陰キャラモブ(?)男子は異世界に行ったら最強でした

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第一章 冒険者

第七話 訓練と遊びと

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 勇者二人のギリギリの攻防戦を眺めながら、政人は思わず今この場に居ない友人に、遠い目で念を送る。

(…颯太さん…この二人、もう魔王とか簡単に倒せるんじゃね?)

 __遠く、クレイドルまでの道のりを小さな少女をおぶりながら走り抜ける颯太が、この時盛大なくしゃみをしたとかしないとか。
 他のメンバーは、想像よりもずっとハイレベルな戦闘を見せつけられ、唖然としている。
 現在も変わらず行われている戦闘訓練で、木刀を使った二人の模擬戦をチラリと眺めることはあったが、素手の攻防をじっくりと見物するのは初めてである。
 自分達とのレベルの違いを、改めて見せつけられたかのようだった。

「次で終わりよ!」
「そりゃあ、こっちの台詞だ!」

 それらの言葉の次に彼らが見たのは、二人の拳がぶつかり合った瞬間。
 衝撃の余波が、離れていた彼らにまで伝わってくる。
 最初は拮抗しているように見えたが、徐々に綾乃の方が押され始め、遂には吹き飛ばされた。

「きゃあ!」

 ドォンッ!

 大きな音と共に地面に落下した綾乃。
 暫く皆呆然として場が静まり返るが、いち早く我に返った政人がコールする。

「しょ、勝者、江川!」
「よっしゃあ!俺の勝ち!」
「あー!やられたー!」

 渾身のガッツポーズで喜びを全面に出す大輝と、地面に寝そべって悔しそうに歯噛みする綾乃。
 大輝は軽く息を整えて綾乃に歩み寄り、手を差し伸べる。
 綾乃は清々しい表情で、素直にその手を取り立ち上がる。

「…ナイスファイト」
「そっちこそ」

 まだ少し痛む節々を軽く庇う二人。
 いつの間にか日が大分高くなっていることに気付いた所で、身体が空腹を訴えてきたので大輝達七人は一旦食堂に引っ込んだ。




 昼食を取りつつ、早速二人は今回の模擬戦の反省会を始める。

「やっぱり素手じゃ分が悪いわ。今度は刀で勝負しましょうよ」
「刀じゃ綾乃の方が有利だろ?」
「それは否定しないけど…お互い手の内は分かってるんだから、優劣なんてほとんどないじゃん」
「共闘することのが多いしな」
「確かに」

 談笑を交わす二人を横目に、政人達は黙々と食事を進めていく。
 今でこそ笑って話すことが出来ているが、颯太が行方不明になったと聞いた時は、綾乃も大輝も相当取り乱していた。
 自分の下手な発言でまた二人があんなことになったら…と、彼らは心配しているのだ。
 そんな、遠慮している彼らを見ている二人は、思わず溜息を溢しそうになっていた。
 二人共、周りが自分達に気を遣ってくれていることは分かっている。
 しかし、颯太は自分の意思でダンジョン内で行方を眩ませたのだと気がついた二人には、彼らの気遣いは無用だった。
 説明もしたのだけどいまいち伝わらず、強がりだと思われたらしい。
 二度も同じことを繰り返し言うのが嫌いな綾乃と、人に説明するのが苦手でこれ以上分かりやすくするのは無理だと諦めている大輝。
 結果認識は改まらず、現在進行形で心配されているのであった。
 それでも、気不味い空気に耐えきれなくなった綾乃は隣に座っていた朱莉に話しかけた。

「…ねえ、平さんはどう思った?私達の模擬戦」
「え!えぇっと……」

 いきなり話を振られ、朱莉は慌てて言葉を返そうとするが「凄かった」という事以外、何も出てこず俯いてしまう。

『……』

 更に気不味くなる七人。
 それから先は全員、何も言えず黙り込んでしまった。
 その時…

「あ~!疲れた~!さっさと飯食おうぜ~」
「誠也はほとんど後ろで見てただけでしょ~?こっちの方が疲れてるってば~」

 大声で話しながら食堂に入ってきたのは、ダンジョン訓練初日に馬鹿な質問をしていたパーティーの面々だった。
 とは言っても喋っているのは、髪を銀色に染めた男子とその男子の腕に絡みついている、髪を明るい茶色に染めた女子の二人だけで、残りのメンバーは何も言わずに食事を取りに行っている。
 彼らの姿を見た政人は、思わず顔を顰めてしまった。

