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第三章 iと姉
164. 藍と女王の出会い Indigo meets the Queen
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「……して、わたくしが他人の認知を歪ませる条件とは……?」
「……あぁ?……あぁ、その話だったな。
まず視界でお前を捉えることだ。
お前を見たものは立ちどころに雷に打たれ、馬から投げ出されたようになって目から鱗が落ちる。聖書の“パウロの回心”みてぇにな。
そして次はフェロモンと体臭だ。お前は花のように狡猾にその“美しい”見た目で相手を誘惑したあと……引き寄せて自分の匂いとフェロモンを浴びせる。そうすれば相手はもう終わりだ。」
……嘘だ……。
……だって……じゃあ……あの日、あの時……かげろうは……かげろうは……。初めて逢った日あの時から?わたくしを好いてくれたのは、真実じゃない?……わたくしが、わたくしがそう仕向けていた……?
嘘だ……だって、いやありえない、だって。
かげろうはわたくしの――。
◆◆◆
「だから俺はテメェに洗脳されねぇように、俺と会う時は仮面で顔を隠させて、フェロモンと匂いは外套で抑え込ませた。」
……洗脳……?
“母の愛”で洗脳されていると思っていたわたくしが……周りの皆を洗脳していた?
じゃあかげろうがわたくしを好いてくれているのも……。ラアルさまが初めてわたくしに逢ったときに心配してくださったのも……?
じゃあじゃあ……おにいさまやおねえさま達がアイにやさしいのは?
全部全部……ぜんぶ……彼らの本心……じゃない……?
嘘だ……じゃあわたくしは……何を信じればいい……?誰か本心からわたくしを好いてくれている人は……この世に一人でもいるのか……?
「だから其れを使え、そのクソみてぇな能力を……あの愚かなツエールカフィー公王になぁ……。」
◇◆◇
「……貴公がアイ・ミルヒシュトラーセ。」
公王様の声は決して大きくはないが……王座の間に響き渡る威厳があった。慌てて跪く。
「……!……はいっ!わたくしのような汚れた身を御前に晒すことをどうかお許し下さい……!ファンタジア女王殿下。僕の名はアイ――」
「――面を上げよ。アイ・ミルヒシュトラーセ。」
「は……はい……!」
恐る恐る顔を上げると威厳に満ちた顔で女王様がわたくしを見ている。わたくしの身を劈くような眼で――。左足を椅子のうえに上げて、その膝に肘を乗せて座る姿には後光がさしていた――。
「貴殿は其処に居る我が娘、ラアル・ツエールカフィーナ・フォン・ファンタジアの命を救った。其れはこの国の王女を救ったという意味だけを持つのではない。
貴様も知っているであろうが、元々このパンドラ公国はファンタジア王国が直接西の蛮族どもと国境を接しないように作られた緩衝国家である。」
「……はい。」
「そして公国の王は代々ファンタジア王国の王族が務める……今私がこうして君臨しているようにな……。……つまり、貴君は超大国ファンタジア王国の王族を救ったということになる。」
慌てて否定しようとする。
「……いえ、その……わたくしは、ただ……わたくしも、ラア……ファンタジア王女殿下には救われましたし――」
「――女王の言葉を否定するのか?」
「いっいえ……!滅相もございません……!」
「ならば聞け。貴殿はこの国の敵……新生ロイヤル帝国から王族を護った。
――何か一つ願いを叶えてやろう。この国で私にできないことはない。なんでも言ってみよ。」
「……なん、でも……?」
「あぁ……富か?権力か?名声……はこの一件でもう得ているか。」
「……ならば、一つだけお願い申し上げても宜しいでしょうか?」
「あぁ……なんでも言ってみよ。」
「……でしたら、もし宜しいのでしたら……ミルヒシュトラーセ家のわたくしとファンタジア王女殿下が友でいることを許しては頂けないでしょうか?」
辺りがシン……と静まり返る。
公王派の重鎮たちが皆黙り込んで、わたくしを見ている。隣でラアルさまが驚いているのが分かる。
……公王様は……少しだけ、ほんの少しだけ目を見開いたような気がした。
「……そんなことでよいのか?富も名声も権力も……なんでもいいと言っているのだぞ?欲するものは、貴公に欲望はないのか?」
「――あります。
わたくしが得たいもの“其れ”はこの世の何よりも得難いものです。何よりも得ることが難しいものです。
