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第二章 藍と学校
155. 再会の雪景色 A Reunion in Snowy Attire
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――わたくしはどうしたいんだ?そもそも何がしたいのかさえわからない。人生の目標なんてない。これまで親に言われるがまま、親の敷いたレールの上を歩いてきたのに、突然自分の自由にしていいと言われても、何をしていいかわからない。
……だって今までのわたくしの行動は、すべて親を怒らせないためか、親に見捨てられないためのものだったからだ。
これまではエレクトラさまに愛されることが生きる意味だった。しかし親の手を離れて、エレクトラと対峙するなら、自分の意志で自分の人生を決めていいのなら……何がしたいんだ?
“自由”とはこんなにも恐ろしいものだったのか?
全て自分で決めていいけど、“責任”も“結果”も何もかも自分で請け負わないといけない。まるで天井も壁も床もないような部屋に宙ぶらりんになったみたいだ。
恐ろしい……何が恐ろしいのかすら分からないことが。何に気をつければいいのか、何をこころの羅針盤にすればいいのかすら、分からない。
今まで、生まれてからずっと様々なものに縛られてきた……それを疎ましく思う事もあった。だけどそれらすらわたくしの征く道を照らす光だったのか?
なんでもしてもいいということは、選んだもの以外の全てを捨てる決断を自分でしないといけないということだ。
自分の責任で決断することがこんなに恐ろしいなんて……。
――恐ろしい。
あぁ……わたくしが追い求めた、あんなにも欲しかった……自由とは致死量の猛毒だったのか。
◇◆◇
家路につく。
ひまりさんは寒いから泊まっていってねと仰ってくれたが、雪の中を歩きたかった。
――そう言えば初めてはるひちゃんのお家にお邪魔した時もこんな雪の日だった。あの雪はわたくしの心だったのだろうか。
“帰りたくない”という気持ちが降り積もった、わたくしのこころだったのだろうか。もしそうなら、この雪は――?
雪化粧の橋を独りトボトボとを渡っていると、正面から白髪の少年が走ってきた。白い雪と相まって雪の妖精のように見えた。羽のように軽やかで“自由な”足取り、しかしその“自由”はわたくしの物のように“鎖”ではなく“翼”なのだろう。
わぁー!とその子が走ってきて、わたくしはぶつかってしまった。そのまま押し倒されるような形になってしまう。幸い降り積もった雪のおかげであまり痛くはなかったが。
……こんな子供にも力負けするほど、弱いのか……アニマ・アニマは。
……と、そんな事を考えている場合じゃない。
「ぼく?大丈夫かな?痛いところはない?お母さんはいるかな?」
その子に怪我をさせてしまっていないか、目で見たり、身体を触ったりして確かめる。
「痛いところがあったら、おにいちゃんに教えてね?おにいちゃん愛するものだから、どんな傷でも直しちゃうよ。」
安心させてさせようとできるだけ優しい口調で、声音で声を掛ける。
「……。」
「……?ぼく?大丈夫かな?」
……しかしその子はうんともすんとも言わない。
どこか痛いのだろうか、怪我をさせてしまったのだろうかと考えていると、その子はやおらにわたくしの耳に口を近づける。とても徐な動作をゆっくり眺めていると……ある声が聞こえた。
「アイ……。」
項がゾワリとした。体の力が抜ける。これは獣神体の声だ。
……“アイ”?この子はわたくしを知っている?
でもこんな子供の獣神体と知り合った覚えはないし……。
「アイ、俺だ。」
ゾワゾワと身体が震える。獣神体、白髪……そしてこの感覚は……いやまさか……でも……もしかして……?
「ザ、ザミール……?」
そんなわけないのに、人間体の本能がそう告げている。
「あぁ、そうだ。」
「なんでこんな所に!?こんなミルヒシュトラーセのお膝元にいたら危ないですよ?早く離れないと!それにその姿は――?」
「しー!静かに、全部説明してやるから。今は大声は出さないでくれ。これはまたとない好機なんだ。こっちに来てくれ。」
幼いザミールは地面に寝転んでいたわたくしを軽々と抱き上げる。これがアニムス・アニムスの力……。
そうして二人して橋の下の人目につかない所に移動した。聞きたいことがたくさんある。
「して、ザミール?その姿は?何故こんな危険な場所に?」
「あぁ……色々疑問があんだろうな。
まず、両性具有者の片方の生が死ぬとどうなるか知ってるか?
