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第二章 藍と学校

141. 愛と美の出会い I meet Beauty.

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「……大丈夫よ、アイ。
 ――もう、誰も貴女を“試さなくてもいい場所”に連れていくわ。
 今度の林間学校が終わったら……アイを“私の家”に連れて行く。
 貴女をお母様に紹介するわ……。
 私の――」

 ――好きな娘だって。

「……大切な友達だって。」

 その瞬間、アイの唇がわずかに動いた。
 祈るように、願うように。
 そして小さく、でも確かに、微笑んだ。
  
「そして、貴女を連れ出してみせるわ。この狭い狭い世界から――。」

 私はアイに向けて手を差し出し……アイはおずおずと、しかし確かにその手を取ってくれた。
 そのちいさな手で――。 

 ◇◆◇

 ラアルが目を覚まさないアイを前にこの出来事を思い出したのには理由があった。

 ラアルは眠り続けるアイのチョーカーを外した。アイが人間体アニマなら、獣神体アニムスの自分なら……この眠り姫を口吻くちづけ一つで起こすことができるかもしれないと思ったからだ。

 ◇◆◇

 やさしく、とてもやさしく壊れ物に触るように、私はアイのチョーカーを外した……そこにはアイに聞いてあった通り、春日春日かすがはるひが無理矢理残したであろう噛み跡が刻まれていた。痛々しく……。

 それをやさしく愛のヘルツのこもった舌でなめて癒す。傷が癒えるまで、ずっと。愛のヘルツは苦手分野だが、アイとお母様に対しては別だ。すぐに傷は治った。心的外傷トラウマでできたヘルツの傷も……愛なら癒せるのだ。

 そしてまだ誰にも踏み犯されたことない新雪のように、輝く白いアイのうなじ……あぁ…………でも今は自分の欲望を満たす為じゃない、私はそんな春日春日あの子みたいなことはしない。

 ――ただ……この眠り姫の目を覚まさせたいだけだ。
 かわいくて、ちいさくて、やさしく、うつくしい……この娘を。

「……ごめんね。アイ。」

 届かない自分のためだけの身勝手な謝罪をこぼす。……お母様は『ありがとう。』も『ごめんなさい。』も相手に伝わらなかったら言っていないのと同じだって教えてくれたっけ。でも私はそうは思わない。

 アイが教えてくれた。
 届かない『ありがとう』にも。
 聞こえない『ごめんなさい。』にも。
 死者へ伝わらない祈りも、好きな人への実らない恋も、誰も見向きもしない花にも、誰も絵に描かない海にも……意味があるんだって。

 ……恋がこんなに素敵なものだって私に教えたのは貴女よ。だから、私をほって眠りこけてないで……早く目を覚ましなさい……私の“王女様”。

 ――私の……“お姫様”。

 私はできるだけ優しく、アイの首筋に噛み付いた。そうしてしっかりと獣神体アニムスのフェロモンを流し込む。

「愛しているわ、アイ。」

 勿論、眠っているアイには――

 ◇◆◇

 ――光が見える。眩しい光だ。
 その横に影がたたずんでいる。
 私を太陽の眩しさから護ってくれるやさしい影だ。

「……かげ、ろー?なの?」

 影がピクリと動く。

「また助けてくれたの……?」

 影は言う。ハッキリと、わたくしに伝わるように。


 私は陽炎陽炎ようえんかげろう。」

「……あな、たは……?」
 
「忘れたんなら、思い出させてあげる。」

 まだ目がよく見えない。光に慣れていない。
 生まれてこのかた太陽にもれたことも、太陽にもれたこともないが。

 ささやくように恋をうたう声がした。
 
「アイ・ミルヒシュトラーセはる……?」

 やさしい声だ。ひだまりのような。
 
 ……影なのに。
 太陽みたいな影だった。

「……アイ・ミルヒシュトラーセはいるかしら。
 美しいこの私……ラアル・ツエールカフィーナ・フォン・ファンタジア様がわざわざ会いに来てあげたわよ。」

 前にまったく同じ言葉を聞いたことがある。
 “ある人”と初めてった時に。
 だけどそこに含まれる感情は正反対だった。

「高位の者が自ら下位の者に会いに来るという、普通は絶対にあり得ない僥倖ぎょうこうを……分かっていないのかしら?
 これがどれだけ恵まれたことなのか。
 “大親友”への礼を欠く気かしら……?
 ……アイ・ミルヒシュトラーセ。」