そして其れは富よりも価値があり、名声よりも誇れ……権力よりも頼りになる
……つまり其れは“一人の友”です。一人の友を得るという“偉業”です。」
「……アイ……。」
「……。」
公王様が黙り込み、辺りを静寂が支配する。
其の静寂は意外なものによって切り裂かれた。
「あははは!」
公王様の笑い声だ。
「そうかそうか!どんな富よりも一人の友か!確かに真理やもしれぬ。ほんとうの友など貴族や王族には願うべくもないことだ。皆権力に群がってくるからな!貴様!面白いな……!改めて名を名乗ってみよ……貴様の真名を……!」
「はい……わたくしの名はアイ・サクラサクラ―ノヴナ・フォン・ミルヒシュトラーセ……サクラ・マグダレーネの子であります。」
「そうか!アイ!貴様と我が娘ラアルの親交を認めよう!ここに公に、認めよう。是非とも仲良くしてやってくれ!くくくっ!」
◇◆◇
その後ラアルさまとツエールカフィー公王、そしてわたくしだけで会談をしようということになり、茶室へ招かれる。
……が……なんだろうこの光景は……。
「ラアルちゃん~!会いたかったわよ~!ぎゅうう~!もう離さないんだから~!!」
「お母様!私も会えて嬉しいですが、最近会ったばかりではないですか!」
「毎日会わないと足りないわよ~!一時間離れてるだけでもおかーさん寂しいのに~!!」
「はいはい……ぎゅー、お母様、ラアルも寂しかったですわよ。」
「ラアルちゃん~!!」
……先程までの威厳ある公王様は何処へ?
本当に同一人物なのかな?
そんな事を考えていると……。
「アイちゃん!アイちゃんって呼んでもいいわよね!ね!アイちゃん可愛いわね~!最初に見たときから抱っこしてみたいと思ってたのよ~!」
「わわっ!」
バッと此方に顔を向けた公王様に抱き上げられる。
「公王様……お戯れを!わたくしのこのように汚れた身を御身に触れさせるなど……!!」
「そんなに畏まらなくていいのよ~?
先刻は臣下の目があったから公王モードだったけど、今の私は只のラアルちゃんのお母さんなんだから!」
「……は、はい……?」
「アイ……お母様は他人と接する時と身内と接する時で……その……ちょっとだけ、ギャップがあるのよ。」
“ちょっとだけ”?これで?
「アイちゃんはなんだかいい匂いもするわね~?やっぱりラアルちゃんと一緒で可愛い子はいい匂いがするものなのでかしら!」
クンクン嗅がれるが公王様に向かって抵抗する訳にもいかないのでなされるがままでいる。
でも恥ずかしいことは恥ずかしい。
「あの~ラアルさま……?どうすれば?」
「お母様!アイが困っているわ!そろそろお茶を始めましょう?」
「ん~?そうね~でもヤダヤダ~“もうちょっと”だけ~。」
◇◆◇
今わたくしは惧れ多くも公王様の膝の上に座っている。それにしても長い“もうちょっと”だったなぁ……。やっぱりわたくしの身体が放つ“呪い”のせいだろうか……?クンクンと自分の匂いを嗅ぐが分からない。
「もう~ラアルちゃんったらなかなか帰って来てくれないんだから~。」
「お母様……マンソンジュ軍学校は西側の辺境近くで、ここは真反対の西のファンタジア国境近くですよ?」
「でもでも~ラアルちゃんに会えないとお母さん淋しいのよ~?」
「まぁ……私も淋しいですが。」
「それにラアルちゃんがお熱なアイちゃんにもやっと会えたわ~。」
「お母様!お熱とか言わないでください!」
「でも~帰ってきたらアイちゃんの話しかしないじゃない?お母さんちょっと嫉妬しちゃうわ。」
……まるで姉妹のような母娘だな……と思った。
――ウチとは大違いだ。
……こんな所まで正反対じゃなくてもいいのに。
「……あぁ?……あぁ、その話だったな。
まず視界でお前を捉えることだ。
お前を見たものは立ちどころに雷に打たれ、馬から投げ出されたようになって目から鱗が落ちる。聖書の“パウロの回心”みてぇにな。
そして次はフェロモンと体臭だ。お前は花のように狡猾にその“美しい”見た目で相手を誘惑したあと……引き寄せて自分の匂いとフェロモンを浴びせる。そうすれば相手はもう終わりだ。」
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……だって……じゃあ……あの日、あの時……かげろうは……かげろうは……。初めて逢った日あの時から?わたくしを好いてくれたのは、真実じゃない?……わたくしが、わたくしがそう仕向けていた……?
