陰キャラモブ(?)男子は異世界に行ったら最強でした

日向

文字の大きさ
31 / 53
プロローグ 勇者召喚

第三十一話 うっかりと脱出と

しおりを挟む
 元龍神オルンフェルクに永遠の別れを告げた颯太は、現在ダンジョン内で困り果てていた。

「…やべぇ…どうやってここから出るか訊くの忘れてた」

 そう、脱出方法が分からないのだ。

 オルンフェルクの姿が完全に消え去った後、颯太はすぐに頭を切り替えて、ダンジョンのゴール地点(?)である鍛冶場やその一つ前の宝物庫を調べて回った。
 鍛冶場は既に錆びていて使えない物の方が多かったが、宝物庫にはこの世界の通貨や旅をする身には便利そうな物が色々あった。
 いつ誰が来るか分からない場所に、元々オルンフェルクの所有物だった物を置きっぱなしにするのも忍びなかったので、図々しいとは思いながら颯太はありがたく頂戴した。
 そして、さあ出発しようか、と思い直して気がついた。
 そういやどうやってここから出るか訊いてねぇな、と。
 せめてどこかに新しい扉があればすぐにそれが出口だと分かるのだが、何故かここにはそういう風な扉はおろか、鍛冶場から先の部屋は一つもない。

「…どうしたもんかなぁ…」

 颯太は大きな溜息をついて、鍛冶場の床に腰をおろした。
 学校で目立たないよう伸ばしていた、少し長めの前髪を軽く掻き上げて目頭を揉み解す。
 ここに置いてある道具を片っ端から鑑定していたせいで目が疲れているのだ。

(脱出に使える魔道具はなかったし、それらしき扉もない、か)
「まさに八方塞がりだな」

 自嘲気味の苦笑を溢して仰向けに寝転がった。
 天井には、電球の代わりに光の球がユラユラと漂っている。
 颯太はそれをボンヤリと眺めながら、物思いに耽る。


 ――この世界に来てから色んな事があったな…
 最初は何が何だか分からなくて混乱しかけたけど、大輝も綾乃も居てくれたから落ち着けて…
 目立ちたくないからって二人の事避けてたけど、二人には悪いことした、よな…
 いつも三人で何をするにも一緒だったから、突然「近づくな」はなかったな…今更だけど。
 周りに合わせた剣術訓練に魔法の勉強とか、色々と目紛めまぐるしかったから、こうやってゆっくり何かを考える時間は久々だな…
 ダンジョンでこの世界の戦闘経験重ねたおかげか、大分魔力操作も上達した感じがするし、自分流の戦闘スタイルも掴めた…気がする。
 ボス部屋の扉についてる複雑な魔法陣には苦労したけどなんとか……ん?――


「魔法陣…?」

 頭の中で何かが引っかかり、颯太は物思いから戻って来た。
 バッと身体を起こし、辺りを見渡す。

(…そういえば、まだ見てない)

 ボス部屋の扉と同じように、ダンジョンで次の階層に進む時、必ずと言って良い程頻繁に魔法陣を見かけていた。
 主に次の階層へ進む時に。
 ここでは、オルンフェルクに会ったラスボスの部屋の扉以外では見ていない。
 颯太は慌ただしく、床に這いつくばるようにして探した。

「!…あった…」

 それはすぐに見つかった。
 光の球の真下、部屋全体を覆う煤でとても見えにくかったが、ボンヤリと紫色に輝るそれは確かに魔法陣だ。
 颯太は【アイテムボックス】から、ダンジョンの戦闘でボロボロになった麻のシャツを取り出して煤を拭く。
 今までのものよりと大きさは同じだ。
 しかし感じる魔力のケタが違う。
 颯太は【鑑定】を使用して、自分の予想が正しいかどうか確認する。


********************************

【魔法陣】

 転移の術式が書かれている。
 これを使えば、術式に書き込まれた場所まで一瞬で移動出来る。
 時空上級魔法【転移】の劣化版。

********************************


(…最後の一行は余計だな…)

 しかし、これで彼の予想が正しいことが証明された。
 脱出方法をようやく確保し、思わず安堵の溜息が出る。
 颯太はすぐさま魔法陣を、上から覆いかぶさるようにして眺め、その術式を確認した。

(異常や間違いはないな。かなり古いけど壊れてもない。…ここは、なんて書いてるんだ…?)

