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第二章 藍と学校

18.いちばんにこころに浮かぶ人 the Great Schwester

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 マンソンジュ軍士官学校での日々は概ね順調だった。
 
 朝はおねえさまが一緒に登校して下さるし――流石さすがに手を繋いでいるのを知人友人に見られるのは少し面映おまはゆかったが、おねえさまたっての希望なので無下むげにできなかった――、クラスのお友達はみんなやさしいし――アルタークちゃんという特別仲良しな子までできた――かげろうと一緒の学びで過ごせるし、一見いいことばかりだった。
 
 全てにおいて優秀な獣神体アニムスのフリをして学校に通う事には不安もあったが、座学は、もともと学ぶことや知ることが好きだったので、学年で一番をキープできている。ヘルツの授業でも、こころをもつものプシュケーの能力を使ってなんとか獣神体アニムス並みのパフォーマンスを発揮できている。
 
 一番問題があるのは体術の授業で、人間体アニマであることもあり、力もノーマルの幼子より弱いわたくしは、こればかりはごまかしがきかないのでどうしようかと頭を悩ませていたが、さいわい他の部分の成績でカバーできているらしく、筋力や膂力りょりょくのない、力の弱い獣神体アニムスであると思われることで、なんとか助かった。
 
 当初は力の弱い獣神体アニムスなどいるわけがないという者もいたらしかったが、座学とヘルツで優秀な成績をのこしていること、また何より、ミルヒシュトラーセ家の一員である自分が獣神体アニムスでないわけがないという結論に落ち着いたらしい。
 
 正直今まで家の名に苦しめられることはあっても、助けられることはないと思っていたので驚いた。もしかしたら、今までも自分でも、と思った。
 
 そう思うたびに、聖別の儀イニシエーションのときにはるひくんに言われた、“恵まれているくせに”という言葉がわたくしのこころから新鮮な血を流させるのであった。

 ◇◆◇
 
 はるひくんは変わった。獣神体アニムスとなって上背うわぜいが伸び、体格もよくなっただけじゃない。そのこころが変化したのである。あの聖別の儀イニシエーション以来、わたくしの前で人間体アニマを馬鹿にするような言動をするようになった。ひまりさんが人間体アニマ差別をされることにあんなにいきどおっていたのに。こころまで獣神体アニムスになってしまたのだろうか?


 
 それと、わたくしが他の獣神体アニムスと関わり合いになることをみ嫌うようになった。それを知るととても機嫌が悪くなり、その獣神体アニムスに敵意をむき出しにして、わたくしをなじるのだ。たとえその相手がかげろうやしらぬいさんなどの、昔からよく知っている仲であってもだ。いや、むしろ相手がわたくしと親しいほど機嫌が悪くなるのだった。
 
 わたくしとはるひくんの関係だが、ただの幼馴染のお友達同士だと思っている……わたくしは。向こうがまだお友達だと思ってくれているのかはもう分からない。もうずっと、貴女のこころがわからない。はるひの様子が変わったのに気がついたのは、あの聖別の儀セパレーションのすぐ後だった。

 ◇◆◇
 
 春日家に謝罪に行ってしばらくした後に、はるひに伝えたのだ。やはりわたくしとはるひは親の都合で、事故のようにつがいになってしまっただけだから、関係を解消しましょうと、そして……できればもとのなかよしなお友達に戻りたいとも。思えばあの時が決定的だったかもしれない、2人の道がたがったのは。それを黙って聞いていたはるひは突然憎悪とも執着ともつかない眼をして、無理やりわたくしを押し倒した。そして、強制的に番にした。


 
 獣神体アニムス人間体アニマつがい契約は、婚姻や恋人関係とはまた別のところにある。獣神体アニムス人間体アニマの首を嚙むことで一方的に契約を結ぶことが可能で、さらに人間体アニマからは解除できないのに、獣神体アニムスが飽きたら一方的に契約を破棄できる。
 