嘘だ……だって、いやありえない、だって。
かげろうはわたくしの――。
◆◆◆
「だから俺はテメェに洗脳されねぇように、俺と会う時は仮面で顔を隠させて、フェロモンと匂いは外套で抑え込ませた。」
……洗脳……?
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じゃあかげろうがわたくしを好いてくれているのも……。ラアルさまが初めてわたくしに逢ったときに心配してくださったのも……?
じゃあじゃあ……おにいさまやおねえさま達がアイにやさしいのは?
全部全部……ぜんぶ……彼らの本心……じゃない……?
嘘だ……じゃあわたくしは……何を信じればいい……?誰か本心からわたくしを好いてくれている人は……この世に一人でもいるのか……?
「だから其れを使え、そのクソみてぇな能力を……あの愚かなツエールカフィー公王になぁ……。」
◇◆◇
「……貴公がアイ・ミルヒシュトラーセ。」
公王様の声は決して大きくはないが……王座の間に響き渡る威厳があった。慌てて跪く。
「……!……はいっ!わたくしのような汚れた身を御前に晒すことをどうかお許し下さい……!ファンタジア女王殿下。僕の名はアイ――」
「――面を上げよ。アイ・ミルヒシュトラーセ。」
「は……はい……!」
恐る恐る顔を上げると威厳に満ちた顔で女王様がわたくしを見ている。わたくしの身を劈くような眼で――。左足を椅子のうえに上げて、その膝に肘を乗せて座る姿には後光がさしていた――。
「貴殿は其処に居る我が娘、ラアル・ツエールカフィーナ・フォン・ファンタジアの命を救った。其れはこの国の王女を救ったという意味だけを持つのではない。
貴様も知っているであろうが、元々このパンドラ公国はファンタジア王国が直接西の蛮族どもと国境を接しないように作られた緩衝国家である。」
「……はい。」
「そして公国の王は代々ファンタジア王国の王族が務める……今私がこうして君臨しているようにな……。……つまり、貴君は超大国ファンタジア王国の王族を救ったということになる。」
慌てて否定しようとする。
「……いえ、その……わたくしは、ただ……わたくしも、ラア……ファンタジア王女殿下には救われましたし――」
「――女王の言葉を否定するのか?」
「いっいえ……!滅相もございません……!」
「ならば聞け。貴殿はこの国の敵……新生ロイヤル帝国から王族を護った。
――何か一つ願いを叶えてやろう。この国で私にできないことはない。なんでも言ってみよ。」
「……なん、でも……?」
「あぁ……富か?権力か?名声……はこの一件でもう得ているか。」
「……ならば、一つだけお願い申し上げても宜しいでしょうか?」
「あぁ……なんでも言ってみよ。」
「……でしたら、もし宜しいのでしたら……ミルヒシュトラーセ家のわたくしとファンタジア王女殿下が友でいることを許しては頂けないでしょうか?」
辺りがシン……と静まり返る。
公王派の重鎮たちが皆黙り込んで、わたくしを見ている。隣でラアルさまが驚いているのが分かる。
……公王様は……少しだけ、ほんの少しだけ目を見開いたような気がした。
「……そんなことでよいのか?富も名声も権力も……なんでもいいと言っているのだぞ?欲するものは、貴公に欲望はないのか?」
「――あります。
わたくしが得たいもの“其れ”はこの世の何よりも得難いものです。何よりも得ることが難しいものです。
そして其れは富よりも価値があり、名声よりも誇れ……権力よりも頼りになる
……つまり其れは“一人の友”です。一人の友を得るという“偉業”です。」