「……あっ……あのっ……申し訳ありません。」
 
「アイちゃん!?」

 誰かの声が聞こえる。けど私の瞳にはルビー瞳しか映っていなかった。次に相手が何を言うか分かる。初めて逢った時に共につむいだ言葉たちだろう。

「貴女……顔が赤いわよ。大丈夫?」

 少しその影が悪戯いたずらっぽく笑った気がした。

 私もきっと笑っているんだろう。

「お……お気遣い痛み入ります。
 ……体調は大丈夫です……。ただ、その……。」

 ルビーの瞳がわたくしのサファイアと混じってアメジストの色に染まる。

「……ただ、その。
 ……は、生まれて初めてお目にかかったので……その……緊張してしまって……。ふふっ……!」

「……ふふっ!でしょうね?でもね?……アイ。
 ――貴女……うつくしいわ。毎朝鏡に映る王女より、この国の誰よりも、――。」

「「あははっ……!」」

 その影……ラアルさまとわたくしは笑い合い、ラアルさまのルビーの瞳から涙が一筋落ちる。

 それはわたくしの瞳に落ちて、わたくしの頬を一筋の小川が流れる。まるで泣けないわたくしの代わりに泣いてくれているようだ。

 ラアルさまが言う。

「アイ……この次にお話しした事も覚えてるかしら?」

 この先の会話――?たしか……。
 わたくしは思い返す。

 ◆◆◆

「アイ……私と……私と!」
 
「は、はい!」
 
「わっ……私と……つ、付きつひっ!……お友だちになってくれないかしら……?」

「はい……こちらこそ、よろしくお願いいたします。。」

 ◆◆◆

 ……思い出した……。

「ラアルさま、あの時……お友達の前に、なんて言いかけてたんですか……?」

 わたくしの枕の右側が深く沈み込む。

 ラアルさまがわたくしの耳元に顔を近づける。

「……あの時は『私と付き合って』って言おうとしたのよ……でも、貴女の情緒がまだ恋愛感情が理解できるほど育ってないことは知っているわ……。
 ……それが育った環境のせいだってことも。」

 ギシリと音を立てて、今度はベッド全体が深く沈み込む。ラアルさまがわたくしを押し倒しているような格好になった。そんな事をしなくても、元々横になっているのに……どうしてそんな事をするんだろう……?

 ラアルさまの長い金髪が垂れてわたくしの世界を彼女と二人だけのものに分断する。

「……だから、アイ。私とつがいになって頂戴ちょうだい
 いや、ごめんなさい……拒否権はないのよね……私は貴女が眠っている間に、勝手に、ほんとうにごめんなさ――」

「――いいですよ。」

 口が勝手に動いていた。これ以上彼女が自分自身を下げるの物言いをすることを聞いていたくなかった。

「へ?」

 ラアルさまが驚いている。そんな顔をしててもうつくしいのだから、美人はとくだな~となんとなく思っていた。わたくしのように醜いものには手を伸ばすことすらできない。

 けど、言葉をかける事は出来る。

「……ラアルさまにされて嫌なことなんてありません。だって、ラアルさまはこれまで……あの日あの夕暮れの窓際で、純白に揺れるカーテンのそばで出会ってから……ラアルさまに傷つけられたことなどありません。
 
 わたくしなんぞを“友達”として、とても大事にして下さいました。だから、貴女にお願いされてわたくしが断ることなんて、何一つありませんよ?」

 ラアルさまは顔を真っ赤にして俯き、ため息をついた。

「はぁ~。……ほんとうに貴女って子はぁ~!」

 ラアルさまがぐしゃぐしゃとわたくしの髪を撫でつける。

「わ、わぁ~!やめてください!」

 ラアルさまがニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。

「あれ~?アイ?私にされて嫌なことなんてなかったんじゃなかったかしら~?」

「イジワルなラアル様なんてきらいですっ!」

 わたくしがプイと顔をそらして頬を膨らませていると……バフッ!と大きな音がした。

 ちらっと見遣るとラアルさまがベッドに突っ伏していた。絶望色の声とともに。

「……きら、い……アイは私のことが……きらい、きらい?……きらい。」

「わぁ~!ラアルさま冗談ですよ!大好きですから!元気を出してください!」

 こうして、生まれも育ちも境遇も、髪の色も瞳の色も思想も、正反対なラアルとアイは“また”出会った。おだやかな陽光の指す病室のなかで、やわらかに揺れる純白のカーテンのそばで、何もかも違う2人は、しかし、2人ともおんなじように、顔を真っ赤に染めたまま、笑い合うのだった。  

 ◇◆◇

 ――アルタークはただみていた、自分のいちばんの親友の姿を。

 自分のいちばんが……目の前で、獣神体アニムスに寝込みを襲われてつがいにされるところを……。

 ――それを映す瞳が何色だったのかは……彼女自身も知りえない……。 
 
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