あの夜の俺とお前のように。」
「……?……二度とその性には“換装”できなくなるんじゃないんですか?」
「やっぱり知らなかったか……両性具有者連中ってのは高慢ちきで両性具有者だけでつるむことを好む。それに秘密主義だし。
……そして、自分たちの“死に至る条件”については厳重に秘匿してるんだ。
なんでかは……分かるだろう?」
「両性具有者の殺し方が分かったら、普通の人に対して優位性を失うからですか……?」
「あぁ、そうだ。アイお前は両性具有者はどうやったら死ぬと思う?……つまり、あの夜死んでまだ生き永らえてる俺とお前みたいに、じゃなく“完全な死”をどうやって迎えると思う?」
「……それは、勝手に両方の性別の肉体を殺されたらだと思っていましたが……。つまり、わたくしが今この男性体でもう一度死ねば……完全なる死を迎えると……。」
「……あぁ、両方の性別で死ねばってとこは合ってる。だけどな片方の性で死んだからといって一生その性に換装できなくなるわけじゃあない。
……今の俺みたいにな。」
「……確かに、あの夜貴方の男性体は亡くなっはずなのに、今こうして目の前にいます……少し、いやかなり小さいですけれど。」
「おい、小さいは余計だ。」
「ふふっ、でもこ~んなに小さいですよ?」
「おいこら。」
なんだか親友と話してるみたいで気楽だ、敵対勢力にいるはずなのに。
「冗談ですよ。
で?両性具有者はどうやったら殺せるんですか?死ねるんですか?」
「あぁ……まず両性具有者の片方の性の肉体が死ぬか若しくは散華した時、強制的にもう一つの肉体に換装させられる。
まぁ身体の防衛本能ってやつだな。それでもう片方の肉体が無事なら……すこし……いやかなり時間はかかるが、死んだ方の肉体は生きている方の肉体から徐々に心をもらって修復されていく。
俺のこの姿はほどのあの姿に戻ってる途中だ。見た目が幼いのは大人の体に……あのデケェ身体に戻すまでにはもっと心がいるからだ。……これはもう待つしかない。」
「なるほど……ではわたくしも今女性体に換装したら、幼い状態になる……?」
「あぁ、そうだ。二度と換装できないってことはねぇ。
……まぁお前の場合元々がくそ幼くてちっちぇからあんまり見た目変わんないだろうけどな。それに俺よりも身体が小さい分治るスピードも早い。」
「おい、小さいは余計ですよ。」
「でもこ~れぐらい小さかっただろ?」
「おいこらっ!……ふふふっ!」
「ケケケッ!……でだ、そういうわけで、今俺はこんなクソガキみてぇな姿ってわけだ。お前も一回換装してみたらどうだ?」
「ん?ん~。そうですね。じゃあ……ほっ!」
わたくしの身体が女性のものへと変化していく……していく……が。
「……なんかちっちゃくて、髪が短い?ような?」
「ほらちっちぇ。」
「こら、うるさいですよ。でもなんで髪も短いんですか?」
髪を触ったりくるくる回ってみたりする。
「あぁそれは髪を構成していた心が他のもっと生命維持に重要な器官に置換されたんだろう。内臓とか血管とかにな。」
「あぁ~確かに極論髪ってなくても生きていけますもんね。」
「あぁ。」
「ん……?ということはそれじゃあ両性具有者を殺すには――」
「――男性体と女性体、両性の肉体を同時に殺す必要がある。つまり片方ぶっ殺してすぐもう片方ぶっ殺すんだな。」
「なるほど。……あれ?じゃあ死んだんじゃなくて“散華”した場合は?」
わたくしは吹きすさぶ雪の中、恐ろしい答えが待っている気がした。
「――その場合、散華の鬱状態、もしくは植物人間状態から“寛解”……つまり自然とマシになることを祈るしかねぇ。鬱は寛解してマシにはなっても、一生“完治”はしないからな。
そして寛解しないと――」
「――そのその性を一生亡うことになる……?」
……だって今までのわたくしの行動は、すべて親を怒らせないためか、親に見捨てられないためのものだったからだ。
これまではエレクトラさまに愛されることが生きる意味だった。しかし親の手を離れて、エレクトラと対峙するなら、自分の意志で自分の人生を決めていいのなら……何がしたいんだ?