「……アイ……。」
「……。」
公王様が黙り込み、辺りを静寂が支配する。
其の静寂は意外なものによって切り裂かれた。
「あははは!」
公王様の笑い声だ。
「そうかそうか!どんな富よりも一人の友か!確かに真理やもしれぬ。ほんとうの友など貴族や王族には願うべくもないことだ。皆権力に群がってくるからな!貴様!面白いな……!改めて名を名乗ってみよ……貴様の真名を……!」
「はい……わたくしの名はアイ・サクラサクラ―ノヴナ・フォン・ミルヒシュトラーセ……サクラ・マグダレーネの子であります。」
「そうか!アイ!貴様と我が娘ラアルの親交を認めよう!ここに公に、認めよう。是非とも仲良くしてやってくれ!くくくっ!」
◇◆◇
その後ラアルさまとツエールカフィー公王、そしてわたくしだけで会談をしようということになり、茶室へ招かれる。
……が……なんだろうこの光景は……。
「ラアルちゃん~!会いたかったわよ~!ぎゅうう~!もう離さないんだから~!!」
「お母様!私も会えて嬉しいですが、最近会ったばかりではないですか!」
「毎日会わないと足りないわよ~!一時間離れてるだけでもおかーさん寂しいのに~!!」
「はいはい……ぎゅー、お母様、ラアルも寂しかったですわよ。」
「ラアルちゃん~!!」
……先程までの威厳ある公王様は何処へ?
本当に同一人物なのかな?
そんな事を考えていると……。
「アイちゃん!アイちゃんって呼んでもいいわよね!ね!アイちゃん可愛いわね~!最初に見たときから抱っこしてみたいと思ってたのよ~!」
「わわっ!」
バッと此方に顔を向けた公王様に抱き上げられる。
「公王様……お戯れを!わたくしのこのように汚れた身を御身に触れさせるなど……!!」
「そんなに畏まらなくていいのよ~?
先刻は臣下の目があったから公王モードだったけど、今の私は只のラアルちゃんのお母さんなんだから!」
「……は、はい……?」
「アイ……お母様は他人と接する時と身内と接する時で……その……ちょっとだけ、ギャップがあるのよ。」
“ちょっとだけ”?これで?
「アイちゃんはなんだかいい匂いもするわね~?やっぱりラアルちゃんと一緒で可愛い子はいい匂いがするものなのでかしら!」
クンクン嗅がれるが公王様に向かって抵抗する訳にもいかないのでなされるがままでいる。
でも恥ずかしいことは恥ずかしい。
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「お母様!アイが困っているわ!そろそろお茶を始めましょう?」
「ん~?そうね~でもヤダヤダ~“もうちょっと”だけ~。」
◇◆◇
今わたくしは惧れ多くも公王様の膝の上に座っている。それにしても長い“もうちょっと”だったなぁ……。やっぱりわたくしの身体が放つ“呪い”のせいだろうか……?クンクンと自分の匂いを嗅ぐが分からない。
「もう~ラアルちゃんったらなかなか帰って来てくれないんだから~。」
「お母様……マンソンジュ軍学校は西側の辺境近くで、ここは真反対の西のファンタジア国境近くですよ?」
「でもでも~ラアルちゃんに会えないとお母さん淋しいのよ~?」
「まぁ……私も淋しいですが。」
「それにラアルちゃんがお熱なアイちゃんにもやっと会えたわ~。」
「お母様!お熱とか言わないでください!」
「でも~帰ってきたらアイちゃんの話しかしないじゃない?お母さんちょっと嫉妬しちゃうわ。」
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