 獣神体アニムス人間体アニマは決して対等ではないのだ。社会的にも、生物的にも。それ以来わたくしは何度も無理やり結ばされた契約を破棄するようはるひに懇願してきたが、未だ叶っていない。いつもわたくしを詰り、ひどい言葉をかけ、時には脅すのに、そうゆうことができるほどわたくしを嫌っているのに、なぜ番契約を破棄してくれないのだろうか。
 
 わたくしを虐めるときのはるひは、どこかわたくしを殴る時のおかあさまに似ていた。だが決定的に何かが違うように感ぜられることもあるのだった。だが今のわたくしの火急かきゅうの悩みはそれではない。
 
 人間体排斥委員会アー・アニマ・クランのことだ。もしわたくしと同じ人間体アニマがひどい目に遭っているのなら何か手助けをしたい。人間体アニマではないといつわっているこんな卑怯なわたくしにも彼らのために出来ることがあるのなら、でもどうしようか。どうすればいいのだろう。

 ……いや、決まっている、いつもわたくしを助けてくれて、わたくしがいちばんに助けを求める人なんて、この世に一人しかいないのだから――。

 ◇◆◇
 
 ここが風紀委員会のお部屋か……。なんだか威圧感があって入りずらいですね。とりあえず、ノックをして。
 
 「どうぞ、お入りください。」
 
 う~緊張する……。
 
 「し、失礼致します。」


 
 そこには生徒からの押収品や書類のたばが綺麗に並べられた長机と、それぞれの役職のものが座るのであろう5つの机があった。たぶん一番奥が――。
 
 「て、天使姫!?」
 
 「学園の天使お姫さまだ!」
 
 「うわ~ほんものだ~実物かわいい~。」
 
 あの恥ずかしいあだ名は此処ここにまで浸透しているらしい。……はずかしい。
 
 「えっと、あの……」
 
 「本日はどうされたんで?こんな陰気な場所に、なぜ天使姫が?」
 
 一番手前に座っていた、ネクタイの色から2年生だと思われる上級生がもみ手をしながら立ち上がる。
 
 「あの、先輩方。わたくしはただの一年生です。どうか敬語はやめて、そのように接して頂けると……。」
 
 「いやいや!天使姫にそんな口をきいたとあっちゃあ俺たちぶっ飛ばされますよ!いろんな奴に、それになにより、貴女の姉君に!」
 
 「ああ!そうか!なんで気づかなかったんだろう。天使姫がこんなさびれた風紀委員会室まで来てくださったのは、お姉さまに会うためですよね!」
 
 「今すぐ呼んできます!」
 
 一人が脱兎だっとごとく部屋を後にする。いつの間にか飲み物まで用意してくれたみたいだ。
 
 「ささっどうぞ、お姫さまに出すのもはずかしい、ただの紅茶ですみませんが……。」
 
 「いえ!わざわざありがとうございます……。皆さん本当にお優しいのですね。……ありがとうございます。」


 
 精一杯の微笑みで返す。
 
 「「かわいいいいい!!」」
 
 「おいおい、これがほんとうにあの鬼の風紀委員長の弟君か!?」
 
 「この天使が学園の氷壁女王の弟……?……。」
 
 “親違い”という言葉にどきりとする。おねえさま……どれだけこわがられてるんだろう……。
 
 「おねえさまは、学校だとそんなにこわいのですか……?」
 
 「そりゃあもう!」
 
 「風紀を乱す奴や、校則違反者には容赦がなくて!」
 
 「いつも真顔で笑ったところを見たものはいないらしですよ!だから、初めてアイ様と手を繋いで登校する委員長を見たときには、皆恐れおののいたんですから!あの鬼の風紀委員長が笑ってる!天変地異の前触れだー!って!」
 
 「そうそう!委員長はほんとにこわいんですから!微笑びしょうすら浮かべないし!そんなんだから鬼の風紀委員長とか、学園の氷壁女王とか言われるんです!」
 
 「――ほう?……詳しく聞かせてもらおうか?誰が……何だって?」

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