(よりによって、来たのが東堂達かよ)

 クラスと言わず、校内で最も有名な不良グループで、颯太がダンジョンで行方不明となっても何も変わらなかった唯一のパーティーだ。
 一度学級委員の高須たかすが、あまりにも飄々とした態度の彼らに「何故そんなにお気楽でいられるんだ」と問い詰めた事があった。
 しかし彼らは悪びれもなく、「俺達には関係ねぇじゃん」と笑って切り捨てたのだ。
 政人は彼ら…特に松元が苦手だった。
 あの時関係ないと言って捨てたのも、下卑た笑いをあげたのも筆頭は彼だった。

(頼むから絡んでくるなよ)

 そんな願いも虚しく、こちらに気がついた松元がニヤニヤ笑いで近づいてきた。

「よう井口、お前こんなとこで何してんの?」

 よりによって自分に話しかけてきた事に、内心霹靂とし無視したい衝動に駆られながら、事実だけを淡々と返す。

「何って…昼飯食べてるだけだ」
「いや、だってお前らのとこの奴だろ?ダンジョンで死んだのって」
『!?』

 どうやら周りで、颯太はとっくに死人扱いされているようだ。
 政人はギッと松元を睨む。

「死んでねぇよ。絶対生きてる」
「いやいや無理じゃね?だって魔物がうようよ居るダンジョンの中で行方不明だろ?そいつ、どこかの魔物の腹の中に収まってんじゃねぇの?」

 ガタンッ!

「っ…!」
「「…黙れよ」」

 大輝と綾乃が、全く同時に松元の胸倉を掴んでいた。
 それまでの動きは速すぎて何も見えなかった。
 松元も彼らのパーティーメンバーも、まさかこの二人に掴みかかられるとは思っていなかったのか面を食らっている。
 二人の声と瞳には明らかに怒気が含まれており、若干殺気も混ざっている。

「あんたに颯太の何が分かるの?」
「根拠もねぇのにあいつを死人扱いすんじゃねぇよ」

 二人分の強い殺気にあてられた松元はガタガタと震え出し、二人が手を離すとその場にへたり込んだ。
 二人は何事もなかったかのように席に座り食事を再開するが、今度は松元に駆け寄った佐藤が突っかかってきた。

「何よ、生きてるって確証だってないじゃん!夢見てんじゃないわよ!」

 大輝は最早相手にしていなかったが、綾乃は絶対零度の視線を向けて冷たく言い放った。

「貴女は彼を知らない。ただそれだけの事よ」
「はあ!?意味分かんないし!」

 佐藤は綾乃を思い切り睨みつけ、松元に肩を貸して二人で食堂を後にした。
 他のメンバーは各々の食事を終わらせてからさっさと出ていく。
 瀬川だけは、こちらに頭を下げて謝罪してくれたが、残りの二人はガン無視だった。
 静まり返る食堂内では、カチャカチャと食器を動かく音だけが響いた。



~~

「食堂で、勇者達と異世界人の間にひと悶着あったみたいですね」
「…どこから聞いたんですか?」
「まあ、ちょっと」

 にこやかにはぐらかすイヴァンと、頭を抱えるジョン。
 二人はジョンの執務室に居た。
 ジョンにこの報告が入ったのはつい数分前だ。
 イヴァンの情報収集能力は侮れない。

「いよいよですね。二度目のダンジョン攻略」
「ええ」

 勇者二人と異世界人の少年少女五人が申請してきた訓練。
 これが、親友であり仲間である一人の少年を探す為の建前である事は分かっている。
 彼らは事情を正直に話しても、国王が許可しないのを分かっているのだ。
 彼らから当たり前の生活や家族との繋がりを奪い、こちらの世界で上から戦いを強いている者として言えた事ではない。
 しかしジョンは、これ以上彼らの大事なものを奪いたくないと思っている。
 それはイヴァンも同じだ。
 『何としてでも見つけ出す』
 一人の近衛騎士団長と宮廷魔術師長は、心に固く決心するのであった。

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