“自由”とはこんなにも恐ろしいものだったのか?
全て自分で決めていいけど、“責任”も“結果”も何もかも自分で請け負わないといけない。まるで天井も壁も床もないような部屋に宙ぶらりんになったみたいだ。
恐ろしい……何が恐ろしいのかすら分からないことが。何に気をつければいいのか、何をこころの羅針盤にすればいいのかすら、分からない。
今まで、生まれてからずっと様々なものに縛られてきた……それを疎ましく思う事もあった。だけどそれらすらわたくしの征く道を照らす光だったのか?
なんでもしてもいいということは、選んだもの以外の全てを捨てる決断を自分でしないといけないということだ。
自分の責任で決断することがこんなに恐ろしいなんて……。
――恐ろしい。
あぁ……わたくしが追い求めた、あんなにも欲しかった……自由とは致死量の猛毒だったのか。
◇◆◇
家路につく。
ひまりさんは寒いから泊まっていってねと仰ってくれたが、雪の中を歩きたかった。
――そう言えば初めてはるひちゃんのお家にお邪魔した時もこんな雪の日だった。あの雪はわたくしの心だったのだろうか。
“帰りたくない”という気持ちが降り積もった、わたくしのこころだったのだろうか。もしそうなら、この雪は――?
雪化粧の橋を独りトボトボとを渡っていると、正面から白髪の少年が走ってきた。白い雪と相まって雪の妖精のように見えた。羽のように軽やかで“自由な”足取り、しかしその“自由”はわたくしの物のように“鎖”ではなく“翼”なのだろう。
わぁー!とその子が走ってきて、わたくしはぶつかってしまった。そのまま押し倒されるような形になってしまう。幸い降り積もった雪のおかげであまり痛くはなかったが。
……こんな子供にも力負けするほど、弱いのか……アニマ・アニマは。
……と、そんな事を考えている場合じゃない。
「ぼく?大丈夫かな?痛いところはない?お母さんはいるかな?」
その子に怪我をさせてしまっていないか、目で見たり、身体を触ったりして確かめる。
「痛いところがあったら、おにいちゃんに教えてね?おにいちゃん愛するものだから、どんな傷でも直しちゃうよ。」
安心させてさせようとできるだけ優しい口調で、声音で声を掛ける。
「……。」
「……?ぼく?大丈夫かな?」
……しかしその子はうんともすんとも言わない。
どこか痛いのだろうか、怪我をさせてしまったのだろうかと考えていると、その子はやおらにわたくしの耳に口を近づける。とても徐な動作をゆっくり眺めていると……ある声が聞こえた。
「アイ……。」
項がゾワリとした。体の力が抜ける。これは獣神体の声だ。
……“アイ”?この子はわたくしを知っている?
でもこんな子供の獣神体と知り合った覚えはないし……。
「アイ、俺だ。」
ゾワゾワと身体が震える。獣神体、白髪……そしてこの感覚は……いやまさか……でも……もしかして……?
「ザ、ザミール……?」
そんなわけないのに、人間体の本能がそう告げている。
「あぁ、そうだ。」
「なんでこんな所に!?こんなミルヒシュトラーセのお膝元にいたら危ないですよ?早く離れないと!それにその姿は――?」
「しー!静かに、全部説明してやるから。今は大声は出さないでくれ。これはまたとない好機なんだ。こっちに来てくれ。」
幼いザミールは地面に寝転んでいたわたくしを軽々と抱き上げる。これがアニムス・アニムスの力……。
そうして二人して橋の下の人目につかない所に移動した。聞きたいことがたくさんある。
「して、ザミール?その姿は?何故こんな危険な場所に?」
「あぁ……色々疑問があんだろうな。
まず、両性具有者の片方の生が死ぬとどうなるか知ってるか?
