多かったり、逆に日常的に使っている日本語は世界的に難しい言語の上位にあったりするのと同じだ。
 イヴァンに教わった事を記憶の奥底から引っ張り出しながら、この魔法陣を使用した場合の転移場所をどうにか割り出す。

「…こ、く、りゅ、う、の、め、い、きゅ、う、ま、え…?」
(漢字に直すと「黒龍の迷宮前」か?黒龍って、もしかしなくてもオルンフェルクのことだよな…このダンジョンの名称?だったら行けるのはダンジョンの出入り口ってことか)

 城へ行き、クラスメイトと合流してまた同じような暮らしに戻るつもりは毛頭ない颯太は、一瞬顔を顰めそうになったが、そこで頭を過ったのは二人の親友と、この世界に来て仲良くなれたパーティーメンバーの顔だった。

(…心配、してるよな…何にせよ、一旦戻るか)

 意を決した颯太は立ち上がって、もう一度グルリと辺りを見渡す。
 部屋の扉の前で、オルンフェルクがニッコリ笑ってこちらに手を振っている幻影が見えた気がして、颯太はフッと柔らかな笑みを漏らした。

「じゃあな」

 それだけ言って、完璧な魔力操作で足から魔法陣に自身の魔力を注ぎ込み、颯太はダンジョン「黒龍の迷宮」を脱出した。


__________


 暗闇の中で、その子は目を覚ました。

(…ぅ……?…ここ…どこ……?…痛い……暗い……寒い……冷たい……なんで、私……こんなとこに居るの…?)

 大量の疑問が一気に思考を支配する中、その子はボンヤリと、ある出来事を思い出した。

『ば…化物だぁ!』
『何なのよあんた!気持ち悪いのよ!』
『今こっちを睨んだわ!』
『異端児め!この村から出ていけ!』
『出ていけ!』

 魔物と同じ、異物としての扱い。
 怒りや恐怖、忌避などの視線。
 武器を手に怒声を浴びせてくる人々。

(……そっか……追い出されたんだ…私………村、出てすぐ……怖いオジさん達に見つかって……追いかけられて……捕まって……)

 思い出したくなかったな、と息を吐く。
 ずっと同じ体制でいたからか体重がかかる部分が痛くて僅かに身じろぎすると、後ろのすぐに近くで微かにジャラリと音がした。
 その子は、特別驚くわけでも、悲しむわけでもなかった。
 目を覚ました時に、時折身体に伝わってくる振動や自分の状態から、ある程度のことは察していた。

(…子どもの私を買ってくれる人、居るかな…)

 まるで自分の事を商品かのような言い回しだが、それが今は正解だった。
 自分が箱詰めにされて奴隷として売られそうになっていることに気付いている。
 それでもこの状況を切り抜けたり抵抗したりしようとしないのは、その子はまだ幼い子どもであるのに、自分の未来をとうに捨てているからなのだ。

 馬車が大きく揺れて、その子の顔に自身の髪がかかる。
 暗闇でも分かる程の白い髪と、自分では見れない瞳の色がその子は大嫌いだった。
 人から「気持ち悪い」と罵られる髪と瞳。

(…もう、嫌…)

 その子は無意識に唇を噛んだ。

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