 颯太は、こういった魔法陣の読みがあまり得意ではない。
 魔法陣のは彼の精密な魔力操作でどうとでもなるのだが、となると一気に苦手になる。
 これらに使われる文字は普段使う言語とは違っている上に、似たようなものが多く覚えるのが大変なのだ。
 颯太達の世界で言えば、それらは外国語に近い。
 普段使わないからか日本人に英語が苦手な人が多かったり、逆に日常的に使っている日本語は世界的に難しい言語の上位にあったりするのと同じだ。
 イヴァンに教わった事を記憶の奥底から引っ張り出しながら、この魔法陣を使用した場合の転移場所をどうにか割り出す。

「…こ、く、りゅ、う、の、め、い、きゅ、う、ま、え…?」
(漢字に直すと「黒龍の迷宮前」か?黒龍って、もしかしなくてもオルンフェルクのことだよな…このダンジョンの名称?だったら行けるのはダンジョンの出入り口ってことか)

 城へ行き、クラスメイトと合流してまた同じような暮らしに戻るつもりは毛頭ない颯太は、一瞬顔を顰めそうになったが、そこで頭を過ったのは二人の親友と、この世界に来て仲良くなれたパーティーメンバーの顔だった。

(…心配、してるよな…何にせよ、一旦戻るか)

 意を決した颯太は立ち上がって、もう一度グルリと辺りを見渡す。
 部屋の扉の前で、オルンフェルクがニッコリ笑ってこちらに手を振っている幻影が見えた気がして、颯太はフッと柔らかな笑みを漏らした。

「じゃあな」

 それだけ言って、完璧な魔力操作で足から魔法陣に自身の魔力を注ぎ込み、颯太はダンジョン「黒龍の迷宮」を脱出した。


__________


 暗闇の中で、その子は目を覚ました。

(…ぅ……?…ここ…どこ……?…痛い……暗い……寒い……冷たい……なんで、私……こんなとこに居るの…?)

 大量の疑問が一気に思考を支配する中、その子はボンヤリと、ある出来事を思い出した。

『ば…化物だぁ!』
『何なのよあんた!気持ち悪いのよ!』
『今こっちを睨んだわ!』
『異端児め!この村から出ていけ!』
『出ていけ!』

 魔物と同じ、異物としての扱い。
 怒りや恐怖、忌避などの視線。
 武器を手に怒声を浴びせてくる人々。

(……そっか……追い出されたんだ…私………村、出てすぐ……怖いオジさん達に見つかって……追いかけられて……捕まって……)

 思い出したくなかったな、と息を吐く。
 ずっと同じ体制でいたからか体重がかかる部分が痛くて僅かに身じろぎすると、後ろのすぐに近くで微かにジャラリと音がした。
 その子は、特別驚くわけでも、悲しむわけでもなかった。
 目を覚ました時に、時折身体に伝わってくる振動や自分の状態から、ある程度のことは察していた。

(…子どもの私を買ってくれる人、居るかな…)

 まるで自分の事を商品かのような言い回しだが、それが今は正解だった。
 自分が箱詰めにされて奴隷として売られそうになっていることに気付いている。
 それでもこの状況を切り抜けたり抵抗したりしようとしないのは、その子はまだ幼い子どもであるのに、自分の未来をとうに捨てているからなのだ。

 馬車が大きく揺れて、その子の顔に自身の髪がかかる。
 暗闇でも分かる程の白い髪と、自分では見れない瞳の色がその子は大嫌いだった。
 人から「気持ち悪い」と罵られる髪と瞳。

(…もう、嫌…)

 その子は無意識に唇を噛んだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...