あの夜の俺とお前のように。」
「……?……二度とその性には“換装”できなくなるんじゃないんですか?」
「やっぱり知らなかったか……両性具有者連中ってのは高慢ちきで両性具有者だけでつるむことを好む。それに秘密主義だし。
……そして、自分たちの“死に至る条件”については厳重に秘匿してるんだ。
なんでかは……分かるだろう?」
「両性具有者の殺し方が分かったら、普通の人に対して優位性を失うからですか……?」
「あぁ、そうだ。アイお前は両性具有者はどうやったら死ぬと思う?……つまり、あの夜死んでまだ生き永らえてる俺とお前みたいに、じゃなく“完全な死”をどうやって迎えると思う?」
「……それは、勝手に両方の性別の肉体を殺されたらだと思っていましたが……。つまり、わたくしが今この男性体でもう一度死ねば……完全なる死を迎えると……。」
「……あぁ、両方の性別で死ねばってとこは合ってる。だけどな片方の性で死んだからといって一生その性に換装できなくなるわけじゃあない。
……今の俺みたいにな。」
「……確かに、あの夜貴方の男性体は亡くなっはずなのに、今こうして目の前にいます……少し、いやかなり小さいですけれど。」
「おい、小さいは余計だ。」
「ふふっ、でもこ~んなに小さいですよ?」
「おいこら。」
なんだか親友と話してるみたいで気楽だ、敵対勢力にいるはずなのに。
「冗談ですよ。
で?両性具有者はどうやったら殺せるんですか?死ねるんですか?」
「あぁ……まず両性具有者の片方の性の肉体が死ぬか若しくは散華した時、強制的にもう一つの肉体に換装させられる。
まぁ身体の防衛本能ってやつだな。それでもう片方の肉体が無事なら……すこし……いやかなり時間はかかるが、死んだ方の肉体は生きている方の肉体から徐々に心をもらって修復されていく。
俺のこの姿はほどのあの姿に戻ってる途中だ。見た目が幼いのは大人の体に……あのデケェ身体に戻すまでにはもっと心がいるからだ。……これはもう待つしかない。」
「なるほど……ではわたくしも今女性体に換装したら、幼い状態になる……?」
「あぁ、そうだ。二度と換装できないってことはねぇ。
……まぁお前の場合元々がくそ幼くてちっちぇからあんまり見た目変わんないだろうけどな。それに俺よりも身体が小さい分治るスピードも早い。」
「おい、小さいは余計ですよ。」
「でもこ~れぐらい小さかっただろ?」
「おいこらっ!……ふふふっ!」
「ケケケッ!……でだ、そういうわけで、今俺はこんなクソガキみてぇな姿ってわけだ。お前も一回換装してみたらどうだ?」
「ん?ん~。そうですね。じゃあ……ほっ!」
わたくしの身体が女性のものへと変化していく……していく……が。
「……なんかちっちゃくて、髪が短い?ような?」
「ほらちっちぇ。」
「こら、うるさいですよ。でもなんで髪も短いんですか?」
髪を触ったりくるくる回ってみたりする。
「あぁそれは髪を構成していた心が他のもっと生命維持に重要な器官に置換されたんだろう。内臓とか血管とかにな。」
「あぁ~確かに極論髪ってなくても生きていけますもんね。」
「あぁ。」
「ん……?ということはそれじゃあ両性具有者を殺すには――」
「――男性体と女性体、両性の肉体を同時に殺す必要がある。つまり片方ぶっ殺してすぐもう片方ぶっ殺すんだな。」
「なるほど。……あれ?じゃあ死んだんじゃなくて“散華”した場合は?」
わたくしは吹きすさぶ雪の中、恐ろしい答えが待っている気がした。
「――その場合、散華の鬱状態、もしくは植物人間状態から“寛解”……つまり自然とマシになることを祈るしかねぇ。鬱は寛解してマシにはなっても、一生“完治”はしないからな。
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